インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。

 今話は賛否両論ありそう……そんな話。

 前半戦闘、後半会話が中心です。

視点:和人、七色

字数:約一万四千

 ではどうぞ。


 ――今の戦力比は、一般人がソルジャー・セフィロスに挑むようなものです(ティファ達から目逸らし)




ChapterEX:片翼の天使 2

 

 

 二〇二五年七月十日金曜日、午前〇時三十分。

 アメリカ合衆国カリフォルニア州北部、サクラメントビル街上空。

 

 

 みんなと別れ、空を飛ぶ。

 目指す際には悠然と天に浮く《秋十の異形体(セフィロト・マルクト)》の姿。

 これからの戦いは死闘と言えるに違いなく、俺はいつになく緊張していた。

 この戦いで俺はISを使えない。【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】のアバターを維持できるのは【無銘】と【黒椿】それぞれ13体。しかしメテオの抑止で【無銘】の演算能力をフルに使うため、維持には【黒椿】を使わなければならず、必然的に戦闘に使えるだけの余力がない。

 だが――それは、問題ではない。

 

 一番問題なのは、【無銘】の演算能力を()()使えなくなる点にある。

 

 ”オズウェル”との会話までアバター維持に【無銘】を使っていたがその時とは訳が違う。あの時は通信機能にリソースの大半を割いただけで、コアとしての最低限の機能は残していた。

 今度はその最低限すら保証されない。

 つまり、無毒化されているだろう【創世記(ジェネシス)ウィルス】が活性化して遺伝子レベルの変異が始まり、異形となるのが止まらない可能性があるのだ。《暴走形態》と呼んでいた状態に自然になって俺の意識が果たしていつまで持つかは定かではない。ともすれば、【無銘】に入れられていた《セフィロト・プログラム》が再起動し、マルクトの側に立つ可能性すらあった。

 

 ISコアをその身に宿し、VTシステムによりブリュンヒルデの技術を持ち、自律思考を持つ生物兵器として世界に仇為す。

 

 それは、異なる世界線に酷似した最後。

 

「――(あきら)めてたまるか」

 

 強く強く決意して、空を()け抜けた。

 

 

 

 

 全力で飛ぶこと十数秒後、俺はセフィロトが待ち構える高度に辿り着いた。

 幸いな事に空の上でありながらそこには大地があった。無論、それは地上の建造物を(さら)い、ネオ・コアか【白式】機能を用いて再構成されたものである。

 そして、その大地にどこか既視感を覚える。

 空に浮く大地には、そこかしこに天高く(そび)える摩天楼(まてんろう)が建っていた。メテオの真下に位置する部分にはなぜかより一層巨大なビルもある。アレと比べれば、その辺にあるビルがよっぽど小さく見えてしまった。実際は高級ホテルや高層ビルよりよっぽど巨大なのだが。

 そこで指定の位置に全員が付いたため、俺は大地に降り、【無銘】の全機能を超広域バリア展開のために稼働させる。

 ――これでもう俺はISを使えない。

 頼れるのは両手に握る一対の片刃剣、己の肉体、経験、そして自分自身の覚悟だけ。以前もISに生身で挑む事になったが、今回は【無銘】の保険もない。ブリュンヒルデの骨・筋組織を模倣しているとはいえどこまで対抗できるかはさすがに予想がつかない。

 そんな不安に揺れる己を奮起し、天を見上げる。

 セフィロトはゆっくりと大地に足を付けた。

 

「懐かしくはないか、()()。お前の人格(こころ)の一つから作り出した世界だ」

「……なるほど。道理で既視感があるわけだ」

 

 セフィロトの発言で既視感の正体を理解する。

 ここは七十五層闘技場を制覇した日の夜にシロと初めて対面した、あの心象世界と酷似している。

 シロは【無銘】を移植された時に分裂した人格。俺の体に移植された瞬間、おそらく廃棄孔と並んで最も活性化しただろうシロの心象を【無銘】が正確に読み取り、それが《セフィロトプログラム》にも伝わった事で知られていたのだ。今の【無銘】からデータの互換が続いているかは不明だが、続いている場合、その気になればかつての俺や廃棄孔の心象も再現できる。その上で敢えてこの心象を選んだなら、このセフィロトが俺を知った瞬間の心象だからだろう。

 

「だが、そんな事はどうでもいい」

 

 無論、なぜこの世界を再現したかなんてどうでもいい。

 むしろ足場が出来て助かるくらいだ。

 

「ここで終わらせる」

 

 俺は二刀の峰を合わせ、一本の両刃剣にする。身体修復すら出来ない以上、IS学園襲撃の時のような力技は使えない。筋疲労がある現実なら両手で扱った方が安全だ。

 

「ふ……」

 

 薄く微笑んだセフィロトも長刀を構えた。左半身を引き、突くような構えを取る。

 一拍の間の後、地を蹴り、斬り掛かった。

 

 

 純粋な生身での戦いに於いて重要な事は幾つかある。それは体力配分であったり、足場の確保、先読みの精度、間合いなど多岐に渡っており、それらが技術体系化されたものを《流派》と呼ぶ。

