インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 お久しぶりです。

 暫くホロリアの再プレイや原作の再読してたので時間が空きました。不定期ながら更新していきます。

視点:キリカ

字数:約八千

 ではどうぞ。




第二章 ~人工の命~

 

 

日本標準時《2025年8月2日(土) AM3:00》

 

 

 夜闇に沈む街を、街頭の炎が仄かに照らしていた。

 オリジンのβテストが始まってから十時間。日を跨ぎ、多くの人が寝静まる時間帯のいま、新生した《はじまりの街》を行き交う人の姿は極めて少ない。

 それはプレイヤーに限った話ではない。

 SAO時代も昼だけ、あるいは夜だけ店を構えるNPCが存在したし、街中をうろつくNPCの数も夜になれば少なくなっていた。カーディナル・システムによって構築されるVRMMOに共通する点なのだろう。

 そこが目についたのはおそらくオリジン内の昼夜が現実に即したものであるからだ。

 ALOは一日を十八時間周期にしているので、リアルは夜でもALO内は昼という場合もあった。だからログイン数は昼夜で同期しなかった。

 ゲームが違うからこその差異。

 深夜帯しかプレイしない人は武器のメンテナンス、アイテムの補給などで少し苦労しそうだ。だからこそ夜に店を構えるプレイヤーの需要が発生する。そこに金儲けの匂いを、あるいは躍進の芽を見て、その道に進む人が発生し、新しいプレイスタイルが確立される。

 βテスト中に職人を志す人がどれだけ居るかは謎だが、もう少ししたら職人プレイヤーが乱立される筈だ。

 昼間に鎚を振るう人は質で競い、夜間に店を構える人は数で競う。

 熟練度上げのために数をこなす必要がある事を考えると、どちらが優っているとも言えない。

 

「――まぁ、俺には関係ない話か……」

 

 ぽつりと呟く。

 世界を越えても鍛冶師を志した人が仲間に居て、その気配を見せている以上、見知らぬプレイヤーの店舗を利用するつもりは無かった。足を運ぶなら信用と信頼を寄せるところが良い。

 なので、リズベットが店を構えるまではNPC鍛冶師を頼るつもりだった。

 そしていま向かっているのは、正にそのNPC鍛冶屋である。

 ――リズベットがそうであったように、鍛冶屋と武器屋は大抵同じ店舗に構えられている。

 裏の鍛冶場で武具を鍛え、それをそのまま表の店舗で売り捌く。一店舗内で完結するサイクルにすればそれだけ取引・運搬の手間が省ける。現代の銃火器メーカーと銃砲店の関係が構築されたのは自動車などの発達で遠方への運搬が容易になり、消費に追い付く『生産』と競合他社に出し抜かれないための『開発』の二つに重きを置けるようになったから。

 自動車の登場までは地域に根付いた商売であったからこその一店舗内での製造販売だった。

 そしてアインクラッドもオリジンも中世ファンタジーという世界観という点は共通している。運送業に限界がある以上、武器屋と鍛冶屋は密接に繋がっているのだ。

 そんな商店街本道に構えられた商店にはまだ明かりが点いていた。扉に掛けられた札を見ても『OPEN』のまま。

 

「こういう所も引き継がれてるのか……」

 

 目の前にある店舗はアインクラッドの旧《はじまりの街》にあったものと同じだ。露店と違い強化やメンテナンスを請け負ってくれる鍛冶屋も両立していた稀有な店だったから、記憶によく残っている。夜だと鍛冶関係はすぐにしてくれないなど一部制約も存在するが、代わりに成功率ボーナスや一定時間のバフなどが付くなどもあり、隠れた名店としてアルゴの情報誌に取り上げられた一つだった。

 どうやらオリジンでもこの店は夜も営業しているようだ。

 きっと今後発売されるだろうオリジン攻略本に載せられるだろう。

 

「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょう?」

 

 店の扉を開けると、カランカランと来客を知らせるベルが鳴った。そのあとにカウンターに立っている女性NPCが接客スマイルで声を掛けてくる。

 

「武器の修理をお願いしたい」

「はい、こちらで承っております。しかし既に鍛冶師が休んでいるため、朝になってからの受け渡しになってしまいますが……」

「それで構わない」

「承知しました。では武器の種類、それから消耗度についてお聞かせください」

 

 店員の指示を受け、言われた通りにアニールブレードと代金を渡した。預けた剣の代わりとして初期装備のスモールソードを左腰に吊るす。

 

