インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 《SA:O》描写してると、やっぱ《SAO》に似てくるんだなぁって……

 《SA:O》初のマトモな戦闘。なので原作一巻に似せています

視点:キリカ

字数:約九千

 ではどうぞ




第十一章 ~育つ者達の冒険~

 

 

 八月四日、午後二時。

 昼食の後、流れるようにユイが即行で作り上げた水着を身に着けた俺達は、巨大な湖畔で水遊びに明け暮れた。

 湖畔は岸辺なら脛の辺り程度の浅さだったが、十メートルも奥に行けば途端に頭まで浸かっても足が付かないほどの深さになっており、プレミアへの注意は殊更気を付けた。感情に乏しい少女の思考や行動は未だに把握し切れていないため、一瞬でも目を離した隙にどこかへ行ってしまいそうな不安があったのだ。

 とは言え、その不安はほぼ杞憂であった。

 同じ事を考えていたらしいユイ、ストレアも、必ず誰かひとりはプレミアの傍にいる事を示し合わせていたからである。予想通り三人とも泳げなかったので、泳法を教えている間、常にだれか一人はプレミアの隣にいた。索敵スキルも併用してMobやプレイヤーの接近に留意していたが、俺達のそんな心配とは裏腹に、水遊びの間は至って平穏な時が過ぎたと言える。

 休憩のために切り上げ、岸に上がった俺達は体が冷えないようにとまたすぐにユイが作ったタオルで体を拭き、コートなどを羽織り、レジャーシートの上で休息を取る事にした。

 とは言え、そのシートはいまプレミアが一人で占領しているのだが。

 

「はふ……疲れ、ました……」

 

 はふ、はぁと疲労気味に息を荒げるプレミア。初めての水泳はかなり疲れたらしい。この世界のアバターに筋疲労などの疲労パラメータは存在しない筈だが、これまでにない運動をした気疲れから来ているのかもしれない。

 まぁ、疲れても無理はないと三人で苦笑する。

 食事をはじめ、あらゆる体験が初となるプレミアは好奇心の赴くままに動き回るため、最低限溺れないようになってからは全力で遊び回っていた。具体的に言うと水掛けでムキになっていた。

 尚、俺対ユイ、ストレア、プレミア連合軍の勝負だった。

 この中で下から二番目に低いレベルの俺が一人とかちょっと酷くないかと思う。

 

「あー楽しかった! またこうして遊びたいねぇ!」

 

 そんな俺の不満なぞ知った事かと快活にストレアが笑う。口にしてないから伝わる筈もないが、その輝かしい笑顔にちょっとイラッと来たのは悪くないと思う。

 楽しかったのは否定しないが。

 

「……今度はせめて俺をソロにするのはやめてもらいたいがな」

 

 レベル差、というのは中々絶望的である。俺の倍以上のレベルを有するユイとストレアは、そのぶん基礎ステータスや筋力値が高い。力が強いという事は、水をすくった時の波がより大きくなるという事でもある。

 自分より体格が大きく、筋力値も上回っているのが二人も相手チームにいるというのは、中々の苦行だった。

 

「しかし平然と水上、水中で動けていたように見えますが……」

「ねー。特に水中の高速移動、何アレ、どうやってしてたの?」

 

 俺の苦言に、義姉二人が反論してくる。どうも水上戦、深いところに追い詰められた時の水中戦に不満があったらしい。

 

「……まぁ、昔に色々と」

 

 水中高速移動というのはかつて攫われた研究施設の生き残りを掛けた殺し合いで体得した技術だ。地味にヴァサゴの教導も含まれているが、そこから実戦で進化させたものである。名前は特にない。

 SAOではデスゲーム版第四層で水上戦が多く、船から落とされれば水中活動を余儀なくされたため、イヤでも慣れなければならなかった。《水泳》スキルを取らずに活動していた俺が最前線で活動できたのも、研究施設時代に培った経験があったからこそ。

 とは言えその辺の経緯を話す必要性は低いため、適当にお茶を濁すことにした。

 ――そこで索敵スキルに反応が現れる。

 さっと立ち上がり、背後に向き直る。同時に装備タブを操作。羽織っていたパーカーと入れ替わるようにコートを纏い、そのあとシャツとズボン、アニールブレードを装備する。

 

