インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
本エピソードの主軸はSA:Oなんでね。リアル側はスキップ&ダイジェスト!
封印破る前のアリスはとにかくツンケンしてるイメージ。印象悪そうだけど、彼女も手探りだから大目に見てネ
視点:アリス(初!)
字数:約九千
ではどうぞ
ホームを購入し、翌日月曜から《リズベット武具店》と銘打たれた看板の下には、多数の冒険者が駆け付けている。鍛冶師兼店主リズベットの鍛冶の技量はそこらの者より数段高く、彼女に剣を鍛えてもらうなり、研いでもらうなりで得られる恩恵が大きいかららしい。
私からすれば、剣の面倒は極力自分で見るべきだと思う。
剣は使えば天命を削る。そのため入念な手入れを施し、鞘に納めて神聖力を蓄える事で、その存在を半永久のものとしていた。
金木犀の剣は《永劫不朽》の属性により物理的攻撃に対して高い耐性を誇り、刃を交える過程でその天命を削り切られる事はほぼ無い。神聖術による攻撃はモノによるがよっぽど威力が高いと大きく削られるだろう。元が樹木なだけに、この子は炎に弱いから。
それほどの強敵は、同じ騎士団内でも数えられる程度しかいない。
まして刃を真っ向から交えられるのは我が師である騎士長だけだった。
――だからこそ、後れを取ったのかもしれない。
人を殺めるという禁忌を犯し、連行した銀髪金瞳の幼い修剣士――キリト。あの者の異様さに引っかかるものがあり、己の弟子に脱獄を警戒して付近に待機させたが、彼は神器なしの状態で神器を使った弟子を破った。
一夜明けてからは不遜にも人界の中心であり、教会の威厳の象徴たる百階層の塔《セントラル・カセドラル》に踏み入り、数々の騎士を真っ向から打ち破ってみせた。副騎士長をはじめ、百年以上を生きる一桁台の騎士が複数敗れた報は私も聞いていた。
その咎人と対峙したのはカセドラル八十階《雲上庭園》。
なだらかの丘とそれを取り巻く小川、天井は外からの陽光をたっぷり取り入れる構造のそこで、剣を樹木にして日光浴させていた私と彼が出会った。
『――そこまでです。これ以上先に進むと言うならば、私はお前を斬らなければなりません』
『覚悟の上だ。アインクラッド流の剣士キリト、騎士アリス殿に尋常なる剣の勝負を申し込む』
『……いいでしょう』
その時の私に、侮りが無かったといえば嘘だろう。
整合騎士は得意不得意はあれど、剣も神聖術も一定以上の技量を持つ者だ。私は剣の面で特に優れていたらしく、まともに打ち合えたのは騎士長のみ。つまり、副騎士長と真っ向から斬り結んだ事はない。それは副騎士長も勝敗に拘る性格でないのに起因しているだろう。
ともあれ、その自信があった私は、素直に咎人キリトと刃を交えた。
同時に踏み込み、左薙ぎであちらの上段振り下ろしを弾く。
生じた隙に、再度習った通りの左薙ぎを放ち、上に跳ね上げられる。
跳ね上げられた剣を振り下ろし、同時に振り下ろされたあちらの剣と競り合い、押し勝つ――いや、押し勝たせられた。
後退したキリトを追うべく踏み出したその瞬間、軸足の膝に回し蹴りを入れられ、体勢が崩れた。その私に覆いかぶさり、咎人は躊躇なく懐に忍ばせていた短剣を胸元に突き立てた……
短剣に転移術が込められていなければその一撃で絶命しただろう。最後に一矢報いようと全力で剣の記憶解放術を行使した可能性はあるが、どう足掻いても相打ちにしかならなかった。
アレが『尋常な剣の勝負』と言えるかは微妙なところだが……
おそらく、剣だけを使わせるためにああ言ったのだろう。それにまんまと掛かり、唐突な体術、忍ばせた短剣で刺す暗殺術の連続で仕留められた訳だ。
経緯はどうあれ、負けは負け。
私は己に不甲斐なさを感じていた。
この恥辱を
そう考えた私は、この無限に広がる大地《アイングラウンド》の案内をしてもらっていた。ここが咎人キリトを育て、強くした地であれば、それを知る事で奴の力の源を知り、対策を立てられると考えたからだ。
