インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 幕間にしようか迷ったけど、内容的に本編になったお話

視点:アリス

字数:約八千

 アリス視点だといつもそうですが、今話は殊更アリシゼーション編の要素満載なので『https://syosetu.org/novel/100615/405.html
 を読み返すこと推奨です

 ではどうぞ




第四十五章 ~金木犀のこころ~

 

 

 昏い闇に呑まれたティアをキリトに任せる形で先に進んだ私達は、最奥に至るまでの道中でやはり闇に侵された多くのモンスターと戦う事になった。

 彼らの動きはとても民間人とは思えないほど統率されていた。

 彼らが『システム』と呼ぶ理で複数人で連隊(パーティ)を組んでいる事は分かっている。

 第一連隊は隊長にキリカを据え、ユイ、ストレア、プレミア、リーフェ、キズメルが加わっている。仮ではあるが、一応私もここに籍を置いてはいる。

 第二連隊はアスナが隊長を務め、ラン、ユウキ、サチ、リーファ、シノンが後に続く。元々ここにキリトが居たので最大人数に一人達していない状態だ。

 第三連隊はクラインが隊長で、エギル、リズベット、シリカ、レイン、フィリア、アルゴの最大人数。

 この二十人が現状の戦力。

 『レイド』という連隊を複数合わせた単位で見ても半分にも満たない数らしいが――それでも、この一団は揺るぎもせず奥へ奥へと突き進む。

 この一団はいま、キリカを筆頭に固まっていた。

 

 ――その光景が、私には尊く、美しいものに見えた。

 

 召喚されて間もないからでもあるだろうが、自身が所属する整合騎士団、あるいは四帝国の軍で、これほど統率の取れた集団を私は知らない。

 整合騎士に関しては職務や能力に起因するところもある。我らは創世神より賜った強大な力があるため、任務に際して複数人で向かう事があまり無い。凶暴な魔獣討伐やダークテリトリーの侵入を防ぐ任務も原則一人で務める事になっている。神器を持っているなら実力も高いと言えるわけで、整合騎士が共闘する事態は皆無に等しいのだ。

 だから神器を持つ上位騎士は複数で戦わない。複数で当たらなければならない相手が、それまでほぼいなかったから。

 四帝国の軍に関しては話が別だ。

 彼らは整合騎士のような強大な力を持たず、また神器と呼べる物も持っていない。秘宝や家宝として由緒正しい所以を飾っているが、実態は大したものでない事がほとんどだ。

 帝国の貴族階級の腐敗については修道士からも聞いている。市井との関わりを禁じられていても整合騎士の耳に届くほど。その階級の者が多く務める軍が、まともに機能している訳が無い。正に『烏合の衆』というに相応しい有様と聞いていた。

 明確に強大な敵がいないからこそ喪われた美しさ。

 

 それを、彼らは持っていた。

 

 ――魔物の波を乗り越え、更に奥まで進むと唐突に魔物の襲撃が収まった。

 進行方向には地面と垂直に聳える壁があり、そこに青く明滅する紋様が浮かんでいた。恐らくそれが最奥に続く転移陣だという。

 私達は決戦へ赴く前に休憩を取ることになり、私はこの一団からやや距離を取って地面に座った。

 周囲の光景はキリトと別れた辺りとはずいぶん様変わりしている。これまではそこら中が吹き抜けのようになっていたが、奥の方は青黒い石がそこら中を覆って一種の洞窟と化している。ここへ突入する時に通った入口にあったものと同じ石材だ。僅かに光沢を持ちつつも、どこまでも光を呑み込むような見た目故か、広間は薄暗く見える。不思議なことに光源がない筈なのに暗闇に包まれないし、かと言って外のように明るくもない。

 この世界の人も物も、何もかもが自分の常識とはかけ離れていると再度実感する思いだ。

 

「アリス、大丈夫?」

「シノン……ええ、私は問題ありません」

「そう」

 