 俺の《流派》は、敢えて言うなら《アインクラッド流》と名付けるべきだろう。それはあくまで概念上のものでしかないが、しかし俺の技術・経験の全てを言い表すにはそれが一番なのだと確信している。《篠ノ之流》、《桐ヶ谷流》の他、ヴァサゴなど個人の技術など多岐に渡って教わっているから純粋なものではないが、それらを全て合算した上でアインクラッドで磨き上げた力だ。

 それを踏まえて言えば、一本に合体した両刃剣は、カテゴリではSAOでの《両手剣》に近い。

 とはいえ、サイズそのものは片手剣のそれなので、純粋な両手剣には少し足りていない。そこが両手片手半剣という特殊なカテゴリに位置する所以だ。

 ――だが、現実ではそうもいかない。

 俺からすれば自分の体格にかなり近いコレはサイズ比としては両手剣だし、重量も剣二本分あるから片手では扱えない。重石を付けた竹刀を片手で扱うか、両手で扱うかと同じ問題だ。

 そして俺は両手剣を使った経験があまり無い。

 なぜならSAOに於いて、両手剣は片手剣の取り回しを殺し、威力を底上げするヘヴィアタッカーに適した武器だったが、俺は回避・パリィという取り回しの良さを重視するライトアタッカーであったためだ。更に両手で無ければスキルが発動しない関係で《二刀流》を公開してから更に使う機会が減ってしまった。

 『剣一本』という点では片手剣の経験を活かせなくもないが、重量を考えた立ち回り、取り回しという部分の経験が浅い俺は、更なるハンデを食らっているも同然。

 そのため、剣速が鈍ってしまうのも必然だった。

 

「遅いな」

 

 半身を逸らして俺の袈裟斬りを躱したセフィロトが、短くそう評する。

 内心で舌を打つ。

 剣を二本に戻し、片方だけ使う事は出来ない。

 セフィロトはISを纏っている状態だから当然シールドバリアが存在する。それを破るには《零落白夜》を使うしかない。【黒椿】の黒刀と同じ機能が備わっているのでSE消費の問題は解決し、一本でも《零落白夜》が発動できるよう改良されているが、それでも両刃剣にして使う理由は存在する。

 

 なぜなら、展開した十六の武器のリンクの中核を両刃剣が担っているからだ。

 

 《零落白夜》を一本でも使えるようにすれば、合体した時は、片側の機能に余剰が出来る。その余剰部分にバリア展開機構――周囲から吸収したSEを他の武器に転送する機構――が取り付けられた。そして【無銘】は合体剣によるSEの転送量と距離、更に十六の武器を繋げたバリアの展開・維持の演算を担当する。

 黒刀の『SE吸収』と『《零落白夜》を飛ばす機能』は、この機構を完成させるための土台に過ぎなかった。

 だからこれは元から備わっていた訳ではない。ヴァベルから話を聞いた博士がすぐに考案し、取り付けた、超広域バリアのためだけの機能である。生物兵器としての在り方に、広範囲を守る機構は存在しなかった。

 改善点もまだあった。その問題を残したまま、こうして使う機会がやって来てしまった訳だ。

 流石の博士も、両手剣の重量で悪戦苦闘する俺の姿を想像していなかった筈だ。必要な時に国際IS委員会の長である博士が号令を掛け、各国の操縦者に武器を持たせ、展開させるのが元々の使用方法。現在のように【森羅の守護者】をフル活用する事態は想定されていなかった。

 

 ――まったく、だからぶっつけは嫌いなんだ。

 

 実際に使って初めてわかる問題点もある。それがいま、この『重量』という点で露になった。

 そもそもバリアの中核を持つ俺が前線に出ている事そのものが想定外なので、問題外ですらあるが。

 

「食らえぇッ!」

 

 全身の筋肉を稼働させ、両刃剣を連続で振るう。

 《両手剣》六連撃技、ファイトブレイド。

 その速度は先の一撃を遥かに超えていた。

 幾度となく反復した仮想世界での動作は決して無駄ではない。肉体そのものは寝ているから衰えるが、アバターを操作する脳はシナプスを形成し、より最適化していっている。それを上手く反映できるよう今度は生身の体を鍛える必要があるが、それは日々の訓練でこなしていた。

 重量に踊らされてはいるが、あの世界での経験そのものが死んだわけではない。

 しかし、それは全て軽々と往なされた。

 当然といえば当然だ。速度が上がったとは言え、目で見える。それではダメなのだ。セフィロトは秋十を依り代にして顕現しているだけで、本質はヴァベルやユイのようなAI、つまり本体はISコアだ。ハイパーセンサーもある以上、相手が人間であっても音速の数倍にならなければ反応速度は超えられない。人間以上の(はん)(のう)速度を持つAIなら猶の事。

 現実だから技後硬直なんてなく、俺は六連撃の後も絶えず両刃剣を振るう。仮想世界の剣技連携(スキルコネクト)では繋げられない技同士も力任せで強引に繋げた。

 多少型が崩れようがとにかく一撃でも当てればいい。

 たった一撃当てれば、セフィロトを守るSEも、メテオを落そうとするコアの演算も止められ、奴の行動に大幅な制限が掛かる筈なのだ。

 ――しかし。

 セフィロトは的確にこちらの攻撃をたたき落としてくる。長身痩躯の見た目ではあるが、【白式】の暴走に加え、ウィルスの遺伝子変異でより強固な肉体を持っているからだろう。おそらく重量は然程変わらない長刀を軽やかに扱いこちらの剣劇を往なし、時には真っ向から弾きすらしている。

