インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。お久しぶりです。

 ……ユルシテ()

 今話はALO最初の時のように、オリジンの設定回りとなります

視点:七色(ほぼ実況)

字数:約一万五千

 ではどうぞ。




第一章 ~知られざる伝説~

 

 

 

日本標準時 《2025年8月1日 PM10:25》

国際IS委員会本部ビル

《BIA》:『SEOS』区画、枳殻七色博士自室

 

 

「あーっ! 疲れた!」

 

 夜も遅い時間まで仕事に打ち込んでいたあたしは、ひと段落付けたところで大きく声を上げた。

 ぐっと手を組みながら背中を逸らせば、長時間の座り仕事の影響か、凝り固まった背筋群がミチミチと引き延ばされる。それから一気に脱力すると、それまで自覚していなかった疲労感に襲われる。

 脱力で下ろした手でデスク端に置いていたマグカップを手に取る。すっかり冷めてしまっているコーヒーを、味を楽しむ事もしないで飲み干した。

 やはりと言うべきか、美味しくはなかった。

 うぇ、と舌を出して顔を顰めたあたしは、切り上げたばかりの仕事へと意識を向け直した。

 仕事用に設えられたデスクからは鮮明なホログラフィが空中に映し出され、数々の稼働中のプログラム、統計データがズラリと並び、現在進行形で数値が更新されていっている。

 

 これらは全て、いまや日本の話題を席巻している新作VRMMO《SA:O》の内部データだ。

 

 オリジンの世界はカーディナル・システムの、所謂『メイン』と呼称されるシステムによって運営されている。メインは人の手による変化を受け入れつつ、ある程度の修正を掛ける働きを担う。一方『サブ』はと言えば、機械的な『平均値』を叩き出し、『メイン』と数値を照らし合わせた時に大きく逸脱した部分の修正を提案する役割を担う。

 平たく言えば、リソースの平等化のために相互修正を行っている。

 サービスが開始したばかりの現在は第一のエリア《リューストリア大草原》にプレイヤーが集中している。最初に降り立つエリア付近になるほど、Mobは多く狩られていき、経験値やアイテムなどのリソースがプレイヤーに流れていっている形だ。逆に言えば、同じエリアの中でも前半と後半とでリソース分配量に差が生じているという事に他ならない。前半と後半それぞれのリソースを100とした場合、今は前半『10』、後半『100』くらいの変化が見られているのだ。

 この時点でカーディナル・システムは幾つかの選択を迫られる。

 後半に充てていた動きのないリソースを前半に回す選択。

 プレイヤーが得たリソースの分だけ後半も得られるようMobをポップさせる選択。

 Mobの個体数はそのままに強さだけ強化して、単体から得られる経験値を増加させる選択。

 それらの選択を、プレイヤーの分布数や撃破数、そのほか様々な要因から適したものを選び取る。そこのところを自律させたのがカーディナル・システムとされる。

 しかしいくら完全自律を謳おうが、SAOやALOの例がある。人の手が入らなければいずれ深刻なエラーに陥る事は火を見るよりも明らかだ。いずれはALOのように一週間単位のエラー、バグ修正のアップデートにするつもりだが、ベータテスト初日という事もあって、自分以外にも《オリジン》製作に関与した面々は何れも忙しく動き回っていた。

 無論、流石に昼夜で担当は分かれているので、後はデータ類をオリジン運営の共有フォルダに入れておけば後はフリーだ。

 ファイルを上書き保存した後、共有フォルダに投入し、更新を済ませる。

 そこで画面端のデジタルウォッチに目を向ける。あと数分で午後十時半になろうとしていた。

 

「うわ、もうちょっとしかないじゃない」

 

 せめて入浴は済ませておきたかったとボヤきつつ、あたしはインスタントのレモンティーと軽食を手早く用意し、再度デスクに戻る。

 パネル型PCを操作し、空中に投影されるホログラフィを切り替えていく。

 呼び出したのはインターネット・ブラウザだ。それを立ち上げると同時に、スタートアップURLに設定していたサイトに自動アクセスが行われる。その中の一つのタブ・ウィンドウをクリックする。アクティブにしたタブは《MMOトゥモロー》の公式ホームページのトップ画面に繋がっていた。

 いつもなら管理人による更新や、Mトモと契約しているライター陣営の記事を読み漁るが、今回の目的はそれらではない。

 トップの上端にズラリと並ぶホームページ・タブの内、『Mスト』というタブをクリックすると、主にVR全般を取り扱うネット放送局《MMOストリーム》のページへ移動した。

 その途端、画面の読み込みが遅くなった。

 

「うわぁ、遅い……」

 

 理由は明白。現在同じページにアクセスし、Mストのライブ配信を心待ちにしている人が多いからに他ならない。

 Mストは専任のライターやリポーターに【解放の英雄】キリト、【鼠】のアルゴを擁しているためか、VR界隈に動きがある度に注目度が高まる傾向にある。《SA:O》といういい意味でも悪い意味でもネタに尽きないゲームについて、少しでも状況を知りたいと思う人は少なくなかった。その理由として《クラウド・ブレイン事変》や《ヴァフス事件》の中継が挙げられるのは言うまでもない。