 そう物思いに耽っていると、長弓を肩に掛けるシノンが話しかけてきた。隣に来た彼女は腰を下ろし、こちらの顔を窺ってくる。

 黒い瞳と黒い髪の少女の顔から不安の色は見て取れない。

 ――その視線から逃れるように、私は視線を周囲に向けた。

 さっきよりも意識しているのか、三々五々思い思いに休息を取る面々の表情を強く認識する。戦術、連携、武具の調整を話し合う者ばかりで、誰もが積極的に事に臨んでいる様子だった。

 

「――あなた達は、強いのですね」

 

 ふと口から突いて出たのは、シノン達への驚嘆の言葉だった。

 脈絡がなかったので、シノンは当然の反応として訝しげに首を傾げる。思わず苦笑を滲ませると私は隣に座るシノンに初めて視線を返した。

 

「私の世界にこれほどの規模の戦いはありませんでした。野獣や魔獣を討つのは自警団や軍の役目、人の営みに害の大きい存在は我々整合騎士が打って出ていました。だから平民は剣を持つ事もなく、その生涯を終える事が殆どなのです」

 

 脳裏に思い浮かべるのは飛竜の背に乗り人界を飛び回った任務の日々。市井の者に関わる機会こそ少なかったが、遠目からでもその営みを見る事はあった。

 その時の私は、その光景を守らなければと思った。

 それは整合騎士としての自負であり、弱き者を守るべきという倫理観によるものだ。

 ――逆に言えば、弱き者が剣を持つべきではないと思っていた。

 それは整合騎士がその役目を十分に果たせていない証左になるからだ。

 弱き者が前線に居ても無駄死になるから――というのは、驕りが過ぎるだろうか。

 

「みんなはそうかもしれないけど……少なくとも私は、強くないわ」

 

 私の発言にシノンは小さく息を吐きながらそう言った。

 

「この城にもう一度来る事になるなんて予想だにしてなかった。出来れば来たくなかった、というのが正直な気持ちよ」

「なら、なぜ? 無理に来ずともそれを咎める者は居ないでしょうに」

「簡単よ。私が、強くあろうと思うから」

 

 隣を見れば、彼女はわずかに俯いていた。曲げた膝を抱えるようにして座る彼女はぎゅっと唇を噛む。

 

「きっと、一度でも逃げれば、私はずっと逃げ続ける事になる。その方が私は怖いの……それに――」

 

 そこで彼女は言葉を止め、視線を彼方に向ける。その先を追えば、そこにはプレミアと並んで座るキリカの姿があった。

 

「ここに来るのを最も恐れているのは、私じゃないから」

「……それは、キリカの事ですか」

「キリトも、ね」

 

 問いを投げると、彼女はふ、と笑みを零しながら言った。

 

「そういう弱音、自覚していないのかは分からないけど、二人はぜったいに口にしない……でも本心ではそう思ってる筈なのよ。”あの世界”で人のために戦って、そしてもっとも人の死に見舞われた人だから」

「人の、死……」

 

 オウム返しに呟いた私は、再度視線をキリカへ向ける。

 彼はキリトと途中までは同じ記憶と経験を持つという。キリトと別たれて尚、シノンが彼をそう評したという事は、別たれる前から相当な数の『死』に触れてきたという事だ。

 

 ――その心境が、私には想像もつかない。

 

 実感が湧かない、という表現が正しいかもしれない。

 概念としても、理屈としても知っているが、私はそれを体験した事がなかった。整合騎士として召喚されてから二年の間、身近な者が命を落とした事は無かったからだ。そもそも人界に於ける人の死は老衰や病死、自然災害、そして野獣に襲われるなどの類のみ。

 人同士の争いが禁じられている以上、私が知り得る筈もない心境だった。

 

 ――――俺達の! 誰が! いつ! 命を軽んじた!!!

