インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 まだ現実側の話なんじゃ……絡ませたかったんじゃ……

 速めの投稿なので短めです

視点:篠ノ之箒

字数:約四千

 ではどうぞ



 ――織斑一夏の出身地って、どーこだ?
 答えは『ダークリパルサーの鉱石を取りに行った回』





幕間之物語:剣道編 ~前ヲ向ク者、背ヲ向ケル者~

 

 

 一夏(かずと)の言葉で私が押し黙り、その空気を察してか、車内の大人四人も暫くは口を閉じてこちらの様子を窺っていた。

 

「そういや杉浦、お前何でこっちに来てるんだ? 横浜に居なくていいのかよ」

 

 それが数分も続いた時、沈黙に痺れを切らしたか八神探偵が問いを投げた。杉浦と呼ばれた運転手の青年は赤信号でバンが停まったタイミングで返事を返す。

 

「ああ、それね。実はちょっと込み入った事情があるんだ」

「込み入った? 何か依頼が入ってきたのか?」

「いや、依頼って訳じゃないよ。ただウチの所長と副所長が、八神さんに力を貸した方が良いかもって、独自に動いてただけ」

「副所長って……ああ、天沢か」

 

 次々と話をしていく杉浦と八神。その中で出てきた二人の人物について知らない私は話についていけず首を傾げるばかりだったが、それは一夏(かずと)も同じだったのか、怪訝な面持ちで会話する二人を見つめていた。

 それを見かねたか、海藤が補足してくれる。

 杉浦が言った”所長”というのは、横浜の街に探偵事務所を構えている男。名前を《九十九(つくも)誠一(まこと)》と言い、数年前に八神に影響されて探偵事務所を杉浦と共に立ち上げた凄腕のエンジニア。

 ”副所長”は事務所を立ち上げてから暫く経って入った三人目の構成員の女性。名前を”天沢(あまさわ)鏡子(きょうこ)”。数年前のとある事件で八神らが彼らが関わった事件の高校で『ミステリー研究会』の部長を務め、主に八神と関わっていた女子生徒らしい。幼い頃からミステリーに目が無く、遂にはそれを職業にまでしてしまうほど大のミステリ好きな探偵との事だ。

 どちらも頭のキレる人物で、冤罪だった例の歌舞伎町斬殺事件に関して八神らが動いている事をどこかで知った二人は、口を揃えて『八神に協力を』と杉浦に申し渡したのだという。

 

「元々例の殺人を捉えたカメラ映像ってかなり杜撰なものだったじゃん? あの時点で僕らも警察に相当疑いを持ってさ。しかもその容疑者が桐ヶ谷君で、八神さんが動いてる。これはもう何かあるなって気が僕もしてたんだよね。だから九十九君達の提案は正直渡りに船だったよ」

「……俺が容疑者になる事が、杉浦さん達とどんな関係があるんですか?」

 

 その説明を聞いて、一夏(かずと)がおずおずと問いかけた。それは私も気になっていた事だったので黙って杉浦へ眼を向ける。

 丁度バンが走り始めたところで彼は口を開いた。

 

「さっき八神さんも言ってたけど、僕が所属してる探偵事務所ってさ、横浜にあるんだ。で、君も元は横浜出身でしょ?」

「……ええ。確かに、そうでした」

 

 僅かに目を眇めながら、彼は肯定を返した。

 杉浦の言っている事は本当だ。私や姉の篠ノ之家、彼の血縁である織斑家の出生は神奈川県横浜市のとある地区である。杉浦の探偵事務所や中華街からはやや離れているが、子供でも行ける範囲の位置関係にあった。

 その認識を得たと見たか、杉浦は話を続けた。

 

「ウチの事務所さ、四年くらい前にイジメに関するデカい依頼をこなした実績があるんだ。加えて所長はネットから的確に情報を集める。お陰でちょっと離れた街のイジメもその気になったら幾らでも集められたんだよね。依頼で調査してる間にも耳に入ってくるし」

「でしょうね。()()()()()()()と言われてたんですから」

 

 硬く、感情に乏しい声音で応じる少年に、大人組が僅かに顔を顰めた。

 私はと言えば、正直驚きに見舞われていた。

 第二回モンド・グロッソで攫われた当時、彼は八歳だった。その時点でそこまで言われていたのかと、あまりネットに触れなかった私はいつかどこかで聞いた風評の古さに驚いたのだ。

 

「……それで、それが今回の杉浦さんの行動と、どう繋がるんです?」

「うーん……なんていうのかな。昔出来なかった事をしたかったというか」

「……はい?」

 

 歯切れ悪い杉浦の答えに、困惑の声を一夏(かずと)が上げた。戸惑いの表情を向けられている事が背中越しでもわかるのか、運転中の杉浦は片手で頬を掻く。

 その彼に代わるように、話を聞いていた八神が口を開いた。

 

