インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です
久しぶりの投稿なのはね、ブラウザWordで打って書き上げたものを全部選択後、コピーじゃなくて消しちゃって、やり直す矢印をタップしたら、それはWordではなくブラウザバックの矢印で全部白紙になっちゃって、燃え尽きてたからサ()
バックした時点で保存されたから、一から書き直す羽目に( ;∀;)
割とダイジェストなのは元からだけどネ!
視点:キリカ、ユイ
字数:約六千
ではどうぞ
《SA:O》のβテスト開始から一週間が経過した。
世間では夏季休暇に突入した学生が多いためか、初日に比べて街中を行き交うプレイヤーの数は増加傾向にある。これが夕方から夜になれば社会人もログインしてくるからより一層賑わっていくだろう。
しかしログイン数が増えたのは、決してそれだけではないだろう。
大々的にSAOを元に作られたと発表されたオリジンには少なくない懸念を示されていた。その一定層の人々が徐々にログインしてきた、というのがプレイヤー増加の真実だと思う。そもそもβテスト権は希望者のみが手に入れられる代物。興味がある人だけが持っているそれを、デスゲームではないかと心の底から危惧している人が求めるとは思えない。βテスト中にログインしてくる人々は心のどこかで、《SA:O》というゲームに対して多かれ少なかれ期待を寄せていたに違いなかった。
それだけこの
多くの死者を出したSAOを広報の材料にする事は不謹慎だ。しかし、多くの人間に関心を向けてもらうという一点に於いては、戦略は成功したと言える。
間違いなく与党支持率は低下するだろうがその辺は俺達の知った事ではない。
――そんな世界に、変化が訪れようとしていた
「はーい、ちゅうもーく! みんな聞いてくれ! 予定通り、今日はボス攻略に挑む! これからレイドを組むから腕に覚えがある人は奮って参加してくれよな!」
溌溂な青年が大きな声を上げ、行き交う人を呼び止めた。
レイド――七人パーティーを最大七つまで編成する、システム上最大規模の構成。最大49人のメンバーを以て、第一エリアのエリアボスに挑もうとしているのだ。
オリジンの情報掲示板や《MMOトゥモロー》の掲示板に書き込みがあったのが昨日の夜の事。今日この時間に集合した面子でボス攻略に挑む、その呼びかけを行っていた。いま人を呼び集めているのがその書き込み主なのだろう。
確かレイドの参加条件は、規定値以上のレベルに至っている事と、エリアボス直前の転移門まで攻略出来ている事だった。最前線を進み続けた人が何十人もいるか微妙な時期だから偵察も兼ねているのだろう。
どことなく青い騎士を重ねながら集まっていく人の流れを眺める。
「――キリカは参加しないのですか」
ふと、右隣から話しかけられる。
声の主は元名無しのNPCプレミアだ。ベンチに並んで座る彼女は、じっと感情に乏しい視線を向けてきていた。
「ああ。今回は見送る」
「キリカも、冒険者の一人だと記憶しています。強さもあそこの人達くらいあると思いますが」
「参加条件は満たしてるよ」
問いかけに頷く。
今の俺のレベルは21。エリアボス手前のMobが15、レイドで参加条件になっている数値が18。SAO時代より余裕はないが、武具が現状手に入れられるもので最高のものであり、更に強化している事からある程度のマージンは取れていると判断できる。とは言え俺がレベリングを本格的に始めたのは少し遅かったから、レベリング厨や廃人プレイが基準の人には劣っているだろう。
更にクエスト消化やレベリングの過程でエリアボス直前まで辿り着いている。
だからプレミアの言う通り、俺もレイドに参加できる。
――だが、それでも俺は今回の攻略を見送ると決めていた
俺だけではない。ユイやユウキ達も、今回のボス攻略は見送ると決めている。
その理由は単純、
毎夜、キリトは世界各地に点在する《亡国機業》のアジトに襲撃を仕掛けている。昼間は実験や訓練、仕事をこなし、夜間は休息を取っていると対外的に示しているが、本部ビルにある肉体はアバターというのが真実である。つまり暫く碌に休息を取れていない。そんなキリトの負担を和らげるためオリジン側の問題を請け負ったのが”安住の地”で集まった時の話。
逆説的に、キリトがこちらに来る時はアジト襲撃が一段落してからという事になる。
そんな状況でユウキ達が心の底から楽しめるかと言えば、答えは否。みんながゲームに求めている事は”娯楽”。その楽しみを本心から味わえないままというのは本意ではない。
加えてこのオリジンは、みんなで一からスタートを切れた初のゲームでもある。出来るだけ楽しい思い出を共有していきたいと考えるからこそ、ユウキ達はボス攻略を見送ると決めていた。
