インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
リアル側のダイジェスト説明だゾ。幕間にしたのは、アリスの問題や他のとごっちゃごちゃになると解り辛いからだゾ
視点:キリト
字数:約五千
ではどうぞ
どこかから水の滴る音が時折聞こえてくるほど、洞窟の中は静寂に包まれていた。
かつては祭壇への道を守る門番モンスターがいたこの広場も、その門番が倒されてからはもぬけの殻となっており、俺とアリスはそれを良い事に休息を取っている。
いや――厳密には、取らざるを得なかった、か。
経緯は不明だが、アリスが激しい頭痛に見舞われ、気絶してしまったからだった。今は長座で座る俺の脚を枕代わりに眠りについている。
本当は街の宿で寝かせる方がいいのだろうが、彼女の剣、鎧の何れも俺に運べるほど軽いものではなく、背に負って運ぶのは論外。またアリスはシステムの判定を正しく受けていないので転移結晶などを使うのも無意味。
既に聖石は手に入れた後なのでこの地を後にする事を優先し、ヴァベルを頼るのも手ではあるが――折悪く、ヴァベルにはリアル側の頼み事に動いてもらっていた。
「ヴァベル……未来、か」
ヴァベルは遥か未来と無窮の時を生きた人工知能。その基本スペックは現状のユイやストレアらを遥かに上回っており、現代の研究者がどれほど試行錯誤を重ねようと彼女のレベルには達しない。それほど隔絶した演算能力を持っているからこそ彼女は時空を超えられた。
その目的は、俺が未来を生き、幸せを掴む事。
そのためであればヴァベルは事の善悪を抜きに協力してくれる。その果てに、俺が求めるものがあると信じているからだ。
そして、俺はその信用を利用している。
ヴァベルに頼んだ事はユイ達には任せたくない事が主。ユイ達が日夜行っているネットサーフィン――もとい情報収集は、サーフェイス・ウェブなど誰でも閲覧できる部分が主で、パスワードなどで閲覧制限を掛けられたディープ・ウェブは少ないと聞く。無論、これらは自己申告なので実際の所は不明だが……
そんな彼女らに入らないよう制限を掛けているのが、ダーク・ウェブサイト。特定のソフトウェアや認証などが必要となる、匿名性と事件性、犯罪性の高いインターネットの闇の部分である。
その存在を俺が初めて知ったのはIS学園襲撃事件の後。
《亡国機業》を明確に敵と認識し、その情報を話し合っている最中、楯無達との会話の中でその存在を知った。
裏で武器やISを横流ししたり、暗殺の依頼を出したりと、そういう話はダーク・ウェブでも枚挙に暇が無いらしい。それらの中から《亡国機業》らしき痕跡は辿れないかとか、そういう話だった気がする。
結局その案は、事件性のある内容が多過ぎて話にならないと政府役人が斬り捨て、それにほとんどの人が同調した事で、却下されていた。
――だが、俺はその裏で動いていた。
SAOから生還後、ヴァベルは【無銘】の人格プログラムになっており、ネット回線を通じてVRワールドにも顔を出す存在だった。それで何をするかと言えば、只管俺を見守るだけ。だからスヴァルトエリア攻略時に俺の《
あの事変が終わるとほぼ間を置かず学園が襲撃された訳だが、そこでダーク・ウェブの存在を知った俺は、【無銘】を使わない間は殆どヴァベルにダーク・ウェブの巡回を頼んだ。あれだけの人数が非合法な目的で集まるとすればそこしかないと考え、以降の対策を立てようとしたのだ。
しかし、所詮は素人考えと言うべきか、今までその対策で事が起きる前に気付けた試しは無い。
普通は組織だって分担して行うべき事だ。何を追うか、誰を対象にするかと決め、人海戦術で情報を集める。それをヴァベルのオーバースペック頼りの手あたり次第に行ってきた。引っ掛からなくて当然だ。
《電子ドラッグ》の件もそう。
アレの売人はやはり呼び込みを掛けていた。
ただし、最初は普通にサーフェイス・ウェブで人を集め、選りすぐった者にだけ《電子ドラッグ》の存在を仄めかし、口コミでダーク・ウェブへと誘い、商談を成立させるという手口だ。
ダーク・ウェブでの取引ではあるが、見かけ上はただのデータの交換。
《SA:O》との関与を疑うにはあまりに巧妙に偽装工作されていたからヴァベルもスルーしていた。当然、俺自身はダーク・ウェブそのものにアクセスした事ないから、スルーしていた事実に気付かない。最初からその人物をマークし、やり取りしているのを見てプロテクトも破る気でいなければわかる筈も無かった。
とは言え、その分はある程度取り返しているから気にする程でもない。
ダーク・ウェブ巡回の目的はあくまで《亡国機業》の情報収集。俺に関わりがあるとして気に掛けていた《SA:O》で見過ごしがあっても、本来の目的から逸脱している訳ではない。
そもそもダーク・ウェブから情報を得るというのもただの保険。その保険が不要なくらい、こちらの手勢の態勢が整っていればいい。
相手の策を、策ごと圧し潰せるようになればいいのだ。
――それで言えば、モンド・グロッソは成功と言える。
第三回モンド・グロッソ。
それは鷹崎元帥をはじめ、大前提として織斑千冬による三連覇が土台となっており、ここから日本の新たな国造りが始まると言っていい。
