インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 祝400話!!!

 休載とか、投稿の期間が空いたりもしましたが、今でも続けられているのはいただけている評価や感想やお気に入り登録のお陰です。ありがとうございます

 感謝として、いつもよりちょっと字数多め(初期よりは少ないけど)

視点:ユウキ

字数:約一万五千

 ではどうぞ




第二十九章 ~妖魔王撃滅戦争~(祝400話)

 

 

二〇二五年八月十六日、土曜日、午前九時

第二エリア 東部

 

 アイングラウンドで二つ目に開かれた大陸《オルドローブ》の東部には、何千もの人影が集まり、大きな野営地が構築されていた。昨日までは存在しなかったそれは、森エルフと黒エルフ、そして人族――プレイヤーが集まって出来たものだ。

 それを率先したのは二人の人族。

 森エルフに協力した剣士キリトと、黒エルフに協力した剣士キリカである。その傍らには、エルフ達が《聖大樹の巫女》と呼ぶ少女達が立っていた。

 彼らがエルフ族に手を貸したのは偶然である。第二エリアの攻略を進める過程で知り合い、彼らの敵――《妖魔》を倒すために協力し始めたのが事の始まり。

 そして、本来であれば互いに相争ってきた黒エルフ、森エルフが一つの野営地に集まっているのも、人族が懸け橋となり、対妖魔連合軍を築く事が提案されたから。ただの人族ではなく、エルフ達が崇める聖大樹を奉じる巫女が信じる者達だからこそこの話は現実のものとなった。

 妖魔の攻撃を受ければ、エルフ達は石化の呪いにより物言わぬ石と化す。

 そうと理解しても、長らく争ってきた相手と停戦し、融和の道を進む――それがどれほど困難な事かは、人の歴史が既に語っている。

 

「――事実は小説よりも奇なりとは、よく言ったものだよねぇ」

 

 設営された野営地のそこかしこに立て掛けられた旗の徽章を見て、ボクは苦笑を漏らした。

 浮遊城では森エルフ側のクエストを進めたが、彼らの黒エルフ嫌いは中々のものだったと記憶している。それは黒エルフ側も同じだった筈で、その二種族が手を取り合おうとしている事実は、ちょっとした一大スペクタクルに思える。

 その中心人物として彼――いや、彼らが立っている事には、最早驚きも感じないのだが。

 昨夜。ちょうど今から十二時間前は、ALOで深海クエストをこなしていたキリトは、それを終えた後から徹夜でSA:O側の問題に対処していたという。キリカがユイ達に声を掛けたらしいが、彼女らが駆け付けてから程なく事態が終結したのを鑑みるに、ほぼ独力で対処したようなものだ。数多のオレンジ・ブループレイヤーとの交戦はネット上でも配信されており、それを確認した限りはSAOの時に並ぶ激戦に見えた。

 どうせ彼の事だ、自分達を頼らなかったのは、夜遅かったからなどの気遣い故だろう。

 その気遣いは余計であるといい加減理解して欲しいのだが……

 

 ため息を吐いたボクは、視線を彼方へ放る。

 

 ボクが見ている方向には、両エルフ族のトップや将軍格と、人族の代表――キリト、キリカの二人が話し合っている会議場がある。その光景はおそらくボス攻略会議のものと遜色ない。

 本来であれば参加プレイヤー全員がその場にいてもいいのだろうが、信用度(ファンクション)不足なのか、彼ら以外のプレイヤーの侵入は衛兵NPCに止められるようになっていた。それが将軍格の指示なのか、あるいはキリト達の意志なのかは不明だ。

 ただ、内通者が出ないように――それを考えているのだろうとは察する事が出来た。

 

 

 電子ドラッグ使用者のジェネシスを討ち、その存在を運営に知らせたキリトは、森エルフの援軍と、生き残っていたオレンジ・ブループレイヤー達と協力し、フォールンエルフと妖魔の連合軍を退ける事に成功。

 戦いを終え、森エルフの砦に引き上げた彼は、オレンジ達からの聴取を行い、運営に報告。報告を受けた運営――つまり束博士や茅場達――は、アカウント情報からリアルを特定し、警察に通報した。その結果、数十人の電子ドラッグ使用者が新たに摘発された事が今朝のニュースに流れていた。

 しかし、事件はまだ終息を迎えていない。

 

 電子ドラッグ《クリムゾン・ハイ》の開発者であり、売人でもあったプレイヤーの逮捕が出来ていないからだ。

 

 リアルは特定され、指名手配もされたので程なく逮捕される筈だが、未だ足取りを掴めていないので、いつどこで新たなトランスプレイヤーが生まれるか分からない状況には変わりない。それは同時に、新たなオレンジやブルーが現れる事と同義だ。

 オリジンの《エルフクエスト》は黒エルフ勢力、森エルフ勢力、そして犯罪者カラー専用のフォールンエルフ勢力が存在し、三竦みで拮抗していた状況が妖魔王の復活により崩れたところに、人族=プレイヤーが遭遇し、何れかの勢力に手を貸すというのが大まかな流れである。そこに電子ドラッグなどのリアルの問題、巫女などのシステム異常が割り込んでいるからややこしい事になっている。

 その解決のための会議に余人が入れないようにしているのは、自陣営にいる側の誰かが敵と内通していた場合、更にややこしい事になりかねないと危惧しているからに違いない。

 憎らしい事に、この《エルフクエスト》は一パーティーやソロでクリアできるようなものではないらしく、フォールンや妖魔達は複数で襲い掛かってくる。聖大樹を守る王都に攻め上られてはクエスト失敗になるので、エルフ達を出来る限り守る必要があるこのクエストでは石化の呪いを受け付けない人族の手助けが必要だった。多くの人が必要になるクエストはMMOの観点からすれば正しい在り方なのかもしれないが、告知も無しに大きなイベントが起きるのはゲームとしてプレイヤーに不親切な設計である。

