インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 今話は和人が未成年且つ14歳未満なのに逮捕となった経緯、既にメディアにカメラ映像が流されている理由についてが主です

 それなりに調べて描写してるので頭ごなしな否定は控えてネ

視点:直葉

字数:約八千

 ではどうぞ




幕間之物語:義姉編 ~仕掛ケラレタ陰謀~

 

 

二〇二五年八月二十一日、金曜日 午後四時半

東京都台東区御徒町、《ダイシー・カフェ》

 

 

 今日は朝から激動の連続だった。

 久しく感じる精神的疲労に息を吐きながら、あたしは卓上のジンジャーエールを口に含んだ。記憶にあるものよりも圧倒的にカラく感じる液体はシュワシュワと口内で弾け、あたしの味覚をこれでもかと刺激してきた。

 その弾けゆく泡沫があたかもあたしの疲労を吸い取り、飛ばしていっているような錯覚すら覚える。

 その味を堪能した後、あたしは対面に座る大人――《源田法律事務所》の弁護士二人に視線を向ける。

 片方は、撫で肩で、やや気弱さも垣間見える青年。名を《星野一生》。

 その隣に座るのは黒ぶちのメガネを掛け、髪を片口で揃えた女性。名を《星野さおり》。一生さんとは夫婦の関係で、二児の母だという。

 この二人は『歌舞伎町斬殺事件』の主犯として逮捕された義弟の弁護を、彼の義母にして自身の実母《桐ヶ谷翠》から依頼されている。母曰く、その弁護人の紹介も、更識家当主の少女にされたとの事だ。過去、難解な事件の弁護を請け負い、裏に潜む陰謀も含めて裁判を終えた実績があるらしい。

 その二人が目の前にいるのは、彼の関係者から人柄や被害者との関係などの聴取を行うためだ。

 二人の話によると、既に和人との接見は終わっており、学校に行っている昼前後の時間で《ユーミル》と《BIA》からも聞き取りを終えている。どちらも最高権力者が篠ノ之束博士だったから防犯カメラなどの確認も容易かったようだ。

 カメラ映像では、二十日はずっと宛がわれた部屋の中で過ごしている様子が映っていた。傍にはPCの前でウンウン唸りながらプログラミングを続ける七色の姿もあり、彼女の証言も聞けている。

 

 つまり、和人のアリバイは既に成立している訳だ。

 

 ――だが、警察側のストーリーは違う。

 

 今回はその事情説明も兼ねて話をする必要があるとして、弁護人達は話し合いの場を設けて欲しいと言ってきた。

 これに否を言う仲間はおらず、学校を終えてから《ダイシー・カフェ》まであたし達は直行した。店は店主の一存で貸し切りにされており、外の通りに面した大窓もブラインドが下ろされ、中の様子を窺えないようになっている。

 その店内にはあたしと木綿季(ユウキ)藍子(ラン)の更識家居候組をはじめ、明日奈(アスナ)里香(リズベット)珪子(シリカ)詩乃(シノン)琴音(フィリア)虹架(レイン)七色(セブン)(アルゴ)(サチ)啓太(ケイタ)哲樹(テツオ)大毅(ダッカー)(ササマル)など生還者学校に通う中でも特に関係しているメンバーが揃っていた。

 体こそないが、茅場と束が持ち込んだディスプレイにはキリカ、ユイ、ストレアの三姉妹の姿もある。

 学校関係者ではないが、和人と縁があるとして更識楯無、簪、布仏本音、クロエ、ラウラも店内の四隅であたし達を護衛しながら話を聞く体勢を取っている。

 更に大人組は実母・翠と実父・峰嵩、会社を早退してまで駆け付けた遼太郎(クライン)、話し合いの場として店を提供している店主アンドリューことエギル、天才と名高い茅場晶彦、篠ノ之束がいる。

 総勢三十人もの関係者が揃っていた。貸し切りの店内も、所狭しとばかりにぎゅうぎゅう詰めだ。

 

 それでも、寂しさが胸を去来する。

 

 ここにいる人達を集わせた中心人物が居ないから。

 人で溢れかえっている筈なのに、どこか伽藍(ガラン)としているように感じてしまう。

 それをどうにか呑み下そうとしていると、ここに人を集めた経緯を話し終えた弁護士の男性が、手元の捜査資料を一枚捲った。

 

「それで、ここからが警察側の主張ですが……篠ノ之博士から提供して頂いたカメラ映像などの証拠を前にしても、一貫して彼が犯人だと言い続けていて、釈放の目途が立っていません」