無論、それだけはない。プレミア、ティアの話を掻い摘んで教えられた限り、彼女達はかなり困った状況にあり、彼女達を取り巻く問題解決のために《聖石》を集めていると聞いた。最悪の場合は多くの冒険者や街の者達が危険に晒される――その可能性があると聞いた以上、手伝わない選択肢は存在しない。
「――そこで敢えて俺を選ぶところが強かだよな、アリス」
その経緯を知り、名指しで同行を希望すると、相手が呆れたように言葉を返してきた。
銀髪金瞳の剣士。
後に、私と出会い、刃を交える咎人の過去の姿だ。
彼の呆れたような問いかけに、ベンチに座って待っていた私は立ち上がり、華奢な彼を見下ろしながら言った。
「何か問題でも?」
「普通イヤだろう? リズ達と仲良くなったみたいだし、素材集めついでに色々聞けばいいだろうに」
「それはもうしました。その上での判断です」
そう返した私は、見上げてくる金の瞳をまっすぐ見る。
「この数日でリズベット達に聞きました。現状、この『裏世界』を深く知る最強の剣士はお前だと。であれば、お前の近くにいればお前の技を見る事が出来る。元の世界に帰った時、未来のお前を確実に捕縛する事に繋がる訳です」
つまり大義のために私情は捨てた訳だ。
――忸怩たる想いが無い訳ではない。
リズベットやユウキ、アスナ達などから聞いた限り、彼は敢えて人を敵に回す言動を取り、決定的に袂を別った相手を殺め、抑止力となる事で浮遊城の秩序を構築したという。殺める事になった者達は何れも殺人に対し快楽・喜悦を抱く危険人物で、それらを捕縛する際、アスナ達側に被害が出ないようキリトが先手を打ち相手の首領、幹部を殺害していなければ、末端だけを捕らえるとしても味方の犠牲者は出ていたとも聞いた。
彼は、守るために人を殺めると言った。
確かに彼は人を殺めているが、同時に仲間を守ってもいる。彼がしなければ仲間の誰かが死んでいたのは確実――長らく彼を見てきた者が言うのであれば間違いはないのだろう。
キリトは悪だ。その行いは、非難されて然るべきである。
結局その浮遊城での出来事は不問になったが、それより前と後でも彼は人を殺めた。それらの罪があるが、世界はそれを看過していた。
正当防衛だから。
誰かがすべきだった事を、彼が担っただけだから。
リズベット達が学生として勉学に励み、生きる『表世界』は、そうしてキリトを見逃している。その代償としてか、リズベット達にとって泡沫の夢の如き『裏世界』――つまりこちら側でも、問題への対処として動き回る。
――この世界は、何なのか。
――お前はいったい何者なのか。
疑問は尽きない。
だからこそ、『裏世界』で暴れ、問題を起こす者が後を絶たないのだと。
『キリト君は、その被害者なの』
『被害者……?』
『うん。私達の世界の歪なところを一手に引き受けてた。そのせいで、凄く不器用な子になっちゃった。彼の行いはほとんどの人からすれば悪事に見えると思うけど……それは、彼が汚名を被ってでも、誰かを助けた証拠でもある。キリト君だって好き好んで罪を背負う訳じゃないからね。背負った分だけ苦しんで……それを承知の上で、背負いに行く子なの』
『……つまりキリトの行いには、表の動機と、裏の隠された真の目的がある……?』
『ふふ、もう隠されても無いけどね。キリト君が誰かを傷付ける時、それは『怨みを晴らす事』が目的じゃない。彼の真の目的はずっと同じ……誰かを、大切な人を助ける事なんだよ』
しみじみと、アスナは語った。二年以上に渡る交流がそれだけの確信を抱かせているらしかった。
『だからアリスさん、まっすぐな目で見てあげて。彼は鏡と同じ。アリスさんがまっすぐ見てあげれば、彼もまっすぐ見返してくれる。昔と違って、今のキリト君ならアリスさんをすぐ認めてくれるよ、きっと』
『……昔は、どうだったのです?』
『信用されるまで一年以上掛かったね。当時は人間不信が物凄かったから』
『そ、そうですか』
遠い眼をして、乾いた笑みを浮かべる細剣使いにやや引きながら、私はその話に頷いた。