 この点から、このクエストはカーディナルが自動で作り出し、勝手に進めているもの――《ユーミル》や開発元の手から離れたクエストであるのは明白だ。

 

 あまりに問題があり過ぎるとしてキリトの方から開発元に抗議した程だという。

 

 元々デスゲームのデータを移植したに等しいゲームとして、世間からの目も冷たいものだったが、政府肝入りの研究という事で静観する者も多かった。キリトはVR技術に理解ある側として認知されていた筆頭だ。

 ()()キリトをして、SA:Oの開発――厳密には開発陣の対応――に問題があると考え、一時中止を求めるような声明を発した事の意味はかなり大きい。

 

 ――とは言え、彼はVR技術そのものを否定している訳ではない。

 

 件の電子ドラッグの売人、ひいてはオレンジ・ブルー連合を集めた下手人が、元は《SA:O》開発チームのチーフディレクターであった事を問題視し、彼が捕まるまでゲームの開発・運営を中止する事を、彼は自らのクライアントに提言したのである。

 しかし、《SA:O》開発を主導する政府役人はそれに頷かなかった。

 売人の捜索を続ける傍ら、彼はSA:O側の問題解決を図る――つまり、『一挙両得』を狙う事を決めたのだ。

 これを例の売人が逃さない筈がない。

 それは自分ですら容易に想像できる事。会議場に他のプレイヤーが入れないようになっているのは、キリトも同じことを危惧したからだろう。

 

 

 そして、午前十時。

 会議を終えたらしいキリトとキリカは、人族のためにと設営された野営地端でこの地に集ったプレイヤーおよそ三百人を前にして、簡略な挨拶を述べてから堂々たる立ち姿で作戦を話し始めた。

 

「この戦いはフォールンの最高指揮官である王と、妖魔を統べる妖魔王の双方を討伐する必要がある。これに伴い俺達プレイヤーは妖魔を叩く事になった」

 

 その言葉に、まあそうだろうな、と納得の顔を殆どの人がしたのは当然だろう。

 自分達が集められたのは、妖魔の石化の呪いを受け付けないためだ。この役回りはむしろ必然と言えた。

 そもそもフォールンエルフ達の個々の強さは、黒、森エルフ達よりも上だという。そんな彼らですら黒カーソルに見えるのだから、更に強いフォールンとわざわざ戦いたいと思う人はまずいないだろう。

 

「妖魔単体の強さは三~五人で囲めば余裕を持って倒せる程度。攻撃手段は通常Mobのトレント系とほぼ同じだが、サイズが大きい分、攻撃範囲も広い。個体の種類に関しては、エルフ達から聞いた限りトレント系限定らしい」

 

 そこで、ひょいと男性プレイヤーが挙手をして、質問を投げた。

 

「なぁ、その妖魔王ってのもトレント系なのか?」

「実物を見た人がいないから何とも言えないけど、エルフ達の伝承によればそうらしい」

 

 頷いて銀髪金瞳の少年が応えると、続くように隣に立つ黒尽くめの少年が口を開いた。

 

「具体的な方針だが、ボスの妖魔王と戦う面子と、それ以外とで分ける事になった」

「それ以外ってどういう事だよ」

 

 集まったプレイヤーの一人が問いを投げる。それに、キリカは「防衛線だ」と端的に言った。

 彼ら曰く、このクエストの成功条件が妖魔王討伐であり、失敗条件――つまり、敗北はプレイヤーの全滅とこの野営地の突破だという。野営地はフォールン&妖魔軍に対抗する最終防衛線であり、ここを突破されれば王都までの道のりを残る兵力では防げない。イコール、エルフ族壊滅となり、クエストが失敗するという。

 

「とは言え、フォールンはともかく、妖魔に関しては無限湧き……フィールド内に一定数は存在するよう設定されてる筈だ。だから防衛側がどれだけ奮戦しても尽きる事は無いと見ていい」

 

 勿論予測でしかないけど、とキリカは肩を竦めた。

 その予測に、戦う事が好きなのか爛々とした目つきになる者もいるが、大半のプレイヤーはイヤな顔をした。

 それはそうだと思う。ボスと戦って大量の経験値やドロップアイテムを手に入れ、強くなる事がMMORPGの醍醐味だ。それ故、野良プレイヤー同士でパーティーを組む事が成立する。何かしらの事情が無い限りパーティーを組むのは、相手を倒すまでの時間を短くし、疲労を抑え、出来るだけ楽に成果を得るという効率化のため。

 終わりが無いとなると効率化もなにもない。やる気をなくすのは、道理と言えた。

 

 ――それでもこの場から立ち去るプレイヤーは見当たらない。

 

 皮肉な事に、このSA:Oで起きている事(エルフクエスト)が異常事態に等しいものであり、それを分かった上でログインしているプレイヤーばかりだからだ。

 この地に集まったプレイヤーは三百人。ベータテスター二万人、更にサーバー四つに振り分けられた五千人の一割にも満たない数だ。それだけの数が集まったのは、むしろ僥倖と言える。最悪彼と親しい自分達くらいしか集まらない事も考えていた程だ。

 ここに居るすべての人が、志を同じくしているとは思わない。

 ただ、潜在的な欲求は共通していると思う。すなわち《事態を知っておきたい》という不安だ。『英雄在るところに事件有り』と密かに言われるほど、彼らは事件の渦中にいる事が多く、更に今回はデスゲームからの移植データ、開始時から見られる不具合の露見、開発陣の不始末とそれに対する不信感など、不安を抱える要素のオンパレードである。いったい何が起きるのか――それが、彼らが発表した『アインクラッド創成伝説の再現』だとしても、そうでなくても不安になる。

