インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 24時間内に四話目投稿だァ!(無礼)

 これで『Prologue』は終わりだヨ!

視点:キリカ

字数:約九千

 ではどうぞ。





Prologue ~Aincradの残滓~

 

 

 8月1日午後5時30分にベータテスト開始となった《ソードアート・オリジン》。

 約二千人の元SAOプレイヤーと約一万八千人の非SAOプレイヤー達とが一斉にログインを果たし、街やフィールドを闊歩し始めて約一時間が経過した頃には、すっかり斜陽が世界を照らす時間になっていた。

 大鐘楼広場に戻った俺は、茜色に染まった世界を見て複雑な気持ちになった。

 あの頃とは違う景観であっても、やはり似通った世界である事は事実。夕陽に照らされる広場にいるとどうしても虚空に深紅のローブアバターを幻視してしまう。この広場はログインして最初に降り立つ場所であると同時に、デスゲームを宣告された場所でもあるからだ。

 一時間たっぷりと時間を掛けて《はじまりの街》の地理を把握すれば、やはり違いも克明になる。店のラインナップには見た事があれば無いものもある。旧SAO時代の第一層《はじまりの街》はこの広場を中心に八方位に伸びた街道で区画分けされていたのだが、このオリジンの《新・はじまりの街》は黒鉄宮を中心に西が商店街、東が湖畔公園、北にはカフェテリアや衣類のショップなど直接冒険には関係しないショップが並ぶ展望台という四つの区画分けが為されていた。

 ちなみに、湖畔とは言うが地図で見た限り別の大陸まで広がっているので、実際は海浜公園と言った方が正しいように思う。

 そしてアインクラッドには浮遊城という性質上『海』なんて存在しなかった。アスナが部屋を購入していた六十一層セルムブルグも面積の大半が水で占められていたが、それすらも巨大な湖でしかない。

 翻って、このアイングラウンドに存在する海に果ては見えない。サーバーの容量としての果てはあるのだろうが、プレイヤーが行ける範囲からすれば果てしないように思える筈だ。

 ……まぁ、そもそもこの世界に船舶が存在するのかという話なのだが。

 

「宿にあった世界地図を見た限り、ほぼ陸地だったよな……」

 

 世界は四つの大陸に分かれており、それぞれの大陸に《はじまりの街》が点在している。つまり街はこのベータテストで四つ存在する訳だ。

 地図の右半分がほぼ陸地。北東が自分のいる草原大陸で、南東は湖沼群が広がる大地だという。ちなみに北東と南東を繋ぐ間の部分には大森林が存在しているものの、拠点らしき街は現存していないと宿のNPCが言っていた。

 左半分の内、北西は砂漠地帯だ。

 南西は僅かに大地がある程度だが、四分の一の領域の更に半分――つまり全体の八分の一程度――その海しか存在しなかった。相対比で言えば陸対海で七対三の割合になるだろう。

 つまり大陸の広さで言えば東側、更に北東側が有利という事になるが、このオリジンは攻略の進め方が少々特殊になっていた。

 まず《はじまりの街》からフィールドに出る点から旧SAOと違う。旧SAOに於いて第一層最南端に位置していた街から出るなら北、西、東いずれかの大門を抜ければよかったが、オリジンの街は外周を破壊不能オブジェクトである外壁に囲われていて物理的に抜けられる門が存在しない。フィールドに出るには大鐘楼広場の転移門を使用するより他にないのだ。

 そして現状行けるフィールドはアイングラウンド北東部《リューストリア大草原》一択。

 ではこの大草原に二万人のプレイヤーが大挙して進行する――となるかと言えば、どうもそうではなかった。

 MMORPGではよくある事らしいが、どうやらプレイヤーはログインした段階でサーバー毎に分けられており、それがそのまま降り立った《はじまりの街》に反映されているらしい。そして北東組のプレイヤーが大草原に向かったとしても、出会うのは同じ北東組のプレイヤーだけという事だ。

 実質インスタンスエリアが四つ存在する事になる訳で、相応にサーバーの用意も大変だったに違いない。だがベータ時点で二万、本サービス開始でそれ以上の数が密集するだろう未来を考えれば、所属サーバーを分ける試みは必要な事だろう。