 それを理解していたようで、アルゴは自らの動画チャンネルにて配信する事をあらゆるSNSで宣言。共演者としてキリトも招くとも書き添えられていた。

 SNSでは複数の動画サイトで同時に配信するとあったから、ある程度分散は出来ている筈だが、それでも遅いという事は桁が違うという事だろう。

 まぁ、それは仕方のない事だ。

 ただでさえ《SAO事件》は世界を震撼させた大事件として広く知られている。その続作とも言うべきものがSAOのデータをいくらか流用して作られたと知った世間の反響はかなりのものだった。加えてその反響は世界規模。間違いなく外国からのアクセス数も膨大だろう。

 

 途中で切断されない事を祈ったところで、時間が来た。

 

 暗転していた画面に色が生まれる。

 闇をカンバスに月と星が煌めく夜空。どこまでも続くかのように深い森。それらを背景にしてカメラに顔を向けている茶フード、へそ出しルックの金髪女性。

 

 

『アー、アー、こんばんハ。この配信を見に来てくれてありがとウ。初見さんは初めましてダナ。オレっちはアルゴ、【鼠】で呼ばれる情報屋サ』

 

 

 ニカッと片頬をつり上げて女性が笑う。

 

 

『今日はSNSで予告していた通り、《ソードアート・オリジン》のベータ開始から数時間で分かった事とか、諸々を話す雑談配信をしていこうと思うゾ。注意点としては、ここは普通にモンスターもうろつくフィールドだから話してる途中で戦闘になって、会話が途切れちゃうかもしれない事ダ。あとSAO関連のディープな話もするからその辺も留意して欲しイ』

 

 

 やや事務的に注意点を告げたアルゴは、それから、と言葉を区切った。若干視線が横に外れる。

 

 

『これも予告してた通り、今日は()()()もいるゾ』

 

 

 その言葉の後、アルゴの右隣に並ぶように、画面左から矮躯の子供が姿を現した。銀髪金瞳、簡素な黒いフーデッドコートを着ている。

 

 

『どうも、ゲストのキリトです』

『ン、そんな訳で今日はオレっちとキー坊の二人で進行していくゾ。視聴者達も今日はよろしくナ。頑張ってコメントも拾っていくつもりだけど、拾えなくてもそこは容赦して欲しイ』

 

 

 苦笑交じりに言った後、アルゴは手近な岩場に腰を下ろした。その対面にあった小さな岩にキリトも腰を掛ける。カメラはその二人を丁度収められる位置で固定された。

 なんだかバラエティ番組を見ているようだが、場所はフィールドである。

 青空ならぬ夜空教室のようだ。

 

 

『まず最初に話す事と言えば、やっぱオリジンの成り立ちだよナー。触れ込み通り《はじまりの街》の風景はほぼまんまSAOのそれだったし、データの流用はマジの話だったんだと思うゼ』

『今回はアクセス件数とかで締め出される人が出ないよう敢えて回線負荷の少ないフィールドにしたらしいから伝わりにくいだろうけど……全体の構造はかなり違ったけど、部分部分はほぼ同じだった』

『武器屋とかのラインナップも見覚えのあるものが多かったしナ』

『家屋の構造もな。それに武器と言えば、最初から弓矢が置かれてた事には驚いた。オリジンはスキル回りも結構違うみたいだ』

『ダナ』

 

 

 SAOのベータ版、本製品版もプレイした二人が、元となったそれとどれくらい違うのかを端的に言い合っていく。

 自分を含めどちらも未経験の視聴者が殆どだからか、二人はすぐに話題を変えた。

 

 

『SAOは『剣が彩る世界』……要するに魔法がほぼ排除された世界観だったけど、SA:O(オリジン)には魔法があるっぽいな。風景は似てるけど中身が違うところがちょくちょくある』

『ンー……魔法、あったカ?』

『うん』

 

 

 ここで、早くも二人の見解に相違が生まれた。どうやら少年の方は、オリジンに魔法はあると考えているようだ。

 

「……あったかしら、魔法」

 

 しかし、あたしは首を傾げる。

 魔法と聞いて思い浮かぶのは、ALOの古ノルド語詠唱を擁する魔法や、《オリジナル・スペルスキル》によって作成された魔術などだ。しかしオリジンのスキル群でそれに該当しそうなものがあった覚えはなかった。

 無論、開発に途中参加だったから知らなかった可能性も無くはない。

 研究開発協力組の内、自分はシステムやAI面のプログラミングを主に担当していた。そのため世界観や装備、スキル関連には一切触れていない。その辺は創造主でもある茅場晶彦が担当していたからだ。

 元のSAOにも回復結晶などの魔法的要素もあるにはあった。オリジン・ベータにもそれは適用されている筈だが、彼が言っている事はおそらくそうではない筈だ。何故ならその点を踏まえた上で『オリジンにはある』と言っていたからだ。

 

 

『まぁ、魔法と言ってもALOみたいに詠唱を必要とするものじゃない。習得したスキルが凄く魔法っぽいからそう言っただけだし』

『スキル? 炎魔法スキルとかあったのカ?』

『いや、そんな(ちょく)(せつ)(てき)なものじゃなくて……見た方が早いか。視聴者にも見た方が伝わりやすいと思うし』

 

 

 どう伝えたものかと一瞬思い悩んだ様子の少年が腰を上げた。

 

 

『ヒーリングサークル』

 

 

 そして、片膝をつき、右手を地面に当てながらそう言った直後、彼の半径数メートル周囲を淡い緑色の光が埋め尽くした。地面に展開された緑色のサークルから都合三回の光が放出され、二人のアバターへと吸い込まれていく。

 二人の頭上に表示されているHPバーはフル状態だから変化が見られないが、ゲームをしている人が見れば、彼が口にした単語とエフェクトからそれがどんな効果を齎すかは理解できるだろう。