 

 ふと。脳裏に、数刻前のキリカの怒声が蘇る。”さーばー”という物の数だけ存在したこの世界の命。それをキリトやキリカらも軽んじていると思った時にぶつけられた、キリカの言葉だ。

 あの言葉は果たして、キリト(オモテの者)としてか、キリカ(ウラの者)としてか。

 どちらにせよ、プレミアやティアを助け、いまも無関係な仮想(ウラ)世界の者達を守るために浮遊城の崩落を防ごうと動いている彼らの行動は、真実命を重んじる想いによるものだ。

 だからこそ、彼らが経験したという”人の死”の重みが余計に想像できなくなる。

 

「ぶっちゃけた話、今回の出来事は本来、私達が対応しなくてもいい事よ」

 

 私が未知の心境、人の死の重みについて思考していると、シノンがおもむろに話題を変えた。それに興味を惹かれた私は思考を中断した。

 

「そうなのですか? 聞くところによれば、事態解決にはキリトが奔走する取り決めが為されているという話ですが……」

「それは間違いではないけど、そもそも、あんな年端もいかない子を一番に働かせるのはおかしいと思わない?」

「……確かに……」

 

 やや剣呑なシノンの雰囲気に圧されながら頷く。

 実際、彼女の言うとおりだ。この場にいる面々の中でも20歳を越えている者はエギル、クラインの二名のみで、他は全員年端もいかない少年(キリカと)少女《シノン達》。補助として大人も手伝っているのは知っているがそれも数名のみ。

 一つの世界が危ぶまれているというのに、あまりに大人の介入が少なすぎる。

 彼らにとって肉体があるのは《現実(オモテ)世界》、ティアを殺めようとしていた者達がいたように、実生活のない《仮想(ウラ)世界》であるこちらがどうなろうと気にしない者が多いのだろう。キリトやシノン達が例外というだけかもしれない。

 とは言え――それでも、確かにおかしい。

 人界の基準で考えれば、魔獣の群れに整合騎士や街の衛士隊が動かず、幼い子供だけに押し付けている状況。それはあまりに異常だ。

 

(まつりごと)仮想(こちらの)世界に関する天職に携わっている者達が動いていない……?」

「そう。元々オリジンという世界を創ったのは政府の直轄機関なのに、全然対処に動いていない。政府本体も動こうとしない……それだけアインクラッドっていうのは避けられてる。キリトはそれを押し付けられているだけなのよ。特に、今回はそうなるよう嵌められた」

 

 そこで彼女は、肩に掛けていた弓を強く握った。革の持ち手がギチリと音を立てる。静かに怒りを滲ませる彼女の口元は歪んでいて、食いしばられた歯が見えた。

 視線は虚空に向けられていた。きっと彼女の眼には、”敵”と言える誰かが視えているのだろう。

 少しして、ふっと彼女の目から険が取れた。

 

「そんな状況になって、彼らにだけ行かせる訳にもいかない。だから私やユウキ達は一緒にここに来たの。彼らの支えになるために」

「そうですか……」

 

 優しいまなざしでキリカを見つめるシノンに、私はそれ以上の言葉を紡げなかった。

 ――彼女達がキリトと恋仲である事は知っている。

 そんな彼女達は、キリトとキリカは別の人間であると認識している。一時期は苦悩したらしいが、キリト達の折り合いの付け方に彼女達も従い、どうにか解決したらしい。

 だから彼女達の想い人はキリカではない。

 しかし彼女らは、キリカを支えたいと思っている。

 ……複雑な心情だと、私は理解するのに苦しんだ。

 きっとそれはキリカがキリトから別たれる前を知らないからだ。私からすればキリトとキリカの二人が別人として存在することが当然だが、彼女らはそうではなかった。それ故の懊悩を私が知る由もない。だから分からない。

 ――分かる事は、やはり。

 

「やはり、シノン達は強いですよ」

 

 最初に思った、その事実。

 私の言葉にシノンは何とも言えない面持ちになった。

 

「……そう、かしら」

「ええ……あなた達のように心の強い人を仲間に持った彼らは、随分な果報者です」

 