 防いだかと思えば、こちらの隙を見て返す刃が瞬時に閃く。

 その容赦のなさはまるでヴァベルとの戦闘訓練のようだ。

 しかし訓練とは違い、当然負ければ死ぬ。

 いや、生きていても、セフィロトを倒さなければ地球が滅ぶ。【無銘】と【黒椿】の恩恵で俺は宇宙空間でもある程度は生き延びられるが、ほかのみんなが死んだら意味がない。

 《越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)》もフルに使い、視覚に依存した反応速度を向上させているが、それでも足りない。経験と生存本能に頼り、俺は瞬間的反応だけで迎撃する。

 半無意識の防御と反撃、そこから意識しての攻撃という思考の切り替えが高速で連続する。

 時を追うごとに眼球は熱を持ち、脳髄が鋭い痛みを発する。

 

「お、ぉおおッ!!!」

 

 その痛みを無視して、俺は更に思考の切り替えを加速させた。

 剣速も上がる。

 威力も上がる。

 

 だが、届かない。

 

 ギリギリ、ではない。

 まったく届いていない。

 一割、二割速くなっても躱される。二刀を使ったとしても届かない。

 そんな確信を持つほどセフィロトの動作には余裕がある。

 それは当然だ。秋十の体の苦痛と、セフィロトの意識は連結していない。奴がどう無茶な動きをして秋十が苦しもうと、奴はそれを無視できる。仮に体が壊れてもネオ・コアの修復能力で元に戻してしまえる。仮に秋十の肉体が死を迎えようがセフィロトには関係ない。VTシステムにより【白式】が暴走し、秋十の肉体が覆われ、その上からセフィロトが顕現しているから肉体が死のうが意味がないのだ。

 奴を倒すには、やはりコアを破壊するしかない。

 その足がかりとしてSE全損を狙い、まずは一撃当てなければならない。

 だが、しかし――

 

 ――たった一撃が、こんなにも遠いなんて。

 

 奴と目が合った。

 青の瞳には余裕の色がある。同時に、喜悦も含まれている。

 

 

 ――(もてあそ)ばれてるのか……!

 

 そう考えると、不安はたちどころに焦燥へ変わっていく。

 一撃も届かなかった事はある。負けられないと息巻いて、返り討ちにされた義姉との決闘。

 負けられない戦いばかりだった。しかしSAO時代をはじめ、七色、ヴァフス、女権団、《亡国機業》など、いずれもそれを乗り越えられる程度には体制を整え、手札を揃えていた。あるいは時間を稼げば勝ちだった。

 時が経つほど不利になる。

 なのに、一撃届かせられる予感がない。

 今は刃を交えられているが、本気を出せば全て躱し、更にいつでも反撃を差し込み俺を一太刀で殺せるのではないか。先も底も見えない強さに俺はそう考えてしまった。

 

「くそぉ……ッ!」

 

 焦燥は恐怖に、そこからまた焦燥にと、無限に続く負のスパイラルが生まれる。

 それを断ち切ろうと俺は攻撃の手を更に強めた。苛烈に攻め掛かり、とにかく思考を攻防の応酬にのみ集中させる。

 ――ふと、セフィロトが構えを取った。

 最初に取った突きの構え。半自動的に、俺も同じ構えを取る。

 

「はっ!」

 

 そこから繰り出されたのは、突きではなく、飛ぶ斬撃だった。

 SEを纏わせているのかその斬撃は白く見える。暴走しているとは言え、その辺も含めて制御しているのだろう、【白式】の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)《月牙天衝》も発動できるようだ。

 アレを食らえば対IS兵装で張ってるバリアを破られ、致命傷を負う。

 俺は構えていた両刃剣を翳し、斬撃を防いだ。

 

 ――その一瞬で、間合いを詰められる。

 

 真一文字に長刀が降り抜かれる。

 敢えてなのか、両刃剣に斬撃が当たり、攻撃そのものは防げた。しかし途轍もない衝撃が両腕から全身に伝わる。あまりの威力に、俺の体が吹っ飛ばされた。

 宙を飛ぶ俺を、奴が追ってくる。

 

「愉しもうか、一夏」

 

 口元を喜悦に歪め、長刀が数度振るわれる。

 右肩から出していた黒翼も今はない。おそらくだがISのPICや原子を固めた不可視の床も使っていない。俺と異なり、自主的に縛りをしているのは余裕の表れだ。

 やはり玩ばれている。

 だが、力が足りない。

 ――しかし、心は折れない。

 状況は時を追うごとに不利になっているのに、不利になるほど、俺の思考は戦闘のためにより回される。皮肉なことに戦力分析で萎んだ闘志が徐々に復活していっているのだ。

 体が疲労を訴える。

 眼が痛みを訴える。

 脳が限界を訴える。

 

 それを全て捻じ伏せる。

 

 ピキ、と何かが音を立てた。

 

「――ハッ」

 