「敵ですか?」

「一体な。反応も弱いから、俺だけで十分だ」

 

 装備変更中にマップを確認し、カーソル色から敵の強さを算出していた俺はそう言って一人林の方へ歩を進める。そもそも第一エリアでも最初のフィールドだから、この辺を闊歩しているMobのレベルは1~5がせいぜいである。ユイ達が相手しても、ロクに経験値を得られないのは目に見えていた。

 それなら同レベル帯の俺がソロで相手をする方がいいと判断したまでの事。

 ……水遊びは今日はいいかな、と思っていた訳ではない。断じてだ。

 

 

 林でポツンと孤立していたのは《リトルネペント》だった。レベルは4。アイングラウンドは勿論、アインクラッドでも苦い思い出があるそれは、このフィールドの林周辺に生息する種類である。

 同レベルとは言え、既にこの辺ではトップクラスの剣を手に入れているため、攻撃力は申し分なし。

 不意打ち気味にブーストした(ホリ)(ゾン)(タル)で弱点の茎部分を一閃、即死させる。ぐぐっとEXPバーが伸びるものの、レベルアップにはまだ少し足りない。

 スキルツリーを見ていけば、かつての廃レベリングが嘘のような低熟練度値が並んでいる。というよりほぼ手を出していないから数字はゼロが多い。自然、使えるスキルもかなり少なくなっている。プレミアやこの世界のNPCの事を留意するのもいいが、不測の事態が起きた時、戦力外にならないようある程度のレベリングはしておくべきかもしれないと感じた。

 

「……今夜、軽くレベリングするかな」

 

 俺達AIに、人間のような睡眠はあまり必要ない。それでも人間時代の名残から生活習慣が残っていて、それに倣うように義姉達も食事と睡眠を取っている。食事に関しては完全な娯楽だが、睡眠の場合、情報・記憶整理の際に受容する情報を遮断することで能率アップを図る意図がある。休眠状態に入った方が混乱しにくくなるよ、という程度のものだ。

 成り立ちが異なる俺の場合、精神的疲労の回復も含んでいるから最近は睡眠を取っているが……

 人間時代と違い、なにも睡眠が必須という訳ではない。ましてや生身の肉体限界が存在しないのだ。一日、二日の徹夜で大きな支障が出る筈もない。

 今日中に情報屋から、レベリングに適した狩場の情報を買うことを予定メモに記載する。

 そうしながらユイ達の下に戻った時、なんとも微妙な空気を感じ取り、意識をメモから外した。

 

「プレミアさん、どうしたのですか?」

「プレミアー? そっちは洞窟だよー?」

 

 水着姿の義姉達が呼びかける中、我関せずとばかりにずんずんと迷いなくプレミアが歩いている光景が眼に入った。彼女の視線の先には、ストレアが言ったように洞窟が存在している。

 ちょっとした丘をくりぬくように出来上がった洞穴。

 マップ上では、いちおうダンジョン扱いになっている。とは言えマップ情報は仲間内で共有されているから探索済みになっているが……

 それよりも、気になった事が一つ。

 それはプレミアの様子だった。こちらに頓着しないで進む様は、以前クエストを終えた後ひとりで街まで帰ろうとした時の様子を想起させる。”NPCとしてのルーチンに入った”とでも言うのだろうか。

 

「プレミア、あの洞窟が気になるのか?」

 

 駆け寄り、俺が問いかけると、プレミアは無言のままこくりと頷いた。

 水色の瞳は、どこか茫洋としている。

 ”プレミア”という自我が希薄に感じられた。

 

「……二人とも、バカンスはここまでだ」

「そうですか。残念です」

 

 俺の判断に、然程残念そうでない様子でユイが微笑み、肩を竦めた。隣に立つストレアも、「ざんねーん」と言ってはいるがそれ以上の文句を口にしていない。流れるような動きでメニューを繰り始めた。

 咄嗟に洞穴に視線を戻す。

 

「……せめて一声掛けるか、茂みに入ってから着替えて欲しいんだが」

 

 どうにか口に出来たのは、そんな苦言だけだった。

 あらゆる手順が簡略化されている仮想世界に於いて、着替えという行為も例にもれず、実際に脱いだり着たりの動作があるわけではない。ステータスウィンドウの装備フィギュアを操作するだけで済む。しかし着衣変更の数秒間――近年短くなっているが、それでも一秒前後――は下着姿、ものによっては裸体を晒す事になるため、男女問わず人前で着替え操作をする事はまず無い。