 なにせ、そんなゲームにログインし続けるほどのゲーマーだ。MMORPG二作目となる《ALO》もプレイしているに違いなく、そんなユーザーは《クラウド・ブレイン事変》に知らず巻き込まれていた者が殆どだろう。

 その時の経験から、何も知らない事の恐怖を心に滲ませる。

 

 恐怖故の統一感。

 

 それは、”あの世界”の最前を往っていた集団の結束と、何も変わらないようで……

 

「……ふぅ」

 

 知らず、溜息を吐く。

 戦う前から疲れてしまいそうで、思考は一旦隅に寄せた。訝しげな視線を向ける姉や仲間達に手を振って、意識を少年たちに戻す。

 その時、丁度キリトが口を開いた。

 

「妖魔王と戦うメンバーについては注意事項もある。どうもボスにダメージを通すためには巫女達も連れて行かないといけないらしい。だから例のNPC二人を守りつつ、且つボスと戦う必要がある」

 

 彼の話を聞いた途端、集った三百人からどよめきが起きた。「マジか」「面倒な……」と、大体は非歓迎的ムードだ。

 クエストの流れからして、ダメージを通すためのイベントを挟む事はままある事だ。そこまでNPCを護衛し、そのイベントを起動した後、漸くボス戦になる――その流れはある種の王道。護衛が一番のネックであり面倒な手順なので、実際にクエストに挑むとなると歓迎されない。みんなの反応もそのためだ。

 しかも厄介なのが、多分無限湧きだろう妖魔や矢鱈強いフォールンエルフから守りつつ森を突破し、ボスの下に行った後も彼女らを守らなければならない点にある。

 そこそこの人数を割いておかなければ、NPCを喪う事になりかねない。

 そして、それはこの集まりの意義を喪うのと同義だ。

 彼女らが死んだとき、何が起きるか分からないから保護のためにクエストをクリアする――それが目的なのに、一度はボス付近という最も危険な場所まで連れて行かなければならない。

 これを面倒と思うのは当然だった。

 理屈の上では、まあ分かる。エルフの伝承で妖魔王を封じたのは聖大樹に祈りを奉じた巫女達らしい。彼女達の祈りイベントを通じ、妖魔王の悪しき力を剥がし、弱体化した後にようやくまともに打ち合える流れだろう。そういうボスは古来のRPGに通ずるものらしいし、SAOにもあったから経験もある。

 ただそれでも、面倒な上に難しそうと、ボクも思わず顔を顰めてしまった。

 

「あの二人を喪うわけにはいかない。だから出来る限り敵を避けつつ進軍し、短期決戦に持ち込む作戦を立てた」

「この図を見て欲しい」

 

 そう二人が言うと、予め頼んでいたのか大きな地図を張り付けた板がエルフ達によって運び出されてきた。

 その地図は第二エリア東部をズームしたもので、そこに設営された野営地が西側に書かれ、東側の森と険峻な山の麓にはフォールンと妖魔のデフォルメされた顔が描かれている。最も麓に近いところには、一際大きな樹木のモンスターが描かれていた。

 直感的でとても分かりやすい地図に、鞘に納めたままの剣を指示棒代わりにしたキリカが話し始めた。

 

「はじめに言ったようにプレイヤーとエルフの連合は二つに分かれる。妖魔王の下に行く組と、この最終防衛線である野営地を防衛する組だ。そしてさっき言った策の中核となるのは防衛組だ」

 

 そうキリカが言い、鞘の先を野営地東側の外縁をなぞる。すると黒エルフがささっと凸マークを幾つも複数書き足した。ボーリングのように東先端を少なく、野営地側を幾つも書き足したそれをなぞりながら、キリカが続ける。

 プレイヤーの間からは、「魚鱗(ぎょりん)の陣形だ」と声が上がっていた。

 

「ぎょりん?」

「戦国シミュレーションゲームでよくある陣形の名前だよ。武田八陣形の一つって言われてる」

 

 そう疑問を小さく呈すると、近くにいたクラインがちょっとだけこっちを向いた。

 

「で、ありゃあ先頭が尖ってて、攻めを得意とする陣形だな」

「ふぅん……」

 

 つまるところ、戦国乱世で使われていた陣形らしい。言われてみれば昔読んだ歴史の本で偶に出てきた事があった気はする。あまりに昔過ぎて、それが何だったかは思い出せないが。

 

「パーティーを北から南に並べた防衛組は森まで進み、攻め寄せてくる敵と幾らか戦って、ヘイトを集める。頃合いを見て野営地東の草原まで後退して敵を引き付ける」

 

 東側に尖った並びの凸マークを剣ですっとなぞり、東側に引いた後、そこで鞘先をぐるぐると動かす。戦っている事を示すだろう動きをした後、来た道を戻るように鞘を西側に引いた。

 そこで、近くにいた森エルフがぺたりと紙を張り付け、凸マークを見えなくする。何をするのかと思えば、新たに凸マークを書いて行った。今度はVの字型に並べたもので、大きく開いた両端を東側に、尖った方を野営地側に向けた並びだ。

 クラインに聞けば、「防御に特化した鶴翼(かくよく)の陣形だ」との答えが聞けた。

 

「草原に防衛組が戻ったら、いよいよボス攻略レイドの出番だ」

 

 そこで、キリトが口を開き、彼も指示棒代わりにした納刀ままの鞘を地図に突き付けた。草原の北と南をトントンと叩いた後、森エルフと黒エルフが協力して横並びの凸を描いていく。

 

「ねぇ、アレも陣形なの?」

「長蛇っていうヤツだな。ありゃあ狙ってやるっつぅより、地形的に長くならざるを得なくてなるヤツだが……」

 