 サーバー分けはしていないが、ALOも種族選択で領地に降り立つ事でプレイヤーの極地密集を回避している。

 しかしオリジンは単一種族である以上どうにかしてバラける要素を作らなければ開始直後の集中ログインだけでサーバーダウンを起こしかねない。あまりに酷いラグを開始直後に受ければ、流石に高評価は得られにくいだろう。

 だからこそのサーバー分けだと思えば、これはかなり良い手ではないだろうか。

 自動的にリソースの奪い合いも減少する訳で新規プレイヤーが遊びやすい環境にもなる。

 これはオリジンのベータ特典も関与している点だ。

 なんとオリジンのベータテスターはSAOと異なって得た経験値、アイテム、スキルなどを上限付きで本製品版に引き継げる事になっている。つまり最初期に新規勢と大草原フィールドでバッティングする頻度が減るわけで、その点でもリソースの奪い合いが起きにくい利点になるのだ。

 とは言え、手放しに喜べない事でもある。

 レベルを引き継いだプレイヤーによる初心者狩りがベータ開始以前から危惧されているのだ。最早プレイヤーのモラルの問題だから規制のしようがなく、それを逆手に取って暴れるだろう未来が容易に想像できる。デスゲームとなったSAOでもビギナーを食い物にした元ベータテスターの話題は事欠かなかった。

 無論、それはベータテスト中にも起こり得る事だ。

 この世界はSAOのシステムが基本となっているため、デュエルなどの合意を除いたプレイヤー間の侵害を行えばカーソルがオレンジ色になる。犯罪者カラーであるオレンジカーソルになれば、戦闘行為全般が禁止されている《圏内》に入る際にガーディアンに攻撃されてしまい、ロクに補給を行えなくなる。恐ろしい事に現状カルマクエストに相当するグリーンカーソルへの復帰手段が報じられておらず、最悪存在しない可能性すらある。

 しかし、かつての《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のようにPKに悦びを抱く者や、システムの穴を突いてマナーレス行為に手を染める者は必ず出る。MPKなど直接手を下さない手段はごまんとあるからだ。

 

「――で、それを抑える役目をお前が担う訳か」

「そういう事だ」

 

 悠然と頷いたのは、自分と瓜二つの体型ながら、銀髪金瞳と色が異なる少年剣士。ALOで新規作成したアカウントのアバターデータをこの世界にも流用したオリジナル・キリトだ。

 《亡国事変》から元の黒髪黒目に戻ったオリジナルだが、コピーAIである《キリカ()》がいて紛らわしいからと仮想世界では銀髪金瞳で通すつもりでいるらしい。まあその方がややこしい事にならないから俺としても助かる話ではあった。

 そんなオリジナルは、政府機関の総務省仮想課に務める職員であり、仮想世界の問題を解決する要員でもあるため当然ながらオリジンのテスターとしてプレイを開始。バグ発見・修正が最優先になるため、レベリングと並行して集まった情報の真偽を精査しながら流布していく情報屋紛いの事をしていくという。

 

「えー……じゃあキリトと一緒に攻略出来ないって事? せっかく同じゲームで全員一緒にスタートを切れたのに……」

 

 それに不満の声を上げたのはユウキだ。

 世間的にも『和人(キリト)攻略勢』の筆頭と認知されている【絶剣】ユウキは、本人が言ったように全員が同じスタートを切り、攻略を進める事を楽しみにしていた一人。

 旧SAOは楽しむ以前の問題。ALOはリーファが元から遊んでいて、オリジナルが数ヵ月遅れの参加だった事もあり中々調整するのが困難だった。いや、そもそもALOに関して言えばログインする前からセブンに目を付けていたらしいし、オリジナルが純粋に楽しめた事は無かった可能性すらある。