「要するに、杉浦達は誰に依頼される訳でもなく、昔から桐ヶ谷君周りのイジメ問題の情報集めをしていた。ただ実際に解決に動き出す前に、桐ヶ谷君は誘拐されてしまった。その結果宙ぶらりんだった事を、今やろうとしている……そういう訳か、杉浦?」

「ああ……うん、そんなとこだよ。流石八神さん」

 

 探偵の推察に、横浜の探偵青年が恥ずかしそうに苦笑を漏らし、頷いた。

 要するに杉浦を含む横浜探偵組は、一夏(かずと)をいじめている状況を問題視し、大事になる前に解決しようと動いていたのだ。恐らくは最悪な事態――自殺に繋がらないように。

 だが、実際に動き出す前に彼は誘拐され、問題は空中分解。

 後に残るのは加害者達だ。

 そこまで思い至ったところで、彼があっ、と声を上げる。

 

「まさか、《クラウド・ブレイン事変》の後に自首してる人がいたのって……」

「そ。ウチが独自に調べ回ってたイジメの証拠を突き付けたから。ただ、当時は表立って動けなかったんだ」

 

 児童センターも取り合わないし、と怒りを抑えた声で杉浦が言う。

 それに応じたのは助手席に座るサングラスにスーツ姿の男・東だった。

 

「だろうな。自分ンとこでイジメが常態化してるのをわざわざ取り上げたいヤツはいねぇ。取り上げようとしても、上に圧力掛けられて、揉み消されンのがオチだ」

「特に、当時は女性利権団体(じょけんだん)もいたからな」

 

 そう言った東に続き、海藤が言う。

 

「二回目のモンド・グロッソの頃と言やァ、確かブリュンヒルデの二連覇応援だとかで活発になってた時期だ。そんな時期に和人を庇えば今頃杉浦達は女権団に始末されてる。街ぐるみでやってた上に、行政も黙認してたんだ。動きたくても動けなかったって訳だ」

「せめてそのブリュンヒルデさんが依頼された時にすぐ動けるよう準備だけはしてたんだけど……って、和人君からすれば言い訳だよね。ごめん」

 

 車が止まったタイミングで、杉浦は後ろを向き、頭を下げながら謝罪した。数年前に救えなかった事を悔やむ素振りを見せる青年に、少年は微苦笑を浮かべ、いえ、と頭を振る。

 

「あの頃、俺に味方は居なくて、敵じゃない人が数人いただけでした。それでも……そういう事をしてくれている人もいたと知れて、凄く救われた気持ちになります。ありがとうございます」

 

 そう言って、彼は表情を満面の笑みに変え、頭を下げた。

 それをまっすぐ向けられた杉浦は照れ臭そうに視線を泳がせ、手を振る。

 

「いいよ、お礼なんて。お礼される程のこと出来てないから」

「いいえ……お礼したい気持ちになってるので、させて下さい。いずれ機会があれば、そちらの所長と副所長にもお礼させて頂きたいです」

「そっか……じゃあ、”今”を頑張らないとだね」

 

 そう言うと、彼は車のエンジンを切った。

 なぜかと思って辺りを見回せば、話している間に相当移動していたようで、もう《IS委員会》の本部ビルが見えるところまで移動していた。つまり目的地に到着していたのだ。

 しかしビルの下まではまだ距離がある。

 ああいう大きなビルは、入口に横付け出来るようスペースを作っておくものではと首を傾げていると、その答えはすぐに分かった。ビルまで二、三百メートルある大通りを塞ぐように何十人もの男達が待ち構えていたのだ。

 服装はレスラーや浮浪者の二極化をしていた。

 それを認め、八神や杉浦達がバンを降りていく。和人も降りると、それを見咎めた海藤が声を掛けた。

 

「オイ和人、お前は乗ってろ。嬢ちゃんを守るヤツが要るだろ」

「それを言うなら、アレに対抗できる戦力の方が必要かと」

「ああ? ――オイオイ、マジかよ」

 

 和人の視線を辿り、天を仰ぎ見た柄シャツの男が呆れた声を出す。身を乗り出して私も上空を見上げると、そこには黒や灰色に染め抜かれた【ラファール・リヴァイブ】が四機浮遊している光景があった。

 その顔には覚えがあった。二、三ヵ月ほど前に一夏(かずと)を殺そうと、ISを持ちだして暴れた過去を持ち、昨日須郷と同じく裁判待ちの者がいた留置所から姿を消した一人として指名手配の報道をされていた者達だ。

 そのリーダー格の女が、憎々しげに顔を歪め、右手に持つアサルトカノンの銃口を一夏(かずと)に向けた。

 