 今回、ユイとストレアは水着から着替えを行った。普段着、戦闘衣装に変わる場合は下着と変わり、その上に衣類と武具を纏う形になる。

 つまり今の操作だと二人は完全な裸体を数瞬晒す事になる。

 センシティブ表現の規制が厳しいVRMMOにも抜け道は存在していて、これはその一つとなっていた。まあ本格的に危ないところは《ディティール・フォーカシング・システム》を利用する形で視界を暈すよう働くとは思うが……

 

「キーリカー、なにエッチな妄想してるのー?」

 

 諸々の懸念を抱く俺に、そう揶揄ってきたのはストレアだった。肩を組んできた薄紫の大剣使いにじろりと視線を送る。にまにまとした笑みは、それでも崩れない。

 

「言っとくけどキリカのそれ、完全に早とちりだよ。だってアタシ達、先に服と防具を装備して、それから水着と下着を入れ替えたんだもん」

「……」

 

 どうやらストレアは、俺の懸念をしっかり理解していたらしい。そしてその上で早とちりだと言う。

 振り返り、黒ずくめの義姉に目を向ける。本当なのか、と。

 言葉はない。ただ、にこ、と温かい笑みを向けられた。それが何よりの答えだった。

 

 

 プレミアにも着替えてもらった後、俺達は四人で洞穴の中に足を踏み入れた。

 既に攻略済み。しかも第一エリア最初のフィールドという事もあり、道も単調な上にMobすら出てこない状態で、ほぼ遠足の延長線のようなものになっていた。索敵スキルにも反応がないから過剰に気を張らなくていいのがそれに拍車を掛けている。

 無論、トラップの類も見られない。過去にはあったのかもしれないが、おそらく解除されればそれっきりの単発式だけだったと思われる。

 そんな、遠足や見学と間違いそうになる道すがら、事件は起きた。

 

「あうっ」

「がっ?!」

 

 まず最初に、ずべしゃっ、とプレミアが足を滑らせて転倒した。

 続けて上がった声は俺のもの。こける際に前を歩いていた俺のコートを鷲掴み、そのまま引き倒す形になって床に後頭部を強打する事になっていた。

 

「……これで三回目だぞ」

 

 それが既に三回起きている。何れも、こける度に俺のコートを掴むから巻き込まれていた。

 今回は当たり所と勢いが良かったからかHPバーも端っこが僅かに削れていた。ちょっとだけ出っ張っている床にぶつかったのかもしれない。

 ともあれ近くに湖畔があって湿気りやすい環境とは言え流石にこけ過ぎである。

 

「……うっかりしただけです」

 

 恨めしくプレミアを見れば、ぶすっと不貞腐れた様子で言葉を返された。

 そもそも体格的に一番軽い俺のコートをなぜ掴むのか……ユイやストレアであれば、引っ張られても微動だにしないだろうに。

 

「二人とも、大丈夫ですか?」

「ちょっと体力が削れたけど……まぁ、一応は」

「私も平気です……滑ったのは私のせいではありません。洞窟が悪いんです」

 

 言いながら更に奥へ進もうとするプレミア。その三歩目で踵が前に滑り、俺と同じこけ方をした。これで四度目の転倒である。

 むくりと体を起こしたプレミアは、ぶすっとした面持ちで言葉も発さずすぐ立ち上がった。

 

「なぁ、とりあえず今日は帰った方がいいんじゃないか。水泳初体験のせいか足元がおぼついてないように見える」

 

 まだ進もうとする彼女を諫めるつもりで提案する。だが、プレミアにそれを聞き入れる様子は無く、覚束ない足取りのまま洞窟の奥へ進もうとしている。

 この洞窟の構造は極めて単純。大部屋一つと小部屋二つ、それらを繋ぐ回廊という造りで、隠し回廊とかがある訳でもない。

 ――無かったはず、なのだが

 

「えっ……? ちょ、ちょっと待って下さい。現在地、マップからズレてませんか?」

「なに?」

 