 見たままの名前の陣形だったので、想像は容易かった。

 

「そこまでしたら、草原中央を迂回するようにボス攻略レイドが全力で森に突撃。防衛組が敵を大量に引き付けて手薄になった森を一気に抜けて、そのまま妖魔王を討つ――――それが今回の大まかな動き方だ」

 

 キリトが二つの長蛇の凸をすっと森側になぞり、最後に妖魔王を示すマークを叩いて締めた。

 

「なんか、合戦みたいだな……」

「だな、戦国ゲームか何かか?」

「だとして、俺達にあんな動き出来るのか……?」

 

 ざわざわとどよめくプレイヤー達。それらを、キリトのパン! と鋭い拍手が止めた。みんなの視線が再び彼らに集まる。

 

「不安なのはわかる。でもパーティー単位で好きに動くよりは、ある程度纏まって動いた方が防衛線維持には有利だ。必須と言ってもいい。だからどうか分かって欲しい」

「完璧には誰も出来ない。しないといけない事は、防衛組の大半が敵の注意を引き付けて、草原に戻る事。そこを覚えてくれればぶっちゃけ陣形とか細かい事はいいんだ。モンスターと戦って勝つ、自分がやられないようにする、そこは変わりないからな」

 

 落ち着かせるように二人が言うと、先のどよめいていたプレイヤー達の表情が僅かに和らいだ。

 

「――ちょっと聞きたい事があるんだが、いいか?」

 

 そこで、意外にもクラインが手を上げた。みんなの視線を一度に浴びた若侍は、顎の無精ひげをなぞりながら言う。

 

「退くタイミングなんだがよ、誰がどうやって判断して、どうやってみんなに伝えるんだ?」

「判断するのはキリト()だ。伝えるのは、エルフ達が馬に乗って警鐘を鳴らして回るから、甲高い音が聞こえた時に退いてくれ」

「キリトが判断すんのか? てっきりエルフの将軍の誰かかと思ったぜ」

「「あー……」」

 

 驚きを露わにするクラインの言葉にうんうんと何人もの人が頷く。

 それに、彼らは苦笑を漏らした。

 先に口を開いたのはキリカだ。

 

「黒エルフと森エルフの戦いって、個と個の小競り合いが基本だったせいで、こういう大規模な戦いはしたことが無いらしい。だから判断を丸投げされたんだよ」

「いちおう《笑う棺桶》討伐やらリアルの《製薬会社スペクトル》突入やらで大勢を指揮した経験はある。その辺を信用して欲しいと、今は言うしかないかな……」

 

 頬を掻きながらキリトが言った事に、ボクをはじめ、多くのプレイヤーが微妙な顔をした。

 リアルで自衛隊にでも所属していない限り、部隊を指揮する事なんてシミュレーションゲームでしかしていない筈だ。指揮という観点で言えばアスナやクラインをはじめ、名だたるギルドの顔役がボス戦などでしているが、文字通り参加人数が桁違いである。

 その点、たしかにキリトやキリカには、それをした経験がある。

 七十六層到達時には、攻略組だけでなく、下層から来るプレイヤーの多くが路頭に迷って治安悪化を招いたりしないよう、手を打った事もある。それは正しく戦国時代で領地経営をしていた将の働きそのものだ。

 戦闘に於いては、七十六層以降はレイド対十数体のモンスターという戦いが多く、緊急時の指揮をしていたのも彼だった。《亡国機業》対策としてここ二週間は外国で活動していた事もリアルではニュースになっており、それを知らない人はあまりいない筈だ。

 つまり、経験や実績の面で、ここに集ったプレイヤー――いや、VRMMOプレイヤーの中では彼以上の適任はまずいないという事になる。

 無論、設定上は将軍職にあるNPCに任せた方がいいのだろうが、その将軍職が『経験がない』と言った以上、それで押し付けてもロクな結果にならないのは目に見えている。

 キリトが指揮権を持つ――つまり、総大将である事に、大きな反対は起きなかった。

 

「まぁ、指揮と伝達については分かった。後は……なんでボス攻略レイドを南北で分割してるんだ?」

「攻略レイドの人数が多いか、進軍速度が遅い場合を考えての事だよ。分割しない場合は北側の進軍路で東に突っ込む予定だ」

 

 その理由は、北は山が連なっていてまず敵はいないのに対し、南側は森が広がっており、伏兵の可能性を捨てきれないためだと彼は語った。

 それに納得したクラインは、一言礼を言ってから質問を終えた。

 

「他に質問は? ……無いなら、編成を始めるぞ」

 

 その後、キリトとキリカによって手早く三百人が振り分けられ、およそ六十人が対妖魔王戦力に、残る二百四十人がエルフ達の軍と合流し、野営地の防衛に就く事になった。

 連合の総大将キリトに指揮され、三百のプレイヤーと約四百のエルフ軍――合計七百の連合が、フォールン・妖魔連合と戦う事になったこの戦いは、アイングラウンドのNPC達によって《妖魔王撃滅戦争》と名付けられ、仮想世界史上初の『戦争』として語られる事になる。

 

 

 後に――本当にずっとずっと後になって、キリトは語った。『もしもトップダウン型AIにキリカやヴァフスのようなイレギュラーが居なければ、ボトムアップ型の研究だけが進み、プレミア達が生まれる事も無かっただろうな』と、苦々しい笑みを零しながら。

 そして、続けて言うのだ。『あの撃滅戦が無ければ、”あの世界”の未来は俺にとって喪うものばかりの戦いになっていた』と、向けどころの迷う感謝の笑みを浮かべながら。

 

 

 魔女が呪い、彼が克服した世界の運命は、今やその報酬(リワード)とばかりに様々なものを呼び寄せていた。

 

 

 