 

 

『今の、まさか範囲回復カ……?』

『そう。詠唱要らず、MP要らずのリキャスト制スキルだ。SAOにこの手のスキルは無かったから回復手段はポーションやクリスタルに頼るしかなかったけど、オリジンでは支援スキルの運用も重要になってくるらしい。あ、あと今のは共通スキルだから誰でも使えるぞ』

『逆に使えないスキルとかあるんだナ』

 

 

 やや食いつき気味にアルゴが問いかける。

 そこで、少年が首を傾げた。

 

 

『……意外だな。既に把握してると思ってた』

『やー、街の構造とかクエスト関係を回ってたからそこまで見てなくてネ』

『あぁ……まぁ、逆に俺はスキルやシステム関係に没頭してたからな……』

 

 

 面目ない、と言わんばかりに視線を逸らす女性に、少年が苦笑を滲ませた。

 

 

『スキルに関しては、ここはSAOともALOとも大きく違う。SAOは最初はスロットが二つあって、レベル10までは偶数レベルで一つ増加、以降は10刻みで一つ追加だった』

『ALOだと最初からスロットは10個固定だったナー。オリジンだとスロットは2個だケド……これをわざわざ話すって事は、そこも違ったのカ』

『ああ。レベルが上がってもスロットは増えない。というより、メニューで横並びのスロット二つは左側が武器スキルスロット、右側がエクストラスキルスロットになる』

 

 

 そう言いながらキリトはメニューを開き、他人にも見えるよう可視化した。現状の彼のパラメータが公開された事になるが、知られたところでどうとでもなると思っているのか躊躇する素振りはない。

 カメラにも見えるよう位置を調整された事で、彼のウィンドウがよく見えるようになった。

 SAOのシステムを継承している関係でALOのメニューウィンドウにも酷似したそれは、左側にメニュータブが縦にズラリと並び、右側上段に人のシルエットとその周囲を十個ほどの装備スロットが取り囲み、右側下段に様々な情報が記載されたタブが並んでいた。下段には素のパラメータと、レベルアップで得たパラメータポイントと装備による補正値を合算した値が記載されている。他にも所持金や総プレイ時間などもある。

 話になっているスロットは、パラメータウィンドウと所持金などのウィンドウに上下を挟まれる形で存在していた。左側には片手直剣アイコンが嵌め込まれ、右側は炎エフェクトを滾らせて剣を掲げる人のシルエットアイコンが嵌め込まれている。

 彼曰く、左側が武器スロットで今は《片手剣》スキルを、右側には《アタッカー》のスキルをセットしているらしい。

 

 

『スキル習得はツリー式、レベルアップや武器スキル習熟で貰えるポイントでどんどん取っていく形式だ。ただ、武器を使うソードスキルと、さっき使った《ヒーリングサークル》みたいな魔法スキルはそれぞれ習得するためのポイントが違うけど』

 

 

 そう言って、彼はスキルツリーを開いて見せた。

 タブで武器ツリー、エクストラツリーと分けられており、それぞれを見せてくれる。共通しているのは左側にツリーの根っことなるものがあり、貰ったポイントで徐々に枝分かれしていく右側のスキルを取っていくという形式だ。

 ポイントは武器ツリーが武器スキルの熟練度、エクストラツリーがレベルアップ時とスキルの反復使用で得られると彼は言った。

 

 

『アー……従来のMMOだとツリー式は武器の技と他の支援スキルが連動してる事が多いから、この武器だとこのスキルは使える、でも他の武器だと使えないってケースが出てきやすイ。だけどオリジンは魔法スキルに関してはどの武器でも使えるって事ダナ』

『そういう事だ。とは言え、流石にセット中のスキルツリーじゃないと使えない。ちなみにセットは武器は自動で、エクストラスキルは任意で『アタッカー』、『タンク』、『ヒーラー』、『バファー』、『スカウト』の五つから選択可能だった』

 

 

 そう言いながら、彼は武器ツリーの短剣アイコンをタップするが、ブー、という効果音と共に操作が無効化される。

 しかしエクストラツリーでは、翠の光を放ちながら祈るアイコン――ヒーラースキル――をタップすると、シャキーン! と小気味良い音と共に選択されたツリーが変更された。アタッカーツリーが暗転し、変わりにヒーラーツリーが輝きを得る。

 再度アタッカーアイコンをタップし、セットし直しつつキリトが岩に腰かけた。

 

 

『こんな感じでSAOやALOよりも明確な役割付けが出来る事になった訳だな。とは言えステータスが大きく変動する訳じゃないし、今のところ装備制限もないから、前衛型ヒーラーとかも不可能じゃない。俺みたいなソロ傾向のプレイヤーだとヒーラースキルは特に世話になると思う。なんならヒーラーのスキルを掛けた後にツリーを切り替えてアタッカーのスキルを使うとかも可能だからな』

『なんかそれズッコいナー』

『使えるんだから仕方ない。ボスモンスターに慈悲は要らない』

 

 

 呆れたようにアルゴが言うが、キリトはそれを受け流した。デュエルならともかく、対モンスター戦なら使える手を全部使う事を良しとしているようだ。

 かつてシステムの許す限りの手段を以て数千、数万倍の差を埋められ、思い知らされた身だからイヤでも分かってしまった。

 

 

『ふーム……こうして見ると、二刀流って無いっぽナ?』

 

 