その点、俺が見送ると決めたのは自分の意志だ。
オリジンの謎のキーパーソンに違いないプレミアを保護・観察し、異変が起きた時にすぐ対処できるように備えておくのが今のミッション。武器屋のNPCをはじめ、圏外に出られるクエストNPCと知ったプレイヤーが囮などに使おうと画策しないとも限らない。既に1コルNPCと知れ渡り、リポップさせれば正常なクエストNPCが出る、キルすればレアアイテムが手に入るなどのデマが流れている現状、プレミアの傍から離れるのは得策ではない。
一番に保護を提案したからこそ、その責任は果たすべきなのだ。
「……もしかして、私が居るからなのでしょうか」
「は?」
プレミアの言葉に呆気に取られ、顔を向ける。無感情な青い瞳と視線がぶつかった。ただどうしてか、無感情の筈なのに今はどこか寂寥感を湛えているように見える。
「キリカは、私をあの黒い人から守るために一緒にいる。違いますか?」
”あの黒い人”――というのは、赤髪黒衣の剣士ジェネシスの事。現状、プレミアに危害を加えるだろう人物のトップ。あの男とはクエストNPCが反応する文言で連れ去ろうとしたところを俺が妨害して以降、敵対関係にある。圏内、圏外問わず因縁をつけてくる程に俺は目を付けられていた。
いや――厳密には、プレミアに目を付けた、だろうか。
幸いなのは、プレミアが学習、成長する知性を持っていた事だ。
ジェネシスの敵愾心を感じ取ったらしいプレミアは、『行きたい場所はあるか』という問いかけに応じなくなっていた。俺の応酬を見て『守られている』と判断し、自衛策を自ら講じたらしい。ジェネシス以外にも適用されているそれらは、先の問いかけから類推するに、俺が傍にいる限り適用されている――というより、
『キー、それはおそらく、正常な状態です』
疑問に思った俺が義姉に問いかけたところ、それは正常だ、と答えが返ってきた。
通常、プレイヤーがクエストを受けた時、クエストNPC雇い主であるプレイヤーのIDを記憶するらしい。そうする事で自分の雇い主以外のプレイヤーがクエストを進めようとしても反応しない、あるいは進行度が別の別個のクエストを発注する流れになる。
プレミアの場合、件の1コルクエストで考えるとおかしな話になる。だが《聖石》をベースに考慮するとあり得る、というのがユイの考察だった。あの石を取った事で、プレミアに本来用意されていたクエストが起動し、《キリカ》というプレイヤーにのみ適用されている可能性はあるのだという。ユニーククエストだとすれば一人にしか発注しないのも頷ける。
まあこの場合だとプレミアが自ら彼らを拒否する知恵を付けた、という推測が外れる訳だが。
しかしそんな事情をジェネシス達は知らない。ただ反応しなくなった原因として、1コルクエスト以外のクエストが起動したのだとは推測しているらしい。
一応プレミアの立場や俺がいっしょにいる理由については、《ユーミル》公式HP、《MMOストリーム》のアルゴの動画で報じられているため、リソースを独占するためでないと一定の理解は得られている。取り合いや隠蔽を危惧して《聖石》に関しては伏せているが、プレミアの状態がどういうものかは周知の事実。
その上で因縁をつけてくる者達が後を絶たない。
【カーディナル・システム】の在り方を知らない人達はリポップさせれば直るとしか考えない。彼らにとって重要なのは、今のバグによってせき止められているクエストで得られるリソースやレアアイテム。問題解決は二の次、三の次、あるいは完全に人任せ。
片時も俺から離れられない状況にプレミアは置かれていた。
それは流石に感じていたらしい。
「……確かに、それもある」
プレミアの問いに、俺は肯定を返した。
ただ、真っ向から『守っている』と認めるのはむず痒いから、少し曖昧にする。視線を前に向け、転移門に向かっている集団を見る。
「けど、行かない理由はそれだけじゃない。行かないと決めた理由の一つ。あくまでそれだけだ」
それもまた真実だ。
プレミアの謎、オリジンの謎のため。プレミアという個人を守るため。みんなと一緒に攻略するため。残る理由は数あれど、残らないメリットは一つもない。
仮にプレミアが居なくても、それでも俺はやはり見送っただろう。
あくまで理由の一つ。
それだけなのだ。
「……ありがとう、ございます」
「ああ」
礼を言われるほどじゃない、と言いそうになるのを堪える。
今のプレミアが、言葉の裏に込めた気遣いまで理解できるか分からなかったから、応じる言葉を短くした。
それから互いに口を噤む。街の喧騒が聞こえてくる中、すっかり食いしん坊になった少女が腹を鳴らすまでその静寂は続いた。
それは唐突だった。