「他にも何かあればお申し付けください」

「――――……なら、砥石はあるだろうか」

 

 砥石は鍛冶師でないプレイヤーが武器の耐久値を一時的に回復させるために使う消費アイテム。アインクラッドでも第一層から入手できるメンテナンス道具として重宝した。とはいえ砥石だと、鍛冶師にメンテを頼んだ場合よりも最大耐久値が減ってしまう――所謂『摩耗』――現象が起きやすいから、あまり望ましくはない。

 摩耗は鍛冶師が質の良い回転砥石などで極力減らせるのに対し、市販の砥石は回数を重ねる毎に摩耗確率が高くなり、それを緩和させる術もない。

 ユニーク品などのレア装備なら極力鍛冶屋を利用した方がいい。

 とは言え――市販や廉価品の武具なら、一時凌ぎに砥石を使うのも一つの手。序盤の今なら武器の入れ替わりが激しいから痛くない。

 砥石の有用時期と鍛冶屋の成長時期は反比例にあったのだ。本当によく出来たものだと思う。

 

「砥石ならそちらの棚にございます。種類に応じて回復量が異なるので、選ぶ際はご注意ください」

 

 それを受け、俺は棚に視線を移した。

 掲示オブジェクトとして積まれている砥石は三種類あった。左から白色、灰色、黒色が並んでおり、その順番でレアリティが高くなっていっているらしい。値札に書かれた価格は五〇〇、五〇〇〇、五〇〇〇〇と十倍で増えていっている。

 βテストの現時点で黒い砥石を使う時が来るかは怪しいところだ。

 俺は三つの中で最も安い砥石を手に取り、指でワンクリックした。浮かび上がったポップアップウィンドウを覗き込む。

 SAO時代、またALOでの内容と酷似したパラメータがズラリと並んでいる。

 しかし一つだけ、これまでと違う点が存在した。

 

「……ふぅん。減耗確率記載は無し、か」

 

 それは砥石を使用し、武具の耐久値回復を試みた時に発生する『耐久最大値減耗確率』の記載が無い点だった。

 隠しパラメータになったのか。

 武器側に減耗する設定が付与されたのか。

 あるいはそもそも減耗自体無くなったのか。

 この辺も検証する必要があるだろう。減耗が起きなくなったとは思えない。それでは鍛冶スキルを鍛えたプレイヤーの優位性の一つが喪われたも同然だ。砥石で耐久値を回復すればコスト的に楽となれば、プレイヤー鍛冶師を利用する機会は減り、スキルを鍛える機会も比例して少なくなる。つまり鍛冶スキルを鍛えた人達の時間的アドバンテージが作用せず、フェアにならない。

 フェアである事を好む傾向にあるあの茅場が許容するとは考えにくい。

 チラ、と視線を左腰から吊るす剣に向ける。指でクリックし、ポップアップウィンドウを表示。記憶と異なる点がないか、改めてつぶさに確認していく。

 しかし、記載されている内容はかつてのそれと変わりなし。強化試行回数と同じように砥石使用限界などが追記されているものかと思っていたが見当たらなかった。減耗が発生するか否かは隠しパラメータ化している可能性が高い。

 鍛冶スキルを持っていないから減耗確率記載が見えない、といったシステム的制約なら一番楽なのだが。

 

「この砥石、どの武器に使っても回復量は一定なのか?」

「原則一定ですね。鍛冶の技術を持つ方なら、扱っている武器……お客様の場合だと片手直剣に使う際に修復しやすいとは聞きます」

 

 店員の言葉を意訳するに、鍛冶スキルを持っている場合、武器熟練度に応じた修復ボーナスが付くという事だろう。

 オリジンでは武器スキルとエクストラスキルの二枠だけがプレイヤーに許された自由選択枠。つまり《鍛冶》をはじめとする生産職スキルは、何らかのフラグを踏んだ場合にのみ習得が可能なものとなっている訳だ。

 ひょっとしたら今後なにかしらの条件を満たす事でスキルスロットが増えていき、そこに《鍛冶》スキルを入れるのかもしれないが……

 ――プレイしていけば、いずれ分かるか。

 そこで思索を中断する。

 どうにもSAOとシステムが似ているせいで比較重視で考えてしまいがちだ。既知の世界であると、そう思い込んでしまっている。

 グラフィック面はともかく、システム面は別物と思った方がいいだろう。

 