 自身のウィンドウで武器ツリーを上から下まで、更にエクストラツリーも眺めたアルゴがそう言った。

 おそらく『装備制限』など彼が言った条件に当てはまる代名詞だったからだろう。SAOでは《二刀流》を習得した事で両手それぞれに片手武器を持ってもスキルが発動できるようになっていたという。

 

 

『ああ。無限槍も神速剣も、神聖剣も無い。ただALOと同じで、両手に武器を持ってもスキルは使える』

『マジか。まーたキー坊の《剣技連携(スキルコネクト)》が炸裂するって訳カ』

『一応俺は運営側のテスター、デバッカー要員だから、最前線攻略は余程の事が無い限りしないつもりだけどな』

 

 

 かんらかんらと笑う女性。少年もそれに応じて笑う。

 ふと、そこで女性の視線が虚空に向いた。おそらく視界表示にしているコメント欄を見たのだろう。これまでも何度かコメント欄の疑問に答える形で会話していたが、明らかに『見ている』と分かる素振りはこれが初だ。

 

 

『アー、そういえばキー坊、仮に両手で違う武器を持ったらどうなるかは検証済みカ?』

『どう、とは』

『セットされたスキルって片方しか適用されないんじゃっていう話ダ。例えばいまキー坊は《片手剣》スキルをセットしてるけど、左手に短剣を持った時、《短剣》スキルは使えるのカ?』

『あー、そういう……』

 

 

 問われている事がなにか理解した少年が、納得した素振りを見せた後、彼は再びメニューを繰ってスキルツリーを呼び出した。武器ツリーを開いた後、窓の上下を人差し指でタッチし、くるりとひっくり返してアルゴや視聴者に見えるよう調整する。

 そうしてから、彼は武器ツリーで明滅を繰り返す《片手剣》スキルのアイコンを指差す。

 

 

『いま、片手剣スキルがセットされてるから、コレが明滅してるよな?』

『ああ、してル』

『この数時間である程度戦闘をこなしたから熟練度も上がって、幾つかの派生スキルを習得してる。翻って片手剣スキル以外は全部ゼロ。これもいいな?』

 

 

 武器ツリーのアイコンから右へ伸びた先には、上中下の三段に分かれ、三つの初期ソードスキルが存在する。それぞれ横薙ぎ(ホリゾンタル)唐竹割り(バーチカル)袈裟斬り(スラント)の三種類だ。ログイン時点で最初から習得しているそれらからも派生スキルが枝分かれしており、それらの習得には武器熟練度を上げる必要がある。

 彼の片手剣スキルの数値は五〇を超えており、獲得したポイントで派生スキルの一つである《バーチカル・アーク》が習得済みとしてアイコンが明るくなっている。

 他の細剣や短剣、長槍スキルなどは一切成長しておらず、初期スキルが明るくなっているだけだ。明滅を繰り返している部分は習得可能な証なので、片手剣スキル成長で得たポイントを他のスキルに充てる事は可能のようだ。

 ともあれそれらも確認したアルゴが、また頷いた。

 すると、彼は一度自分が見れるようウィンドウをひっくり返し、最初のメインメニュー・ウィンドウへと画面を戻した。それから再度こちらに見えるようにする。

 次に彼が指し示したのは、人のシルエットを囲うように表示される装備スロットだ。

 

 

『俺の装備フィギュアの右手セルには【アニールブレード】があるけど、左手セルは空欄だ』

 

 

 そう言った後、彼は左腰から吊っていた剣を鞘ごと外し、足元の地面に置いた。

 すると数秒後、ウィンドウの右手セルに表示されているアイコンが薄くグレーアウトする。

 

 

『この状態が『装備武器のドロップ状態』。戦闘中に手から離れた時になる状態だな』

『アー、手を滑らせた(ファンブルした)り、Mobの武器落とし(ディスアーム)属性攻撃喰らったりすると発生するヤツだナ。SAOの時は苦労したナァ』

『次の攻撃をよけてから拾えばいいけど最初はなかなか厳しい。第一層真ん中あたりに湧く《スワンプコボルド・トラッパー》が初のディスアーム使いで、あそこでもだいぶ犠牲者が出てたな……』

『あの世界じゃ武器が命綱そのものだったからナァ……』

 

 

 ふと、疲労感を滲ませながら二人が呟きを漏らす。

 最初期の頃から犠牲者を減らそうと情報を回していた二人だからこそ、歯痒く思った記憶が強く残っているのだろう。

 数秒後、気を取り直したように同時にかぶりを振った。

 

 

『脱線したな。ええと……こうして装備を置いた時にタブアイコンがグレーアウトするのは、装備タブを経由して装備したと、システム的に正しい手順を踏んでいる事を意味する。コレに紐づけられてるのが武器の所有者権限だ。仮に自分のじゃない武器を使ってた場合、剣を落とした時点でこっちの右手セルからアイコンは消えるが……』

 

 

 言いながら、彼は足元に置いた剣を拾う。タブアイコンが明るくなったが、それを無視して剣をタップ。詳細な情報が表示された。

 彼はそのウィンドウの最下段を指し示した。

 

 

『ここ、俺のプレイヤーネームがあるよな? だから剣がドロップ状態になってから一時間、あるいは右手に新しい武器を装備タブから装備するまではここはクリアされない。誰かに取られた時はすぐアイコンが消えて、一時的な所有権が相手に発生するけど、『装備状態』と『所有者権限』はその時点では俺にある事になる』

『……えーと、つまりその所有者権限とスキルセットは、紐づけられてるって事を言いたいのカ?』

『それはそうだけど、言いたい事はそれじゃない』

 

