インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、お久しぶりです

 峰嵩さんのキャラが中々難しいんじゃよ。原作18巻で出たっきりだから是非もないネ(吐血)

視点:桐ヶ谷峰嵩(初)

字数:約六千

 ではどうぞ




第九章 ~幹部(和人組)会議・後~

 

 

「さて、悪い報告はここまでだ」

 

 私が知らないユイの過去の言動で空気が和んだところで、キリがいいとみたか、キリトがそう言って話を切り上げた。それから残る『良い報告』をあっけらかんと言った。

 

「良い報告は、自前の仮想世界を作った事と、AI組の独立したアバターの完成に目途がついた事だ」

 

 前半は分かる。自分たちがいまいる場所は息子のイメージを読み取り、精巧に再現した世界であると説明されたからだ。デスゲーム中に唯一所有し、時に仲間を呼んで食卓を囲いもした思い出の家らしい。彼はその技術を『具象化』と呼称していた。

 彼曰く、”安住の地”。

 ALOなどは企業が運営するゲームのため永遠に存在し続ける訳ではない、何時かはサービス終了を迎える日が必ず訪れる。それに備え、今はALOやSA:Oを転々としているAI達のための不変の拠点だという。

 だが、それだけではない。

 ALOのサービスが終了した時はまた別のゲームに移住するのもいいだろう。しかしそのゲームで積み重ねた思い出は形として残らない。必死にお金を貯め、購入した高額なマイホームもゲームと一緒に消失する。アバターも、装備も。

 キリトは、それは寂しいと考えたという。

 

「SAOが楽しい事ばかりじゃなかったのは事実だ。でも、苦しい事だけじゃなかったのも事実。二年という月日を無かった事には出来ない。あの頃に戻りたいとは思わないが……思い出のものを残していたいとは、思うんだ」

 

 年にそぐわぬ寂寥の面持ちで彼は言った。

 そこに無いものを掴もうとするように、その華奢な手を握り込む。当然彼の五指は空を掻いた。彼の寂寥感がより色濃くなった気がした。

 その様子を、彼の仲間達もまた寂寥の目で見ていた。

 彼らはALOにSAOのアカウントデータや装備をコンバートさせている経緯がある。完全新規より優遇されているからそうしているのかと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。遥か昔の武士のように、彼らは自身の持ち物になにがしか深い思い入れを抱いていたようだ。

 息子にとって、あの黒い剣と翠の剣がそうであったように。

 

「具象化技術は……きっと、過去の思い出とか、喪ったものを形にする事が正しい使い方なんだと思う。ほんの少し休む間、過去を振り返るためのものとして」

 

 人道から外れた研究の産物『具象化』を、彼はそう評した。

 そして、この技術が世に解き放たれる日は恐らく来ないだろうとも言った。正しく使うよりも悪用する方があまりに容易だからだと。また人間の大脳にスキャンを掛けるというのは、安全性の側面から社会的に認められにくいだろうからだと。

 キリトのイメージが反映出来たのは、彼の強固な瞋恚によるものだという。強い感情と強固なイメージによって活性化した脳波、電気信号の量が余人より多大だからこそ出来る力技らしい。

 故にこの技術はAIの面々くらいしか恐らく使えないと彼は言った。

 

「人間と違い、AIは記憶もプログラムデータだ。システムの規格が同じカーディナルだから具象化もし易い筈だ」

「……つまり、私達が残したいと思った思い出の地を、その具象化によってこのワールドに再現する事が出来ると……?」

「そう。だからこそ、”安住の地”という訳だ」

 

 ユイの問いに、キリトが微笑みと共に応じる。ただゲームが終わった後にも残る拠点としてだけでなく、自ら思い出を残していく場所として在るのだと、彼は言ったのだ。

 なるほど。確かに、真の意味で安住の地と言える。

 

「今後……きっと、ヴァフス達のように成長するAIが増えていく筈だ。居住地にも最適だろう」

「……そう簡単に増えるとは思わないが」

「いや、間違いなく増える。俺達はユイ達に影響を与えていたし、ヴァフスは俺の影響を受けた。キリカの影響を受ける存在も今後出てくるのは間違いない。直近で言うとさっき話に挙がったプレミアというNPCが既に可能性としてあると思っているぞ」

 

 キリトのその言葉に、反論の声は無かった。

 父親からしてみると、キリトとキリカは色違いの双子のような感覚だ。多少の差異はあるが根本的には同じ思想を持っている。なら、キリトのような影響力を、キリカも持っていると考えるのはなんらおかしな事ではない。キリカ自身も少なからず思っているから反論しなかったに違いない。