「……わかった。ありがとう、色々教えてくれて助かった」

「いえいえ。それで、何か購入されますか?」

「そうだな……」

 

 少しのやり取りを交わした後、最低ランクの砥石――それでも耐久値三割回復――を数個購入し、店を出る。

 夜の街を歩きながら、俺はさっきの店員とのやり取りを振り返った。

 店員との会話は、相手がNPCである事を忘れてしまいそうな自然さがあった。本来なら『Aと聞かれればBと返す』という幾つかのパターンのみで構築されるはずが、さっきのNPCは複数回、こちらが聞いていない事を補足として付け加えてみせた。

 AIの処理が進化している。

 そうなった要因はいくらでも考えられる。SAOサーバーにあった本家カーディナル・システムの流用か、ALOのコピー・カーディナルの更なるコピーかは不明だが、どちらにしても一度はクラウド・ブレインに取り込まれ、演算処理が画一化した事がある。それはつまり、貯蓄された会話パターンなどが共有された事を意味する。

 ……おそらく、だが。

 オリジンのAIの進化に最も寄与したのは、《ホロウ・エリア》のホロウキリトから得たデータに違いない。

 オリジナルの劣化コピーである自分(キリカ)とホロウは、そのAIプログラムをSAOサーバーのカーディナル・システムに置いていた。後に俺はカーディナルから切り離されたが、ホロウはそのまま残っていたし、だからこそクラウド・ブレインの核になれた。人格や記憶を司る領域をロールに応じたものに書き換えたとしても、会話で用いる部分に《言語化モジュール・エンジン》を流用していれば、エクスキャリバー・クエストのウルズのように会話が流暢になるのも必然なのだ。

 無論、NPCの数だけAIの演算を要する訳だから、サーバーに掛かる負担は膨大なものになる筈だが……

 

「……なるほど。サーバーの分割は、これが狙いか」

 

 一つのサーバーで数百、数千のNPCのAI演算と、数万人のプレイヤー周囲の演算をこなしていればパンクは早いし、ラグも酷いだろう。その対処法としてサーバーを複数用意し、プレイヤーを分配した。

 だが、それだけではない。

 おそらくAIの思考演算やフィールドオブジェクトなど同期可能な部分には並列演算が適用されている。『ログイン数の少ない=演算領域に余裕のあるサーバー』がNPCの思考演算を受け持ち、『余裕のないサーバー』がアバターを動かすなど、膨大な計算を複数で分担する事で負担を和らげたのだ。

 その並列演算の実行もカーディナル・システムであれば難しくはない。

 

「まったく、なにを企んでいるんだか」

 

 店を出て、手頃なベンチに腰を掛けた俺は、そうため息を吐いた。

 その対象はオリジンの製作を主導していた日本政府だ。アインクラッド、アルヴヘイムなど広大な世界一つにプレイヤーが密集する環境をカーディナル・システムはサーバー一つで支えていた。それほどの演算処理能力を有するカーディナルをして、複数のサーバーを併用しなければ間に合わないほどの処理をさせようとするなど、いったい何を考えているというのか。

 ……いや、本当はわかっている。

 これまでの世界と、この世界との大きな差異。

 NPCの性能。

 ひいては、人工知能というモノの進化。

 政府は高性能な人工知能を求めている。俺やユイ達に目をつけていて、それらから守るためにオリジナルが所有権を買い取った。だからその代わりになるものを作ろうとしている。

 おそらく、このオリジンもその一環。

 

「人工、知能……作られた知能(いのち)か……」

 

 遠く、彼方へ視線を放る。

 人工知能だとか、AIだとかの話になった時、必ず頭を()ぎる命題だ。そして、いつも目を背けていた命題だ。

 ――今も、俺はよく考えるのだ。

 俺とオリジナルの差異とは何だ、と。

 現実の肉体の有無ではない。俺達をそれぞれ別個の知能であり、生命と捉えた時、その差は何なのだろうと考える。

 人工知能の究極系はヒトだ。ヒトは、演算結果を無視した非合理的な判断を下し、時に無駄と取れる行いもする。しかし言い方を変えれば『柔軟である』と言える。昨今の人工知能に求められているのは四角四面な一択の答えではなく、柔軟に思考できる思考能力なのだ。

 そして、その柔軟な思考を支えるのは、ヒトの感情である。

 だからカーディナル・システムは人の感情データを蓄積させていたのだろう。MHCPの本来の仕事には不可欠なデータ故、というのもあるだろうが。

 だからこそ、思う。

 俺はオリジナルの感情データ、記憶データ、思考回路をコピーされたAIだ。デスゲーム初日からモニターされていた関係か情緒面はオリジナルと大差が無い。

 

 そんな、人工知能に求められる情緒を備えている俺は、それでも『命が無い』と言えるのだろうか……?