「えぇっ? でも、それっておかしいでしょ。明らかなアリバイの証拠、証言もあるのに」

 

 その言葉に、最初に噛みついたのは里香だった。いや、反応からするにただ驚いただけなのだろう。それでも彼女の顔は不服げに歪んでいた。

 他の面々も似たり寄ったりの表情を見せる中、口を開いたのはさおりさんだった。

 

「皆さん、既にメディアに例の防犯カメラの映像が報道されているのはご存じだと思います。本来であればその対応は異例な事。その異例さが、釈放の目途の立たない原因とも言えるのです」

「……どういう事ですか? 事件があったら、それが報道されるのは普通の事なんじゃ……」

「それは成年に達した場合の犯罪です。未成年では、14歳以上に限ります」

 

 悩むように、眉根を寄せながら珪子が問う。彼女の問いにさおりさんが答えた。

 

「本来14歳未満の少年は刑法第41条により罰せられません。つまり逮捕出来ないのですが、『刑罰法令』というものに触れた場合は検挙という形で身柄を拘束されます。これを定めているのは『児童福祉法』です。現在の桐ヶ谷君は、この法によって警察に身柄を拘束されている状態にあります」

 

 あまり法律を詳しく知らないあたし達にも理解できるよう、さおりさんは最初の最初から話してくれるようだった。その話に耳を傾ける中、彼女は更に法について話を続ける。

 

「警察が可能な逮捕時間は48時間と定められています。通常、この時間内に刑事手続きを終える必要があるのですが……それを主導するのは、警察なのです」

「つまり、逮捕した未成年の子に刑事的責任を負わせるべきか否かは、その段階では警察の一存という訳です。この時点で解放される場合は微罪処分という処分になります。微罪と言うように大抵は初犯、かつ万引きなどの軽い罪で、本人が深く反省している場合にのみ可能となる対応です」

 

 さおりさんに続き、一生さんが補足するように語った後、ただ……と彼は言葉を濁した。

 

「桐ヶ谷君が逮捕された容疑は『殺人』です。本来であれば48時間で足りないから捜査が必要と判断され、検察に引き渡された後、そこでも責任を負わせるかの要不要を問う時間があるのですが、罰金や禁固刑に処される類なので一気に家庭裁判所に送致されます」

「じゃあ……和人は、裁判に掛けられちゃうんですか?」

 

 一気に不安に駆られたのだろう。隣に座る紺色の少女が問いを投げると、一生さんは小さくではあるが、確かに首肯した。

 

「現在は検察が捜査をしている段階です。それが終わり次第、彼は『観護措置』として少年鑑別所に最低2週間、最長8週間収容されるでしょう。その後、少年審判という過程を経て、保護観察処分や更生施設への送致、不処分などの結論を出されると思われます」

 

 そこまで一生さんが言うと、それを引きつぐように今度はさおりさんが口を開いた。

 

「ですが、ここで矛盾する点が一つ。例のカメラ映像です」

「ふむ……どう矛盾するのだろうか」

「少年審判は原則非公開で行うもの。つまり、現時点では本来メディアに実名や事件、証拠となる映像の公開はしてはならないものなのです。たとえ、殺人という重罪であろうとも」

「それは、冤罪よ! 和人君はやってない!」

 

 さおりさんの最後の一言に激昂した七色が怒声を上げた。彼女は目の前で警察に押し入られ、彼が連れ去られていく様を見た唯一の人間だ。

 その時の怒りが再燃したかのような彼女に、さおりさんは、分かっています、と冷静に頷いた。

 

(わたくし)(ども)としても、彼が無実だと考えています」

「七色、落ち着いて。この人たちは敵じゃないから」

「っ……ごめんなさい」

 

 怒鳴った相手の冷静な態度、そして姉からの窘めを受け、七色はすぐに静かになった。肩を落として気落ちする彼女に集まっていた視線は、再び弁護士達に集約する。

 

「話を戻しますが……警察側が行っている事は、本来してはいけない事。しかしそれをしているという事は、逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……とも考えられます。つまり警察側は、刑事事件の裁判をすることを前提とした対応を取っているのです」

「これが先ほど申し上げた『釈放の目途が立っていない』理由です」

 

 そこで、漸く話の始まりに戻った事に気付いたあたし達は、言葉を喪って黙り込んだ。

 今回の一件には何がなんでも和人を裁判で裁こうという意図があるとあたし達は考えていた。しかし、それを仕組んでいるのが所謂国家権力だとは、流石に予想の上をいっていた。