――兎にも角にも、私は彼の事を知る必要がある。
彼の周囲の人間から話は聞いた。異世界の関わりなどの理由は建前、自分で語るのが恥ずかしいだけと知ってからは、遠慮せずに彼の仲間達から聞いたものだ。
出てくる内容は正に千差万別だった。
必要悪としての表の顔。
希望を背負う裏の顔。
妖精郷とやらで暗躍していた時の事。
己の悪性を超克した時の事。
『表世界』での立場。
『裏世界』での立場。
……なるほど、と思う。
女尊男卑。それから来る、一方的な侮蔑と迫害。被害者というのも頷ける話だった。浮遊城に囚われてからの躍進は、恐怖の反転現象。
顔も知らぬ者のために剣を取り。
今は、限られた者の未来のために剣を取る。
善なる目的のために、不可欠な悪を敢えて背負う者。
『無くてはならない存在だよ、彼は』
それを、浮遊城の『裏世界』を作ったという男が、端的に纏めた。
『少なくともこちらの世界では不可欠だ。命を懸けているなら尚の事。《先導者》には、《汚れ役》が必要だからね』
『……何故です? 同じ組織、同じ規則の下で動く事を認めても、なぜ汚れ役などという身に甘んじる者が出てくるのですか』
『《先導者》は民衆への顔だ。そんな存在が、罪塗れの悪だと誰も付いて行かない。そうならないよう裏で動き、人知れず邪魔な存在を排除する存在が必要になった。秩序のための礎、誰にも知られず歴史の闇に消える存在……それが《汚れ役》さ。アインクラッドの例で言えば、救世主とも言える攻略組の不和を予防するために悪を演じた彼だ。全体のために必要だった役割に彼は自らなったのだ。そして秩序を乱す者達を捕らえ、抵抗する者達を殺める事もし始めた。そうしなければ、アインクラッドの秩序が崩壊していたからだ』
――やっている事は、君と同じだな。
鉄灰色の前髪を流れさせた男は、真鍮色の瞳で私を見て、そう言った。
『……誉れある我ら整合騎士を侮辱するつもりですか』
『表現の問題ではない。重要なのは、本質だよ』
私の苛立ちを、しかし司祭を思わせる男はさらりと受け流し、言葉を続けていく。
『君は、君の世界のキリト君を捕らえ、罰し、刃を交え殺す事を《正義》と考えていた。また同時に、禁忌目録に定められた殺人を《悪》だとも。なるほど、君の行いも価値観もこちらで通用するものだ。間違っていないだろう』
『……ですが、私は困惑している。人を殺めたキリトは悪。それを彼も認めていながら、何故人を殺めるのかと』
未だ結論が出ないでいる疑問を漏らす。この男なら、明朗な返答が期待できると思ったからだ。
そして男は、読めない表情のまま言ってきた。
『君は、君自身の行いをどう思っているのかね?』
『……どういう意味です』
『秩序のため、君をはじめ整合騎士はキリト君を殺そうとした。また同じようにこちらのキリト君も、秩序のため、悪と知っていながらそれを為した。している事に大差は無いが、それでも君の価値観で言えばキリト君は確かに悪なのだろう。であれば、同じ事をしている君は、君自身をどう考えているのかな』
『それ、は……』
男の問いに、私は答えようとしたが途中で言葉に詰まった。
我ら整合騎士は罪人を捕らえ、それの審問、そして後の処断する権限を持つ。命令によっては処刑する事だって少なくない。秩序のためなら相手を殺す――それは、ダークテリトリー人に対して主に行っていたが、同じ人界の民だとしても秩序を乱すなら同じ事だ。
だが……だが、それは、キリトがしている事と確かに大差はない。
こちらに来る前であれば、正義だと即座に答えた。
同時、キリトの行いは悪しかないとも言えた。というか実際に言った。
だが――男の話を聞き、確かにと思った私は、どちらの答えも出せなかった。どちらかを認めれば、どちらかが誤りになるからだ。
同じ行いで正義と悪が両立する筈がないのだ。
だが……整合騎士が間違っていると思えない以上、キリトもまた正義という事になる。しかしそれでは禁忌目録が誤りである事を認めてしまう。
グルグルと思考が回る。ズキリと右目が疼くのにはじまり、頭痛も覚え始めた。