無論その狙いは他国とて予想出来ている筈で、その妨げとして《亡国機業》の襲撃があると思い、網を張っていた。つまり俺が須郷関連に思い至る前はかなり曖昧な憶測で動いていた事になる。
俺が総指揮を取り始めてからは、須郷が収監されている場所、回収されたナーヴギアの保管場所の他、各選手の居場所、摘発された電子ドラッグ利用者達の居場所の警備強化を行った。つまり他国は、織斑千冬の優勝妨害を諦め、次善の策――何かしらのメリットを手に入れようとすると考えたのだ。
結果、その予想は当たった。
まず須郷信之。
この男に関しては、決勝戦の最中に脱獄した。おそらく警備兵か看守のどちらかが手引きしたのだろう。しかし警備強化は更識家の手勢でこっそり行っており、そこにヴァフスも俺が派遣していたので、脱走した須郷は敢えなくお縄に就いた。
その後、秋十にしたように《STL》で記憶を読み取り、尋問も重ねて情報を手に入れたため、内通者は炙り出し済みだ。
その須郷は更に警備の厳重な獄に入れられたと聞く。
ちなみに、当時現場にいたヴァフスによれば、相当俺の事を怨んでいるらしい。
次にナーヴギアについて。
こちらには何も問題が起きなかったという。来るとすれば須郷誘拐に失敗した後かなと思っていたが、それすら無かった辺り、読まれていると警戒して身を引いた可能性がある。
他、各国選手やトランスプレイヤー達に関しては、彼らが姿を消す場合はイコール須郷の研究を使える状態にあるという事なので、須郷とナーヴギアを守り切ればまず問題にならないと考えていた。そしてその通りになったため、彼らにこれといった問題は起きていない。
そうして《第三回モンド・グロッソ》の水面下で起きていた戦いは、こちらの勝利として幕を閉じた。
ニュースは大々的にモンド・グロッソの日本三連覇を取り上げている中、須郷の脱獄事件は失敗に終わった事もあって話題性に欠けたのか、ほんの少しお茶の間に流れた程度だった。『脱獄をほう助した人がいた、二人とも捕まった』で終わりの内容を殊更深堀りしようとする勢力は多くない。
反VR派はこれを機に、『VRは人をおかしくする』『誇大妄想に憑りつかれ易い』という主張を声高に上げているが、それは殆ど無視されているらしい。
ともあれ、須郷脱獄を手引きするべく潜り込んでいた内通者からの情報も得た《BIA》は、その詳細を伏せ、非公式に動いている。その人員として動いているのは千冬とマドカ、クロエとラウラ、ヴァフスとオルタの六人だ。ヴァフス達は認めている相手の命にしか動かないが、今のところ俺が離れていても問題を起こした事は無いので動員されていた。
俺が省かれているのはやはり保険のため。
わざわざ足がつく人を介した手引き。おびき出すための罠と考え、こちらに戦力を残しておくのも策の一つ。ただでさえ留置所や刑務所などにも内通者がいると分かったから警戒はして然るべきと言えよう。
……個人的には大会三連覇を果たした織斑千冬は日本に残り、各メディアやパーティーなどに顔を出したりIS学園で仕事をするなどして他の注意を引いた方がいいと思うが。
「ふぅ、気苦労が絶えないな……」
「ぅ、ん……」
ため息を吐くと、そのタイミングでアリスが小さく呻いた。目を覚ましたかと思って見守っていると、彼女は爪先側にごろりと寝返りを打つだけだった。
ほんの少し気を張った俺は、また静かに寝息を上げ始めた姿を見てゆっくりと息を吐きだした。
金髪の髪を梳くようにしながら頭を撫でる。
顔は見えないが、呼吸は落ち着いている。安らかに眠れているようだ。
「……こうしていると、とても天界の騎士とは思えないな」
眠る背を見ながら小さく呟く。
彼女の世界の話は、リーファやユウキを筆頭に対話した面々から纏めて聞かされており、俺もアリスの世界の社会や知識を得てしまっている。これが未来でどんな影響を及ぼすか分からないのでちょっと怖くはあるが、後の祭りなので既に匙を投げている。
その知識の中では、整合騎士とは公理教会を統べる最高司祭が召喚の儀式を行い、創世神ステイシアに遣わされた天界の騎士達の事を指している。
天界での記憶は下界での生活に支障があるとして創世神によって封じられており、誰もが召喚されて以降の記憶しか持たない。しかしながら、その剣と神聖術の冴えは本物で、人界に於いて整合騎士に比する者はだれ一人存在しない――いや、しなかった。禁忌を犯した《キリト》を除いて。
そして、その《キリト》に転移術を込められた短剣を刺されて、アリスは異界に迷い込んだ。
「秋十。ヴァベル。そしてアリス。異界からの来訪者が既に三人。誰もかれもが俺と浅からぬ因縁持ち……果たしてこれは偶然か?」
俺の脚を枕に眠るアリスの頭を撫でながら、俺は独り言ちた。
ただの偶然かもしれないのに意味を持たせようとするのは人間の悪いところなのだろう。俺は、アリスがこの世界に迷い込んだ事が、ただの偶然とは思えなくなっていた。
あらゆる世界の時間を、一つ前よりもほんのわずかに早い段階で遡る事で、時を遡った自身との接触を回避していたヴァベルは、その執念一つで己の未来を切り開いてきた。後ろ向きだったかもしれないが、時を越える決断そのものは未来のユイ自身を変えたのだ。
秋十に関しては――おそらく、俺が今いる『
ならば、アリスは?