 

 小難しいシステムの話になってきて、視聴者のためにか噛み砕いたアルゴの言葉を、しかし彼は左右に首を振って否定した。一部はそうだが、これで全部ではないと言いたげだ。

 

 

『今の話で重要なのは、装備タブ経由による所有者権限と、経由しない場合の一時所有権限は両立し得る事だ。さっき武器を落とした時の話が出たけど、そういう時の備えとして俺達はどう呼びかけていたっけ』

『ン? そりゃ、予備の武器を用意しておくようにッテ……』

 

 

 そこで、ハッとしたようにアルゴは口を噤み、少年に瞠目を向けた。

 我が意を得たりと、少年が微笑む。

 

 

『戦闘中に武器を予備に持ち変える時、わざわざメニューは開かない。それでもソードスキルは発動できる。プレイヤーは同じ手でも別々の手でも所有者権限と一時所有権限を同時に保持出来るんだ』

 

 

 言いながら、彼はストレージから曲刀を呼び出し、左手で持った。装備フィギュアの左手セルに曲刀のアイコンが表示される。

 しかし、武器スキルスロットは片手剣のまま。

 このままでは曲刀スキルを発動できないが――――

 左肩に担がれた武器の刀身が淡い橙色の光を帯びる。そして、そのまま一直線に単発技《リーパー》が放たれた。

 スロットに表示はないにも関わらず、彼は曲刀スキルを使ってみせたのだ。

 更に彼は装備タブから右手に曲刀を装備し、一時所有になったアニールブレードを左手に持つ。さっきとは逆の状態になったまま、《片手剣》二連撃技《バーチカル・アーク》までも放ってみせた。

 それは一時所有状態の武器のスキルも、最初期習得だけでなく今後習得していくソードスキルも使えるという事を証左していた。

 あくまで五分間のみの一時所有権限なのでシステム的保護が弱いのが難点だが、そこにさえ注意すれば、複数の武器を同時に扱う事も不可能ではない可能性を示していた。

 

 

『スキルツリーはプレイヤーのアバターないしアカウントに紐づけられてる。武器を装備した時、紐づけられたツリーがスロットにセットされる。そういう過程がある以上、正式な所有者権限だろうと一時権限だろうと対応したスキルが発動されるのは必然だ』

『……よくそんなの気付けたナ?』

『仮にその差異までいちいち判断させてたら余計な負荷がカーディナルに掛かってディスアーム技持ちのボス戦とか凄いラグりそうだと思って』

『そんな切り込み方するのはキー坊くらいなもんダ……』

 

 

 どっと疲れたように言うアルゴ。

 気持ちは分からなくもなかった。一通り彼がそれに気付けた思考過程を聞いたが、ちょっと何を言ってるかよく分からない。システムが判断している以上は理屈・理論もしっかりしたものの筈なのに理解が追い付かない。

 思考が飛躍しているとでも言うのだろうか。

 まるで答えが分かっていた状態で、むりやり理屈を引っ張ってきたかのような……

 

 

『ふふ、今のはちょっとした冗談だ』

 

 

 情報屋の女性の様子を見て、揶揄っただけだと笑う少年。

 揶揄われたと知った女性がムッとした表情になった。

 

 

『なんだヨ。ちょっと意地が悪いんじゃないカ?』

『はは、ごめん』

 

 

 くすくすと彼は朗らかに微笑むばかり。抗議の視線はスルーしていた。

 

 

『多分これはSAO、ALOと続けて複数の武器を使ってきた俺だから気付けた事だと思う。ソロだったから一度の戦闘で斬撃耐性と打撃耐性の敵と遭遇時、戦闘中に武器種ごと変える事も少なくなかった』

『アー……キー坊やシノンで感覚マヒってたけど、メインとサブで武器種を統一する方がメジャーだもんナ。そもそもサブを用意するのって武器を落とした時と耐久値の事を考えての事が大半だったシ』

『加えてスキルスロットの数的に複数取るのはキツかったからな。それにパーティーで武器属性をバラけさせれば済む話だ。実際ユウキは片手剣一筋だったけど、それはサチが片手剣と長槍、長棍の三属性武器を使い分けていたからだ。武器の扱いも一つこなれるのにかなり時間を掛けないといけないからみんな敬遠してた』

 

 

 その、誰もが敬遠していたスタイルの極地を行く少年が言う。

 何を言ってるんだろう、と言いたげな微妙な表情をアルゴは浮かべるが、そのまま口を噤んだままだった。言っても無駄だと思ったのだろう。

 

 

『それにアルゴが気付けなかったのも無理はない。この仕様、SAO時代は確実に無かったからな』

『そうなのカ? てっきりあるものかト……』

『SAOではイレギュラー装備状態があっただろう。《二刀流》を習得したから両手に片手武器を持ってソードスキルを使えるようになっただけで、普通は対応する武器スキルを取ってても両手に武器を持ってたらどっちも発動しなかった。俺だって《二刀流》と《ⅩⅢ》取得前に武器を持ち変える時は持ってた武器を地面に突き刺したり鞘に戻したりしてたんだぞ』

『ア、アー……そうだったっけかナー……?』

 

 

 情報屋として『知らない』と言いたくないのか、やや羞恥に頬を染めながら視線を逸らすアルゴ。そんな彼女をやや呆れたように見るキリト。

 なんだかんだこの二人、これで釣り合いが取れているのだろう。

 

 

 

 