『まぁ、答えられないのも無理はないだろう』
答えに窮していると、畳み掛けるようにヒースクリフが続けた。
『私は君の世界の社会がどう形成され、どのように運営されているかを知らない。整合騎士が捕縛、審問、そして処刑まで行っているのを聞くに、こちらで言う司法に該当するのは確かのようだ。しかし弁明の場はなく、あまりに一方的。禁忌目録という方を絶対正しいと認めているが故の思考停止はつまり司法の機能不全と同じだ。司法は立法と密接な関係であるため、同時に対等でなければならないが、現状は法が最優先されているせいで司法が麻痺している。事の是非、善悪の判断をされていない。その法に従って動いてきた君では……いや、おそらくその騎士団の全員が答えられないだろう。『禁忌目録は守るべきもの、違反は全て悪』と、そういう思想の下に生きてきたのだからね』
そして、と男は更に続ける。
それは、私が答える事を期待していないかのような勢いだった。
『君は法に庇護された側の者だ。最優先で庇護される、最高位に近い権力者。そして市井を知らない身。どのように民が生き、どのような悩み、苦しみがあるかを、君は知らない。それでは答えられない、答えられるだけの情報が無いからだ。無知の身で出した結論は危うさしか孕んでいない』
だから――
『劇薬ではあろうが……暫く、キリト君と行動を共にするといい。おそらく語ろうとはすまい。だが、その言動で分かる筈だ。庇護されなかった者の叫びをね』
そう締め括り、未だ言葉に窮する私を置いて男は立ち去った……
――回顧を終えた私は、改めて、眼前の剣士を見やった。
否応なしにかつて対峙した剣士とぴったり重なるその姿。悪を背負い、善を為そうとする矛盾の剣士に、私は思わず眉根を寄せる。
ただの半端者とは言えないその振る舞い。
それが私に何を齎すのか、先の見えない事に不安は尽きない。
「私は……まだ、お前を認めた訳ではありません。それを覚えておきなさい」
「分かってるよ……さて、攻略がてらの迷い人探し、始めるとするか」
苦笑した少年が、踵を返し、転移門のある広場へと歩き始める。
私は世話になっている武具店の盛況ぶりを横目で見た後、その小さな背中を追った。
《アインタウン》を出発してからおよそ数十分。他に探索していた冒険者に発見、共有されていた地下洞窟の入り口を潜り、最奥を目指して進む。エルフ達が《幻書の術》と呼ぶステイシアの窓――それには天命値や神聖術行使権限などの数値が記載されている――のようなものを頼っているため、現在共有されている範囲であれば迷う事は無いらしい。
例外として迷いの森や深い霧など現在地の特定が難しい場合はその限りではないという。
なるほどと頷きつつ、先導する剣士を追っていると、ふと忘れていた疑問を思い出す。
「キリト、聞きたい事があるのですが」
「なんだ?」
「今更ですが、お前はこんな事をしていていいのですか? ここ数日、とても忙しそうに動き回っている事は知っています。私からすれば迷い人探しは有難いですが、そちらの用事は大丈夫なのですか?」
私がこちらに迷い込んだ日は、彼が忙しくなる前日だった。その用事が《モンド・グロッソ》と呼ばれる世界大会――私の世界で言うところの四帝国統一大会――の警備に就くからと聞いた時は、それほど手が足りないのかと驚いたものだ。厳密に言えば、襲撃を警戒している敵への対抗策として最有力だったからと聞き、更に驚いた。
その警備が長引きそうになると聞いたのは、こちらに来て一日経った日の夜、リズベット武具店にこの身を預けられた時。
それまで捕らえる事だけを考え張り巡らしていた警備網は、彼の提案によって再編成され、その総指揮としてキリトは動いていたのだ。大会会場の警備を中心にしつつ、敵組織の狙いそうな場所に兵を伏せ、敵が掛かると共に全力で捕らえに掛かるべく。
聞いていた限り、大会出場者の動向、よからぬ薬を使う冒険者の動向確認、須郷信之という男を捕らえている場所の警備の強化――――そして、その男の代わりに狙いそうな《ナーヴギア》という道具の保管場所警備の強化の四点で動いていた。