 慌てたように言うユイに、俺とストレアは揃ってメニューを開き、現在地の確認を行った。すると確かにマッピング済みのエリアから外れたところ――つまり、本来なら『壁の中』に該当する部分に、俺達の(ブリ)(ッツ)が存在している。

 どうやら俺達は知らぬ間に隠し通路を見つけ、そこに入っていたらしい。

 

「本当だ……だが、いつギミックが……? 二人とも、何かしたか?」

「いえ、私はなにも……」

「アタシはそういうスキルも育ててないからなぁ……」

「能動的解除じゃないのか……」

 

 まだ序盤だったから罠看破、鍵解除、鑑定などのトレジャーハント系スキルが育っていなかった可能性はある。事実レベリングを怠っている俺はそれらを一切育てていない。では残る二人なのかとも思ったが、どうやら違うらしい。

 消去法でいくと、俺達はなにか条件を満たし、それに応じて隠し回廊が解放されたという線が濃厚だ。

 

 ――そして、その”条件”は……

 

 ふと、気付けば十メートル以上先に進んでいるプレミアの姿に目を向ける。

 他のプレイヤー達と明確に異なると言えば、彼女の存在の有無と、俺達が元はカーディナル・システムの配下であった事の二点。しかし現在はプレイヤーアバターのコンバートでプレイしているので後者が要因となっている線は薄い。

 かと言って、プレミアの存在が鍵になっているのもあり得るのだろうか?

 

 ――全て未設定のまま動き出したNPC

 

 ――それと出会った時、送られてきたあの”メッセージ”

 

 ――そしていま足を踏み入れている謎のエリア

 

 正式なエリアなら、そこが喩え隠し部屋だろうがマッピングされるのがこれまでの常識だった。カーディナル・システムを使っているならそのルールは《SA:O》になろうと変わっていない筈。だというのにこの回廊がマッピングされていないという事は、本来踏み入れられないエリアと考えられるのではないか。

 《ホロウ・エリア》と異なる、本来不可侵のエリア。

 それは仕様上存在し得ない空間。

 そう考えると、”本来あり得ない状態”という意味ではプレミアとこの空間に共通点がある訳だ。前者は設定が空白、後者はマップデータの未実装。

 まだ確証は無いが……これら全てがカーディナル・システムによるものだとすれば、意図は不明だが辻褄は合う。だとすればプレミアの行動を見続けていれば何れその核心に辿り着くだろう。

 

「追いかけるぞ。考察は、後でも出来る」

 

 止めていた足を動かし、かなり先まで進んでいたプレミアの後を追う。迷いのない歩みは頼もしさすら覚えるが、周囲の索敵はおろか、そもそも身の危険を考えているのかすら怪しいので過信は禁物だ。

 三人でプレミアの下まで走り、追い付いてからは並んで歩く。

 ――暫く進むと、広間に出た

 ドーム状に開いたその空間の中央に人影がある。プレイヤーではなく、人型のMob。動植物がメインの草原エリアにはそぐわぬ剣士タイプのスケルトンだった。

 《Skeleton Soldier(スケルトン・ソルジャー)》。直訳で骸骨兵士となるそれは錆びついた直剣を一本携え、禍々しい瘴気を胸骨の内側――人間なら心臓がある部位――から吹き出し、暗い眼窩を向けてきている。レベルは10。頭上のカーソルはやや暗めの紅だ。

 表示されている数字、カーソル色からして俺より明らかに格上だ。

 

「キリカ、アレは……」

「俺が出る。少しは強敵とやり合わないとな」

 

 有無を言わさないように被せて言う。

 俺からすれば格上でも、ユイ達にとってはやや弱い部類に入るモンスターだ。相手をするなら二人の方が確実で安全だ。しかし、プレミアを守るという点を考慮すれば、増援を懸念して最大戦力を控えさせる方が理に適っている。

 ――立場、逆転か……

 僅かに、苦笑。

 昔は自分の方が強かった。レベルも、経験も、肩を並べる事こそあれ『守る』立場は俺だった。それがいつの間にか逆転していて、その役割は義姉のものになっている。

 まぁ……それは、仕方ない事なんだろう。

 人は変わる。一から学び、成長していく。そうしてユイは強くなったのだ。

 彼女の頑張りを知っているからこそ。

 嫉妬なんて、浮かばなかった。

 抱く思いはただ一つ。

 

「――行くぞッ!!!」

 

