インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 今話は短いです。

視点:和人

字数:約四千

 ではどうぞ。



 サブタイトルを執拗に『○○の○○』としてたのはこの時の為だったのだ……!





ChapterEX:片翼の天使 1

 

 

 地下から飛び出した俺は、セフィロト・マルクトが何処に行ったかすぐに探った。【白式】の反応を辿ればすぐだ。ハイパーセンサーは、その期待通りにすぐ反応を教えてくれた。

 反応は頭上にある。

 天を振り仰ぐ。ほんの数秒でセフィロトは天の遥か高いところまで上っていた。ハイパーセンサーが何キロも天高く上った姿を捉える。

 

 ――ふと、セフィロトが右手を持ち上げた。

 

 すると、先程まで月が煌々と輝いていた夜空に雲が立ち込め始め、瞬く間に曇天となってしまった。渦の中心となったセフィロトは悠然とこちらを見下ろしている。

 程なく、渦が動きを変えた。

 渦が呑み込まれていく。その先端には奴がいる。徐々に、空の端から雲が無くなっていき――――

 

 

 

 全てが吸い込まれたその瞬間、炎が生まれた。

 

 

 

 暴風が吹き荒れ、そこら中の建物が瓦礫へと変わっていく。まるで砂の城が崩れるような光景だ。それだけで、この暴風がどれほど暴力的、且つ凄まじい圧力を放っているか推し量れてしまう。

 あまりの圧力に翻弄されそうになり、俺は地面に黒刀を突き刺した。

 風が頬を叩き、髪とコートがなびくが、それに耐えて頭上を振り仰ぐ。

 

「な……っ」

 

 そして、愕然とした。

 頭上には巨大な岩塊が浮かんでいた。それも一つ二つではない、ボロボロに砕けたビルの瓦礫が寄り集まり、数えきれないほど無数の巨大な岩塊となって空中へと浮いて行っている。それらはセフィロトの頭上へドンドン高度を上げていっていた。

 ものの数秒で、サクラメント全土を覆い尽くす程の岩塊が形成される。

 

 ――お前の大切なモノは何だ?

 

 ――それを奪う喜びをくれないか。

 

 脳裏にSAO時代に言われた言葉が蘇る。

 あのセフィロトが《片翼の堕天使》の記録(記憶)を持っているかは定かではない。しかし明確な意志を持って今の行動を取っているのだとすれば、やろうとしている事は一つしかない。

 隕石(メテオ)だ。

 記録を持っているなら俺が大切だと言った全てを纏めて破壊できる。記録を持ってないにしても日本、アメリカにいる人達を個別に狙うより効率がいいだろう。現代科学の研究により、隕石が一つでも堕ちれば地球は氷河期を迎え、人類は滅亡するとされているのだから。

 

「和人君――――ッ!」

「和人――――ッ!」

 

 そこで楯無、ユウキ達が駆け付けた。楯無はラウラ、クロエと分担して義父さん、ガブリエル、ヴァサゴ、カメラマンの男性、ニュースアナウンサーの女性をISで抱えていた。

 

「な、なんでここにその人達を連れて来たんだ?!」

「こんな状況じゃ何処に居ても同じよ!」

 

 楯無の返しに確かに、と俺は納得した。

 下手すればアメリカ全土を崩壊させる勢いの暴風だし、岩塊を吸い上げている範囲がどこからか不明だ。ISの演算能力を使っているなら流石にこれが限界だろう。

 限界と言っても、明らかに過剰なのだが。

 

「和人、いったいどういう状況だこりゃあ?!」

「……説明したいところだが、そんな暇は無さそうだ」

 

 クラインが詰め寄って来たが、俺は視線を頭上に向けていた。時を追うごとに巨大化している岩塊を何時『完成』と見るべきかは不明だが、悠長にしていればアレが落下してくるのは目に見えている。

 アレを消すのは問題無い。【無銘】と【黒椿】の演算能力をフルに使えば原子に還元し、落下を止められる。

 問題はそれをしようとしているセフィロトを倒すまでの時間稼ぎだ。流石に戦いつつメテオを止めるのは演算能力が足りない。既に【黒椿】を【森羅の守護者】に全て使っていて、【無銘】単体では荷が重すぎる。

 

 とは言え、絶望はしていない。

 

 セフィロト・マルクトの出現で動揺こそしたが、まだ間に合う。あのメテオが奴の手札なのだ。ならば奴を倒し、メテオを止められる現段階では、絶望するにはまだ早すぎる。

 