 オリジンも少なからず安心し切れない部分はあるが、政府機関の監視や天才達の協力があるためか不安よりも安堵の方がまだ大きい。

 しかし、安堵の理由がそのままオリジナルと共に遊べない原因にもなっており、集った面子の大半が複雑な表情を浮かべていた。

 それを見たオリジナルが、苦笑を滲ませる。

 ちなみにこの場に集ったのはキリト(オリジナル)キリカ()、ユイ、ストレア、リーファ、シノン、ユウキ、ラン、サチ、ケイタ、テツオ、ダッカー、ササマル、アスナ、シリカ、リズベット、クライン、エギル、アルゴの十九人。他にも来る予定だが、各々の事情により午後6時30分の集合時間には間に合わなかった。

 

「いや、まったく出来ない訳じゃないよ。フィールド攻略や素材集め、レベリングなら手伝えるし」

「んじゃ、なにだと協力出来ないんだ?」

 

 怪訝な顔でクラインが問うと、エリアボス攻略だな、と端的に答えが返ってきた。

 

「何週間も攻略が止まるようなら流石に介入するけど、基本的にエリアボスには不干渉で行く。運営寄りの人間が行くのはいい顔をされないだろうからな」

「あー……普通次のエリア解放のキーボスってのは、倒した奴が暫く英雄みたいに担ぎ上げられるモンだからな」

「ALOのヴォークリンデ解放時には《スリーピング・ナイツ》が一時期持ち上げられてましたからね」

 

 過去のMMO経験から言わんとする事を察したらしいエギル。

 その隣に立つ、紫紺色のクロークからレザーガードを装備した細剣使いランが具体例を挙げつつ、納得を示す。

 ALOに大型アップデートで追加された浮島大陸【スヴァルト・アールヴヘイム】は、各エリアのボスを倒すごとに次のエリアが倒されるというオリジンと同じ仕組みで攻略が進む。そのエリアボスはボス部屋まで行けば何度でも挑戦可能だが、初回討伐者に関しては《ユーミル》の公式HPやMMOトゥモローのHPなどにパーティーリーダーの名前が掲載されるようになっていた。《スリーピング・ナイツ》は全員の名前を載せるため七人で最初のエリア《浮島草原ヴォークリンデ》のボスを討伐し、一躍有名になった過去がある。

 その立場に運営側の人間が居れば、あまりいい顔をされないのは想像に難くない。

 流石にその辺は一ゲーマーとして理解があるのだろう、一番に不満を示したユウキも不承不承頷いた。

 とはいえ、理屈で理解はしても、感情で納得がいっていないのは顔を見ればすぐに分かる。オリジナルと親しいからこその感情を持て余している様子だ。

 

「ボス攻略かぁ……俺達はいっかなぁ」

「元々そんなガチ勢じゃないしな」

 

 翻って、ゲームプレイの方に意識を多く向けているダッカー、ササマルは、オリジナルのボス攻略不参加にそこまで不満を抱いてなさげだった。自分たちが参加する気がないから関係ないと判断したようだ。

 

「サチはどうするんだい?」

「え、なにが?」

「ボス攻略、サチは参加するのかなって」

「するよ?」

 

 きょとんとした顔で、なんでそんな事聞くの? とサチが首を傾げる。

 槍使いに問いを投げたケイタが、はは、と乾きを滲ませた苦笑を浮かべる。

 

「……強くなったなぁ」

「黒猫団の中で最強だよね、サチ」

「強くしてもらったから」

 

 ケイタとテツオの言葉に、微笑んだサチがオリジナルとユウキ――そして俺にも目を向ける。

 サチの言う『強くしてもらった』期間がまだ俺とオリジナルで別れる前だったから、俺にも目を向けてきたのだろう。少し恥ずかしくなって視線を逸らす。

 

「ちょっとテツオ、サチはもう《スリーピング・ナイツ》の一員だからね!」

「ああ、分かってるよ」

 

 黒猫団としてカウントしたテツオに、ユウキががるるっと噛み付いた。そんな切り込み隊長をランが宥める。

 ほんの少し、みんなから笑いが上がった。

 

「――さて、オネーサンはそろそろ行かせてもらうヨ」

 

 笑いが収まったのを見計らったか、そう口火を切ったのはアルゴだった。

 アスナが小首を傾げる。

 

「え、もう行くんですか?」

「おいおいアーちゃん、忘れてもらっちゃ困るゼ。オネーサンは情報屋だゼ? 鮮度が大事なんダ。旧交を温めるのも大切だけどそうも言ってられないのがオネーサンのお仕事なのサ」