そして二日目――大会終了間際になって、事が動き出した。
それ以降は何も聞かされていない。ただ、『終わった、暫くはこちらに専念できる』と。私のような異界からの迷い人探しをしているのは、『表世界』のゴタゴタに一区切りついたからなのだ。
あまりにも説明されていないので、本当に大丈夫なのかと疑ってしまっていた。
「大丈夫じゃなかったらこっちに居ないよ。そもそも、これだって俺の仕事の一つだ」
「しかし、『表世界』の存続が掛かっているのでしょう?」
「『裏世界』も存続が掛かっているかもしれないぞ。異界なんて埒外のトコと繋がったんだ、異常事態ぶりで言えばこっちの方が勝る」
「む……」
それもそうか、と思わず押し黙る。
確かに、『表世界』の方は人界とは縁遠い武力衝突だが、実態は人と人の争いだ。しかし『裏世界』は私のように異界から迷い込んだ存在がいる。異常という意味ではこちらが勝っている。
優っていてはいけない事だから喜べるわけがなかった。
「なんて、アリスが本当に聞きたいのはあちらの事の進捗なんだろう? 最初からそう言えばいい」
「む……仕方ないでしょう。お前は、異界の事情に深入りすべきでないと言ったのです。そんなお前にそこまで踏み込んだ質問が出来る訳が……」
「色んな人に聞き回った上のそれは詭弁にしか聞こえないぞ」
「ぬぐっ……」
呆れた目を向けてくる少年。しかしその言い分が正論であると分かっている私は、反論出来ず、言葉を詰まらせた。
そうして暫くこちらを見ていたキリトは、はぁ、と息を吐いた。
「俺もあちらで好きには動けない身だからな。実際、出来る事はそう多くないんだ」
「そう……なのですか?」
「ああ。理由は知らないけど、アリスは整合騎士の身として市井に関われなかっただろう?」
「ええ。ただ、理由ならありますよ。禁忌目録にそう指示されているのです。無論、任務で関わらざるを得ない事もありますが……」
「ふーん……」
疑わしそうな声を上げた彼は、少し間を開けてから再び話し始めた。
「俺は危険性の意味でそれを禁じられてるんだ。仮そ――『裏世界』に来る技術が無ければ、今頃決められた部屋の中で無駄に時間を潰していたよ……それ以前に生きてすらいなかったが」
「え……?」
「なんでもない。ともあれ、俺が外に出られるのはアリス同様、任務の時だけだ。一応アリスも知ってるあの件は水面下の事だからな。モンド・グロッソが終わった以上、俺は檻に戻らなければならん」
檻――獣用の牢獄――という表現に眉根を寄せるが、私が何かを言うよりも、彼が話を続ける方が早かった。
「裏で動こうと思えば動ける。それくらいの伝手はあるが、俺は《亡国機業》に対する特記戦力。無暗に動き回る事も出来ない。だから普段は俺の代わりに別の人に動いてもらってるんだ」
「部下、という事ですか?」
思い浮かぶのは、副騎士長直属の四人組【
整合騎士は神器を与えられた者とそうでない者とで上位・下位が分けられている。年数や席に列した順番も多少関わるが、基本的には神器の有無で差を付けられていた。件の【四旋剣】は神器を持たぬ下位の整合騎士だ。聞いた話によれば腕が未熟で単独の任務が厳しいため、死なない事を前提に四人一組になったという。
自分には弟子がいるが、弟子も神器を賜っているため対等の上位整合騎士。部下とは言えない。
だから完全な上下関係として浮かぶのは副騎士長と【四旋剣】の関係だった。
「いや、部下じゃない。それで言うなら俺の方が部下だよ」
「……お前が誰かの下に就いて動く姿を想像できないのですが。そもそも誰かの言う事を聞く事があるのですか?」
指示を出してもそれを放り出し、好き勝手に動き回る様子が想像できた。
「前者はまあ分かるけど流石に後者は酷くないか……? これでも最近は単独で突っ走るのを控えてるぞ。頼るところは頼るようにしてるし」
「……私と会う前、何十人もの狂暴な冒険者達を一人で相手取ったと聞きましたが」
