インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 今話はちょっとした蛇足だヨ。第十一章が今日午前六時に投稿されてるので、そっちもよろしくお願いしますm(__)m




幕間之物語:絶剣編 ~恋は求める心、愛は与える心~

 

 

 二〇二五年八月二日土曜日、午後。

 桐ヶ谷和人により招かれた自作の仮想世界に招集された仲間の面々は、彼から良い報告と悪い報告を知らされた後、思い思いに過ごした。一部の者はすぐ《SA:O(オリジン)》へ戻り、問題となっているNPCの少女の保護に動いたが、大半はそのワールドに残った。

 そのワールドは、今は無き浮遊城アインクラッドで和人ことキリトが所有したホームが、第二十二層のフィールドごと再現されていた。

 ロジックは単純で、キリトのイメージした情景を電子的に読み取り、それを反映しただけ。かつて須郷伸之が研究していた《具象化》技術の有効活用である。

 言い方を気にしないなら、手抜きとも言う。

 元々キリトは、自分で手に掛けた人数と顔、名前、助けが間に合わなかった人数も覚えているほど記憶力に長けており、《具象化》を手掛けた技術者(天才)達の腕もあってか細かな部分も再現されていた。一階のリビングだけではない、かつてリーファやストレア達が居候した二階の個室も細部に至るまで作られていたのである。

 それだけキリトにとって、二十二層の家は思い出深いものとして記憶に残っていたとも言える。

 

 ――その家ではその日、とある秘め事が行われようとしていた

 

 幹部会議も秘め事ではあるが、それではない。

 その会議が終わった後、和人(キリト)の親代わりになった義父・峰嵩、義母・翠により、和人に恋慕を向ける少女達を認められた事が事の発端だった。

 端的に言って、キリトはモテる。

 まず優しい。おそらく《桐ヶ谷和人》という人物を語る上で、一事が万事、そこに帰結する事だろう。そして恋慕を向ける全員が彼の優しさに救われた者達だ。告白の返事が保留となっているのも、恋慕を向ける者達の未来が危ぶまれる可能性を少しでも排除するためなのは周知の事実。恋慕を向けられたという自覚が楔になるように、という思惑もあったにせよ、その気持ちは全員本物だ。

 現実問題として多重婚は険しい道のりである。

 日本の昨今の動きは多重婚を認める方向で法改正が進みつつある。女尊男卑風潮が蔓延した事により、晩婚化や出生率低下、男児出産時の殺害事件、離婚件数の増加など、少子高齢化と人口減少の社会問題が深刻化した影響だ。不謹慎ではあるが、法改正の流れは自分達にとって嬉しい限り。

 となると残る問題は家族間の了承である。特に桐ヶ谷夫妻の承諾は、キリトに受け容れられるかという問題と同じくらい重要だった。

 しかし八月二日、夫妻はこの関係を認めた。

 SAO時代からこれまで続く関係を見て、任せられると信用された瞬間でもあった。そもそも人間不信のきらいがあるキリト自身が絶大な信頼を寄せていたから問題なかったらしいが、それでもやはり、大きな障害が無くなったのは確かである。

 

 更に喜ばしい事に、キリトはこの日、告白に答えを出した。

 

『みんなの幸せ、俺の幸せ……それを考えたら、さ。答えは一つだから』

 

 口調は、諦めたように。

 けれど声音も表情も、喜色満面の様子でそう言った。

 

『今はまだ法が許さない。倫理的にも、他人に知られる事は決して良くない。他人に知らせるのは正式に法が改正された時だ。それまでは対外的なスタンスを崩さないつもりでいく』

 

 根本的な問題はまだ残ってるし、とキリトは苦笑した。

 それはまるで、その問題さえなければ何も障害はない、と言ったようなものだった。まあ女性陣側の家族の理解などの問題はあるが、数人は既に解決済みだったりする。

 

『まだ、窮屈な思いをさせてしまうけど……――――俺と、結婚前提でお付き合いさせて下さい』

 