 負けられない、という思いだった。

 

 

 錆色の剣に、鈍色の刃を合わせる。ギャァン、と空気を震わせながら互いの刃が弾かれた。

 反動に逆らわず、後方にステップ。

 直後、返す刃で振るわれた剣尖が迫り、俺の左肩を浅く抉った。

 

 ――思ったより、強い

 

 それが、眼前に立つ骸骨兵士の評価だった。俺と同じ片手剣一本のスタイル。それでいて、モンスターとしての体躯と痛みを感じないアンデッド系の特徴を活かしたパワースタイルという、今の俺とは真逆の戦法。低レベル、低熟練度の俺には聊か分の悪い相手と言えた。

 喩えるなら格上のフィールドボスに敏捷特化のダガー使いとして挑む、とか。

 感覚としてはそれに近い。性能が高いアニールブレードのお陰でダメージは入る――が、それも全て、微々たるものになっている。後隙があるソードスキルの使用を控えているせいだ。

 反対にこちらが一撃貰えば、俺の命の残量は五分を割る。

 素直に頼めばよかったか、とちらりと弱気な考えが浮かんだ。

 

「はっ……」

 

 その考えを、空気を吐き出すと共に彼方へ追いやる。

 らしくない、と心中で笑う。オリジナルには劣るが、それでも別れる前はこれより絶対的な戦力差を前にして戦い続けてきたではないか。この程度で臆してどうする、と自らを奮い立たせた。

 俺は右手に握った両刃直剣を、体の正中線にぴたりと構える。

 対するスケルトン・ソルジャーも、右手の両刃直剣を引いた。

 薄暗い洞窟の広間にどこからか冷たい風が吹き寄せてきて、俺の髪とコートを揺らす。

 ――一瞬、前髪が視界を遮った

 

『グルァッ!』

 

 それは偶然か、あるいは狙っての事か。視界が遮られたその瞬間、怨念に満ちた方向と共にスケルトン・ソルジャーが地を蹴った。数メートルの遠間から直剣が鋭い弧を描き、襲い掛かってくる。空中には鮮やかなペールグリーンの軌跡が眩く輝く。

 《片手剣》単発突進技、《ソニックリープ》。

 ブーストさせれば最大射程十メートルをコンマ数秒で詰める低威力ながら隙が少ない優秀な突進剣技だ。過去、幾度となく愛用した技である。

 ――よって、その軌道も予測済み

 《片手剣》カテゴリのスキルの内、ペールグリーンに輝くものはソニックリープただ一つ。その刃は斜め上段から斜めに振り下ろす軌道を描く。突進距離と速度こそ恐ろしいが、単発スキルだからこそ見切りやすくもある。

 つまり剣を構えた時、その剣が左右どちらにあるかを気にすればいい。

 そしてスケルトン・ソルジャーの剣は体の右から振りかぶられている。そのまま受ければ、俺は左肩から右腰までバッサリと斬られる軌道。

 それらの分析が沁みついている俺は、半ば反射の域で体勢を低くしながら左寄りに駆けだしていた。一瞬後、右肩に掠れるように刃が通過する。ダメージは無し。回避成功だ。

 

「――せあっ!」

 

 掛け声と共に右手の剣を左に薙ぐ。水色のライトエフェクトを纏った刃が黒ずんだ骨を裂き、鮮紅色の光芒が飛び散った。グギャッ、と短い悲鳴が聞こえる。

 しかし、俺の剣はそこで止まらない。起こしたモーションに従い、システムが俺の動きをアシストし、返す刃が神速で振るわれる。

 《片手剣》二連撃技、《ホリゾンタル・アーク》。

 左に薙ぎ、挟みこむように右に薙ぐ水平二連撃技。低熟練度でも習得可能な技の二撃目は、敵の腰椎――クリティカルポイントを直撃。激しいダメージエフェクトと共に相手のHPバーがぐぐっと減って半分を切った。

 スキルを直撃させれば、やはり二、三割のダメージにはなる。

 とは言え技後(スキル)硬直《ディレイ》とノックバックの時間にほぼ差は無い――厳密にはノックバックの方が長めだ――から仕切り直しになる。そこで一方的に攻撃できるようにしたのがシステム外スキル《剣技連携(スキルコネクト)》だった。