 限界を超えた、と仮想世界で幾度となく経た経験が悟らせた。

 ホロウの時は一週間寝込んだが後遺症もなく復帰できた。しかし、今回ばかりはダメかもしれない。

 それでも俺の手は剣を強く握っている。

 

 

 

精神が肉体を凌駕した。

 

 

 

***

 

 二〇二五年七月十日金曜日、十七時三十分。

 IS学園地下、和人・七色居室用留置所。

 

 アメリカ上空で繰り広げられている戦いはネット民を大いに盛り上がらせている。

 メテオが出現した時はネット民も大いに困惑し、真実だと考えたものは早くも絶望していたが、中継放送でリアルタイムに超広域バリアの展開を聞いて一時の安堵が広まっていた。

 それでも状況は芳しくない。

 むしろ最悪の一歩前という事で、あちこちで動画投稿者だったり、掲示板などが更新されていっている。

 突如として地球上に出現した巨大隕石の情報に関しては各メディアをジャックしていた”オズウェル”の事件関連という事ですぐに広まった。国際IS委員会会長である篠ノ之博士の緊急会見配信がキッカケで、全世界がその事件のために動いている事も速報されていた事に起因する。《亡国機業》と《製薬会社スペクトル》の関係性も含め、世界に知らしめるためだ。

 そのあと、上空で展開されている戦いに関しても、あらぬ予測が出ないよう先手を打つ形で報道されている。

 それも、生中継という形で、IS委員会公式ホームページから配信されていた。

 【無銘】は全ての演算機能をバリア維持に費やしているので、それをしているのは【黒椿】のハイパーセンサーログらしい。ある程度俯瞰した視点から見れるらしく、ボス戦放映を見ていた身としては馴染み深くもある。

 それを配信している博士本人は別件で席を外しているので、現在は配信者不在で垂れ流されている状況だ。

 私はオズウェルがジャックしていたメディアの実況配信を終え、博士の配信を視聴する形でほかの視聴者達とコメントを交わしていた。

 

 

 ――おかしいな、コレ現実の映像じゃないっけ? なに何十メートルを一息でピョンピョン跳んでんだよ

 

 ――尚、義弟に関してはほぼ吹っ飛ばされてのお手玉状態である

 

 ――義弟かわいそう……

 

 ――着地には成功してる辺り身体能力スゲーな

 

 ――心なしか息が上がって攻撃頻度が下がってるな

 

 ――まーいくら攻撃しても往なされるんじゃしゃーない

 

 ――大人しく援軍を待った方が賢明だからな

 

 

 一様に、彼の身体能力の高さについて言及するコメントが多い。少し前はメテオに対するコメント、英雄とまで言われた彼の攻撃が一切通らないセフィロトの強さに意識が向いていたが、それにどうにか付いていけてる彼の身体能力に次は目が向いたのだ。

 【創世記ウィルス】を投与されているとは言え、彼は遺伝子変異前の『人間体』と変異後の『異形体』で状態が分かれている。

 セフィロトは異形秋十に埋め込まれたコアのAI。異形体の時点でタイラントにやや劣るが、並みの大人を凌駕する身体能力を有しているのは確実。そこでVTシステムで暴走した【白式】が秋十を覆い、見た目をセフィロトプログラムで上書きされたからあの容姿になっている。見た目は血の通った人間のようで、その実、ISそのものを相手しているに等しい状態な訳だ。

 彼女はそれを『人間の見た目をした全身装甲タイプのIS』と喩えていた。

 対する和人は人間体、更にISの補助を一切受けないで戦っている。傷の修復を受け持っていた【無銘】の支援も受けられないからケガも治せない。

 学園襲撃の時と違い、正真正銘生身でISと戦っているも同然。

 そんな状態なのだと博士に解説されてからだったか、彼に話題が移ったのは。

 

 ――みんな呑気なものね。

 

 コメントやSNSなどを見る限り、メテオの存在に心から恐怖している人は思った以上に少ないように感じる。ともすれば脅威と認識すらしていないのではないかと思う。話題性があるからとゲラゲラ笑いながら配信している人もいるほどだ。

 彼が関わっているから安心だと、そう思っているのか。

 少なくとも、私が恐怖していない理由はそれだった。

 安全な場所から見ているだけな事に忸怩たるものを感じながら、次は中継に意識を向ける。

 コメントにもあった通り、基本はセフィロトが攻撃し、それを防いだ彼が吹っ飛ぶ事を繰り返している。たまに彼も反撃するが、その回数は当初より目に見えて少ない。

 疲労故か、はたまた時間稼ぎ故か。

 闘志を宿した鋭い双眸からは推し量れない。

 

『ハッ!』

 

 ふと、ひと際強い踏み込みの後、セフィロトが幾度目かの居合斬りを放った。それも防いだ彼が大きく吹っ飛び、宙に投げ出される。

 更にセフィロトが聳え経つビルを蹴り、追撃を仕掛ける。

 カメラでは、銀髪黒衣の長刀使いが遥か彼方から高速で飛来する様が映された。一瞬光が瞬き、金属音と彼の呻きが上がる。

 ぐるぐると後ろに飛んだ彼がビルの壁に突っ込んだ。

 大丈夫か、流石に死んだか、とコメントが一気に流れる。

 