 言いながら、脳裏にある光景を思い浮かべる。

 それは私の世界の出来事。咎人として連行するにあたり顔を会わせた《キリト》と、その周りの者達の様子だ。

 人を殺めたというのに、禁忌目録を犯したというのに、動揺が見て取れない幼い少年。その彼を慮るように表情を歪めていた青服の青年と、灰色の制服に身を包む二人の少女。

 当時は理解できなかった。人を殺め、法を犯した少年に対し、なぜ慮るような態度を取れるのか。

 だが、今は。

 今なら、その気持ちが分かる気がした。

 だからこそ、気に掛かる。

 

 ――――私の世界にいたお前は……いったい、何を守ろうとしたのです

 

 あの”キリト”が何のために法を犯したのか。何のために、命を奪ったのか。

 何を、守ろうとしたのか。

 

 ――――守るべき法、乱すべきでない秩序よりも、何を優先したのですか

 

 彼が”安住の地”と呼ぶ家の前で、彼が語っていた事を思い出す。決して長くないやり取りの中に、真実がある気がした。

 ――途端、右目に痛みが走る。

 まただ。五つ目の聖石を回収しに行く道中でも覚えたこの痛み。

 あの時は整合騎士にいる、とある二人組の少女の経歴に疑問を覚えていた。

 そして今は、キリトが犯した罪と、その是非について悩んだから走っている。僅かと言えど、彼の言動が正しいと――――逆説的に、法に誤ったところがあるのではと思ったから。

 だから私は、この痛みの原因を確信している。

 最高司祭様だ。

 何を思ってか、整合騎士を天界より召喚した最高司祭様は、右目に何らかの封を込めたのだ。

 目的は、おそらく。

 辻褄の合わない事実への思考を……

 

「ぅ、ぁ……ぐぅ……っ!」

 

 そこまで考えた時、右目の痛みは、灼熱感を伴った激痛へと至った。脳髄を貫かれたような錯覚を覚えるほどの尋常ならざる痛みに呻きを上げてしまう。

 当然、周囲で休憩していた者達もこちらに気付く。

 紅に染まった視界の中で、以前も見た不可解な神聖語が回っていて、その向こう側に駆け寄ってくる者達の姿が映った。

 

「アリス、どうしたのよ?! しっかり!」

 

 一番に案じる声を掛けてきたのは、隣で語らっていたシノンだ。彼女が声を掛けたからか他の面々は黙っている。

 それでも、動揺し、こちらを案じる表情はそのままだ。

 

「だ、大丈夫、です。この痛みは既に、経験済みです」

「だからって……」

 

 そんな彼女らを心配させまいと、そう振る舞ったのだが。

 やはり紅く光る右眼と、苦痛に歪んだ表情のせいか、それは失敗に終わったようだった。却って余計に心配させてしまった。

 けれど、それでも彼女達に出来る事は無い。

 この痛みは人界の在り方に疑問を抱けば齎されるもの。

 ――此処に来る前なら、すぐ忘れたであろう疑問だ。

 けれど、私は別の世界の理を知った。そこに生きる人々の在り方を知った。だから疑問を抱き、痛みを覚えた。

 私の常識(すべて)は、”キリト”の在り方を知ってから変わった。

 この疑問から完全に意識を逸らす事は、もう出来ない。この世界で知った全てを忘れなければならないほど克明に浮かんでしまっている。

 世界が違えどそこに生きる”人”に違いは無い筈なのだ。特にキリト達はこの仮想(ウラ)世界を生きる者にも命があるとし、対等な接し方をしている。異界人である、私にすら。

 だから、分かってしまう。

 私の世界の”キリト”と、この世界の”キリト”は恐らく同じだと。同じだからこそ、人界しか知らなかった私の理解が及ばなかったのだと。

 

「――みんな、どうした! 何があった!」

「ッ……キリト……!」

 

 そこで、満を持してと言うべきか、丁度よくキリトが追い付いた。

 彼の傍らには服の色が元の青に戻ったが、育った肢体と銀の髪はそのままのティアがいた。得も知れぬ感慨と共に笑みが零れた。

 