 それから十数分ほど話が続き、アレはSAOと同じ、アレは違うと思い出話に花を咲かせるように二人の雑談配信は続いた。どちらもそれとなく視聴者の疑問コメントを拾って話を展開するからか受けが良いらしく、視聴者数は深夜に差し掛かるというのに数十万にも上る。

 Mスト配信枠でこれなら、他の動画配信サイトも似たような状況になっているだろう。

 

 

『しっかし、キー坊も大変だよナ。《BIA》としての活動と言い、オリジンの監視・調査と言い、もう少し休んでもいいんじゃないカ?』

 

 

 ある程度話したからか、アルゴが話題を切り替えた。若干叱責交じりのそれは彼女の本心からくる言葉だろう。

 

 

『しっかり食事と睡眠は取ってるんだよナ?』

『お陰様でな。まあ【無銘】や【黒椿】が調整してくれるから、もうどっちも要らなくなったんだけど……』

『リアルでもSAOの頃みたいな事言うのやめてくれねェかナ……?』

 

 

 あたまいたい、と言わんばかりにアルゴは額に手を当てて俯いた。SAO時代に料理スキルを極める事になったキッカケとして彼女とのやり取りがあったとは聞いている。おそらくその頃と同じことを言ったのだろうと、容易に想像がついた。

 

 

『まぁ、しっかり取ってるから勘弁してくれ……話を戻すけど、フルダイブ技術に関しては《SAO事件》や《クラウド・ブレイン事変》の事もあって、”上”の方も喧々諤々でな。一枚岩じゃないんだ』

『と、いうと?』

『フルダイブ技術が現実に及ぼす影響というのは各分野で最も注目されている。《BIA》の『SEOS』や【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】のように、IS技術との親和性も高いからな。それに社会的、文化的影響はもちろん、生物学的な事も大いに議論されてるらしい。なにしろ人間の脳は未だブラックボックスの塊扱いだからな』

 

 

 コツコツ、と頭部を指で突きながら彼が言った。

 

 

『オリジンは試金石なんだろう』

『試金石……』

『疑問ではあった筈だ。どうして世間の批判を浴びると分かった上で日本政府がこのゲームの製作を主導していたか、と。答えはそれだよ。もし仮になんらかの危険があるという結論が出れば法規制を掛けようとする動きも強くなる。実際《SAO事件》当時に法案が提出される直前まで行ったそうだし……とは言え、総務省に仮想課なんて部署があるように、全員が否定的という訳じゃない。いや、医療・福祉業界を筆頭に、あらゆる分野の最先端を研究している人達はこの流れを後退させるべきではないと訴えてる。それは束博士や七色の協力がある時点で分かっている事だろう?』

『篠ノ之博士はIS業界の、七色は仮想ネットワーク社会の研究者だからナ……』

『ああ。七色が協力しているのも、仮想世界が果たして人間の在り方をどう変えていくのか、それを探るためだと思う。それは来日してくる前から言っていた事だからな』

『アー、そういえば言ってたナー……』

 

 

 思い出したように頷くアルゴ。

 まぁ、最近はIS業界の方にどっぷりだったし、久しぶりに表に出てきたと思えばその研究をすっぽかしたような形だったから忘れられても仕方ないだろう。

 しかし、自分はまだ研究者だ。思わぬ形でクラウド・ブレイン事変を起こしてしまい、多くの人に危害を及ぼしてしまったが、今はそれをどう無害化する模索段階にある。つまり仮想ネットワーク社会――――人々がどう団結し、意思を束ねるかの思考実験は今も続いているのである。

 偏に”瞋恚”と呼称されるそれは、きっと今後の人間社会に影響を与える。

 それがいいものか悪いものか、それを判断するのも研究者の務めだ。

 そうして己の知的好奇心を満たし、智慧を蓄えながら、彼を助ける一助になれば……

 

 

『――デ、茅場の旦那の目的は知ってるのカ?』

 

 

 未来を夢想していると、そんな言葉が意識に割り込んできた。

 自分もそれは興味がある。対外的には須郷によって台無しにされたSAOの雪辱を晴らそうとして、オリジンを製作したとなっているし、本人もその気なのかかなりのやる気を見せていた。しかし直接本人から聞いたわけではない。

 あの男性から心を許されている少年なら何か知っているのではと、期待を募らせる。

 

 

『ああ、茅場か……俺が知ってる茅場は、夢を台無しにされた影響でかかなりのダウナーだったけど、少し前に会った時は夢に向かって邁進してたからな』

『そう言えばそんなコト言ってたナ……それって、このオリジンの製作に携わってたからカ』

『……多分だけど、違う』

 

 

 そこで、キリトが言葉を選ぶように、あるいは適した表現を探すように首を捻った。

 

 

『ここはアイングラウンドだ。だが、茅場が子供の頃から夢想し、ついにはフルダイブ技術を確立させ、仮想世界に築いたものはアインクラッドだった。それほどまで熱意を持つ男が代替物を作る事に邁進するとは思えない。それに熱意を見せ始めたのはほんのつい最近だが、オリジンの製作はもっと前からあったと見るべきだ。仮にオリジンへのものだとすれば俺が現実に帰還した時から見られてもおかしくない』

 

 

 まあ実際の製作期間を知らないから予想だけど、と彼が予防線を張る。

 本当に知らないのか怪しいところだが、少なくともあの男性の熱意が上がったのがここ最近という事は確かだ。自分は《クラウド・ブレイン事変》の折、政府との裏取引で特に問題なく日本国籍を取得し、枳殻家の次女として生活を始めた。その時点から少なからず政府とやり取りしていたが、あの男性が自分より前から関わっていたのは想像に難くない。