 真摯に。ただただ、まっすぐな求婚だった。

 ――――はい、と。

 恋慕を向ける全員が、声を揃え、それに応じた。

 

 

 そして、夜。

 まだ寝るには早い時間、キリトとボク――紺野木綿季――は二人っきりで、再現された家の二階にいた。キリトの自室にあたるそこのベッドに並んで腰を掛け、窓から見える月を眺めていた。

 あと二、三時間もすれば彼は任務のためにリアルへ戻らなければならない。構成員の関係で何日も空けるのは不自然なため、日帰りの強行軍で奇襲を仕掛けるらしい。つまり不定期に作戦は実行に移される。しばらく仮想世界に来られないから、《SA:O》の問題をキリカ達に託した。

 だから今日を逃せば、次はいつになるか分からない。

 

 ――これを、不意になんてしちゃダメだ

 

 彼に恋慕を向ける人は両手でも足りない。それだけの人数に愛される彼を、ボクはいま独り占めしている。最初に告白した人だからとみんなが気を遣ってくれたから。

 そして、指名されたから。

 隣に座る、愛しい人に。

 

「――っ」

 

 意識した途端、かぁっ、と顔が赤くなった。

 ドキドキと、早鐘を打つような鼓動。

 はぁ、とかろうじて吐いた息は熱っぽい。

 緊張している。当然だ、しない訳がない。夢にも見た。夢想した事もある。その度に、朱くなって、狼狽えて――でも、いつかは叶えたいなと願って。

 とうとう、今日がその日。

 現実ではまだ不可能。法と倫理が認めない。

 でも、仮想世界では関係ない。疑似体験という形を制限する規制はまだ存在しない。倫理的にアウトな事――それを止める人なんて、此処には居ない。

 みんな、合意しているから。

 ボクも。そして、彼も。

 この行為を求め、認めているから。

 

「かずと」

 

 辛うじて、名前を呼ぶ。掠れていて、自分の声じゃないような、甘ったるい声音だった。間延びしていないだけまだマシな、熱っぽい声。

 隣に座る、華奢な少年がぴくりと動じた。僅かな身動ぎのあと、こちらを見る気配。

 視線を向けると、お互いのそれが衝突した。

 

「――ぁ」

 

 そのとき見た光景を、ボクは一生忘れない。

 月に照らされ、髪も肌も、黒水晶の如き瞳も、キラキラと煌めいていた。肌の白さは、まるで魔法の粉を掛けたかのようで。髪も、そんな筈はないのにどこか濡れているようで。

 極めつけが、その瞳。

 まっすぐボクを射貫く”黒”。

 底なしの闇を思わせるそれは、かつてと違い、失意と絶望に沈んでいない。希望の光を灯し、注がれる愛情を無尽に喰らう闇だった。光を糧とする闇だった。

 何もかもから学び取る、貪欲な()だった。

 ――欲しい、と思った

 思った時には、手が出ていた。

 

「ん……」

 

 優しく、抱き寄せる。小さく、華奢な少年の頭頂部は、こちらの首にも達さない。それくらい小さい。それだけ、か弱い印象を与える。

 だが――

 抱きしめた体からは、華奢さに反する力強さを感じた。

 これが彼の言う”瞋恚”――想いの力なのだとすれば、納得だ。初めて感じるその重さ。つまり、これまで対峙してきた誰一人として、これに匹敵するものを持っていなかったという事。

 故に、最強。

 ――そんなキミを、ボクは……

 ずっと、見てきた。

 天使と見紛ったあの瞬間、ボクはこの人に魅入ってしまった。あの剣に。彼の生き様に。その強さに。なにもかもに。

 都合、三年余り。

 もう、はちきれそうだった。

 

「かずと……愛してる」

 

 想いを、静かに爆発させて。

 ボクは、初めて口づけした。

 

 






 ――続きは、R18版にて

 ちなみに今話、『ユウキのファーストキスは全年齢版でやってもらいたかった』という希望がありまして

(;・□・)<せやな?! 関係が進展した描写も最低限しとかないとアカンしな?!

 ――ってなったので、追加した次第です

 では、またお会いしましょう


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