対多数であっても金木犀の剣は対処可能だ。剣身を幾千の小刃に変えて飛ばせば、纏めて相手を塵殺出来る。
しかしキリトにその手段は無い。
純粋な一対数十となると流石に無謀と言わざるを得ないだろう。
「統率が取れていない上に、理性すらかなぐり捨てた相手に後れは取らないよ」
だが、彼はそれを乗り越えた。話に聞く限り幾度となく。その経験がそうさせるのだろうが、その度にユイやユウキ達が動かなければならない訳で、それは傍迷惑でしかない。
「そもそもあの時はとにかくティアを助け出す事が一番だったんだ。人数が足りなくても、急がざるを得なかった」
「残る必要は無かったと聞きましたが」
「あんな集団、裏に何か怪しい事があるとしか思えなかったからな。それを暴くのも俺の仕事だ」
私の言葉に、キリトは何れも間を置かず応じ続けた。
しかし質問には答えたからか、もういいな、と無理矢理話を切り上げられる。私も知りたい事は知れたのでそれ以上の追及はしなかった。
その背を追いながら、考え事をしたかったからだ。
思い返すのは、ヒースクリフの言葉。
表の目的。
隠されし、真の目的。
先の会話から聞けたキリトの答え。それと行動を当て嵌めて、少しずつ考えを進めていった。
実はアリスの質問(四つの件について)は全部煙に巻かれて答えてもらってないという事実
・『表世界』
現実世界のこと
仮想世界=現実という認識のプレミアやアリス達に説明する際、便宜上作られた単語(描写無し)
キリト達にとっては肉体のある現実が表
アリス達にとっては仮想世界が表
・『裏世界』
仮想世界の事
作られた経緯は上記と同じ
キリト達にとっての仮想世界
アリス達にとっては自身が生きる現実そのもの
・キリト
かつて秩序のために悪を名乗った者
必要悪・抑止力として動いていた。その行動は、実は整合騎士のそれとほぼ変わりない。局所的に見れば悪、全体的に見れば正義という一例
キリトが話す目的は基本『大義名分』
真の目的は常に一貫している
迷い人探し、聖石探し、攻略の三つを平行して進めている
・アリス・シンセシス・サーティ
秩序のために正義を為す者……?
大体の歴史(本作の話)は把握した。AIだとか、仮想世界の事については暈されている
禁忌目録、最高司祭は絶対。その思想の下に動いているため、事の善悪・是非に考えを巡らせる事がなく、思考停止のまま任務を遂行してきた
そのせいでキリトと同じ行動をしていた事を知り、己の正義が揺らぎ、善・悪の判断も出来なくなった。あちらを立てればこちらが立たず。己を認めればキリトの主張も正義となる。それを認められないが、だとすれば自身も悪=禁忌目録が誤っていると認める事になる
その板挟みにあって苦しんでいる
それを解くカギがあると、ヒースクリフによりキリトの下へ送り出された
世間的には『キリトが一緒にいるし経過観察中かな』という認識になっている
・アスナ
キリトの背を追い続けた者
キリトがどれほど苦しみ、戦ってきたかを知る一人。ビーターになる時に立ち会った一人
シノンの過去もあってアリスの思想を気に掛けている
・ヒースクリフ
総体的に物事を見る者
理詰めでキリトの行動の必要性をアリスに認めさせた。また理詰めだからこそ、アリスやアリス世界の社会の歪さに気付けている
それを壊す鍵がキリトにある――と考えているため、アリス世界の《キリト》がなぜ人を殺めたか、その歪さの更なる原因についてもアリスを通して薄々気付き始めている
では、次話にてお会いしましょう
【参考】SA:O編ラスボスの難易度あんけーと 気軽に答えてネ! 難易度上昇でボスが増えるよ! 1.さくさく敵が倒れます。原典仕様のいーじーもーど 2.仲間と一緒に協力プレイ。コミックス仕様ののーまるもーど 3.形態変化にボス追加。改変仕様のはーどもーど 4.思い出補整で狂化します。極悪仕様のかおすもーど 5.ぷれいやー・ますと・だい(がち)
-
1.かんたん
-
2.ふつう
-
3.むずかしい
-
4.ごくあく
-
5.ですげーむ