 そう考えれば、確かに彼が熱意を出す事になった理由とは考え難かった。

 アルゴもそう考えたようで、首を傾げる。

 

 

『――知っているか。浮遊城アインクラッドは、元々大地だったものが浮かび上がって出来上がったという伝説がある事を』

 

 

 そこで、一石を投じるように前触れもなくキリトがそう言葉を発した。

 

 

『なんだッテ? そんな伝説、あったカ?』

『ああ。とは言え、コレはアインクラッド第三層から九層まで続くキャンペーン・クエストの最初の勢力決定でほぼ確実に相打ちになる味方エルフか味方ダークエルフを生存させた場合にしか聞けないみたいだったけど』

『……平均レベル12くらいの時に15相当のエリートMobを倒す方が無茶だゾ』

『俺は当時25を超えてたから問題なかった』

 

 

 ふんす、と誇らしげに胸を張る少年。

 そうだったな、とアルゴは疲れ気味に苦笑した。

 

 

『それで、どんな伝説なんダ?』

 

 

 アルゴが先を促すと、彼は朗々と語りだした。

 

 

 ――千古の昔。

 大地はフォレストエルフ族の築いた《カレス・オー王国》、ダークエルフ族の住まう《リュースラ王国》、人間族の《九連合王国》、ドワーフ族の地下王国やそのほかの種族が暮らす中小国家によって分割統治され、時折小競り合いはあったものの概ね平和な時代が長く続いた。

 しかしある時、『何か』をきっかけとして前国家の主要な百の地域が円盤状にくり抜かれ、空へと引き上げられるという天変地異が起きた。それらは円錐台形に積み重ねられ、百階層からなる巨大な風景を形作った。

 内部に数多の町や村、山や森や湖を飲み込んだまま、城は二度と大地に還る事はなかった。かつての文明を支えていた魔法の力は喪われ、人間族の九王家は全て絶えた。殆どの街は自治都市となり、階層間の交流は立たれ、そして再び悠久の時が過ぎ去った。

 現在ではかつての《大地切断》にまつわる伝承を残しているのは、いまだ王家による統治を保つ両エルフ族のみである――

 

 

『――という内容がおおまかなあらましだな』

 

 

 そう少年が締め括る。

 

 

『……よくそんな鮮明に覚えてるナ?』

『そりゃあもう、舞台背景や物語を聞くのはすごく好きだったからダークエルフの騎士にせがんだもの』

 

 

 さらりと少年が答えると、ああ、と思い当たる節があったらしいアルゴが呟いた。

 

 

『そーいやフラグ立てに何時間も話す村長の話を最後まで聞いてたとかリズっちが言ってたっけカ……』

『クリスタライト・インゴットを取りに行った時の話だな。いやぁ、懐かしいな』

 

 

 事変で流れた時の出来事か、と思い出していると、少年が更に口を開いた。

 

 

『で、キャンペーン・クエストを続けていくともう少し詳しい部分も聞けたんだ。大地がくり抜かれた原因は何なのか、という部分だな』

 

 

 ――大昔、『聖大樹』と呼ばれる二本の巨木があって、二人の巫女がそれぞれに仕えていたんだそうだ。

 その『聖大樹』のお陰で世界は平穏を保たれていたが、ある時からエルフ族をはじめ、あらゆる種族、国家が争いを始めてしまう。

 そこで二人の巫女は事態を収めるために『聖大樹』に祈りを捧げ、大地を空へと切り離した。

 国家、種族を各階層で切り離し、往来を《天柱の塔》に守護獣を置くことで塞いだ。

 巫女達はその後、その身をそれぞれの『聖大樹』に捧げ、浮遊城を保つ礎となった。その封印を解かれないよう礎を六つの鍵で閉じた『聖堂』に安置した。

 そして『聖堂』を閉じる六つの鍵『翡翠の秘鍵』を各地に秘匿する。

 そうして浮遊城の存在は保たれ、再びの平穏を手に入れた――

 

 

『というのが、ダークエルフの女王から教えてもらった伝説だった』

『ぶっ?!』

 

 

 最後にそう締め括った瞬間、アルゴが大きく噴き出した。

 どうしたんだろうと様子を窺っていると、息を整えた彼女ががばりと前のめりで口を開く。

 

 

『お、王族って言ったカ?!』

『う、うん。リュースラ王国女王に謁見して、秘鍵を守り切ったからという褒賞として【クイーンナイトソード】を貰ったけど……』

『キー坊が九層頃から使ってた剣だナ。アレ、誰に聞いても出所不明だったけど、それだったのカ……!』

『……教えてなかったっけ?』

『そもそもボス戦と情報共有の時くらいしか会えなかったし、キー坊ってばすーぐどっか行っちゃってたからナ』

『……言い訳できない』

 

 

 じとっとした女性の視線と言葉を彼は抗う事無く受け入れていた。

 それだけ忙しかったのだと考えると、なんだかなぁと思う。第九層と言えば彼の《ビーター》としての悪名をフルに広めていた時期の筈だ。周囲との軋轢も途轍もなかったに違いない。

 その後の展開を思うと序章に過ぎない訳だからこっちまで物悲しくなってくるが。

 

 

『と、ともあれ、《大地切断》という伝説がアインクラッドに……いや、もっと言えばカーディナル・システムが運営する世界にあった。そしてカーディナルにはクエスト自動生成機能がある』