『ぐっ……は……!』

 

 私も心配したが、それは杞憂に終わった。

 頭皮を切ったか、白髪が赤く染まっていく。ふらふらと足取りも不確かだ。しかし、剣を握り締めている。彼の闘志はまだ萎えていない。

 

『体は……(つるぎ)で、出来ている』

 

 小さく、自らを顕す(うた)が口ずさまれた。

 カメラに移る黒目金瞳がギラリと光を反射する。目つきが、一層鋭くなった。ピシリと、彼の額に血管が浮き上がる。

 闘志のギアが一段階上がった。

 

『――行くぞ!』

 

 ビルの穴から追いかけてきたセフィロトを視認した瞬間、和人が声を上げ、トップスピードで斬りかかった。刀身が交わり、火花を散らす。僅かながら光の靄(シールドエネルギー)が周囲に揺蕩い、拡散する。

 両者の交錯はすぐに終わった。

 立体駐車場らしきビルの中を縦横無尽に駆け回り始める。床だけではない、壁や柱、天井までも無差別に足をつけ、和人は標的目掛けて斬りかかっていく。セフィロトはそれを全て真っ向から防いだ。攻撃が通らない事に変わりはないが、往なさなくなっただけでも明確な変化には違いない。

 明らかな流れの変化にコメントが沸いた。

 

『ほう? 何がお前を強くした』

 

 その変化を、おそらく最も如実に感じただろうセフィロトが刃を止めつつ、悠然と問う。

 

『アンタには、言いたくないねッ!!!』

 

 強い拒絶と共に、初めて和人がセフィロトを吹っ飛ばした。天井、上階の床、更に壁を突き抜けて外へ飛び出していく。

 貫通した穴を通って彼は後を追った。

 ――そこで、爆音が響く。

 彼が上空を見上げ、カメラもその後を追従した。頭上からは破壊されたビルの屋上付近の階層が落ちてきていた。爆音は崩壊する音だったのだ。

 それを見た和人が一息でビルから身を投げ出し、別のビルの屋上に飛び移る。

 その背後をセフィロトが急襲した。

 斜めに光が走る――が、和人が振り返りざまに剣を振るい、これを止める。

 

『ふっ』

 

 止めた事を満足げに笑ったセフィロトが高く飛び、ビルの反対側――階段の屋上部分を挟んだ位置――へ降り立った。間を置かず、Vの字に光が走り、和人の方へ切り取られた石材が吹き飛ぶ。

 

『舐めんなッ!』

 

 迫る石材をギリギリのラインで飛び越え、セフィロトに襲い掛かった和人が大上段から剣を振り下ろした。

 バックステップでその斬撃は躱されるが、床に刀身が当たった直後、切っ先の先まで伸びる一本の線が鋭く床を切り裂いた。そういえば彼も斬撃を飛ばせるんだっけ、とかつて見た映像が脳裏に蘇る。

 しかしそれも、長刀の一薙ぎがかき消した。

 甲高い音が上がって不可視の斬撃が弾かれた事を知覚する。その時には、お返しとばかりにセフィロトの光の斬撃が複数飛来し、それを防いだ和人がまた吹っ飛ばされていた。

 別のビルの屋上に着地した彼は、片膝をついて荒い呼吸を繰り返す。一気にギアを上げた反動だ。

 

『足掻いてみせろ』

 

 そこで、埒外の追撃が襲い掛かる。

 セフィロトが翳した右手の上には、暴風に煽られていた瓦礫や建材が一纏めにされ、巨大な一つの岩塊となったものが浮いていた。振り下ろされると同時に迫り始める。

 

『ヴァフス、技、借りるぞ――』

 

 岩塊を見上げた和人が立ち上がり、両刃剣を上に掲げた。

 

 

 

『天山烈波ァッ!!!』

 

 

 

 怒号染みた叫びと共に振り下ろされる。

 《両手剣》単発重突進技《アバランシュ》を使うヴァフスの技名のそれは、本来なら突進して重い一撃を叩き込みつつ、突進の勢いそのままに離脱する事も可能という優秀な技だ。【黒椿】に備わった剣技再現補助システム(ソードスキル・アシスト・システム)でも使われる事が多いと見込まれる剣技。

 無論、ISを纏っていない今の彼が使っても、ただ力任せの上段斬りでしかない。

 ――その筈なのだが。

 現実は違った。明らかに間合い以上の直径二十メートルを超える巨大な岩塊が左右に割れたのだ。不可視の斬撃がまた飛んだらしい。

 割れた岩塊の向こうからセフィロトが姿を現す。

 斬撃の軌道は男の正中線を切り裂くものだったが、長刀でまた防がれた。

 ――岩塊が和人の横を通り、左右の視界が僅かに塞がれる。

 セフィロトの周囲には、直径数メートル程度ではあるが無数の岩塊が浮遊していた。

 

『次だ』

 

 男は、悪魔のように微笑みながら、断頭台のように容赦なく手を振り下ろす。間隔もばらばらに岩塊が迫り始めた。

 

『お、ぉぉおあああああッ!!!』

 