 ――まったく、ぶっつけは嫌いなんだがな。

 

 内心で苦笑する。

 才能が無いと自負しているからこそ入念な下準備を怠らないようにしているのに、どうしてこう想定外の事態で手札を切らなければならなくなるのかと嘆息する。《二刀流》にしろ、《ⅩⅢ》にしろ、ここ数年でそういう事態が起き過ぎである。

 そう何度も命や滅亡の危機に瀕したくはないというのに。

 

「――指示を出す。アレを倒すため、そして全員が生きて帰るため、協力してくれ」

 

 見上げながら言う。

 頷く気配。ISを持っていない外野に口を挟む様子はない。この状況でも中継しようというのかカメラを持ったままなのは最早呆れるばかりのど根性だが、言及はしない。今はそれどころではない。

 

「標的は織斑秋十の異形体《セフィロト・マルクト》の無力化、および空にある岩塊・メテオの阻止。セフィロトを倒すまで時間稼ぎをする手段は既にある」

 

 そう言って、俺は周囲に武器を召喚した。【無銘】に初期搭載されていた《ⅩⅢ》のオリジナル達だ。そのうち、合体剣となる黒と白の片刃剣は俺が持つ。

 

「この二刀と盾を除いた十六の武器を十六方位に展開し、超広域バリアを張る。それで幾許かはメテオを抑えられる筈だ」

 

 無論、やった事など無いからあくまで『見込み』だが、中継カメラがあるのでそれは言わない。

 理論上は可能だ。IS学園のアリーナに仕込まれたバリア機構も、その最大出力は隕石の衝突すらも耐えるほどの強度を謳っているし、束博士も大言壮語でそう評している訳ではない。この超広域バリアも博士の案。信頼性はある方だ。

 問題はあまりに範囲が広すぎるため、そう長い時間を掛けられない事と……

 

「じゃあその間に私達であの人をやっつけるんだね?」

「いや、悪いが俺一人で戦う事になる」

 

 アスナの言葉に、俺は首を振った。

 なぜ、と以前よりよっぽどキツい視線を送られる。

 しかしこれにはれっきとした理由がある。

 この超広域バリアは【無銘】の演算領域を全て消費する上に、その維持のためには【無銘】を宿した俺がすぐ近くに居なければならず、故に【黒椿】を使って戦闘せざるを得ないのだ。しかも武器の展開、維持には一つにつき一人居なければならない。

 つまり十六の武器なので最低16人、セフィロトの相手で1人、合計17人必要だ。

 ここにいるIS操縦者は【森羅の守護者】13人、楯無、ラウラ、クロエ、そして俺で丁度17人。

 これなら死なないユウキ達に任せればいい事になるが、忘れてはならないのは、【無銘】と【黒椿】による演算能力で維持可能なアバター上限は13人という点だ。【無銘】でバリアを維持するのに全力を尽くす以上、必然的に【黒椿】の演算能力もアバター維持にフル活用しなければならなくなる。要するにその間、俺は飛べなくなる。

 しかし展開したバリアは見えない壁のように触れるし、歩けるようになる。

 だから必然的にセフィロトと相対するのは俺でなければならない。

 

「そんな……そんなの、危な過ぎますよ! 生身でISに挑むのと同じじゃないですか!」

「自衛用ではあるが、一応バリア発生装置はあるぞ」

「生身なのには変わりませんよ!」

 

 この案を聞いた途端、真っ先にランが反駁した。

 それは俺を心配しての発言だ。とても嬉しく、有難い限りだが、今ばかりは喜ばしくない反応だった。

 

『――話は聞かせてもらったぜぃ!』

 

 そこで、束博士から通信が入った。

 オープンチャンネルで繋がった回線のため、ハイパーセンサーを持っていない人にもその音声は聞こえる。暴風で掻き消されそうになるためスピーカーモードで音量を大きくする。

 

『実はいま各国の代表候補操縦者がサクラメントに向かってるんだ! 近場の国ならもうすぐで着くから、その人達とバリア維持を交代する形でクーちゃん達が和君に加勢する事も可能だよ!』

「本当か?!」

『うん! 束さんからそう伝えておくよ!』

 

 思わぬ朗報に食い付けば、画面越しに博士が満面の笑みで頷いた。しかも周知までしてくれる。IS委員会会長から指示があったとなれば、不満があっても従うしかない。

 正直なところ、ユウキ達や楯無達を戦わせたくはない。特に後者は生身だ。下手すれば死ぬ。

 だから保険を掛けておく事にした。

 