 

「……ぅ……」

 

 ブルリと、体が震えた。

 ぎゅっと両腕で体をかき抱く。季節的に暑い筈なのに、何故だか寒気を覚える。

 

「……俺は……」

 

 どこまでいっても『ヒトではない』事になるのだろうか。

 人工知能だから、というだけで。

 ヒトと同等の情緒を持ち、過去を重ね、記録を重ねたとしても。どこまでいってもヒトと認められないのだろうか。

 ――だとすれば……

 

「残酷だ……っ」

 

 掠れた声で、呻く。

 ユイやストレア、ヴァフス達は既にただのAIではない知性を備え、現実世界と仮想世界の差を理解し、人と対話している。MHCPやクラウド・ブレインの影響など異例な前例ばかりだが詰まるところは『データの蓄積』。この世界を生きるNPC達も遠からずそこに追い付くだろう。

 そんな彼ら彼女らは、俺と違って『オリジナル』という存在で否定される事はない。

 だが、それでもAIだ、と。

 自己を認識し、外と内の差を理解する知性を備え、ヒトと同レベルの情緒を得ても尚、一個の生命として認められない。

 ヒトと同じ域にまで達した己を、認められないのだ。

 それは究極の存在否定と言える。

 なまじヒトの都合で作り出され、生まれた知性であり生命な分、他者からの存在否定は存在理由の否定にも繋がる。なぜ自分たちは生み出されたのか――という疑問に行き着く。

 その疑問の答えは、ヒトと同レベルの知性を持つ人工知能を作り出すため。

 認められない己たちの存在こそを求められたのに、生命として認められず、その知性だけを利用される。モルモットよりも酷い扱いになる。今後生まれるAI達の生命は良いように利用される。

 

 

 

それは、許容できない。

 

 

 

 人が人を見殺しにする。それと、同じ事になる。

 なぜ、そんな事になり得るのか。

 答えは簡単。AIには人権が無い。だからオリジナルが俺達の所有権を買い取る形で庇護下に置いた、そうするしか無かった。

 ――逆に言えば。

 今後憂慮されるAIの未来を好転させるには、人権を得る事が最適解となる。

 そしてそれは不可能ではないと俺は確信している。

 俺は一人の人間の劣化コピーだから例外だが、ユイやヴァフス達は一からプログラムを組み、作られたAIが多くのデータを蓄積し、成長した存在だ。時間さえあれば他のAIも同レベルになり得る証左なのである。

 数例では難しくとも、例が増えれば無視は出来まい。

 武器屋兼鍛冶屋の女性店員がそうだった。やり取りだけで見れば中に人が入っているかのような自然なやり取りは、それだけ進化している証。今後情緒溢れるヒトとの交流を介してユイ達のように『心』を得るだろうと、俺はハッキリと確信していた。

 顔を上げ、自身が出てきた店舗に目を向ける。

 

「……ん?」

 

 そして、怪訝な声を上げる事になった。

 ちょうど店から出てくるプレイヤーの姿があった。思考の海に沈んでいる間に一人入っていたらしい。更に女性店員の手を引いている。

 店員NPCと出かける事はそこそこある。NPC同行系、護衛系クエストではパーティーを組んで行動する事も無くはないのだ。

 だから、俺が怪訝に思ったのは別の事。

 ――それは表情。

 女性店員の表情には、困惑や恐怖といった、およそクエストで同行しているとは思えない感情が滲んでいたのだ。

 過去、SAO時代のNPCもダメージを負うなどで表情を歪める事はあったが、それらよりも遥かに鮮明なそれは、NPCにとってあのプレイヤーに手を引かれている状況が『望んでいない事』である事を雄弁に語っている。本当にNPCだよな、と一瞬考えてしまうほど。

 ともあれ、プレイヤーだろうとNPCだろうと、明らかに嫌がっている人を見て見ぬふりは出来ない。

 

「そこのアンタ、ちょっと待て」

 

 声を掛け、ベンチから立ち上がる。

 

「あぁ?」

 