「どれだけこの日を待ったことか……! アンタのせいで、私達の人生は滅茶苦茶よ! 殺してやる……絶対に殺してやる!!!」

「逆恨みかよ。みっともねぇ」

 

 女の怒声を、海藤が呆れたように頭を振った。

 

「黙れ!!!」

 

 その反応に女は一発で激昂し、銃口の先を一夏(かずと)から海藤に向け、即座に引き金を引いた。ドゥンッ! と空気を震わせる重い響きが木霊する。

 ――その時には、一夏(かずと)が動いていた。

 海藤を守るように、蒼の大楯を召喚。それでアサルトカノンの砲弾を防いでいた。爆発する弾頭を使っていたのか派手な煙が発生したものの、それが晴れた後に見えた二人の姿に怪我は一切見られない。

 

「許可されていない場での無断のISの使用、および民間人へ危害を加える行為はアラスカ条約違反だ。それも同じ罪を重ねている。加えて、立場上アンタ達を見過ごすわけにはいかない」

 

 そう言った後、彼は大楯から手を離した。しかしそれは落下する事なく宙に留まる。彼の周囲に数多の武器が出現し、彼はその中でも黒と翠の剣を手に取った。

 途端、眩くも優しい光が彼の肢体から迸り始める。

 視認出来るほどのSEが産生され、彼の体から溢れ出しているのだ。

 アレがISの単一仕様能力。

 

 そして、あの威容が――英雄と謳われた者。

 

「《BIA》特別顧問兼()()()()()()()()()()、桐ヶ谷和人! いざ参るッ!!!」

 

 名乗りの怒号を上げた彼は、光の奔流の帯を引いて脱獄犯の四人に突撃。

 

「あの時救えなかった子供が、あんなに立派になってるんだ。ここで負けてちゃ顔向け出来ないねぇ」

「こりゃあ俺らも気合入れ直さねぇとだ!」

「久しぶりに大暴れしやしょうぜ、兄貴!」

「おっしゃ、全力で行くぞッ!!!」

「「「応ッ!!!」」」

 

 何十人もの男を前に堂々と並んだ四人組が気勢を上げ、突貫。

 天と地、それぞれで戦いの火ぶたが切って落とされた瞬間を、私はバンの中から一歩離れた位置で見つめていた。

 

 

 






 ラストバトルっぽい掛け合いだけど黒幕突き止めてないんだよなぁ()

 ちなみにこの後、掲示板回後半にあった『IS封じ』などに繋がります

 杉浦らについては後付け設定になりますが、殺人冤罪とイジメ被害の過去のダブルパンチ、且つ酷い風評被害で有名だったなら、九十九課は売り込みも兼ねて調査してるんじゃないかなと妄想してました。イジメ自殺にエグいくらい関わったし

 あと『LOST JUDGMENT』の天沢は卒業後間違いなく八神か九十九の事務所に入ってるに違いない(願望)


・杉浦文也
 『横浜九十九課』の構成員
 『LOST JUDGMENT』の一件以来、イジメ関連の依頼が続いており、その一環で三、四年前に一夏周りの調査もしていた。当時は女権団や街ぐるみという規模のイジメ、更に依頼されている訳でもないので手出し出来ず、その間に一夏が誘拐される形で失踪。間に合わなかったかと無力感や後悔を覚えていた
 しかし《SAO事件》のボス戦放映以来、《クラウド・ブレイン事変》後にここぞとばかりに加害者達に証拠を見せ、自首させた
 自殺した訳でなく、むしろ調べたからこそ知っているどん底から這い上がった和人の姿に、内心感動している


・九十九誠一
 ジャッジシリーズのキャラ
 二作目でレギュラーメンバー化した男。『横浜九十九課』は二作目でのもう一つの拠点。エンジニアとして途轍もない技量を持っており、それを駆使して探偵業を営む
 八神が和人殺人冤罪関係で動いている事を知り、警察の動きからきな臭さを覚え、八神への協力のため杉浦を送り込んだ


・天沢鏡子
 『LOST JUDGMENT』のサブキャラ
 ミステリ大好き少女。それが高じて探偵業を高校を卒業後、九十九課の副所長として就職した
 座右の銘は『真の探偵であるならば事件が起きる前に解決すべし』
 和人殺人冤罪周りにきな臭さを感じ、八神に協力した方が良いと勘で判断した


・篠ノ之箒
 人質として狙われている少女
 束を操る駒として狙われており、現在和人、八神探偵事務所、横浜九十九課の他、束側の戦力が守護に回っている
 本来なら例のプログラムを出している政府の仕事だが、全くもって機能していない


 では、次話にてお会いしましょう


 いい加減仮想世界側に戻ります……



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