 会議から一時間後。

 昼を跨ぐのは確実なので、ローテアウトして腹を満たしたプレイヤー達が集ったのを契機に、戦いは始まった。

 MMORPG――《レイド戦》という概念があるこの世界に於いても、おそらく初だろう軍と軍の争いだ。

 スヴァルト最終エリアでのキリト対セブンクラスタより数は少ない。しかし、そこかしこで接敵し、見渡す限りの戦闘が起きている光景はあの時には無い事だ。SAOで複数のMobを相手にした時に近いが、やはり規模が違う。

 

「体力が少なくなった者にポーションを送れとの事! とにかく戦線を維持する事に、今は専念されますよう!」

「相分かった、確かに届けるぞ!」

 

 設営された(やぐら)から戦場を俯瞰する総大将の指示を受けた伝令がそれを広め、戦場を走るために馬に乗ったエルフ兵達の下に、ズラリとポーションを詰め込んだ籠が渡されていく。それを受け取った荷駄兵が次々に野営地から離れていく。

 

「伝令! 北側に敵影無し、しかし南側の森にフォールンの部隊あり! 人数はおよそ十! 妖魔も五体はいます!」

「――総大将からの指示だ! 予備兵力の人族十四人(二組)、エルフ族約二十人(三組)を送り、撃滅せよ! ただし増援があった場合は草原まで撤退し、混戦に持ち込んで数で押せとの事だ!」

「承知!」

 

 定期的に森、あるいは黒エルフNPCの伝令が入れ代わり立ち代わりに現れ、報告を残し、代わりの伝達事項を受けて野営地から飛び出していく。

 数自体は千に届かない軍だが、それでもやはり『戦』を思わせる光景だった。

 セブンクラスタの時に千を超える集団を見たが、あの時以上に圧巻させられる。プレイヤーとNPCという差だけではない。それを統率し、『軍』として機能させている点が、クラスタ達との違いとして分かったからだ。

 妖魔王突撃組に分けられた他の面々も似たり寄ったりの感想を抱いているらしく、消えては現れる伝令兵や、その指示、そしてエルフ兵達の士気を見て唖然とするばかりだった。

 

「すっげぇ……まるで、マジもんの合戦にいるみたいだぜ」

 

 それらを代弁するように、クラインが感嘆の声を漏らした。

 その隣に立つ、久しぶりに見る真紅の騎士――ヒースクリフも、畏敬の念を露わに頷いた。

 

「ああ。おそらくリアルでの作戦行動のために古今の軍略、兵法や部隊の指揮について学んだのだろう。だがここまで整然と策を為せるのは、それを理解し、応用出来ているという証だ。プレイヤーの練度や理解度に合わせてある程度幅を利かせているのが功を奏したな」

 

 かつてSAO最強のギルドを率いていた団長はそう言った。彼曰く、完璧に流れを読むことは敵わないため、下手に色々決めるよりは多少自由な方が作戦を立てる時には楽だとの事。

 これに大いに頷いたのは各ギルドやパーティーリーダーを務めていた面々だった。

 ボクもそれは理解できた。ボス攻略戦の時は流石に作戦や流れを決めていたが、緊急時にそれは役に立たなくなるので、大雑把な指示だけが出されていた。謂わば注意事項のようなもので、それをカバーするためにキリトが大活躍する――というのが基本の流れになっていた。その流れを苦々しく思っていたボクやアスナ達は、しかし彼に頼らなければならなかった。それほどガチガチに作戦を固めるというのは難しい事だったのだ。

 ガチガチに固めると、自由に動けない。動いていいかと思考を挟んだ分、隙が生まれ、判断も遅れる。それが命取りだった。

 今回の戦では、パーティー戦やレイド戦ばかりしてきたプレイヤーが主体。対妖魔単体で見れば自由にさせてもいいが、全体の動きはある程度統制が取れなければならない――その微妙なラインとして、キリトは大雑把な指示を出している。

 どう戦え、とかどう支援しろ、どこをいつ通過しろなどと、細かな指示は一切ない。

 戦え、死ぬな、合図と共に防衛組は退け。突貫組は巫女達を死なせるな、短期決戦で妖魔王を倒せ。

 出された指示と言えばこれくらいだ。細かな作戦や策は、エルフ兵を使ってこなしていた。

 

 ――その総大将が、櫓から降りて来た。

 

「――伝令兵! 馬を出し、警鐘を鳴らせ! 防衛組を後退させ、敵を草原までおびき出すんだ!」

 

 地面に降り立ったと同時に発せられた下知に、近くに控えていた伝令兵達が一斉に動き出す。ボク達には知らされていないが、予め決めておいた動きなのだろう、エルフ兵達は整然と動いていた。

 

「突撃組も準備をしておいてくれ。もう一回櫓から降りてきたら、それと同時に突撃だ」

 

 待機していたボク達に直接そう言った彼は、再度櫓に上り、戦局の確認に戻った。

 わざわざ降りる必要はあったのかとも思うが、ひょっとしたら士気を上げるために、敢えて直接言ってきたのかもしれない。気を引き締める――それそのものも、戦いでは重要だ。

 程なく、カンカンカン! と金属の音が響きだす。戦場全体に広がるそれを受け、防衛組が徐々に森から戻ってきたのが遠目でもわかった。彼らを追い、森から出てきた防衛組より遥かに少数の敵影も見て取れる。

 

「待たせたな、人族の剣士達。黒エルフ突撃部隊、ここに集まったぞ」

「森エルフ突撃部隊も再編し、集まったわ。士気は十分。いつでもいけるわよ」

 

 そこで、六十の人族の前に現れた、十数人ずつの部隊を率いるエルフ達。先に声を掛けてきたのは黒エルフ族のエリート騎士キズメル、次に森エルフ族のエリート騎士リーフェだった。