「あ、やっぱりこっちでも情報屋をするんですね」

「これでもMMOトゥモローの専任ライターだからナー。やー、世界が変わってもオレっちは情報屋って稼業からは逃れられないみたいだナー。困っちゃうナー!」

 

 頭の後ろで手を組んで、アーアーと嘆く素振りを見せながら歩きだすアルゴが、ふとこちらに向き直った。

 

「ま、そーゆー訳デ。今後トモ情報屋【鼠】のアルゴをご贔屓ニ!」

 

 にひっ、とげっ歯類を思わせる笑みを浮かべた三本ヒゲの女性は、踵を返して颯爽と立ち去った。

 

「困っちゃうとか言いながら、心底楽しそうにしてたわね」

「まあ旧SAOのベータの時点で情報屋をしてたくらいだし……」

 

 やや呆れた表情のシノンに、オリジナルも苦笑を浮かべて言葉を返した。

 デスゲームの時はアルゴ共々根を詰めて情報収集に勤しんでいたが、純粋なゲームだと情報屋の血が騒ぐのだろう。さっきの様子は旧SAOベータ時代を思わせるノリだった。

 ALOは既に情報屋が居たし、取り扱う情報もスヴァルトエリアだけだった。

 だが、このオリジンは誰もが一からスタートの新天地。旧SAOに酷似しているとは言え地理が違う以上はクエストの場所やレベリングなど諸々の効率も違ってくる。その辺の情報収集や統計が楽しいから情報屋を営んでいたアルゴにとって、これほど心から楽しめるゲームは中々無いだろう。

 

「ま、キリもいいし、そろそろ攻略に出ようぜ! おりゃあコレが楽しみで今日の仕事をマッハで終わらせて来たんだかんな!」

「俺もカミさん一人に店を任せちまってるからな。時間は無駄にしたくねぇ」

「じゃあ早速攻略に行こー!」

 

 大人二人に続き、ワクワクが止まらないとばかりにストレアが拳を突き上げる。

 

「あー、あたしは商店街の方に行くわ。こっちでも鍛冶屋したいからさ」

「下見って事ですね。ご一緒してもいいですか?」

「いいけど、面白味はないわよ?」

「いいんです。勉強になりますから」

「そ、そう言われるとガラにもなく緊張するんだけど……」

 

 リズベットとシリカは、どうやら二人連れで商店街の方を回るらしい。あの二人は旧SAO攻略後半でリズベット武具店を切り盛りする関係だった。そこに鍛冶師レイン、素材収集係のフィリアが集えば第三のリズベット武具店復活だ。

 ……まあレインもフィリアも、ALOの武具店では店員として務めていないのだが。

 

「ああ、そうだ。シリカに渡して欲しいと言われた物があった」

 

 立ち去ろうとした二人を、オリジナルが呼び止める。システムウィンドウを繰った後に取り出されたのは一枚の水色の尾羽。

 二股に別れた尾羽を見て、シリカが瞠目する。

 シリカが何か言葉を発そうと口を開いた瞬間、カッと小さな光を放ち、尾羽が一匹の小竜へと変化する。

 

「ぴ、ピナァッ?!」

『きゅるる!』

 

 登場したのはシリカの長年の相棒ピナだった。

 さっきの尾羽は、フェザー・リドラ種が死んだ時に残す《心》アイテムと呼ばれ、旧SAOでは《プネウマの花》という使い魔専用の蘇生アイテムを使う対象だった。

 しかしいま、オリジナルは蘇生アイテムを使う事無く、ほぼ自動でピナを復活させた。

 

「これは茅場からシリカにと預かった贈り物だ。改めて使い魔契約を交わせば、ピナのデータはシリカのアミュスフィアに転送される。あとピナのAI学習ログはALOのピナのデータと自動で結合されるらしいぞ」

「わ、わぁ……! あ、ありがとう、キリトくん!」

「お礼は茅場に言ってくれ。オリジンに関して俺は本当に何も関わってないんだ」

 

 そうお礼を受け取るのを辞退するオリジナルの表情は苦渋というか、どこか疲労感を滲ませていた。

 