 ――後ろ腰に、意識を向ける

 腰には装備タブを通さず装着した短剣がある。それを左手に持てば、”タブ経由の片手剣”と”タブ非経由の短剣”による疑似二刀流を使える。この世界に《二刀流》は無いが、片手武器スキル毎の連携なら可能だとオリジナルがアルゴとの実況配信で言っていた。実際、それが可能だと確認も終えている。

 一瞬思案し、使うことを決断する。

 逆に使わない理由が無かったからだ。

 

『フグルルゥッ!』

 

 怒り故か、雄叫びを上げながらスケルトン・ソルジャーが再接近してくる。刃に光はない。一定間隔でしかスキルを使わないルーチンでもしているのか。

 何にせよ、好都合だ。

 そう俺はほくそ笑み、左手を後ろに回す。その手で短剣を引き抜き、振るう。真上から迫ってきた直剣の腹にぶつけて軌道を逸らす。

 敵に隙が生まれた。

 

「お……らぁっ!」

 

 気合一閃。

 橙色の帯を引いた袈裟斬り(スラント)を放つ。

 その技後硬直を喰らう前に左手を動かし、システムディレイをスキルの発動待機で上書きし、システムアシストを起動。黄色の光を放つ短剣が右に振るわれ、直後左に戻った。二連撃技《サイド・バイト》だ。

 最後、地を蹴りながらアニールブレードを突き出す。すると切っ先から紫の光が迸り、全てが加速。敵の腰椎を貫きながら背後に抜けた。

 制動を掛けるため地面に足を付けると、ブーツがざりざりと鈍い音と共に岩肌に二本の痕を残した。

 勢いを利用してぐるりと振り向く。

 同時、ガラス塊を割り砕くような音を響かせ、骸骨兵士は微細なポリゴンの欠片となって爆散した。

 

「……はぁ」

 

 周囲に敵影が無い事も確認し、俺は警戒態勢を解く。

 内心は、ちょっと複雑だ。

 片手剣一本で倒したかったなぁ、という悔しさやら、意地やら。久しぶりに二刀で戦ったなぁ、とか。その原因を思い浮かべてほろ苦い気分になったりとか。

 軽快なファンファーレと共に体が光り、レベルアップした事に対する喜びもあったが、それ以上に微妙な気持ちが割合を占めていた。

 

 






・《二刀流》スキルについて
 原作では『片手剣二本持ち』を指す
 本作では『片手()()二本持ち』を指す。なので原作と違い、片手剣と短剣を持ってスキルを使うなどが出来る


・《SA:O》のイレギュラー装備判定
 一応《SA:O》編第一章~知られざる伝説~の実況にてキリトとアルゴが話している
 装備タブを介した状態で二本持ちは不可
 片方はタブ経由、片方は非経由なら可


・『育つ者達』とは
 AI達
 今話では特にキリカ、プレミアが該当する


・キリカ
 電弟。
 『虚剣(ホロウ)=獣=ヤベェやつ』という構図から鏡剣(狂剣)と呼ばれたり呼ばれなかったり
 ここ暫く大剣で戦ってきたが、それはオリジナルから別れる前(二刀や片手剣スタイル)を意図的に避けてきたから。現在では吹っ切れているので元来のスタイルに戻った
 まぁキリカの小柄さなら片手剣だろうと両手剣だろうとどっちも両手で持てるサイズである事に変わりはないのだが(爆)
 現在、プレミアを除く仲間内で最弱に位置する


・プレミア
 謎多き少女
 自我の薄い時は大抵なにか『大いなる意思』に操られていると考察されているが、本人にその意識はない
 食いしん坊のひとり


・ユイ
 レベル12の電姉
 片手剣をメインに細剣、短剣なども鍛えている
 常にインしていられる利点を最大活用し、現在仲間内で最高レベルを誇っていたりする。キリト、キリカ、リーファらの戦闘データから学習しているので地味にヤバい
 キリカが戦っている間は慈愛の籠った眼で見守っていた


・ストレア
 レベル11の電妹
 両手剣を主に鍛えている
 仲間内で最高の筋力ステータスを誇っており、AI持ち前の反応速度で敵を逃さない攻撃を得意とする。目立たないが地味にヤバい(迫真)
 キリカは認識していないが、観戦中は無邪気に声援を投げていた


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