アリスは罪を犯した《キリト》を連行した。カセドラルという塔の八十階で斬り結んだ――それくらいの因縁しかない筈だ。
それだけでこちらに迷い込むだろうか。
”あちらのキリト”が、時を越え、こちらに連れてくる術式を編んでいたとすれば話は別だが、今ある世界が崩壊する恐れがあるその手段を講じるかは甚だ疑問だ。何もかも自棄になっていればそんな回りくどい事をせずアリスをはじめ全てを惨殺するに違いない。だから逆説的に、アリスが世界を超え、更には時を越えているのは意図したものでないと言える。
そして、分かるのはここまでだ。
仮にこちらに迷い込む原因や共通項が分かったとしても、あちらが勝手にやってくる以上、こちらが出来る事はほぼ無い。
異界に住まう者は早々にお帰り願う事が最前の対応だろう。
「はぁ……流れに身を任せるというのは、あまり好きじゃないんだがなぁ」
重く息を吐く。
アリスはまだ、目覚めそうになかった。
アリス視点を先にしたのは、特筆すべき問題が大事になっていないからでした。未然に防げてないけど被害は軽微だから問題ないよネ!
・キリト
主人公
まだ神器は持ち上げられない。現状、傍付き練士時代のロニエらより非力
割と裏でコソコソしていたが、何だかんだ素人知識で動いてるせいで的確とは言い難かったりする
楯無達に頼んでいないのはまだキリトが更識家を完全に信用出来ていないため
ちなみに公安(日本の情報機関)と組むと、更識との協力体制も築き、束博士もいて、ユイやヴァベルらの協力で一気に世界最強クラスの諜報組織を作れてしまえる
・ペルソナ・ヴァベル
超スペックな未来のユイ
普段は【無銘】コアとダーク・ウェブを行き来している
キリト以外の全てに絶望し、不信を抱いているため、キリト以外の言う事は絶対聞かない。そんな自身と真逆の道を行くキリトを案じ、行く末を見守っている
スヴァルト攻略以後、あまり出番が無かったのは裏でダーク・ウェブを巡回していたから。しかし手あたり次第に探っていた上に『事件になりそうなもの』『《亡国機業》に関係しそうなもの』とかなり曖昧なフィルターだったので、電子ドラッグの件は普通に見逃していた
・アリス・シンセシス・サーティ
黄金の眠り姫
キリトの脚を枕にすやすや眠っている。顔色はあまり良くないが、安心はしている模様
・ヴァフス&オルタ
闘争を好むトップダウン型AI
霜巨人の将軍&王コンビ
今回は現実世界でキリトの指示に従い、荒事を中心に活動していた。
普段は別の目的で動いているので人前にあまり姿を見せない
・須郷脱獄を企てた勢力
《亡国機業》かは明言されていない
少なくとも例の洗脳技術を欲していたのは確かであり、須郷脱獄を企てたが、直前で気付いたキリトの急激な警備再編成で対応できず、失敗した
このあと世界最強含むチームで襲撃され、壊滅させられている
・須郷信之
セリフ、描写もなく捕まった人
何らかの組織の手引きで脱獄したが、寸でで気付いたキリトの警備強化ですぐ捕まった
キリトの目の前でユウキを洗脳していなければ抜け道はあったかもしれない
・ナーヴギア
SAO事件後、回収されたもの
今回は狙われなかったが、須郷脱獄を阻止した時点で手を引いた可能性もある
菊岡とキリトが密接に関与し、回収されたナーヴギアの現在を知らなければ、盗まれていた可能性はある
そもそも何故廃棄処分したり、分解して部品だけリサイクルしたりしないのか
ちなみに後作の『フェイタル・バレット』だと本当に数台盗まれる(日本政府ェ……)
では、次話にてお会いしましょう