インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
FFⅩⅥが発売されたようですね。個人的には復讐劇がテーマという事で興味はありますが、私はFF7Rの続編に狙いを定めているので、実況動画を見て回るくらいになるでしょう
……続編でセフィロス操作出来たらいいのになぁ、と思う今日この頃。操作出来たらそのチャプターから先に進みたくないとすら思う
それはさておき、本編
ホロウに焦点を当てるならMORE DEBAN組だったシリカ視点が書きやすかったので、シリカ視点です
キリトがリーファやユウキ、キリカがユイやプレミア達なら、ホロウはシリカという事ですね。奇跡的に綺麗な棲み分けが出来てしまったな……! ちなみに参考は御坂本人、
視点:シリカ
字数:約六千
なお、今話は戦闘描写無し、画面外で戦ってます
ではどうぞ
「お疲れ様です、リーファさん」
「ん、ありがとう、シリカさん」
《片翼の堕天使》を倒し、キリカと入れ替わりで後退してきたリーファに労いの言葉を掛ける。彼女は柔らかな笑みを浮かべた。その表情もすぐ改められ、真剣なものに変わった。視線の先は黒ずくめの少年――ホロウだった。
ついさっきまであたしやリズベット、クラインに抱き締められながら涙していた少年も今は落ち着きを取り戻し、精悍な面持ちを浮かべている。
さっきまでは無かった雰囲気。活力、と言えるそれを、あたしは表情から感じた。
「……その様子だと、大丈夫そうね」
彼女も同じく感じたのだろう。少し鋭く見えた面持ちが、ふっと和らいだ。柔らかな視線と微笑は姉としての表情だった。
「ああ。シリカ達のお陰だ」
「みたいね」
そんな彼女に、少年もまた表情を柔らかくした。
――おそらく、ホロウにとっては初めてだろう柔らかい表情は、とても子供らしく見えた。
ああ、本当に間に合ったんだなと思った。この笑みを見れば踏み込んだあたしの決断は決して間違いではなかったんだと確信を持てる。何より、彼が認めてくれていた事が嬉しかった。
――もしかしたら、これがリーファさんの気持ち、なのかな……?
ふと、そんな事を思考に浮かべる。
これまではキリトとリーファの関係を傍から見て、『凄い入れ込んでるなぁ』とか、『お姉ちゃんってそういう感じなのかなぁ』と思うばかりだった。一人っ子のあたしには想像する事しか分からなかったのだ。
ただの義姉弟関係とは思えなかった事もそれを助長していたと思う。
それが異性としてだけでなく、命や未来を慮るが故のものだったからそう見えたのだと、いま漸く気付けた。
キリトにとってリーファ、キリカにとってユイとストレアがそうであるように。
そういう意味では、あたしとリズベットは、ホロウのお姉ちゃんなのかもしれない。クラインはお兄さんだ。彼の場合は、キリトとキリカにとっても良き兄貴分な訳だ。
なんだかヘンテコな関係になりそうだが――まぁ、誰も悲しまないのだから、それでいいのだろう。
誰かが犠牲になるわけじゃないのだから。
「――
「それは直姉もだ」
「……かつてはね。今のあたしは、ホロウに寄り添えないから」
ホロウの言葉に、ほんの少し顔を曇らせるリーファ。
きっと
ホロウを苦しめるだけだと、自嘲しているようだった。
「――そう言ってくれる事が、何よりの救いだよ」
ある意味で自身を拒絶するようなリーファの言葉に、それでもホロウは柔らかく微笑んだ。
「俺はオリジナルとは違う。それは
「……生きられる、か。そっか――――本当に、善い人達に会えたわね……」
目の端に雫を浮かべ、リーファは天を振り仰いだ。
そのやり取りを、あたし達は静かに聞いていた。きっとこの二人の間でだけかつてやり取りがあったのだと予想は出来た。
そして、当時はリーファの言葉も届かなかったのだと察せた。
彼女の涙は、後悔があった故のもの。その後悔が、あたし達という他人の手によるものとは言え、晴らされたから――彼女は万感の思いを込めた呟きを漏らしたようだった。
少しして、彼女は長刀を握っていない左手で目元を拭った。顔を下ろし、綺麗に煌めく翡翠の瞳で少年を見つめる。
「なら、生きて帰るわよ。今度こそ」
「うん、今度こそ」
義姉は、今度こそ死なせないという誓いを。
義弟は、二度と繰り返さないという誓いを。
短く交わされた言葉には、二人のそんな想いが込められているように感じられた。
『ぶるぁぁああああああああああああ!!!』
その時、暴威を振りまく雄叫びが轟いた。