 国家権力――それは三権分立で分散されたものだが、弁護士達の話を真実とするなら、少なくとも政治的意図により司法が誘導されているという事になる。

 本来、司法とは(まつりごと)に左右されない中立公正なもの。司法を利用する事などあってはならない。

 だというのに、実際に起きようとしている。

 

 それに怒りも湧くが――それ以上に、無力感と脱力感に苛まれていた。

 

 彼は日本のため、ひいては世界の未来のため身を粉にして戦っている。鷹崎元帥らなど権力のある者達との繋がりもある。だからこそ、第二回モンド・グロッソの時のように、政府が彼を犠牲にするような事は起こらないと考えていた。

 なのに……なのに、また政府は、彼を切り捨てようというのか。

 彼にとっての敵――この場合は政敵――は、恐らく反フルダイブ技術派だ。和人によって茅場は守られ、復権し、SA:Oの開発に参加できたとも言える。その和人の立場が危うくなればVRMMOの未来もまた危うい。『あの技術は人を狂わせる』という廃絶にうってつけな大義名分を与えてしまうからだ。

 彼は政治家ではない。

 だが、国の文化に深く関わった結果、政治にも関わった。だからこそ今回は嵌められた。

 

「……和人……」

 

 小さく名を呟いたあたしは、強く歯噛みし、拳を握り締めた。

 あたしに出来る事は、ただ敵を斬ることだけだ。腕っぷしなら自信はある。だが今回は……

 

「あの……では、和人の無実証明は、難しいのでしょうか」

 

 そう諦念と共に無力感を噛み締めていると、母の声が耳朶を打った。恐る恐る問いかける様は、普段テレワークで社員と話す毅然とした姿とはかけ離れた弱々しさだ。

 ……恐らく、今のあたしもあんな感じだろう。

 そんな事を考えながら、胡乱な気分で弁護士達に眼を向ける。

 すると二人は同時に首を横に振った。

 

「法は”疑わしきは罰せず”です。本当に無実か否か、それを確かめるのが法廷。容疑者として彼は逮捕されてしまいましたが、無実の証明は今回の件、十分可能です」

「へぇ、随分自信ありげに言うね? 何か根拠でもあるの?」

 

 一生さんの強い言葉を聞いて、束博士が挑発的に問いかけた。苛立ち混じりのそれは状況に対してか、警察に対してか、それ以外か。

 

「ありますよ。そのためには、証言台に篠ノ之博士も来ていただく必要があります」

 

 彼女の強い視線を受け止めた一生さんは、それでもたじろぐ事なく応じた。

 

「束さんが? アリバイの証言なら、こっちのガキで十分でしょ」

「あたしの名前は七色よ! いい加減覚えてよね!」

「うっさいなぁ……そんな事言うなら、束さんみたいにナイスバディになってからにしなよ」

「むっかー! 言ったわね?! 見てなさい、お姉ちゃんもスタイル良いんだし、あたしだって抜群の美人になるんだから!」

「な、七色、恥ずかしいからやめてよ……」

 

 天才科学者と言われる女性二人はどうやら相性が悪いらしい。すぐに言い合いになり、思わぬ飛び火を受けた虹架が顔を真っ赤にしながら止めた。

 その様子を見守っていた一生さんが、喧嘩が済んだのを見て、話を再開する。

 

「桐ヶ谷君からの指名です。篠ノ之博士なら、警察が主張してる容疑内容に明確に否を返せるだろう、と」

「……どういう事? というか、そういえば警察の容疑内容って何さ」

「犯行ロジック、要するにストーリーですね。警察は、被害者の殺害に際し、桐ヶ谷君はアバターを遠隔操作していたと考えているんです」

 

 順を追って話します、と一生さんが手元の資料を捲り始めた。それが止まると同時、また話が再開する。

 

「えっと、桐ヶ谷君のアリバイ証拠によると、8月20日午後5時5分にログアウトし、七色女史と食事。入浴も済ませ、PCで共同研究の課題もして、再ログインしたのが7時22分。以降は警察が押し入ってくるまでずっとSA:Oをプレイしていました」

 

 そこで一度言葉が止まり、パラリと一枚ページが捲られる。

 