 リーフェは、キリト達の義姉リーファと顔を合わせているが、これといった会話は無かった。戦いの前だからと双方が気を張っており、それどころではないからだ。この戦いが終われば何かしらの会話はあるかもしれない。

 ぱっと見では区別がつかないが、騎士リーフェは軽装ながら鎧を纏っているのに対し、義姉リーファは緑衣のみで金属鎧の類を身に着けていない点で、ボク達は見分ける事にしていた。

 そんな彼女達は、北と南の哨戒として一度出陣しており、鳴り響く警鐘で戻ってきたところだ。この世界に生きる者として疲労はある筈だが、それを感じさせないのは設定上とはいえ『軍人』という過去を持っているからか。

 本来、妖魔の石化の呪いに対して無力なエルフ族を伴うのは、妖魔王を復活させたフォールンエルフの王とそれに仕える兵達と戦うからだ。妖魔王により強化されたフォールンは、プレイヤーが敵うような強さではない。故にNPCの彼女らを登用したという経緯があった。

 プレイヤーは妖魔王を倒せばいいが、実際はフォールンエルフの総大将も討たなければならないクエストなのだ。

 そのために両エルフ族の精鋭が集ったのとほぼ同時に、櫓からもう一度、総大将たるキリトが下りて来た。

 彼の背には、彼に救われたもう一人の巫女――命名《ティア》が背負われている。名の由来は聞いていないが一応あるらしい。彼女がわざわざ櫓に上ってまで彼と一緒にいたのは、彼以外の人族に強い警戒心を抱いているためだ。

 その少女と共に馬に乗りながら、彼は号令を発した。

 

「――頃合いだ! 俺達突撃組は、草原北側から一気に東進する! 人族が目指すは一つ、妖魔王!!!」

 

 大声で「俺に続けぇッ!!!」と言った後、彼が馬を走らせた。遅れてプレミアを乗せたキリカの馬も走り出す。

 その後を追い、ボク達も全力で走り始めた。

 

 

 走ること約十分。

 全力で走っても息切れしないプレイヤー達は徒歩(かち)で、そうもいかないエルフ族は総大将と同じように馬を駆って森を東進する。途中敵と遭遇する事はあったが二、三度程度で、いずれもエルフ族の馬に踏まれる形で絶命していった。

 妖魔と出会わなかったのは幸いと言うべきなのだろう。

 

「もうすぐ東の果てだ! あと一息、走り切るぞ!」

 

 分断を危惧したか、草原を突っ走る時より幾分か速度を落とし、行軍をこちらに合わせたキリトがそう叫ぶ。黙々と駆け続けては士気が下がると考えたのか、ゴールを明確に示したのだ。

 結果、おう! と大きく返事をした突撃組の士気が持ち直した。

 

 

 

 ――そこで、金色の風が吹いた。

 

 

 

「キリト、危ない……!」

「ぐあっ……?!」

 

 こちらを気に掛け、僅かに背後を見ていたキリトが、顔を向けているのとは真逆の方角から迫る金の風に襲われたのと、その背中にひっしとしがみ付いていた巫女ティアの声が上がるのと同時だった。

 無数の輝きに包まれたキリトが、呻き声と共に馬上から突き落とされる。

 支えになっていたキリトが落ちた事で、巫女ティアも体勢を崩し、ぐらりと上体を揺らした。その彼女は、どうにか着地したキリトがギリギリのところで抱きかかえて事なきを得る。

 

「なんだ、ありゃあ……?!」

 

 部隊の意識は、総大将を襲った金色の突風に向けられていた。木枯らしのような音を立てながら空中で弧を描いて舞い上がったそれは、よくよく見れば、小さなひし形を十字に組み合わせた形の小片だった。それらが幾百、幾千もより合わさり、あの金の突風を形作っていたのだ。

 それらは来た方向へとざああ、と音を立てながら戻っていく。

 

 その先に居たのは、黄金の騎士だった。

 

 木漏れ日が生み出す幻でもあるかのように、騎士の前身は金色の光に隈なく照らされている。だがその色は光のものだけではない。上半身と両腕を覆う鎧は、白に黄金の装飾を施されたものらしく、それそのものが金に輝いていた。両足を隠すかのようなスカートも純白の布地に金糸の縫い取り、磨き上げられたグリーブまでもが金色に輝いている。

 だが、豪奢ではない。

 むしろ金色であるのが当然かのような、そんな風体だ。

 それは、その騎士の容姿があまりに整っているが故なのだろう。豊かに流れる長い髪は甲冑の輝きに優る清らかな金色、肌は透明感のある白さ、こちらを見つめる瞳は深みのある青。少し鋭い双眸が、華美さを取り払い、実直さを感じさせている。

 その周囲に、先ほどキリトを襲った黄金の突風が漂い続けている。

 つまり――先の一撃は、かの美麗な少女騎士の手によるものだ。

 

「だ、誰だ……?」

「エルフ、じゃあないみたいだが……」

 

 思わず足を止めた突撃組が困惑の声を上げる。

 それも無理はない。なにせフォールンと妖魔が敵、もしかすればオレンジプレイヤーもいるかもしれないと思っていた自分達は、それらからあまりにかけ離れたイメージを抱かせる少女騎士に出会ったのだ。

 その装いは、プレイヤーで同格のものがあるのは見た事がないほどのレアリティであるのは、見れば分かる。少なくともベータ版の現状で許されたものでない。

 であればエルフ族かとも思うが、金糸のような長髪から見える耳は丸みと帯びており、人族のものと相違なかった。

 ――いや、容姿よりも、こちらの思考を奪うものがある。

 それは、彼女の周りを漂う金色の突風。アレはプレイヤーは勿論、エルフ族に伝わる”まじない”の領域を超えたものだ。この世界で許された魔法的現象は支援効果のものばかり。相手にダメージを与えるものに関しては、SAOを素地としているためか魔法は存在しなかった。