「お前は……為すべき事を、為したのですね……」

「アリス、その右眼……!」

 

 私の目を見て、以前気絶した時に立ち会った彼は険しい面持ちになった。すぐに、何も考えるな、深呼吸しろと、以前と同じ事を言ってくる。

 だが――今回も、私はそれに従わなかった。

 同時に、痛みが増そうとも、意識を手放す気も無かった。ある種の覚悟と共に気を繋いでいた。

 力の抜けた体に鞭を打つように、ゆっくりと持ち上げた両手でキリトの華奢な肩を掴む。ぐっと近寄った少年の顔を覗き込むような態勢で、私は口を開いた。

 

「キリト。お前は……お前なら、この痛みについて、何か知っているのではありませんか」

「は……いきなり、何を……」

 

 唐突な問いに、彼もさすがに呆気に取られていた。

 だが、それでも一瞬、彼の顔に思案の色が浮かんだのを私は見逃さなかった。何か知っている、あるいは何かしら気付いた事があると強固な確信を抱く。

 

「答えなさい。お前が、知った事を。もう私は人界の、最高司祭様への疑念から、目を背けられない……!」

「……!」

 

 私の慟哭のような請願に、少年が目を瞠り、苦しげに表情を歪めた。

 彼が知った真実を求めた末に、私の身に何が起きるかは分からない。

 良くて右眼の破裂。

 最悪、魂の破損――つまりは死か。

 どれでもよかった。

 確かなのは、最早この苦悩に何らかの答えを出さなければ、騎士の務めは果たせないという事だ。

 ――これまで、最高司祭様を信じていた。

 いや、それは正確ではない。厳密には畏れていた。あらゆる光を跳ね返す鏡のような銀の瞳――それに見据えられた時から、私は畏れた。お言葉の一片たりとも疑わず、全てを捧げて使えねばならないと思い込んだのだ。

 故に、人界に居た頃の私は、思考停止に陥った。

 天界から召喚された訳でもない修道士の少女二人が、整合騎士になった事も。

 ”キリト”が人を殺めた時、何故と思わなかったのも。

 事の是非への思考を放棄していた。最高司祭様の判断を、その下に創られた禁忌目録の(さだめ)を絶対視した。

 ――それが誤りだったと今ならわかる。

 私達がしてきた事が誤りだったとまでは言わない。人界の平和は、それ故に保たれてきたものでもあった。

 それでも、整合騎士にも正義があるように。人界と同じ義に反しているキリトを、ヒースクリフ達が悪と判じながらも正義と認めたように。

 正義とは、決して一つだけではない事を知った。

 人を殺めてでも守らなければならなかった正義を知った。

 だから知りたいと思った。

 正義を守らんとして反旗を翻された公理教会の《正義》の実態を、第三者の言葉で。

 

「この痛みは……最高司祭様の、不信の証明ではないですか。疑念を向けさせないための。私を、妄信させるための……服従を強要する、その証では……」

 

 言葉の最中、更に痛みが増し、声が震えた。記憶にないほど弱々しいそれは本当に自分のものかと思ってしまうほど。

 

「凡そ、その通りだと思う」

 

 その問いに、彼は小さく頷いた。

 痛みを忘れ、息を呑む。

 つぅ、と。雫が頬を伝った。

 信じられない話だ。

 信じたくない話だ。

 けれど、彼の言葉が恐らくは真実だろうと、私は納得してしまっていた。彼の言葉を虚言と思う事が出来なくなっていた。

 

 ――心のどこかで分かっていた。

 

 彼らが《ウラ世界》と呼ぶこの世界。それは《オモテ世界》に生きる人間達によって作り出された、虚構の世界だと知り、うっすらと考えていた。そのうえで気付かないよう目を背けていた。

 だが……おそらく、()()()()()

 キリカ、ユイ、キズメル、プレミアらと私は、きっと同じなのだと。

 彼らと同じ造られた生命なのだと。

 