V-tuberとしての活動に区切りをつけ、オリジンにログインした頃にはリアルのメンバーも多くがインし、宿で思い思いに過ごしていた。キリカとプレミア、リーファ、ストレアもラウンジの席で軽食を口にしており、私もなにか食べようと相席した。
そこでプレミアが、お願いがあります、と口火を切り、頼みごとをしてきた。
「は? 戦闘を……?」
寝耳に水だったのか、キリカが呆気に取られていた。どうやら彼に相談したという訳ではないらしい。
「プレミアさん、なぜそんな事を?」
「以前、キリカとユイとストレアと一緒にピクニックに行きました。湖はとてもキレイで、お弁当も美味しくて、また行きたいと思っています」
そこまで珍しく表情を柔和な笑みに変えながら言った彼女は、ふと眉根を寄せた。
「ですが……外にはモンスターや、怖い人が居ます。今の私には、ただ『走って逃げる』を実行する事しか出来ません」
「つまり自分の身は自分で守りたくて教えて欲しいと?」
金髪の妖精リーファが問うと、プレミアはこくりと頷いた。
私は純粋に、すごい、と感嘆した。
感情データを集める事に特化し、精神的同調を義務付けられていた私やストレアと違い、彼女に積まれているAIはオリジン特有の高性能なものだとしても、それでもMHCPのそれよりは応用力に乏しいものの筈だ。更にバックボーンが全て白紙の状態。完全に一から自我を育てていく状態にあった彼女が、短期間でそこまで精神的な成長を見せるとは思わなかった。
あるいは、白紙だったからこそ、なのかもしれない。
ある程度システムに縛られている他のNPC達と違い、彼女は自由度が増している。過去が無いからこそ現在、そして未来を見て行動する。
今の彼女は現在の状況を鑑みて、何が必要かを考え、そして選び取ったのだ。おそらく非戦闘系ながら、戦いへの道を踏み出した。その決断力はただのNPCには持ちえないものである。
その可能性を潜在的に秘めているアイングラウンドのAIは、私達の予想を超えるかもしれない。
――あるいは……キリカの影響、でしょうか……
横目で黒衣黒髪の剣士を盗み見る。髪を一つに括った彼は、
つまり、キリカも瞋恚を発し、プレミアに変化を齎している。
ホロウの例があるから無いとは言えない。キリトも予想していた事だ。
「いいんじゃない? プレミアちゃん自身がやる気なんだし、アタシは協力するよ!」
「あたしは対人戦が基本だし、使える武器種も少ないしなぁ……」
真っ先に賛成したのはストレアだった。同じAIとして成長を喜ばしく思っている彼女は、プレミアが自ら進んで何かをする事に賛成のようだ。
リーファも賛成らしいが、教える側になるのは珍しく引け腰になっている。まあ彼女の指導は義弟達やユウキ達曰く”スパルタ”らしいので完全初心者の彼女に向いているとは確かに言えない。
そこで、シノンが近付いてきた。
「なんの武器を使うかならキリカが適任じゃない? 一番色々な武器に精通してるのは確かだし」
「そうなのですか?」
「ええ。私が武器を決める時も、彼に教えてもらったのよ」
「あ、あたしもソードスキルの扱いは教えてもらったわ。レベリングも見てもらったし、凄く分かりやすいわよ」
「なるほど」
ふむ、と頷くプレミア。視線を向けられたキリカは、やや諦めたように苦笑を浮かべた。
「やる気だなこれは……わかった。まぁ、じっくりやっていこうか」
「はい。よろしくお願いします」
ぺこ、とプレミアが頭を下げる。
ここにまた一つ、新たな師弟関係が生まれた。
・プレミア
絶賛成長中のAI
『守られるだけはイヤ!』という事で自衛手段を求めているNPC。四六時中ずっとキリカが傍にいるせいか、クエスト発注をキリカにしかしなくなってしまった(原作ブレイク)
まだプレイヤーに直接危害を加えられてない(原典ではブルーカーソル説明イベントで襲われる)
・キリカ
プレミア親衛隊隊長(違)
黒猫団壊滅、リーファ・シノンのトラウマを解消し切れておらず、思想もかつてのままなので『守る』事に執着を見せている
今話でプレミアの師匠になった
まだ『C』からのメッセージについては話していない
・桐ヶ谷和人
約束されたハーレム(強制)の主
アジトを襲えば別のアジトの情報が手に入り、を毎日繰り返してるせいでここ数日ずっと夜は襲撃に出掛けて忙しい。休めるのは現場移送中の二、三時間ほどだとか
・仲間達
別名、和人の保護者勢
オリジンには娯楽を求める&和人の負担軽減を目的でインしている。目下問題のプレミアをキリカ達が請け負ってるので、現在はレベリングとクエスト消化中
楽しそうなものは和人と一緒にやるために取っているとか
一レイドの半分くらいだが、間違いなくエリアボスも倒せるオリジン最大戦力
現時点で未だ《SA:O》のNPCが死ぬとどうなるかを誰も知らない(原典だとプレミアが戦闘指導を願う時点で発覚済み)
では、次話にてお会いしましょう