 だが。

 あれは、なんだ。

 あんなものがプレイヤーに許されていいのか。

 そう思考を回し――あるいは、ある意味停止――させていると、そのボクの耳に、落馬したキリトの声が届いた。

 

「……また、カーソル無しか」

 

 その声を聴いて、気付く。

 黄金の少女騎士の頭上には、本来あるべきものが一切ない事に。カーソル、HPバー――焦点を合わせれば必ず表示される筈のそれが、存在していなかった。

 胸中で、まさか、と呟く。

 本来はあり得ない。だが、あり得ている――そんな存在を、ボクは、ボク達は知っている。

 時を渡り、異世界より舞い降りた彼の義姉の存在。

 つまりあの騎士は、そういった異世界の来客なのでは……

 

「――漸く見つけましたよ、叛逆者キリト」

 

 息を詰まらせるほどの驚き、それから思考に耽る中、少女騎士が口を開いた。凛とした声音は、巫女を抱く少年への敵愾心に溢れている。

 

「よもや学院生であったお前に転移術などという高等術を使えて、それを短剣に込めているとは思いませんでした。それに、お前に同調する禁忌目録違反者がこうも多い事も驚きです。よくもこれほどの数、教会に気取られず造反出来たものですね」

「……何の話だ」

 

 騎士の言葉に、キリトは困惑を露わに言葉を返した。

 その素振りに演技の気配はない。いや、彼なら演技の可能性も捨てきれなくはあるが……

 

「キリト、この人と知り合い?」

 

 ボクの問いに、彼はぶんぶんと首を横に振った。

 それを見た黄金騎士がふん、と鼻を鳴らし、キリトを呆れた目で見る。

 

「下手な嘘ですね。少なくとも、先に交えた剣は実直であったはずですが……見下げ果てました。どうやら暗黒騎士とも通じていたようですしね」

 

 そう言って、黄金騎士はボク達の後ろ――黒エルフ達の方に視線を向ける。いきなり矛先を向けられたキズメル達は困惑の表情を浮かべた。

 そうなるのも無理はない。

 どうにもこの騎士の言っている事は、こちらの認識とすれ違っている。キリトの事は知っているらしいが……

 

 ――おそらく、この騎士は異世界人。

 

 そして、キリトと敵対する間柄だったのだろう。

 ヴァベルと違うのは、世界を越えたのが意図してではなかった事。あちらのキリトが何かしたらしいが、それが世界を越えるようなものでない限り、事故だとは思う。

 事故かそうでないかは、ボク達に確かめる術は無いが。

 ヴァベルの件を知る身としてそう考えていると、騎士が右手を掲げた。その手は剣身のない柄を握っている。

 同時、その動きに呼応するかのように、ざああ、と音を立てて黄金の風がうねりを上げ始めた。

 吸い込まれるように刃無き柄に集まった小片は、キラキラと煌めきながら黄金の剣身を形成。数瞬後には細身の長剣が完成した。

 その鍔や剣身には、金木犀の装飾がある。

 

「お前を見定める事も終えました。これ以上の問答は埒も無し――――その魂、ステイシア神の御許(みもと)へ還しなさい」

 

 そう言って、黄金騎士が一歩踏み出した。

 それと同時、キリトが立ち上がり、口を開く。

 

「全軍に次ぐ――」

 

 そう叫ぶ彼は、続けて『先に行け』とか、そういう事を言おうとしたのだと思う。

 だが――結局、それが紡がれる事は無かった。

 彼の言葉を遮るように。また、迫る黄金騎士を遮るように、双方の間に闇が生まれたからだ。見覚えのあるそれから、黒尽くめの人物が現れる。

 頭上には、何もない。

 

「――――」

 

 一瞬、目深にフードを被ったその人物が肩越しに振り返り、また前を向いた。それと同時に両手に片刃の黒剣、白剣が出現する。

 その人物は、もう一人の異世界人《ペルソナ・ヴァベル》。

 彼女は黄金騎士の歩みを止めるために立ちはだかっていた。騎士が何かを言うよりも早く。更に、剣身を黄金の風に変えさせないために、一瞬で距離を詰めて斬りかかった。

 ガァンッ! と稲妻が走ったかのような轟音が響く。

 

「――全力で、走り抜けろぉッ!!!」

 

 その音に交じり、キリトの号令が轟いた。馬に乗り直して走り出した彼を見て、残る全員が我に返り、慌ててその後を追う。

 

「な、待ちなさ――くっ……?!」

 

 騎士の少女もまた走り出そうとしたが、ヴァベルにそれを止められていた。

 そうして全力疾走を続けること五分後、ボク達は妖魔王の下に辿り着き、開戦。およそ一時間近くの戦いの間、黄金騎士が乱入してくる事は無かった。

 ただ、遠雷が轟くかのように、彼方から剣戟の音が響いてはいた。

 

 






 《ホロウ・リアリゼーション》ではDLCで本当に異世界の未来から彼女(と彼)が来てるんですよねぇ……(遠い眼)

 そんな訳で異世界から乱入しました

 ヴァベルと違い、意図した乱入でないのは原典ゲーム基準。ただしこちらの彼女は元の世界のキリトが罪を犯した後の時期のため、敵愾心MAX仕様です


・キリト
 人族・エルフ族連合軍の総大将兼軍師
 レベルは35と連合軍最高
 リアルで《亡国機業》と戦うのに備え、BIA指揮のために学んでいた事が活きた。クラインのギルド名の由来は知っていたのでそこから陣形を学ぶキッカケを得ている
 地味にエルフ兵の指揮権も得ているが、エルフが崇める聖大樹を奉じる巫女から絶大な信頼を得ているから――という裏事情があったりする
 黄金騎士を一人で押し留めようとしていたが、ヴァベルの乱入で思い留まった