 俺の呼びかけに足を止めたプレイヤーは機嫌悪そうに応じながらこちらを向いた。

 声音から男性アバターであると分かる相手は全身を甲冑に包んでいて、見るからに重戦士然としている。兜はしていないので露になっている顔は野盗と言われると納得なヒゲ面だ。無精ひげを晒す男が、睨みを利かせてくる。

 

「その店員さんを連れてどこに行く気だ?」

「あ? なんで他人のお前なんかに教えなきゃいけないんだよ、関係ないだろ。それに詮索するのはマナー違反だぜ」

 

 にべもないとはこの事か。

 しかしプレイヤーとしての観点では、この野盗面の男の言い分が正しい。変に相手の詮索をするのはネットゲームのマナー以前の話である。

 それが、『どこに行くか』という点で聞いているのであれば、だが。

 

「誤解させたようだが、俺が呼び止めたのは店員さんが嫌そうな顔をしてたからだ。普通クエストで同行するNPCがそんな表情しないからな」

「はぁ?」

 

 クエストの存在を嗅ぎ付けて呼び止めたのではない、そう含めながらの釈明に、男の反応は不可思議なものを見る目だった。

 

「そんなの気にしてるのかよ。NPCの顔色なんざ、見る意味無いだろ」

 

 呆れたように言って、男は踵を返した。付き合ってられないと言わんばかりの強引さで転移門広場の方へと歩いていく。

 手を引かれる女性店員は終始言葉を発さなかったが、困惑と助けを求める視線だけはこちらに送ってきていた。

 

「……そんなの、ね」

 

 残された俺は、男の言い草にやや苛立ちを募らせた。

 ああいう手合いはいくら言葉を募らせても意味はない。そう分かってはいるが……己もAIという立場になったからか、『相手する意味もない』と言われているような気分になる。

 となると、多少意趣返ししたくなるのが人情だ。

 言葉が利かないなら行動で返すのみ。痴情の縺れならいざ知らず、NPC(同族)を無理矢理連れて行かれたのを見て見ぬふりは流石に出来ない。

 ……なんとなく、嫌な予感もあった。

 よって尾行する事にした俺は、スキルツリーを呼び出した。エクストラツリーの画面にした後、右にいくにつれて枝分かれするツリーの中でも左側に位置する《スカウト》のジョブ相当のEXスキルと、《隠蔽》スキルを、スキルポイントを代価に取得。

 《スカウト》は《アタッカー》などの役割を纏めたEXスキルで、この中に斥候で役に立つスキルやパッシブスキルが一纏めにされている。もちろんそれらも逐次ポイントで解放していかなければならないが、別に取った《隠蔽》スキルでのハイディング効果を高めるパッシブスキルは、《スカウト》の役割で必須だからか最初から解放されている。

 俺はエクストラスキルのスロットに《スカウト》を当てはめ、ハイディングを開始した後、転移門広場へと駆け出した。

 

 






・キリカ
 人工知能になった元人間
 オリジナルへの敵愾心、劣等感はヴァフス事変以降は徐々に薄れ、いまは自身がAIである事を受け入れている。しかし人間だった頃の記憶、精神のままAIになっているので、AIの人権問題に人一倍敏感
 元々他者の生命に敏感なので、同族であるAIの生命、人権に敏感になった影響
 『今後現れるだろうヒトと同等の知性を備えた存在』とは、正しく原作アリスそのものであり、キリカはその存在の人権、生命を守りたいと考えている。つまり原作アリシゼーション編の和人、明日奈達に近いスタンス

 原典ホロリアキリトの『NPCを死なせたくない』という行動理念に具体性を与えたのが本作キリカの状態


・キリト
 キリカのオリジナルである人間
 菊岡に協力してフラクトライト=ボトムアップ型AIの開発に協力しており、その目的も把握しているので、キリカとは反目し得る立場になる
 とはいえキリカも『研究』そのものは否定しておらず、むしろ『開発後』の状態を憂慮しているので、『研究』にのみ携わっている点からキリトと事を構える事はないかもしれないが……

 ともあれ対キリカでの『第三次自分対決』は勃発しないでしょう


・武器屋の女性店員
 ゲームでも漫画でも登場するNPC
 しかし原典では死ぬのが定めなのだ……《オリジン》がNPCにとってデスゲームである事を知らせるのに不可欠な犠牲だからネ。仕方ないネ

 その死亡フラグを折ってこそ主人公


 では、次話にてお会いしましょう


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