 次に、AI組用の独立したアバターに関して。

 これは【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】が使用している遠隔通信前提の躯体と異なり、AIプログラムのメモリーを内蔵した事で通信障害をものともしない兵力を得る事を目的としたアバターだという。ヴァフス達が《亡国機業》の拠点に襲撃を掛けるチームに参加しているのはこれを使用するためらしい。

 AIである事が前提なので、人間はそれを利用できない。

 尚、その作戦にキリカ達が選ばれなかったのは、キリトが気に掛けていた名無しのNPCこと”プレミア”の傍にいるよう頼むつもりだったかららしい。

 

「まぁ、これは裏向きの話。表向き……つまり世間向けの話だと、特定の作業に特化したAIの運用躯体として発表する予定らしい」

「特定の作業?」

「店番とか、棚卸しとかかな」

「そんな高度な事がAIに可能なのか……?」

 

 思わず疑問が口から出た。

 海外出張で滞在期間が長いアメリカでもAIの研究や試験運用は数多いが、それでもバーコードから金額を読み込み、計算し、清算するレジ替わりの店番や、特定の箇所を回る運行バスのAIが殆どだった。接客をはじめ、流動性のある活動は現行のAIには難解過ぎるというのが専門家達の話だ。

 

「そのAIの一端がいま、義父さんの目の前に三人も居る訳だけど」

「む……」

 

 言われ、その三人に目を向ける。

 黒色の少年と、黒と薄紫の美女二人は、その表情や言動、素振りなどにはAIなどととても思えない滑らかさがある。キリカはともかく、あとの二人は純正のAIであるにも関わらずだ。

 彼女達は元がMHCPという人間由来の問題解決のために作られたAIだという。根本的な性能が違うとは言え、学習を積み重ねていくトップダウン型には違いない。おそらく世界でも有数の経験を得たAI達だ。

 逆説的に、同じだけの経験を積み重ねれば、他のAIも人と何ら変わらないコミュニケーションを可能とすると言える。

 

「それに《SA:O》のAIの進化は凄まじいよ。現実側の仕事も、一通り手順を教えたら順応しそうな程だ」

「それほどなのか、日本のAIというのは……」

「お父さんは年中ほぼアメリカにいるし、AIとはほぼ関係ない仕事だし、ゲームもほぼしないしで知らないのも無理ないかな……そもそもALOが初めてのゲームだよね?」

「それはすぐ……じゃない、リーファもだろう」

「ふふ。この子は貴男に似たのね、きっと」

 

 武道一筋だったからほぼ遊びとは無縁の生活を送っていた直葉が、ほぼ初めてと言っていいほど娯楽に興味を示したのは、和人がキッカケだった。《SAO事件》の後、フルダイブ技術に興味を持ち始め、それが高じてALOを始めたと聞いた時は眩暈がしたものだ。なぜ危険なものに自ら手を出したのかと。

 今は自分も人の事を言えなくなっているが、家族全員がしていると聞いては――フルダイブしないと会えない家族の事もあって――始めざるを得なかった。

 妻は昔、PCでオンラインゲームに嵌った時期はあったというが、高校卒業を契機に離れてそれっきりだったという。およそ二十年ぶりの再開となった訳だ。彼女を除く家族三人の初ゲームがフルダイブというのも中々珍しい気がしなくもない。

 なんとなしに思い浮かべていると、ともあれ、とキリトが話を切り上げた。

 

「ゲームを介さないで集まれる場所を用意したから、みんなも好きに利用してくれ」

「新しいルームを作るにはどうすればいい?」

「その都度、俺に一言言ってくれれば空きルームとコンソールを用意しておく。今から用意しておこうか?」

「……一応、一つだけ空けておいてくれると助かる」

「分かった」

 

 キリカの頼みに頷いたキリトは左手を振って紫色のメニューを呼び出した。後から聞いたが、ALOと同じ操作なのにウィンドウの色が違うのは管理者権限を用いたメニューだかららしい。

 

「ところでさー、キリト。ヴァフス達が同行出来るのって、独立アバターが完成したからって事だよね?」

 

 そう問い掛けたのは薄紫の髪をした女性AIのストレアだ。どこか不満げに眦を上げている彼女の問いに、キリトは幾度目かの首肯を返す。

 その返答を見て、ストレアがさらに頬を膨らませた。

 

「むー……なら何でアタシ達は呼んでくれてないの? ジャミング対策に独立用にしたならアタシ達も呼んでくれていいよね?」

「ストレア達三人には《SA:O》の方……プレミアというNPCの事を任せるつもりでいたんだ」

 