壁など見えない無窮の空間に響くそれ。堕天使の姿から変容し、形を成して再現された斧使いの人型ボスが上げた声に、一同が警戒心を強くする。
その暴威の化身に、"かつて"を想起させる装いになったキリカが斬りかかった。
「――作戦を伝える、耳だけ貸してくれ」
誰もが二人の戦いに目を、意識を向ける中、落ち着いた声音でホロウが言った。彼の言葉通りに耳を傾ける。
「あの斧使いのボスを倒し、次に出てきたボスで勝負を仕掛ける。上手く事を運べればそこで全部決着が着く」
「上手くいかなければ?」
「九十九層と百層裏ボスも相手取る事になる上、
「なっ」
「それは……」
「そんなの……」
思わず声を漏らしたのは誰だったか。あたしはその一人だったし、他も何人か異口同音に苦言を呈そうとしていた。
けど明確に反論しようとしたあたし達を制するように、「全部聞いてくれ」とホロウが言った。
「死ぬ事になるのは結果的にだ。このまま勝負を仕掛けなければ、いま取り込まれている巫女が"モジュール"諸共死ぬ。みんなは俺と巫女を天秤に掛けられるか?」
その問いに答えた者は、誰もいなかった。
――心情としてなら答えは出ている。
第三の巫女かホロウか。心情的には、すぐに後者を選ぶ。それだけの積み重ねと、彼を死なせたくないという後悔があるからこそだ。
同時にそれは、巫女を見殺しにする選択を選ばせない枷でもあった。
だから誰も答えられなかった。
勿論プレミアやティア達の同族だから、という理由もあったが――
「――ああ、そうだ。天秤になんて掛けられない。
そこで理解する。
彼が勝負を仕掛け、失敗すれば彼は死ぬという。
逆に仕掛けなければ巫女は死ぬ。
成功させれば――二人とも、生き残る。
「……君は、巫女の事も、君自身の事も諦めてないんだよね」
あたしは少年を見つめた。
顔をこちらに向けてきたホロウは、確りと首肯する。
――そっか、と彼の頷きを見たあたしは笑った。
死ぬ気が無いなら大丈夫だと思えたのだ。失敗の可能性はあるけど、成功の目があるならそれに賭けるしかない。そしてホロウ自身が後者に賭けているのだから、あたしもそれに乗っかるだけだ。
「じゃあ、具体的にはどう勝負に出るの?」
「俺が全霊を以て巫女と"モジュール"を切り離す。切り離せるのはボスが形を変えている間だ。みんなはボスの体力を削り切る事と、助け出した巫女の護衛を任せる事になる。残った本体は俺が破壊する」
なるほど、と頷く。どうやって切り離すのか気になる事はあるが――まぁ、多分シンイだろうなぁと見当はついた。というか現状それしか思い浮かばない。
そう考えたところで、クラインが「でもよ」と声を上げた。
「俺が助け出そうとしたらふっ飛ばされたから簡単じゃないぜ、ありゃあ」
そう青年が言うと、その隣に黒コートの美女――大人形態のユイが並んだ。
「それに元のプログラムを消去しなければ再度出現しかねませんよ」
難しい表情で言う彼女の言葉に、確かになぁと思った。
クラインをふっ飛ばしたのは"モジュール"が巫女を奪われないようにした結果だろう。つまり奪われれば全力で奪い返しに来るのは想像に難くない訳だ。それはこちらの戦力もあるから対応可能とは言え、ユイが言うように再度現れるとなると話が変わってくる。
要はプログラムから"モジュール"を消去しなければならない訳だ。倒せば終わりではと思わなくも無いが、ユウキ達から地下迷宮で起きた事は聞いているので、それを否定しきれない。
しかし、一応は一介のプレイヤーであるあたし達に対処する術がある筈もない。
当然、事ここに至ってなお"モジュール"が存在している以上、《SA:O》の運営を任されている《ユーミル》――もとい篠ノ之博士と
「地下迷宮では、ユイちゃんが特殊な権限でボスを消した……んでしたっけ?」
当事者でないからあやふやな記憶を頼りに問うと、ユイはこくりと頷いた。
「《オブジェクト・イレイサー》という剣の形をした権限を使用しました。しかしアレは裏技で――――」
そこまで言うとユイは突如口を閉じた。少し眉を寄せて、それからホロウに目を向ける。
「……そういえばあなたは、カーディナルと直接契約してましたよね?」
その問いかけに、あたしも周囲もハッとした。訳が分かってないのはこの世界の住人たるAIの者だけだ。
――《カーディナルとの直接契約》。
ある意味、キリトもそれを為した一人ではあるのだが、それ以前にホロウを生み出したのはあの幼賢者然とした存在だ。彼に負の人柱をさせた契約もあの賢者が持ち掛けたものだろう。