 休む間もない猛攻。

 彼は怒号と共に走り、距離を詰めていく。

 必然岩塊もより速く迫るが、彼は左右に鋭くステップし、最低限の動きでギリギリ当たらないよう回避していく。どうしても躱せないなら飛び越え、稀に斬撃を飛ばして左右に割り、強引に前へと突き進む。

 そうして一発も直撃を貰わず、悠然と待ち構える相手と斬り結び始めた。

 幾度か刃を交えた後、セフィロトが跳び退った。やや高い屋根から少年を見下ろす。

 

『よくやる。お前にとって、それほどこの世界が大切か』

 

 初めて、この戦いで会話が始まった。

 和人も休憩がてら付き合うつもりなのか斬り掛かることはせず、男を見上げたまま口を開く。

 

『この世界が、というよりは、俺にとって大切な人たちの存在が、だ』

『そうか。変わったな。お前の身にコアが埋め込まれた時、私の意識に流れてきたのは、それまで埋め込まれた人間達を超える濃密な絶望だった。世界への怨み、人間達への憎しみがあった筈だが』

 

 怪訝そうに、けれどどこか愉しそうに男が問いかける。

 少年は、それにふん、と鼻を鳴らした。

 

『怨みより優先する事が出来ただけだ……逆に聞くが、創造主だろうオズウェルの意志を無視して、お前の目的はなんだ。なぜ地球を壊そうとする』

 

 それは、セフィロト・マルクトがどれだけ人間らしくても、究極的には上位者に逆らえないAIである事を踏まえた問いだ。

 上位者に逆らえない以上地球を破壊する事は原則出来ない筈。なのにそれをするという事は、別の何かに従っていると言える。

 オズウェルではない別の誰かがセフィロトを作ったとすれば、その人物について探りを入れようとしているのだろう。

 ――オズウェルとセフィロトの僅かな会話には、少しの差異が存在する。

 それはお互いが言及した時間軸だ。

 オズウェルは彼にコアが移植された三年前で言及していたが、セフィロトが『キリト』と呼んだのを考えれば、齟齬が生じる。つまりSAOに《ⅩⅢ》を入れた人物とセフィロトを作った人物が同一で、オズウェルはセフィロトを提供されただけ――ただの傀儡――という可能性が浮上する。そう考えればセフィロトがオズウェルに従わないのも頷けてしまうのだ。

 

『――キリト。お前は、人間達が《シールドエネルギー》と呼んでいるモノをどう捉えている』

 

 和人の問いには答えず、セフィロトが問い返す。

 いや、あるいは問いではなく、ただの教授か。前提知識を与えてから答えようとしているのかもしれない。和人もそう考えたか剣を構えたまま聞きの態勢を取っている。

 

『おかしいと思ったことはないか。アレは生み出す電気などの自然エネルギーでもなければ雲といった無形の原子反応でもない。物質的にも存在しない。だが確かにこの()()にあり、コアは空気中のそれを吸収し、己のエネルギー源としている。科学的に解明も立証もできないが、しかしそれを利用する技術があるなど、確かに存在する矛盾のエネルギーだ。あのメテオを止める障壁のようにな』

 

 男の話を聞いて、確かに、と思った。

 奇妙には思っていた。特に、和人の黒刀をはじめ、武器が周囲の空気中からSEを吸収して充填すると聞いた時、科学的にあり得ないと断じていた。

 SEを転用する技術は存在している。

 しかし、ならば《シールドエネルギー》とは何なのか。

 ただの電気エネルギーではISは動かない、エネルギー不足だからだ。それを動かすエネルギーが何なのか、あらゆる学者が解明に挑んで十年近く経つが、未だ理論的に解明されたことはない。学園や各国施設に建造されたSE補給機材も博士から提供された設計書通りに作っているだけ。

 材料はおろか、主に扱うエネルギーすらも不明。だからこそそれを含めたISコアはブラックボックスとされている。

 ――だからこそ、【無銘】はおかしいのだ。

 その不可思議なエネルギーを攻撃用に転用する《零落白夜》などを故意に再現できるのは束博士しかいない。

 同じ性質を持つ《月牙天衝》を使えるのも博士が製造した【暮桜】を調整している《倉持技研》だから出来たことだ。雪片弐型というのも、カラーリングを変えただけで構造は全く同じ雪片そのものでしかない聞いている。《空白絶虚》に至っては【黒椿】そのものが博士が手がけたものだから。

 だが【無銘】は違う。それは彼女の作ではない。

 つまりコアを作れただけでなく、《零落白夜》の機構を彼の片刃剣に組み込めた《亡国機業》は、世界より真実に一歩以上近づいていると言える。

 そちら側の存在から問題提起があり、真実が語られようとしている。コメント欄の進みがゆっくりになった。

 

『アレは星を(めぐ)る人の命だ』

 

 そして、嘘か真か、セフィロトがそう告げた。

 

『生物が死んだ時に肉体を離れる魂は、やがて星の内側へ潜り、再び新たな命となる。その間に星を廻っている魂がISを動かす動力源だ』

 

 

 ――そういえば何かの実験で、死ぬ直前と死んだ直後で体重が違うとかいう結果があったような

 

 ――赤外線センサーに反応するって話も聞いたことがあるけど、それの事か?