 だから呼ばなかった、と彼は淡々と応じた。

 曰く、二十四時間常にログインしていられる上に、システムの深いところも調べられる三人は適任。ヴァフス達は未だシステムの扱いに慣れていないところがあるため、その点から現実側と《SA:O》側で分けたのだと語る。そもそもその話をすると決めた時点では件のNPCを捕捉出来ていない前提だったから、常にログインしていられる三人を宛がう事に決まったのはおかしな事ではなかった。

 その説明に、なるほど、とストレアは納得して矛を収める。

 だが私は、全てを語った訳ではないという事をなんとなく察した。

 ヴァフスというAIは、キリトの強さに執着して従来のルーチンから外れた異質なAIだと聞いている。似た部分があるためキリカを認めてもいるそうだが、本質的にはキリトを求めているのだそうだ。そんな彼女らとキリカの相性は決して良くない。ユイとストレアをヴァフス、ヴァフス〔オルタ〕と入れ替えた時の空気は中々だろう。

 かと言ってキリカを一人にするのも憚られる。その理由を、限りなく自身に近い存在だからこそキリトもよく分かっている。そのため敢えてユイとストレアを《SA:O》に残すことにしたのだろう。

 その辺の事を敢えて口にしないのはキリトなりの気遣いか。

 キリカが察しているかは分からなかった。

 

 

 そうして彼の話が終わった後、各々は自由に動き始めた。

 とは言えプレミアという少女の監視兼保護のためにすぐ《SA:O》へ戻ったキリカ、ユイ、ストレアを除く面々はこのワールドに残り続けている。《亡国事変》以降、仮想世界でもなかなか捕まえられないキリトと話したい事がたくさんあったらしい。

 その様子を、少し離れたところから見守っていた。

 

「幸せそうね、あの子」

 

 その最中、隣で同じように見守っていた妻・エメラが呟く。微笑を湛えた彼女の視線の先には男女関係なく絡まれている息子の姿がある。未だ数える程しか会っていないからこそ記憶に残っている姿とはまるで違う、年相応の少年姿だ。

 

「……そうだな」

 

 感慨深く、私は頷いた。

 ――私達では、あの笑顔は引き出せなかった

 かつてあの少年は『どうして俺は、桐ヶ谷家の子供じゃないんだろう』と桐ヶ谷家(わたしたち)に訴えた事がある。家族として受け入れた私達に掌を返される事を恐れ、それを否定し、受け容れた時の言葉。血に呪われていたからこその慟哭だった。

 あの時に息子が流した涙を私は忘れない。

 あの子には何もかもが足りていなかった。母の愛。父の愛。姉の愛。兄の愛。そして、友の愛。最初から知らなかったものはまだマシだ。一度得て、それから喪った愛の方がよっぽど酷い。私達は父母、そして姉の愛を埋められたが、それ以外を埋める事は叶わなかった。

 小学校に通わせる事になっても叶わなかった。いや、それは当然だったのかもしれない。実の娘の境遇に気付くのが遅れた前科があるのだから。

 足りない分を補うように大切に想っていたが、それでも足りないと予感していた。

 

「彼ら、彼女らのお陰だ」

 

 しかし、かつて死んだ目をしていた拾い子は、彼らのお陰で生きる希望を持ってくれた。だからこそ息子を想ってくれている青年たち、少女たちには感謝の念が絶えない。

 それは直に拾ったからこそ(ひと)(しお)なのだろうエメラも同じようで、本当に、としみじみと頷いていた。

 

「貴方、知ってる? 最近日本じゃ、多重婚を認める方向になってるのよ?」

「ほう、そうなのか」

 

 然も知らないとばかりに頷くが、ニュースや新聞で度々話題になっている事だ、知らない筈がない。話題の渦中として息子達が取り沙汰にされていたら尚の事だった。

 

「私は、本人達がしっかり話し合った上でなら異論無い訳だけど……貴方はどうなの?」

 

 その問いが、息子達の事を指している事は明白だった。

 横から感じる視線を流し、息子達の様子を見守り続けたまま答える。

 

「結婚が認められる年齢になれば異論はない」

 

 結婚可能な年齢は男十八、女十六歳で、引き下げの話も毎年挙がってはいるが、これ以上引き下げられる事は無いだろうと私は踏んでいる。

 であれば和人は、少なくともあと六年の猶予がある訳だ。

 それだけの時間があれば各々としっかり話し合い、意思の確認も終えるだろう。本人達が決めた事にとやかく言うほど自分も頑固ではない。妻はそこが気になったのだろうが、それは杞憂というものだ。

 

