インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 字数少ない代わりに投稿頻度上がったから許して……?

視点:キリカ、ユイ

字数:約五千

 ではどうぞ




第十二章 ~黒の因縁~

 

 

 洞窟内部。

 マッピング済みのデータには無い回廊が出現し、その先の広間に待ち構えていた敵《スケルトン・ソルジャー》を倒した後、俺、ユイ、ストレア、そしてプレミアとで更に道を進んだ。

 そして最奥に辿り着く。

 

「これは……神殿、でしょうか」

 

 自然的な洞窟の中、突如として整然と石材を組んで作られたと思しき光景が出現した。それを見たユイが印象を口にする。

 実際、その印象は俺も思ったものだった。回廊の左右は、まるで棺を立てかけたかのようなサイズの出っ張りが均等に並んでおり、そこには道を照らす紋様が浮かんでいる。見方によっては不気味だが、然るべき外観を伴っていれば正しく神殿と呼ばれるのに相応しい内装だ。

 その最奥に、数段の階段があった。上った先には台座があり、その上には緑色の石が置かれている。

 プレミアの視線はその石に固定されていた。

 

「プレミア。あの石を、目指していたのか?」

 

 誘導にならないよう、静かに問う。

 

「……分かりません」

 

 だがプレミアは、静かに瞑目しながら頭を振った。どこか消沈したような素振りを見せているのは、『初期設定なし』というバックボーンを、本人は『過去を思い出せない』『いつか思い出せるかもしれない』と捉えている事に起因しているだろう。

 俺達も根本的な原因まで分かっている訳ではないため敢えて触れる事はせず、四人で階段を上っていく。

 

 ――祭壇を前にした時、プレミアが動きを見せた

 

 徐に胸の前で手を組み、祈りを捧げ始めたのだ。

 おそらくNPCに課せられたルーチンに入ったのだろう、と俺達は静観の構えを取る。

 

「石が、光り始めた……?」

 

 祈り始めて程なく、祭壇で浮いている石が眩い光を放ち始めた。徐々に輝きを強くし、一際強く光った後、その勢いを鎮めていく。

 同時、石がプレミアの方に動き始めた。

 それを両手で掬ったと同時に、石の光がまた強くなった。ゆっくりと、まるで鼓動する心臓のように明滅を繰り返す。

 

「プレミアに反応しているって見ていいのかな、これ」

「多分な……プレミアの素性に関係があるのかもしれない」

 

 キレイです、と呟くプレミアを見ながら、俺とストレアは意見を交わす。

 何らかの重要イベントらしき事態が起きた事、またこの洞窟のマップにないエリアが現れた事に、プレミアは確実に関係している。おそらくNPCとしての彼女に本来付随する『なにか』が此処だ。十中八九、未実装か未完成のクエスト関連。

 未実装、未完成ならプレミアの設定が全て無かった事にも説明が付く。

 なぜ動き始めたのか、という根本の原因が分からず、それに関連しているだろう事案が増えたのもそれはそれで問題な気がするが……

 

「あ……光が、収まりました」

「そのようです」

 

 思案している間に、今度こそ石の光は収まったようだ。

 暫く考え込んでいる様子だったプレミアが、ふとこちらに近付いてきて、両手で石を差し出してくる。

 

「どうぞ」

「え……いきなりどうした」

「私の我儘を聞いてくれました、そのお礼です。なのでどうぞ」

 

 ずずい、と更に突き出してくる。

 その姿はエスコートクエスト達成時、報酬の一コルを渡してくる姿とまるっきり同じ。つまり今回の洞窟探索もプレミアはクエストと考えているのか。

 プレイヤー的に考えると、明らかに重要アイテムらしき石は確保しておきたい。深刻に捉え過ぎて遊びが遊びでなくなる俺も、流石に限定イベントへの欲求まで枯らした覚えはないのだ。

 しかし、俺は首を横に振った。

 

「いや、それはプレミアが持っておくといい。多分所縁(ゆかり)のある物だ」

「そうですか」

 

 少し考え込むように視線を落とした後、他の二人にプレミアは視線を向けた。言葉こそないが、なぜ自分たちを見たか察したらしい二人も首肯を返す。

 それを受け、プレミアは石を袖に仕舞い込んだ。

 その後、再び俺に向き直る。少し困っているようにも見えた。

 

「では、どうすればいいのでしょう」

「これくらい気にしなくていい。そんなに大変だった訳じゃないんだ」

 

 これは本音だ。

 一度は戦闘もあったが、死闘というほどギリギリだった訳でもないし、俺が負けても俺より強い義姉が二人控えていたから気持ちは楽だった。それ以外だとただ探検をしただけ。水遊びの延長線上のようなものという認識だ。

 問題は解決していないが、手掛かりになりそうな情報も増えた。

 

「ちょっと変わっているけど、ピクニックのようなものと思えばいい」

 

 俺もさっきの食事と水遊びが人生――いや、AI生初のピクニックだったから偉そうなこと言えないが、そこは言わないでおく。

 