 

 ――SEって、ソウルエネルギーの事だったんですかね……

 

 ――スターエナジーじゃね?

 

 ――これが嘘か真かは発明者の天災から聞かないと何とも言えないけど、すごくそれっぽいんだよなぁ

 

 

 そんなコメントが流れる。それ以外にも当然嘘だと断じる者や、魂の存在を認めないコメントも散見されたが、私はそれを無視した。

 重要なのはシールドエネルギーの実態ではない。

 それを踏まえた上で、セフィロトが何を考えているかだ。

 

『私の目的(望み)はな、キリト。この星に生きとし生ける全てを滅ぼす事、そして得たエネルギーを用いて宇宙の闇を旅する事だ』

『……滅ぼす事も、手段じゃなくて目的なのか』

 

 気になるのそこかよ、と大量の突っ込みがコメントに沸く。

 まったく同感である。

 

『私は人格プログラムだが、同時にISそのものでもある。父に当たる存在は私の完成だ。ならば、次は母の望みを叶えるものだろう』

『ISにとっての、母……束博士が発明した理由か!』

 

 はっとして、和人が言う。

 セフィロトはそうだ、と肯定した。

 

『今の世界では到底宇宙を旅する事は叶わない。ならば、選ばれた人間のみが生き残ればいいだろう。かつて母がしようとしたように』

『かつて……《白騎士事件》の事か』

 

 彼の推測で、セフィロトが言っている事をようやく理解する。

 かつて天災が起こしたとされる《白騎士事件》。

 《白騎士事件》は人死にが出なかった。だが天災がその気になっていれば、【白騎士】一つで世界の全軍を相手取っても圧倒し、滅ぼせていただろう。目的がISを認めさせること、つまり世界全体が宇宙に目を向ける事だったので人死には出なかった。セフィロトのそれはあの事件をより過激にしたものだ。

 つまりセフィロトは、今回のメテオで特定の人間以外を滅ぼし、宇宙に旅立てない理由を排除しようとしている。

 だから地球を滅ぼす事も目的らしい。

 

『キリト。俺と共に来ないか』

 

 そして、唐突に勧誘を始めた。

 滅ぼそうとしている生命の中から、彼を選択し、生き永らえさせようとしている。セフィロトの言う『選ばれた人間』とやらに該当しているようだ。

 

『断る』

 

 その誘いを、彼は端的に、それでいて強く拒絶した。

 セフィロトが伸ばしていた手を下ろす。しかし、顔は笑っていた。

 

『運命に抗わないのか、キリト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前は、脆弱な身のまま、この星と運命を共にする気か』

「――――」

 

 ドキリと、私の心臓が強く鼓動を打った。

 まさかセフィロトは、ヴァベルが齎した未来を知っているのか。

 そう考え、いや、と否定する。

 ヴァベルが伝えたのは彼にまつわる最期。獣に堕ちた時は彼が世界を滅ぼすが、三年後に控えた星の戦いは必ず彼が相打ちで勝利していたらしい。それを知っているなら、和人が存在している限り星の滅亡に関して言及しない筈だ。その未来を知った博士が対策した結果が今の超広域バリアなのだから。

 和人も引っかかったのか、表情を怪訝なものにした。

 

『アンタ、何を知っている? 俺が生きている間に星が滅びるだと?』

『――精神エネルギーは生物の魂。それには想いに結びついた記憶・知識が詰まっている、星の内側へ潜る際に蓄積されていく。進化の過程としてな。そしてISはそれを取り込み、より進化をしていく』

『つまりアンタは、ログ……星の記憶とやらを閲覧できるわけか』

『そうだ。お前にも覚えはある筈だ、年齢にそぐわない精神、知識などがな』

『……!』

 

 男の言葉に、和人が瞠目する。

 私が聞いた限りでは、【無銘】がインターネットを介して集めた情報で知識を得たらしいし、その精神はデスゲームを生きる上で構築されたものだと考えていた。

 だが――言われてみれば、違和感もなくはない。

 インターネットで情報を調べ、知識を得ていたとして、それがそのまま精神力に直結するだろうか。元の環境が酷かったから耐性があったにしても、大人ですら竦む状況に挑める状態が続くとは考え難い。無論たらればの話であり、悪魔の証明でもあるから答えは得られない。

 それでも和人がそれを否定しない以上、思い当たる節があるのだろう。

 

『コアに元々存在する意志は精神エネルギーに触発され、より人らしく進化をしていく。感情を持ち、縛られない思考を持ち、他者のあらゆる技能を獲得し、その果てに”私”となる』

『……まさか、《ⅩⅢ》のように明らかに武器の数が多かったのは……』

『他人より少ない時間で、多くの技能を獲得できるからだ。お前は人間を殺せば殺すほど、ありとあらゆる知識、技術、経験を獲得出来るぞ。たった二年で最強に至った事がその証明。誰の命も奪わないで至れたお前なら、世界を滅ぼす事で完璧な存在となるだろう』

 

 そうして、セフィロトがゆっくりと飛び上がり、和人と同じ場所に降り立った。そして悠然と右手を差し出す。

 

『キリト。お前は、選ばれし存在だ。私と共に新たな星を見出し、その地で輝ける未来を創造しないか』

『……』

 