「むしろ心配すべきなのは十八歳になるまでの残り六年であとどれだけの異性を惹きつけるかという点だと思うが」

 

 少々恐ろしい話だが、あながち的外れではない。

 直葉以外の面子は全てデスゲームで出会った者達だ。つまり付き合いそのものは二年程度の筈だが、確認が取れているだけでも既に片手を超える数は異性を惹きつけている。命懸けという人間の本性が出やすい状況故にそうなりやすかったのは確かだろうが流石に尋常ではない。

 最も恐ろしいのは和人にそういったつもりが無かった点だ。本人は大真面目に、全力で目の前の事に打ち込んでいて、これからもそうしていく事が確定している。つまり知らない内に異性を惹きつけていく。

 だから的外れとは言えない。

 正直、重婚が認められる世論が強まっていなければ、息子はいつか背中から刺されていたんじゃないかと思う程だ。

 

「あらあら、ちょっとしたハーレムね」

 

 件の天才少女だったり、大企業令嬢だったり、ちらほらと”ちょっとした”では済ませない立場の人物がいるのだが、妻にとっては須らく”恋する少女”という扱いらしい。のほほんと構えているようだが、それは息子に対する信頼の裏返しだろう。しっかり責任を取る、という意味の信頼。

 

「ちょっとした、という規模ではないと思うが……」

「あら、やっぱり重婚は反対?」

 

 再び、横から視線を感じる。

 私は苦笑を滲ませた。

 

「いや、結婚自体は賛成だよ。ただ異性を惹きつけるという事は逆説的にそれだけ和人が危険の渦中にいるという事だ。子供(がくせい)なら本分の遊び(がくぎょう)をすべきだろうに、と思ってね」

「ああ……」

 

 言わんとする事を察したらしく、得も言われぬ表情でエメラが遠い目をした。

 

「……あのー、義父さん、義母さん。せめて本人が居る前ではケッコンケッコン言わないでもらえるかな……」

 

 ふと、控え目なボリュームでキリトが抗議してきた。大きなソファでユウキに抱えられ、左右をアスナ、シノン、リーファ、レインに固められ、背後をラン、アルゴ、サチに取られた状態で顔を真っ赤にしてのジト目の抗議。

 私とエメラは一瞬顔を見合わせた。

 

「……その状態では説得力が無いぞ」

「ねぇ?」

 

 初々しいわぁ、とのほほんとした顔のままエメラが相槌を打つ。

 それにキリトは表情の羞恥を更に強めた。少女達もやや顔が朱いが、重婚を見据えた関係が親公認となったのが嬉しいのか喜色の方が強い。結果、更に息子は少女達に()()()()

 助けを求める視線を向けられるが、私達はクライン、エギルという息子の男友達と共に見守り続ける姿勢を保った。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 初の峰嵩さん視点でした。翠さん視点は何度かしてますが、父親側は初です。どんな思いで接していたかは翠さんや直葉でも触れているのでサラッと流しています


・桐ヶ谷峰嵩
 桐ヶ谷家の大黒柱
 直葉の実父、和人の義父。アメリカの証券会社に長期赴任しているエリートサラリーマンなメガネ親父。原作和人曰く、やや頑固なところがあるらしいが、夫婦仲は相当よろしいらしい
 本作でも影が薄いが、拾って一か月のクリスマスで和人を受け入れたり、ALOをプレイすると決めた時に和人と大喧嘩したり、地味に裏で親の役目は全うしている。しかし悲しいかな、直接顔を合わせた回数は両手足の指の本数より少ないとか
 和人周辺の恋愛事情に関しては黙認。重婚を認める世論を鑑みてだけでなく、和人が生きる希望を持つ要因というのが大きな理由
 ボス戦放映とか、事変時に駆けつけた時の中継が活きた模様(怪我の功名)


・和人ラバーズ(恋慕確定)
 和人の内面を見据えた上で恋慕を向けている人物。この者達は和人からの信頼・信用が絶対的
 リーファ
 ユイ
 ヴァベル
 ユウキ
 ラン
 サチ
 アスナ
 シノン
 アルゴ
 レイン
 セブン
 楯無
 クロエ


・和人ラバーズ(恋慕微妙)
 和人の内面までは見据えられていないが、恋慕を向けている人物。和人からの信頼・信用はそこそこ高い
 簪
 ラウラ


 AI組はともかく、候補含めると余裕で十人超える辺り恐ろしい(ここまで執筆した自分が)
 重婚を認める方向でよかったね和人!
 幸せ×人数分だ(背中から刺されない)よ!


 では、次話にてお会いしましょう


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