『……オリジンで《大地切断》が再現されて、あの城が創成されるって訳カ……?』

『無いとは言い切れない。今度こそ自身で夢見た城を創成しようと意気込んでいるからこそ、あの熱量だとも思う』

 

 

 そこで、少年が空を仰ぎ見た。

 月光と星明りが映える夜空。どこまでも続く彼方のどこにも異物は見えないが……

 

 

 

『一個人としては……茅場の夢は、応援したいな』

 

 

 

 彼方の空に、浮遊城を幻視しているのは明らかだった。

 

 






Q:なぜ中継風にしたか?
A:これが作中作オリジンの設定という事にする
 &物語の展開上……
 &茅場のフォロー


※所有者権限について
 原作プログレッシブでは『クイックチェンジ』というあらかじめセットしていた装備にワンクリックで切り替えるモディファイが存在します。それを踏まえ、アスナは『主武装を奪われてクイックチェンジで予備武装に持ち替える時は、右手じゃなく左手にしていた方がいいって事ね』と発言していました。
 今話ではこの『持ち替える=装備』を『装備タブを経由した場合』として解釈し、『タブ経由せずの一時的装備(非クイックチェンジ)』の場合は所有者権限が消去されないと独自解釈を挟んでいます。
 ご容赦ください。


・大地切断
 浮遊城創成の伝説
 前半で話したのは原作プログレッシブ2巻、後半はホロリア版のダイジェスト(一部盛り)
 キャンペーン・クエスト=プログレッシブはおそらくアインクラッド創成の謎を辿る物語だと思うのだが、6巻までの現在で9層に辿り着いてないので、未だ詳細は不明
 本作ではキリト、キリカが直接話を聞き、アスナ、アルゴらは又聞きという形
 ちなみにアルゴはホントに初耳だった


・オリジンに於ける魔法
 ホロリアでのバトルスキル全般
 SAOは魔法の概念が排除されていたが、オリジンにはある。《大地切断》前という事で他者を回復したり守ったりする手段を魔法扱いにして、浮遊城創成後はそれらが失われたからSAO時代に範囲回復スキルなどが失われた、という独自設定
 ただし攻撃魔法は無い


・オリジンに於けるスキルスロット
 武器スキルとエクストラスキルの二つ
 これはホロリアを踏襲している
 アタッカー、ヒーラーなどが当てはまる後者はジョブスロットと言うべきかもしれないが、それでも敢えて『エクストラスキル』としているという事は……


・武器スキルの扱い
 アバター一つで全てのスキルツリーは有効化済み
 装備した武器(所有者権限or一時所有権限)に応じて使えるスキルの中から発動していく、という流れ
 スキルスロットの関係上、片手に装備タブを介して武器を装備すると、空いた手に武器をタブから装備させる事は不可(ALOでは可)
 その抜け道として、タブを介さず武器を持つというのが今話のキリトの話
 SAOではタブを介さない武器でもイレギュラー装備状態になったが、オリジンではならずに済む
 スキル回りの変化により、SAOともALOともやや異なるシステムになったが、それを今日一日でキリトは見抜いてシステム外スキルとして確立させてしまった(使えるとは言ってない)


・エクストラスキルの扱い
 アタッカー、タンク、ヒーラー、バファー、スカウトの五種類を確認済み
 パッシブスキルを除き、ステータスや装備制限などは無いが、使用可能なスキルは変わる。しかし変更直後からリキャストが始まる訳ではないので、スキルを粗方掛けてから別のツリーに切り替えるという荒業(システム外スキル)が使える
 ちなみにホロリアでかつて本当に流行った手段だが、フュージョンスキルの実装でツリーを変えると逆に弱体化するとなって廃れていった
 まあ役割もへったくれも無くなるからね……


・スキル発動の条件
SAO:《二刀流》持ち以外は片手武器一つ限定(投げナイフ、盾などはあり)
ALO:二刀スキルは無いが、イレギュラー装備状態判定がそもそも無いので両手に武器を持っても片手スキルは使える
SA:O:片方は装備タブ経由しなければ両手でスキル使える(所有者権限と一時権限での二刀流)

 ――ややこしいな!!!


・キリト
 地味にネタバレしまくってるゲーマーの敵()
 一応茅場の本当の目的(現実での浮遊城創成)には触れず、唐突に事態が起きた場合の反感に備え、今の内にある程度世間に慣れさせておこうという腹積もりで諸々語っている
 地味に政府の目的(AIやフラクトライトなど)と茅場の目的はそれらしい事を言って暈している
 初日でシステムを逆手に取ってシステム外スキルを二つも確立した

武器:片手剣
EX:アタッカー


・アルゴ
 今更になって新事実を知りまくっている情報屋()
 姐さんの心労は今後も絶えない事でしょう

武器:短剣
EX:スカウト


・枳殻七色
 やっぱり思考を読まれている天才科学者
 オリジンの開発にクラウド・ブレイン事変後から関与していた模様。その理由はクラウド・ブレインの完成であり、ひいては和人の手助けのため


・茅場晶彦
 熱意モリモリカヤバーン
 和人から尊敬されている人物。そのためか、手厚いフォローをしてもらった。今回のフォロー(予想として浮かべる)だけで茅場への反感はある程度薄らぐ事でしょう
 果たして負債は如何ほどか……?


Q:コメント欄のセリフを書かなかったのは?
A:冗長になるからです……


 では、次話にてお会いしましょう。


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