「ピクニック……? ピクニックとは何ですか?」

「散歩して、好きなところで景色を楽しみながら御飯を食べて、遊んで……そういう事をピクニックと言うんだ。この洞窟探検も散歩の一環だな」

「……途中、戦いがありましたが」

「外を出歩けばそういう事もある」

 

 というか戦いたくないプレイヤーがピクニックするなら湖畔公園の芝生でするだろう。

 それに弱いモンスターしかいないとはいえ、わざわざピクニックをしようとするプレイヤーなんてかなり少数派の筈だ。レベリングに血道をあげる人なら、料理スキルやピクニックなど時間の無駄と唾棄し、見向きもしないのは目に見えている。《SA:O》のβテストを自力で掴み取ったのはかなりのゲーマーだろうし、その傾向は顕著の筈だ。

 それが分かるのは、かつての俺がそう考えていたからだ。秩序維持のためスキルこそ鍛え、時に仲間内でパーティーを催していた俺も流石にピクニックはしなかった。いつ命を狙われるか分からず、それ以上に攻略に不要と判断していたのである。

 ……そう考えると今の俺のライフスタイルは相当変化している。

 プレミアの保護、情報収集が至上命題とは言え、かつては時間の無駄と考えていた事をしている。精力的な情報収集に走るのが”俺”らしいというのに、かなりの変化だ。

 

 ――オリジナルはどうなんだ……?

 

 そこで、自分に限りなく近い他人の存在が浮かんだ。

 理論上寿命や死が存在しない俺と違い、あちらはそれを明確に意識している。そんな”俺”が、今の俺のように余暇に時間を割くような事があるのか、気になり始めると甚だしい疑問に思えてくる。

 その懸念を、義姉や仲間達は常に抱いているのだろうか……

 

「――ともあれ、他に何も無さそうだし外に出よう」

 

 それらを胸中に仕舞い、そう促した。

 

***

 

 来た道を戻り、早々に外へ出る。

 然程時間が経っていないから日はまだ高い。それに加え、真夏の熱波と湖の照り返し、そよ風程度でかなり暑く感じた。洞窟の中がかなり涼しかった反動だろう。

 

「暑いです……」

「だねぇ……」

 

 ぐでっと肩を落としたプレミアに、ストレアが同調する。片や感情表現が乏しく、片や豊かな二人だが、意外にも気は合うらしい。

 まぁ、ストレアと気が合わない人の方が少なそうだが……

 

「よォ、こんなトコで奇遇だな」

 

 ――男の声がした途端、場の空気が張り詰めた。

 ストレアがプレミアを守るよう位置取りをする。その前で、私とキリカが剣の柄に手を掛ける。

 声がした方を向いた私達が見たのは、ふてぶてしさを前面に押し出した男プレイヤーだった。

 逆立った赤い短髪と、こちらを睥睨する鋭い双眸。野獣を思わせる荒々しい雰囲気が放たれていた。黒を基調にした袖なしのレザーコートとズボンは、ところどころを暗い紅が走り、銀色の金具を垂らしている。その背中には身の丈に迫る巨大な両刃剣。

 頭上のカーソルはグリーンなので、犯罪者ではない。

 現状SAOのカルマクエストに相当するリカバリー手段が無いため、安易にプレイヤーやNPCに手を出す人はいない筈だが、絶対ないとは言い切れない。対人戦を好む輩はむしろ率先してオレンジになる確信が私にはある。

 そして目の前の男はその”オレンジになるのと厭わない”タイプの人間だと、半ば確信に近い予想が立っていた。

 一応あちらが武器を手にしてないので、こちらも抜剣はしていない。

 とは言え空気は一触即発には変わりなかった。

 

「お前は?」

「俺の名前はジェネシス。”SAOの黒の剣士サマ”に、一言アイサツをと思ってな」

 

 見つけたのはホントに偶然だが、とジェネシスが言う。

 多分、それは本当だ。明らかに店売りでない両刃大剣、防具を持つこの男は、恐らく《SA:O》でもトップを直走る類のプレイヤーだと予想される。

 雰囲気からマナーレス行為をしていないとは思えないが。

 

「……生憎だが、人違いだ。俺はキリカ。アンタが言うのはキリトの方だ」

 

 ……彼の言葉を聞いて、言語化し難いものが胸中に沸き上がった。

 それは押し殺す。

 

「あァ?」

 

 最初は何を言ってるんだ、と言いたげな睨みを向けてきたが、すぐに思い立ったようで、ああ、と納得の面持ちになった。

 

「そうか。テメェ、偽物の方か」

「――――ッ!」

 

 だが、男のその言葉に対して沸き上がったものまでは、押し殺す事は出来なかった。ぎり、と奥歯を強く噛む。

 ニセモノ、などと。

 それはこの子にとってタブーそのものであるというのに。

 それをこの(ニンゲン)は――――

 

「せめて”そっくりさん”くらいにして欲しいな」

 