「……キリト。あなた、なにか抱えてない?」

 

 それを鋭く察したリーファが問いを投げる。

 またコイツ何かに巻き込まれてるのか、とこの場に残った十八人の視線が呆れを含みつつキツくなった。

 

「いや、今のところ特に抱えてないんだが……茅場がなぁ……」

「団長がどうかしたの?」

「や……茅場も、やっぱ執念で夢を叶えた天才だなって。SAO以降見てきた様子と最近の茅場の様子があまりに違い過ぎて何かやらかさないか心配でな……」

「……えーっと?」

 

 オリジナルの説明が具体性に欠けるもので、長らく副団長として茅場を見てきたアスナもどういう事か分かっていない様子だった。

 ほぼ同位体の俺も流石に理解が難しい。

 

「そうだな……SAO時代の茅場は今の束博士で、今の茅場は、IS発表当時の束博士と同じテンションと言えば分かるかな」

「「ヤベェだろ」」

 

 その喩えに、いの一番に反応を示したのが社会人二人組だった。《白騎士事件》当時を鮮明に記憶しているだろうからこその反応の速さがそのヤバさを証明している。

 というか、そんな状態にあの茅場がなっているのか。

 

「えー……茅場のヤツに一体何があったんだ?」

「俺の印象だと茅場は常にダウナーなイメージなんだが」

「冤罪で《SAO事件》の黒幕にされてからしか俺達は直接会ってないからな。夢に邁進中の茅場の姿を、俺はつい最近知ったよ」

「それがはっちゃけてる束博士と同じだった、と」

「うん」

 

 リーファの噛み砕いた纏めを、疲労感をたっぷり加えながら肯定される。

 

「……まぁ、今の茅場は物凄く熱意に燃えてるし、束博士と七色もいるからオリジンもヘンな事にはならないと思う。万が一に備えて色々と手は打ってるって話だし。俺もいるし」

「あたしとしては一番最後に不満があるのだけど」

「仕事だから仕方ない」

 

 少し前までは役職もなく、ただ個人と個人の依頼という自主的なものでしかなかったが、今は企業と企業、更には国家権力まで関与した明確な”仕事”。何気に国家公務員として名を連ねているから給与が発生している訳で、ならば仕事はキッチリしなければ突き上げを食らう。

 オリジナルが未来を生きるためには、民衆の支持が必要不可欠。

 その諸々を含んだ端的な答えに、リーファが嘆息を漏らした。

 

「……まぁ、根を詰め過ぎないようにね」

 

 微妙な表情で告げた内容が、みんなの総意だろう。

 少しの苦笑を滲ませながら頷いたオリジナルは、それからこの場を立ち去った。街の中を見て回りつつ不具合がないか確認していくらしい。

 ――それが方便であると、俺には分かった。

 

「キリカ、お前ぇはどうする?」

「ん……俺も、今日はゆっくり街を見て回るよ」

 

 俺も、オリジナルと同じだった。

 今日くらいはゆっくり街の中を見て回りたいと思っていた。旧SAOベータテスト初日はそれで一日を終えたからだ。

 クラインは、そっか、と笑った。気を遣ったのか深く追及はしてこず、早速フィールド攻略に向かう面々の方に向かう。ユイ達も気を遣ってくれたようで、敢えて一人にしてくれた。

 俺は転移門で青い光に包まれ消えていく一同を見送った。

 それからあてもなく、ただブラブラと街を見て回ろうと歩き出す。

 

 

 

 ――――その瞬間、視線を感じた。

 

 

 

 茜色に染まった世界の彼方まで、大鐘楼の()が響く。

 行き交う人。

 飛び交う談笑。

 世界はいま、活気に満ち溢れていた。

 

 ――その中で、一人の少女が目に留まる。

 

 静謐な空気を纏った少女は、そこに居ないかのように誰からも意識されていない。ただ自分とだけ目が合っていた。

 頭上に示される黄色の表示が彼女の素性を表している。

 この世界の住人(ノンプレイキャラクター)

 なればこそ、疑問があった。数十メートルの距離があり、会話もしていない自分を何故凝視しているのだろうか、という疑問だった。

 