そして、恐らくALOでの記憶も含め、《ホロウ》という存在がこの世界にいるのも自律システム・カーディナルが要因に違いない。
なら何か解決手段を与えていてもおかしくない。
「ああ、そのせいで俺は存在し続けてる訳だけど」
「絶妙に触れ辛いことを……ともかく、カーディナルならなんとか出来るのでは? ホロウから接触できないのですか?」
「――俺からは無理だ。アレにはアレなりの線引きがある、一プレイヤーからの要望を聞き入れる事はない。逆にアレの画策には遠慮なく巻き込まれるけど」
カーディナルの事を"アレ"呼ばわりするホロウの顔は何とも微妙なしかめっ面だ。
ともあれ、答えは聞けた。カーディナルはどうやら公平性を重視して動くようで、それに欠ける事には一切協力しない主義らしい。
この状況に公平性を求めるのはおかしくないかと思わなくも無いが、口にしたところで無駄だろう。
「とは言え、だからこそ俺が此処に来た訳だ」
「そりゃあいったいどういう意味だ、ホロの字よ」
「ほ、ホロの字? ……まぁ、いいか。言葉通りだ。負の人柱でずっとずっと『奥』にいた俺が来たのは、あの"モジュール"を不可逆的に破壊する術を持っていたからだ」
そう言ってから、ホロウはクラインの方を向いた。
「最初、クラインが巫女を救い出した時点で俺は動いた。巫女が救い出されれば"モジュール"は核となる対象を取り込もうと動く筈だから、そこに同じAIである俺が割り込み、巫女が背負う負を取り込んで、自我崩壊しながら"モジュール"をバグで壊して果てるつもりだったが――」
「「「「「は?」」」」」
思わず声が漏れた。
異口同音、全員揃った迫真の一声に、彼はびくりと肩を震わせる。すぐに収まって言葉を続けたが。
「――シリカ達が支えてくれるからな。今ならあの負全てを昇華して俺のシンイの力に加えて、"モジュール"をふっ飛ばす手段を取れる。やろうとしてるのはオリジナルが俺に対してした事とほぼ同じだ」
そう良い顔で言い切ったホロウに、あたし達は微妙な視線を向けた。
多分、やろうとしてる事に大差は無いんだろう。
要はシンイで"モジュール"を致命的にバグらせようって訳だ。さっきまでは色々絶望してたから耐えられなくて、今はあたし達がいるから耐えられるって事を言いたいのだろう。
かつて《けもの》だった彼のシンイの規模は、当時のネットをバグらせるレベルだったというし、そういう点では鹵獲とかデータ送信もままならなくさせられる。セブンの事も含めれば、リソースとして取り込んで無力化も出来てしまえるはずだ。
とは言え、さぁ……
「自我崩壊って、作戦に入れるような事じゃないと思う」
「ただの自爆特攻よりメチャクチャタチ悪ィぞ」
「分かってはいたけど、私の予想以上に病んでたのね……」
あたし、クライン、リズベットが順に心境を語った。
いやホント、自我崩壊なんて作戦に入れる事じゃないし、そもそも考えていい事でもない。
つくづくあの時に決心して良かったと思った。
"ともだち"が自我崩壊して死ぬ瞬間なんてトラウマどころではないし、悔やんでも悔やみきれない事態である。彼に助けられたティアも思いっきり病んでしまう。というか多分病まない人はいない。なんならキリトが一番病むまであり得る。流れ弾でかつて実際に自我崩壊したらしいキリカと、その場面を見たらしいユイ達まで病みかねない。
いっそホロウは控えさせた方がいいのでは、と思ったあたしの脳裏に、ふとした疑問が浮かんだ。
「ふと思ったんだけど、シンイでバグらせるだけなら君以外でもやれるんじゃない?」
「それならキリカとかボクとか、あと何人か出来そうだよ」
「規模的に足らないから無理。求められてるのも攻撃じゃなくて相手をバグらせるっていう点だし、そもそもオリジナルが居なくなったから代役として俺に回って来たんだ」
「それってキリトが明確に瞋恚を発現したっていう七十五層のバグみたいな感じ? アレレベルとなると、流石になぁ……」
そりゃあ無理だ、とユウキが首を振った。
あたしもそれに内心で同意する。
彼の力になるべく来てはいるが、『彼の代わり』が務まるとは思っていない。数でどうにかなる事でないの百も承知だからだ。シンイはその典型である。
――キリト君が居れば少しは違ったかもしれないけど、ホロウ君の口ぶりからするに彼も分からないようだし、聞くだけ無駄だろうなぁ。
どのみちホロウに任せるしか無いようだとあたしは嘆息しながら、キリカと斧使いのボス――《殺戮の狂戦士》の戦いへと意識を向けた。