「対して、被害者の馬場満氏は午後6時頃に歌舞伎町内の支社を退社。ファミリーレストランで食事を済ませ、退店が午後7時13分。そのあと住み込んでいるマンションのカメラに映り、殺害されたのが午後7時30分です」

「殺害される数分前に桐ヶ谷君はフルダイブしているので殺害不可能。それがこちらの主張ですが、警察側は、アミュスフィアでフルダイブした時、遠隔に出現させたアバターを操作していたと言っています」

「いや、でもSA:Oのログが残ってるじゃん。警察、馬鹿なの?」

 

 サラッと博士が毒を吐く。流石に弁護士達も頬をひきつらせたが、曖昧な笑みでお茶を濁し、話を続けていった。

 

「《クラウド・ブレイン事変》の折、彼は複数のアバターを同時に操作していたそうですね。それと同じ事をしたのではないかと疑われているのです」

「……ああ、なるほど。そういう事ね」

 

 一生さんの話に納得の声を上げたのは七色だった。聡明な頭脳で何かに気付いたらしい彼女は、したり顔であたし達に話し始めた。

 

「和人君が篠ノ之博士に証言を頼みたいのは技術的な部分って事よ。ALOでの複数アバターの操作は、ALOにログインしているから出来た事。ALOやSA:Oにログインしながらリアル側のアバターも動かすというのがなぜ不可能なのか、そこを法廷で証言して欲しいって事ね」

 

 そこまで言われれば、彼が求めている事も理解できた。

 フルダイブというのは脳の信号のやり取りだ。フルダイブハードとの間で送受信される信号は、脳幹延髄部で遮断され、代わりに仮想空間のアバターに反映させている。つまり一人の人間が動かせるアバターは原則一つ。

 それを破ったのがキリトと、闇魔法と幻影魔法を極めた末に習得する分身魔法だ。

 分身魔法は手数を増やすには良いが、それらを操作するのは至難の業。本来なら右手と左手で別々の動きをするように、分身と自身合わせて二体操作が限度なのを、彼は人格分裂時の影響か何十体も操作出来た。マトモな戦いを演じるなら13体が最大とも聞いている。束博士曰く、人格分裂時の脳の機能が人格毎に割かれており、《ⅩⅢ》を使っていた影響もあって可能になったとの事だ。

 しかしそれを知っているのはあたし達のみ。原理までいくと、博士しか知り得ない事も多い。

 更に現実のアバターの話になるとISも絡んでくるため、余計束博士の証言が欲しいという訳だ。

 フルダイブハードを使って無人機ISを操作する事自体は可能。だが、それをVRMMOと並行して行う事がなぜ無理なのか、それを語れるのは彼女しかいないという訳だ。

 ――ぶっちゃけて言えば茅場と七色でもいいだろうが、二人の立場は和人あってのもののため、現状説得力の度合いで言えば束に劣る。

 そこを加味し、和人は彼女を指名したのだろう。

 それほど頼りにされている天才科学者は、しかし乗り気でないのか、腕を組んで頻りに首を捻っていた。

 

「束さん、凡人にも理解できるように説明するのすっごく苦手なんだけど。大体フルダイブ関連ならかー君の方が適任でしょ」

「アバターという事は【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】の事だろう。アレはIS技術の方がメインなのだから、君が技術的な解説をする方がいいと思うが」

「むー……凡人に合わせるのは束さんには厳しいんだって……」

「和人君のためよ。というか、わざわざ指名されてるんだからそれに応えてあげないと女が廃るわよ?」

「……うっさいなぁクソガキ」

 

 ジロリと束が七色を睨む。しかし天才少女はむしろ挑発するように鼻を鳴らし、胸を張った。

 そんな彼女を睨み続けた束は、少しして諦めたように分かった、と答えを返す。

 

「和君の頼みだし、証言台に立つよ」

「助かります」

「良かった……これで一歩、無実の証明に近付きますよ!」

 

 彼女の答えに、さおりさんが薄く微笑み、一生さんが喜びを露わにする。その反応を見ると、本当に和人の無実を信じてくれているんだなと思えた。

 あたしはあまり真っ当な大人を見てきていないが――この二人は、信じられそうだ。

 

「あの……実はもう一つ、和人君からの伝言があるんです。こちらは篠ノ之博士だけでなく、皆さんに」

 

 そう思っていると、さおりさんが大きく話を変えてきた。証言台には呼ばれないと思っていたあたし達は揃って眼を向ける。

 