 ――”キリト”が同じ存在だと察した時点から、薄々分かっていた。

 

 だから私はこの世界を守ろうとした。

 この世界に住まう者達を、同じ命だと認識した。

 否、そうしなければならなかったのだ。そうしなければ、己の命もまた紛い物だと認識してしまうから。公理教会という寄る辺を喪い、人界守護の任という役目も失った自身の自我を保つために、代替物が必要だったのだ。

 

 だから、彼の言葉がトドメになった。

 

 文字通りの決定打。

 否定できない、致命傷。

 

「……ぁ、あ――――」

 

 パキン、と。

 心の欠ける音が聞こえた。

 

 






Q:アリスは最初から仮想世界の事が分かっていた?
A:少なくともキリトの経歴でSAO、ALO、ヴァフスらの事を知った時点で把握した
 それでも『人界は現実だ』と思い込めるが、そうなると『あの咎人とこちらのキリトは同一人物では』という推測が前提から崩壊してしまう
 更に自身の秘奥義とソードスキル、心意と瞋恚という符合
 トドメとばかりに、自身が信じていた全てを裏切るような『右眼の封印』
 これら全ての要素により、アリスは自身が信じていた全てを信じられなくなった

 つまり一度気絶した時(前書きで推奨した章)から全てに薄々勘付いていた


Q:原作だと召喚された(記憶を消された)のって六年前って話では?
A:本作では記憶リセットが二度あるとして描写している
 原作では、整合騎士見習いが六年前(目録違反当時)、騎士叙任が一~二年前(たぶん神器を持った時とごっちゃになってる)
 原作ではカセドラル外壁でミニオンを倒したキリトに対し、『夏至祭で芝居小屋でも~』と言い放つ。これに対し『見に行った事が?』と問われ、かなり曖昧な返答を返している
 夏至祭を見に行ったのは見習い時代(アプリゲー参照)
 騎士になってからは『行ったことは無い』と言っており(カセドラル外壁を登り中)、つまり記憶をリセットされていると読める。しかしベルク―リが氷漬けにされた場所で『六年前、整合騎士見習いとして目覚め~』と最高司祭と初邂逅の話をしており、前述と矛盾している。ちなみにユージオに対し、ベルクーリもアリスが六年前に騎士見習いとなった事を語っている
 まぁ、夏至祭に行ったのはチュデルキンにバレてるので、そのタイミングで夏至祭の記憶だけリセットされている可能性ありますが(心意も時間を掛けないと出来なかったし)
 本作では騎士見習い化時、騎士叙任時それぞれでリセットされた事にしています

 なのでアリスは二年前からしか記憶が無い

 なぜ改変したかというと、『整合騎士見習い』という役職自体、『天界より召喚された~』という経緯を無視しているので、割とおかしいと思ったから
 神に仕える騎士は既に完成されているとされるのに何故見習いから始めるのかというか
 見習いから始める決まりがあるなら、エルドリエの叙任がおかしな話になるし
 なので本作での整合騎士はすべて、騎士叙任時に記憶リセットで通します


・シノン
 まだトラウマを克服できていない少女
 とは言えデスゲームの舞台も十分トラウマ案件な訳で、自分の意志で戻ってきている以上、相当精神が強い
 無論キリトがいるからこその強さ


・アリス・シンセシス・サーティ
 真実に手を伸ばした少女
 原作と違い『妹』の存在を知らないまま残酷な真実を(しかも仮想世界である事実含め)知ったのでキャパオーバーした
 原作ではキリトに頼れたし、妹・セルカがいたし、何なら騎士長という頼れる人がいたので辛うじて安定していたが、本作では全部居ないので絶望に圧し潰された形

 悪と認めながらもキリトを恋い慕う姿に、公理教会とは別の正義を見出し、キリトの行いを肯定し始めた結果なので避けて通る事は出来なかった
 ただ間が悪かった


 次話からアンケート結果の『ですげーむ』モードに突入します


 気長にお付き合いください


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