「なら束博士、後退する順番として楯無、クロエ、ラウラは最後の方に回してください」

「え、ちょ、何でよ?! 私達も力になれるよ?!」

「民間人の護衛があるし、なにより三人は生身だ。あのセフィロトの狙いは『俺の大切なモノ全て』。真っ先に狙われる」

「う……不意打ちは、ズルいわ……」

 

 俺の言葉を受け、楯無が困った顔で顔を赤くし、口を噤んだ。その反応は時と場所を含めちょっと予想外だったが、もう時間が無いので好都合と解釈する。

 

「役割は分かったな? もう時間が無い、全員散会!」

 

 各々言いたい事、不満や疑問――なんで超広域バリア機能を作っていたのかなど――はあるだろうが、それに悠長に答えていられる時間はもう無さそうだった。頭上にある岩塊は最早それだけで圧力を放って来るほど巨大化している。赤熱までしている部分があるのを見るに、もう落ちてきている可能性がある。

 あまり落下し過ぎると、止めたところで無意味になるので、俺は無理矢理切り上げた。踵を返し、こちらを悠然と空に立つセフィロトを見上げる。

 

「――和人!」

 

 今まさに飛び立とうとしたところで、鋭い声が背中にぶつけられた。

 僅かに振り返れば、俺の養父、桐ヶ谷峰孝がこちらを見据えていた。

 

 ――直接顔を合わせるのは、もう二年半ぶりになるだろうか。

 

 最後に会ったのは、桐ヶ谷家に拾われて一ヵ月後の十二月末だった。

 年末年始のおよそ一週間を過ごした後、彼は留学していたビジネススクールから直行で入社した大手証券会社、つまりこのアメリカへと国際出張に出ていたし、俺はつい四か月前までデスゲームに囚われていた。SAOの虜囚となっている間に二〇二二年、二三年、二四年と三度年を越す度に見舞いに来てくれていたとは聞いている。だから養父はあれからも何度か俺の顔を見ているのだ、俺が知らないだけで。

 俺も、ビデオ電話ではあるが、顔は見ているし、話もしている。

 生還後にALOをすると、《アミュスフィア》購入の件で喧々諤々と言い合ったのは良い思い出だ。家族として受け入れられたあの日から変わらず愛情を注いでくれる良い父親だと思う。だからこそ、デスゲームに囚われたと聞いた時は狼狽し、長期休暇を取って――養母・翠と義姉・直葉の心労のために――帰国した事もあった。

 俺の行動はそれらを裏切るものだ。

 家族に心配ばかり掛ける親不孝者だ。

 でも――――これから行く戦いは、大切な人達を、この世界を守り、未来を生きる為だから。

 

「行ってきます、義父さん!」

 

 俺は敢えて気丈に笑い、白剣を握る左手を振った。

 養父の顔が一瞬歪む。メタルフレームの奥に見える瞳の光が、一瞬きらりと回った。なにか言いたくて、けれどぐっと堪えた様子を見せた後、養父が口を開いた。

 

「ああ――――必ず無事で帰って来なさい!」

 

 冷厳な印象を持つ父に似つかわしくない大きな声が返される。

 行ってらっしゃいと、そう言われただけなのに。

 

 

 

 その平凡なやり取りが嬉しくて堪らなかった。

 

 

 






Information
・『星を救う戦い another』が発生しました

 ステージ
 『?????』

 勝利条件
  セフィロト・マルクトの無力化
    及び
  メテオの消滅

 敗北条件
  和人、楯無、ラウラ、クロエいずれかの死亡
   または
  一定時間の経過

 特殊効果
   敵付与:常時片翼覚醒(リユニオン)状態
  和人制限:生身限定、回復・換装・飛翔禁止
  和人付与:抑止の力、守護の心
  時間経過により【森羅の守護者】参戦
  【森羅の守護者】無限復活

 パーティーメンバー(順不同)
 1)桐ヶ谷和人
 2)クライン
 3)リーファ
 4)ユイ
 5)ストレア
 6)キリカ
 7)ユウキ
 8)ラン
 9)サチ
10)アスナ
11)シノン
12)ヒースクリフ
13)ヴァフス
14)ヴァフス〔オルタ〕
15)更識楯無
16)クロエ・クロニクル
17)ラウラ・クロニクル


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