「伝えますね……『二つの世界の亡霊達に気を付けて』、との事です」

「僕達にはそれが何を指しているかまでは分かりません。ただ彼は、伝えればきっとみんなは気付く、と……」

「二つの、世界……」

「亡霊たち……?」

 

 その伝言に、あたし達は顔を見合わせながら首を捻った。

 『二つの世界』。それが現実世界と仮想世界、あるいはALOとSA:Oを指しているのだとは理解できる。彼は何れも守るために剣を取っていた。

 だが、『亡霊達』とは何なのか。

 真っ先に思い当たるのは《亡国機業(ファントム・タスク)》という敵組織。彼らが裏で暗躍し、彼を嵌めたという考えはすぐに思い至った。

 であれば『二つの世界』の片方は仮想世界。そちらの亡霊となると、これがあまり思い当たらない。

 彼が忠告してくる程なら何か確信がある筈だ。具体的に言わなかったのは気になるが、彼も自身を嵌めたのが警察を従わせる国家権力だと気付き、弁護士となら秘密を守られる接見でも敢えて暈したのだと思われる。

 誰でも気付ける単語に何かを含ませた。それがあたし達なら気付けるものだと彼は信じた。

 ならあたし達の知る何かという事。

 

 ――そこで、ブーッ、ブーッ、と振動音が上がった。

 

 その方向は店の出口付近に控えていた更識楯無だった。

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと電話出てくるわ」

 

 携帯端末を取り出した彼女がそそくさと店を出ていくのを見送って、あたし達は再び疑問に頭を悩ませ始めた。

 だが、それは再び妨害される事になる。

 電話を終えた楯無が慌てた様子で戻ってきたからだ。

 

「ちょ、ちょっとみんな聞いて!」

「お姉ちゃん、そんなに慌ててどうしたの……?」

「たったいま連絡があったの――」

 

 

 

「拘置所から須郷信之が消えたわ!!!」

 

 

 

「「「「「はぁ?!」」」」」

 

 

 

 裁判中のため拘置所に拘留されている男・須郷信之。あの男を攫おうとした襲撃が第三回モンド・グロッソ中に一度あり、以降は警備が厳重になったと聞いていた。

 それなのにあの男はいつの間にか拘置所から姿が消えていたらしい。

 襲撃らしい襲撃もなく、ただ忽然と。

 タイミングから考えて例の殺人、和人の逮捕と何らかの関係があるのは間違いない。

 これを和人が予期していたのだとすれば――――

 

「――まさか、亡霊っていうのは……和人が敵対した人達の事……?」

 

 和人が対峙し、下してきた敵。

 これまで別々に襲ってきたそれらが、彼を疎ましく思う勢力と手を組んだ――そう思い至ったあたし達は、あまりの事態に絶句した。

 

 






 たくさんキャラが居ても会話が無いのは、ゆるして() 『その場にいる』という事実の方が重要だから……


・星野夫妻
 『ジャッジアイズ』でカップルになった二人が本作では夫婦というオリ要素
 矢鱈警視庁、捜査の事情に詳しいのは裏で『とある歌舞伎町探偵』と『とある汚職刑事』が動いているという裏話


・敵勢力
 東京都警視庁を操る反VR派国家権力(政敵)
 《亡国機業》
 須郷信之含む過去和人が下した敵


・桐ヶ谷和人
 嵌められて留置所にいる主人公
 和人自身は政治家ではないが、VR関連に於いて並みの政治家以上の存在感があるため失脚のため嵌められた
 現時点で大体敵の思惑を把握しているのは例のカメラ映像のメッセージに気付いているから


・和人の仲間、保護者勢
 和人の無実を信じている
 原理的に『SA:Oプレイしながらリアルのアバターを動かす』のが出来ないと知っているのであり得ないと分かっている(一台のPS4でゲームを2つ同時に起動する、とかいう無茶ぶりと同じ)
 それの解説のため篠ノ之束が証言台に立つ事になった


・須郷がいた拘置所
 裁判中の者達が放り込まれている
 数週間から数か月、裁判によっては年単位で拘留されるため、和人がリアルで下した敵の殆どがここに拘留されていた
 須郷の他に学園襲撃の主犯、摘発されたトランスプレイヤー達もいる


・和人逮捕のウラ
 最初から刑事裁判にする事前提に仕組まれたもの
 無罪判決が出ても構わないほどガバガバな逮捕。重要なのはそれ以外――和人が身動き取れなくなる期間と風評被害
 和人の最大の敵は、今も昔も風評である


 では、次話にてお会いしましょう


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