 売人(シギル)を逃がしているので、捕まえるまでは運営中止の苦情をSA:O開発陣へ伝えたが、開発を主導する役人に抑え込まれてしまい、ひとまずクエストを終わらせるために今回の戦を指揮している。巫女二人を死なせない事もそうだが、クエスト解決の目的は『アインクラッド創成伝説の真偽の確認』も込み。聖石確保も込み
 かなりの穏健派とみられているキリトの声明なので影響力は大きく、事件解決の立役者故か、三百の軍勢が集まった


・ユウキ
 キリトを敬愛する剣士
 レベルは27
 対妖魔王組として、キリトに追従していた。織田軍の柴田勝家的ポジ。つまり『キリトが率いる軍に必ずいる主力キャラ』扱いを受けている。
 キリトに関する事ならIQがグンと上がるためか、黄金騎士の出自、元の世界のキリトとの関係もある程度あたりを付けている


・クライン
 ギルド《風林火山》のリーダー
 レベルは28
 そのギルド名や出で立ちから察せられるように、戦国時代への愛好は強い
 なのでシミュレーションゲームをはじめ、武田に関係する戦国知識は豊富という独自設定が追加された。要するに陣形説明要員
 地味にキリトの成長の契機にもなっている
 やっぱキリトにとって、クラインは欠かせない兄貴分なんやで
 しかし原作でもうちょっと戦国時代のネタ絡みの話があってもいいと思うんだ……


・ヒースクリフ
 ギルド《血盟騎士団》の団長
 レベルは20
 超久しぶりの登場だが、脇役扱い。忙しくてログインできなかったから仕方ないネ
 アインクラッドをリアルに作り出す前段階としてSA:O開発に携わっていたが、今回のキリトの声明で流石に立場がマズくなったので参戦した経緯がある
 世論的には『政府が悪い』に九割傾いているので、肩身は狭くない
 心酔しているキリトに大きな借りが複数あるが、まだ返せていない


・一般プレイヤー(300人)
 キリトと関わりがない善良なSA:Oプレイヤー
 平均レベルは25
 幾たびの事件解決に携わったキリトの声明、またALOの事件で巻き込まれた経緯から、事件のあらましを知っておきたい不安に駆られ、SAO第一層攻略組のような理由で集まった面々
 元がデスゲームと知っていながらプレイを続けているので、結構な粒ぞろい
 原典ゲームのレイドボス、DLC第三弾でティアのために戦うキリトに力を貸すべく集まっていた一般プレイヤーのような人達

 黄金騎士の乱入に関しては『電波かな?』や『知らないトコでの因縁なんだろうなぁ』と深く考えないようにして、ヴァベルの登場で考えることをやめた


・ティア
 もう一人の巫女
 レベルは5
 プレイヤーから追われ続ける日々だったので、初日に自身を救ったキリト以外の人族に対し、警戒心が非常に強い
 なのに戦に連れ出されている訳だが、刷り込み効果もあるのか、反発する事も無くキリトに盲目的に従っている節がある
 自衛用に細剣は持っているが、ロクに訓練してないため、プレミアよりレベルは低い
 移動中はキリトの背中に引っ付く形で乗馬している

 原典ゲームではジェネシスが名付け親。ゲームでは由来は明かされないが、コミックスでは「昔飼っていたネコの名前」という由来設定がある
 本作ではキリトが名付け親になっている
 名前の由来は英語「tier」から
 意味は動詞の『段々積む、重ねる』と可算名詞『結びつける人』の二つあるが、キリトはその両方から汲み取っている。つまり涙の「tear」が由来ではない


・黄金騎士
 金木犀をあしらった剣使いの騎士
 言わずと知れた彼女。しかし彼女はキリト(銀髪金瞳)を躊躇わず攻撃しているので、原作ではなく本作沿いの異世界――しかも獣超克の未来――から来た事が窺える
 『短剣』というワードで何となく時期は眼帯もしてない事から分かるように封印を破る前、つまり和解前。どうやら”あちらのキリト”は素で騎士と渡り合い、戦いの最中に隙を突いて短剣を使う事が出来たようだ
  ――が、よもや異世界に渡っているとは思うまい
 果たして現在キリト(騎士遭遇済み)が整合性を取ろうとした結果か、遭遇してない異世界キリトの行動による偶然の結果か。それを知るのは彼女の出身世界のキリトのみである

 出会い頭に襲って来るのは《千年の黄昏》DLCの立ち振る舞いと同じ(妖精キリトをダークテリトリーの者と勘違いしていた)

 SA:Oレベルに直すと100相当のステータス


・ペルソナ・ヴァベル
 カーソル無しの異世界人一人目
 ティアを見つけるための索敵などで地味に協力していた。その過程で、キリトの同行を見守っているところで異世界人と遭遇していたのを見たため、足止めのために割り込んだ
 殺すつもりは無いが、無力化する気ではいる

 SA:Oレベルで150相当


 では、次話にてお会いしましょう

【参考】SA:O編ラスボスの難易度あんけーと 気軽に答えてネ! 難易度上昇でボスが増えるよ! 1.さくさく敵が倒れます。原典仕様のいーじーもーど 2.仲間と一緒に協力プレイ。コミックス仕様ののーまるもーど 3.形態変化にボス追加。改変仕様のはーどもーど 4.思い出補整で狂化します。極悪仕様のかおすもーど 5.ぷれいやー・ますと・だい(がち)

  • 1.かんたん
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  • 4.ごくあく
  • 5.ですげーむ

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