”――――”

 

 ふと、少女が視線を切った。

 踵を返そうとするその姿に思わず手を伸ばす。呼び止めようとして、名前を知らない事に気付いた。じっと少女を凝視する――――

 

 その時、行き交う人が視界を遮った。

 

 視界に割り込んできた人が立ち去るまでに要した時間は一秒。

 そのたった一秒で、少女の姿は消えていた。

 

 

 

 

それが、NPCの少女とAIの俺の、初めての出会いだった。

 

 

 

 

「今のは……」

 

 奇妙な出来事だったと、そう思わざるを得ない。

 接触もしていないNPCにじっと目を向けられるとは思っていなかった。クエストを受けていればまだしも、なにも受けておらず、カルマ値はおろか、経験値も入っていない初期状態で不可解な事が起きるとは。

 しかもそのNPCは、ほんの一秒で影も形もなく消え去った。

 

「……いったい、何だったんだ……?」

 

 首を傾げる。

 思考は困惑と疑問でいっぱいだった。

 ――だから、ピロン! とメッセージ着信音に驚いた。

 びくりと肩を跳ねさせた俺は、眼前に表示された着信表示に目を向けた後、人が行き交う通りの端のベンチに腰掛ける。

 それからつい先ほど届いた無題のメッセージを開けば、短い一文が書かれているだけだった。

 

 

 

『I’m back to Aincrad.』

From:C

 

 

 

「……言った傍から問題か、まったく」

 

 ずっと楽しいだけではないだろうと、そう思ってはいた。

 しかし――よもや、こうもすぐに発生するとは。

 きっと誰も予想していないに違いない。

 

「……少し様子を見てみるか」

 

 オリジナル、茅場、そして旧SAOデータ移植の作品《オリジン》など、不安な事はたくさんある。それでもアルゴを筆頭にこの世界を純粋に楽しもうとしているのだ。

 デスゲームだったあの世界とは違うのだ、と。

 茅場も、そう意識させようと開始時間を意図的にかつてのデスゲーム宣告と同じに設定していた。

 そこに水を差すのは、流石に気が引ける。

 送信者『C』が誰かも分からずただ不安を煽るだけなのは本意ではない。もう少し手掛かりを集めてから、みんなには伝えようと決めた。

 そのためにも――

 

「あのNPCを探し出すのが一番、か」

 

 メッセージが来るキッカケは不明だが、最有力候補は直前に不可解な動きを見せたあのNPCの少女である。彼女の素性を探っていく事でこのメッセージの真意、そしてオリジンで何が起きているか、徐々に解明出来ていくだろう。

 幸いAIである自分に休眠や食事などは必要なく、その気になれば四六時中ずっとフルダイブしていられる。時間はたっぷりあるのだ。

 焦らずに動いていこうと今後の大まかな方針を決めた俺は、あのNPCを探し出すべく動き出した。

 

 






・オリジンのベータテスト
 本製品版に上限ありで引き継ぎ可能
 ホロリアの先行プレイデータを引き継ぐみたいなイメージでオケ


・キリト
 前作主人公ポジのお助けキャラ化
 SAO、ALO、リアルと続いてオリジンでも抑止力になる模様()
 テスター:データ収集、バグの報告
 デバッカー:バグの修正、バランス調整の報告
 エリアボス戦には基本不干渉。それ以外も積極的には動かないが……


・キリカ
 新章の主人公
 原典ホロリアのキリト枠
 AIの世界にとってデスゲームならAIのキリカが主人公になるのは当たり前だよなァ?
 ネタ枠のゼロと絡ませたい(カレーハノミモノデス)


・茅場晶彦
 はっちゃけカヤバーン
 IS発表当時の束博士と同じテンションとかかなりヤバい領域に突入していてキリトの精神をガリガリ削っている
 こういう時に足元がお留守になるんですよね……
 ピナがいけるならヴァフスやSAO時代のキリトの使い魔も不可能ではなさそうだが……?


・アルゴ
 多分オリジンを一番楽しんでる人
 みんな一からスタートなので情報屋の腕の見せ所。なにもかもが未知だからwktkが止まらない


 では、次話にてお会いしましょう。


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