ボスの一撃は当たれば大ダメージ必至だけど、一つ一つの動作は大振り且つ大味な調整がされているらしく前兆は分かりやすいためか、反応速度に秀でるキリカはどれも的確に躱していく。記憶に鮮明に残る後退カウンターも誘発しないよう気を払っているようだった。
順調そうだなぁと思ったところで、また疑問が浮上する。
「ねぇ、ホロウ君。ふと思ったんだけど、次のボスで勝負を仕掛けるのって、何か理由があったりする?」
「なぜそんな事を聞く?」
「堕天使ボスを倒した後にも隙があったなぁと思って……出来るって確信は持ってそうな口ぶりだったから、説明は後にして行動するのが、君の……というより、君達に対するイメージだから。だから事前に説明してくれた事が少し意外だなぁって」
死神と転移する悪魔ボスの時は、あたし達を前にして二の足を踏んだとか、そういう理由付けが出来る。逆に次のボスに変化する時を狙うというのも、説明する前に狂戦士に変わったから単純に次の機会がそこだった、と説明がつく。
ただ、説明する直前、リーファを迎える時は確かな狙い目だった。自我崩壊しないで済む最初の機会には違いなかったのだ。
今のところ彼の予想通りにボスの変容は続いているが、全て予想通りにいくとは限らない。これ以上の異常事態が舞い込む前に勝負に出るのではないか、という推測があたしの中にはあった。
それに加え、"彼"には何も話さず、語らず、一人で遂行する印象を抱いている。《圏内事件》の裏で暗躍していたオレンジ・レッドプレイヤーの前に一人で来るよう、仲間と一緒に居る時にメッセージが来た彼が、誰にも告げる事なく行動した時の印象が。スヴァルトエリア攻略の裏で色々動いていたキリトへの印象もあって、ホロウもそうなんだろうなぁと思っていた。実際ホロウもSAO時代では誰にも何も告げずに人柱になっていたのだ。
だから純粋な疑問が浮かんだ。
それをぶつけると、ホロウは少し複雑そうな表情になった。それから再び視線をキリカとボスへ向け――いや、虚空へ焦点を合わせた。
「まぁ、その印象は間違ってない。実際そう動いていたからな。そのせいで人を傷つけて、自分も傷ついた」
「反省したって事?」
「うん、まぁ、そういう事だな」
虚空を見たまま、彼は目を眇めた。
更に彼は言葉を続ける。
「それに、次のボスとは因縁がある。訣別するには丁度いい」
そう言って、彼は視線をボスに定めた。
はい、如何だったでしょうか
三話前の後書きのホロウの項目で『最初は推察を語らなかったのは……』と書いた理由、それは『自我崩壊を前提にした作戦』で動いていたからでした
クラインは巫女を助け出せずふっ飛ばされたけど、ある意味あれはファインプレーだった訳です
あの時に助け出せていれば、代わりにホロウが諸共自滅を敢行していました
その機会を逃したのでシリカに踏み込まれるほど二の足を踏んでいた訳ですが。シリカにも言われましたが、『許されたい』とは本心で思っていたのでね。『星の未来』について話したいけど自分からは、と迂遠な手段で踏み込んでくれるのを待っていたキリトとやはり根っこは同じな訳です
めんどくせぇぞこの義弟共!(今更)
・シリカ
ホロウの義姉候補
キリトとリーファの義姉弟関係が、ただの家族愛や異性愛だけでなく、命と将来を慮ったものであると理解した一人。そのためホロウに対してかなりの心配性になった
まあ一応本作だとリーファと同い年だからね……(原作ではシリカが一つ年下)
・ホロウ
自我崩壊特攻の機を逃し、二の足を踏んでいた結果救われた元人間
本心では『生きる事を許されたい』と思っていたが自覚は無かった。仮に自覚があった上で行動してたらそっちの方がタチが悪い。自覚が無くても行動してたらシリカ達全員を病ませかねなかった
『裏切り』を自身が最も嫌っている事の一つと自覚している事も相俟って、『誰にも相談・説明せずサチ、ユイ、ルクスを穴に落とした過去』を強く引き摺っている。これはキリカと同じ道を歩まない決断を下す決定打でもあり、これさえ無ければキリトと袂を別たない道も残っていたと自覚している。事前説明の件で反省した事はこの事である
・『次のボス』
堕天使と狂戦士を下した後に現れる『最強の前に現れる存在』
"キリト"にとって因縁が深い姿を取り、怒りと怨みのまま全てを破壊する獣。一度は獣に身を堕としたホロウが過去と訣別するのに相応しい相手
"
では、次話にてお会いしましょう