 ――瞬時に燃え上がった激情は、しかしキリカの言葉で一気に鎮まる

 横を見れば、彼は苦笑交じりの顔で腕組みをしていた。胸中を推し量る事は出来ないが、しかし――――笑って流すくらいの余裕が見て取れる。

 悲しそうな、その上で黙るかつて(スレイブ)の陰は無かった。

 今のやり取りで瞬時に理解した。もうキリカは、《桐ヶ谷和人》としての立場に執着していない。未練はあるのかもしれないが、一個の新たな生命として歩む事を受け入れている。

 そうでなければ。もしも執着し続けていれば、今の言葉を流す事は出来なかった筈だから。

 ……成長しているな、と。

 私は、激情と入れ替わるように安堵と歓喜を抱いていた。

 

「チッ、モブには用は無ェ……――――ァあ?」

 

 苛立ったように吐き捨てる、そこでジェネシスの眼が不意に止まった。

 その視線が私とキリカの背後、すなわちストレアとプレミアに向けられている事を悟る。状況的に、どちらに意識が向いているかも。

 

「そいつ……役立たずって噂の一コルNPC(モブ)じゃねェか。なんでテメェらが連れ歩いてる?」

「アンタに話す義理は無いさ」

「ほォー……」

 

 ぴりっ、と更に空気が張り詰める。

 まさかこのまま斬り合う事に――と危惧した、その時。

 

「おい、そこのNPC! ()()()()()()()()()()()()()?」

『ッ?!』

 

 ジェネシスがそう言った。

 その意図を理解した私は、ストレアと同時に息を呑む。男が発した言葉が、クエストのトリガーとなる基本的なフレーズだと理解していたからこそ、それを利用してプレミアを連れて行こうとしているのだと。

 それを証明するように、プレミアの頭上にクエスト発生を示すサジェスチョンマークが出現した。

 

「クエストが発生したから、そいつは借りていくぜェ」

「ま、待ちなさい!」

 

 一歩こちらに踏み出した男の前に割り込む。

 女性の中でも比較的長身な私より頭一個分さらに高いジェネシスが、間近で見下ろしてくる。

 

「おいおい、なんか文句があんのかよ? クエストNPCをどうしようがプレイヤーの勝手だろ? そもそも邪魔するってのはルール違反だぜ?」

 

 そう言って、私を無理矢理横に退ける。お互いグリーンだからこそ力尽くの手段に出られない事を逆手に取られ、こちらも強行手段に出られない。

 

「――連れていく必要は無いだろう」

 

 そこで、キリカが言った。ジェネシスが足を止め、振り返る。

 

「確かにクエストが発生した以上、クエストNPCを連れていくのを邪魔するのはルール違反だ。だが……」

 

 言いながら、キリカが腰から剣を抜く。やる気か、とジェネシスが背中の大剣の柄に手を掛けるが、こちらを向かない少年の様子に怪訝な視線を飛ばした。

 こちらに背を向けるキリカの前で、三体のフレンジーボアがポップする。

 

「俺達のクエストが途中なのに割り込むのもルール違反だし、そもそもプレミアの目的地もここらしい」

 

 ――直後、彼の姿が(けぶ)った

 黒い稲妻が迸る。ポップしたばかりのイノシシを中継点として走ったそれが、道中の敵を一撃で絶命させた。三重の断末魔と爆散の音が響く。

 遠間でこちらに振り向いたキリカが、胡乱な様子で言う。

 

「そして、これでクエスト達成だ。報酬の一コルを貰ってさっさと消えろ」

「テメェ……」

 

 苛立ち混じりの、戦意満載の笑み。戦闘狂を思わせる表情でジェネシスがキリカを睨む。

 ――これでキリカも、ジェネシスに狙われる事になる

 これが、彼らの因縁の始まりになった。

 

 






・光る緑色の石
 飛行石(違)
 プレミアが祈る、触れると光ったが、現在はただの緑色の石。ただ内部に緑色の光が渦巻き続けている
 ちなみに漫画版だと安置されているが、ゲーム版だと本当に宙に浮いている
 漫画版では石取得後に中ボス戦だったが、今回は原典ゲームの取得前のMob戦になっている。そのためキリカ達が大量の経験値を得る事は無かった


・ジェネシス
 大剣使い
 《ホロウ・リアリゼーション》に於ける重要な敵キャラ
 【創世記(ジェネシス)ウィルス】とかソルジャークラス1stのジェネシスさんとは無関係

 ――仮に秋十が生存していた場合、ジェネシスの中身は高確率で秋十になっていた
 つまり死亡している本編では……
 ウム、そういう事だ(原典から目逸らし)


・キリカ
 キリトのそっくりさん
 断じて偽物ではない。そう思える程度には、《キリカ》としての時間と思いを積み重ねてきた
 本人は弱いと批評しているが、基が《キリト》である
 弱い訳が無い
 これまでのキリカは両手剣縛りだったので、常に全力と奥の手、必殺技を封印された状態に等しかっただけである
 オリジナル同様、自己評価の低さを継承している


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