 和人はいつしか剣を下げ、その右手を凝視していた。

 ――はぁ、と小さな吐息。

 それは、彼のため息だった。

 

『完璧、ね。一昔前なら一も二もなく頷いただろう』

 

 そして、言外の拒絶の言葉が出た。

 

『魅力的な誘いではある。復讐を果たせて、尚且つ自分を高められる。まるでゲームみたいに単純だ――――だがな』

 

 そこで彼が跳びじさり、両刃剣を正眼に構えた。

 

『その先は復讐者(けもの)としての俺が望む未来だ。守護者(いまのおれ)が望む未来じゃない』

『――諦めるのか』

『勘違いするな。諦めたわけじゃない』

 

 男の失望を匂わせる――しかし、始終笑みを浮かべていて、和人の反応を楽しんでいる反応に、彼がすぐに否定を返した。

 彼の眼は、炯々と闘志を燃やしている。

 諦めている人間のそれではない。

 

『言った筈だ。俺は、俺にとって大切な存在の方が、世界より重要だ。完璧な存在? 輝ける未来だと? ――――知った事かよ』

 

 吐き捨てるように彼は言う。

 怒りではない。彼が掲げる誓い、己を成す(つるぎ)の発露だ。画面越しだというのに威圧感が増してくる。セフィロトの圧倒感が相対的に薄れていく。

 

『俺が求めるのは”みんな”の幸福。それだけのために俺は生き、戦っている。完璧になるためにそれを捨てる事は出来ない』

 

 だから――と、彼は言葉を区切り。

 

 

 

『俺は、出来損ないのままでいいッ!!!』

 

 

 

 己の忌み名をも、誇りに変えた。

 

 

 

 ――四方の彼方には、色とりどりの光が(またた)いていた。

 

 

 






・今話のまとめ
 『IS』、『SAO』、『バイオ』に加え、とうとう『FFⅦ』にまで手を出した()
 GルートよりPルート。


・SE
 本作オリジナル要素満載。
 束が『シールドエネルギー』と称しているモノ。原作では『ISに使うエネルギー』という扱いだったが、詳細は不明のまま。
 本作はそこに『FFⅦ』の《ライフストリーム》要素をぶっこんでいる。

 ――魂の辺りは、地味にSAO要素があったり。
 原作アリシゼーションのガブリエルは、アリシアを殺した時に魂を幻視していますからね。記憶・知識が増えた訳ではないので微妙なところですが、そこは大企業の御曹司ガブリエルの知識量と自我を超えられなかったという事で。
 アリシゼーション編のヴァサゴも死んだ人の天命、キリトは吸い取った魂をリソースにしてますし、地味にSAOと親和性はあると感じる今日この頃。
 魂フェチと和人狂いが全力アップしそうな暴露である()


・ライフストリームとは
 『FFⅦ』で取り沙汰にされるもの。
 死んだ者の魂が星を回り、新たな命として生まれる生命流転、輪廻転生の概念を落とし込んだモノ。原作では強固な自我がないと膨大な知識・記憶・エネルギーに耐えられず精神崩壊を起こして『魔晄中毒』を発症する。
 本作に於ける『SE』はISコアを移植されている者に限り、他者の技術、経験などを獲得できるよう噛み砕かれている。
 常に世界を漂っており、コアはそれを吸収しているため、和人も人を殺めずともある程度は死者の技術・知識などを獲得している。

 ――これのプログラム版が《クラウド・ブレイン》。

 エネルギーとは言え、一度コアという機械を通しているので和人は余計他者の感情・技術・経験を学習しやすい。見取り稽古、二戦目以降のメタ、瞋恚発露のしやすさの原因はISコアにある。

 並行世界で人を殺しまくっていた和人を下した直葉のヤバみが地味に高まる相乗効果()


織斑秋十の異形完全体(セフィロト・マルクト)
 ファザコン、マザコンにして和人狂いのヤベー奴。
 自我のあるタイラントがブリュンヒルデの技術・経験を獲得して『命』という経験値を積みまくってISを纏ったヤベー奴()
 《セフィロトプログラム》を埋め込まれた人間の負の感情ばかり学習したためか、基本的に思考はトんでいる。その中でも一番強固且つコアを移植されて生きているという条件にも合致しているので中々の執着を見せている。
 地味に秋十もコアを移植されて生き残っているが、即行でセフィロトに乗っ取られたので凄さ半減。


・桐ヶ谷和人
 過去を超克した弱冠11歳。
 誰かの支えを必要とし、必要とされる事を喜びとする普通の人間。
 忌み名である《出来損ない》を厭い、己を高める事に邁進していたが、秋十=セフィロトの完璧主義、選ばれた存在発言を契機に完全に克己した。
 《出来損ない》と貶めた秋十(セフィロト)をキッカケにそれを克己するのは、なんたる皮肉か。

 ――しかしそれは当然の事。

 今の和人は未来を生きるために戦っている。《出来損ない》をはじめとした悪評の払拭、ひいては価値を認めさせる事は、あくまで手段の一つでしかない。
 拘る時は、とうの昔に過ぎていた。
 あとはただ、キッカケが必要だっただけのことである。



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