インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。
視点:ガブリエル・ミラー
字数:約九千
今話は回りくどい上に会話だけなので、要約を後書きに書いています。
ではどうぞ。
協定世界時、カリフォルニア州サクラメント時間《二〇二五年 七月九日 二一時五十分》
米国カリフォルニア州サクラメント市《製薬会社スペクトル》本社ビル地下研究所、スタッフルーム。
死体が動き出す地獄と化した地下研究所の一角で三人の人間と十を超える機械の人型が顔を突き合わせる。会話をしているのは、三人の生きた人間が主だった。
その一人である、この状況にそぐわぬ幼い少年がふむ、と顎に手を当てる。
「つまり、ヴァサゴは以前まで《亡国機業》に
白髪金瞳の少年が、この数分で交わした情報を要約した。
それに頷きを返す。
「そうだ。そちらは、この地下にアキト・オリムラの専用機【白式】の反応があったから乗り込んできたのだったな……本人の場所は分からないのか?」
「束博士がナノマシンを仕込んでいたとしても、そこから電波を受信する機材を受け取ってないからな。正直なところ手遅れとは思っている」
「そうか」
淡々と見切りを付けている様子に、薄情だなとは思わなかった。
先に死んだ隊員やヴァサゴによれば、いまの状況はゾンビパニック系フィクション作品に酷似した状況で、ゾンビ化の原因であるウィルスは生体兵器開発のために研究されたもの――という設定が定石らしい。
その例を当て嵌めるなら、サクラメント全域を襲っている事態は深刻なバイオハザードそのものであり、原因のウィルスは生体兵器のために造り出されたものと言える。
死んだ者が蘇り、噛まれた者もまた動く死体と化す状況下で捕縛されている人間が無事とは思えない。なによりこの研究施設は《亡国機業》のアジトだという。《亡国機業》により生体兵器化の実験を受けた過去を持つ実例が目の前にいる以上、やはりアキト・オリムラの無事は絶望的と見た方がいいだろう。
――そう思考する傍ら、ガブリエルは一つの欲求にも意識を向けていた。
映像を介して見た程度だが、それでも
復讐者の輝きは、本質的には英雄のそれの写しでしかないのだろう。
だがただの写しではなかった。英雄にはない復讐者としての在り方はまた違った輝きがある事に気付いたのだ。
あの復讐者としての輝きを乗り越え、更に強い意志で超克した剣士の魂は、どれほどの輝きを持つのか。己を神と
ヴァサゴと共に鑑賞した《クラウド・ブレイン事変》当時はキリカというAIも欲していたが、セブン、ホロウの戦いを見た後から、ガブリエルの目標は桐ヶ谷和人に絞られていた。それだけ強い輝きを、ガブリエルはかつて己が殺めた少女《アリシア・クリンガーマン》を除いて見た事が無かった程だ。
認識は、二度目の邂逅となる剣士に突き従う十余名の剣士を見て、少しの変化を齎している。
元々ガブリエルは日本のVRゲーマーとして最も有名な《SAO
それを、よもやリアルでも見られるとは思わなかった。どれだけいっても、少年以外はただの一般人という認識だったからだ。
一般人である筈の面子がここに居るのは数日前に報道された【森羅の守護者】のロジックを流用したからだと理解したが、問題はそこではない。凄惨極まる地獄を前にして尚気丈に、むしろ適応する程の精神力にこそガブリエルは瞠目した。
まだこの目で見ていないが、この部屋に辿り着くルートにある化け物を考える限り、彼らは幾度となくそれらに遭遇し、退けなければならない。今でこそ綺麗になっているが、部屋に入って来たばかりの【森羅の守護者】の面々――主に女性陣――は殆ど血塗れになっていた。その反面、少年は小奇麗なままだったが、生身の少年を万が一にも化け物に変えないための措置なのだろう。つまり主に殺し合いを演じたのは、少年の強烈な輝きに呼応した少女達なのだ。
だからガブリエルは、【解放の英雄】と呼ばれる剣士だけでなく、《攻略組》と呼ばれたトッププレイヤー達にも関心を寄せている。ただ『傍にいる者達』から、『英雄と同等の域に成長する輝き』と見始めた。
彼らの魂の輝きは、どんな宝石よりも貴重で、世界中の大富豪が何億ドルの札束を積もうと手に入れられないものだ。出来得る事なら彼らの魂を一人残らずキリカのようにデータ化し、それらを秘密の部屋に並べ、気儘に選んだ魂を好みの世界にロードし、いかようにも望むままに扱いたいと思うほど。そうなれば、壊れたり歪んだりした魂を手軽に巻き戻し、一からガブリエルの好み形に作り替えられる。
いや、あるいはいまここで少年を殺せばどうだろうか、とガブリエルはふと頭を擡げた思考に意識を向けた。
かつてアリシアを手に掛け、その魂を喰らったガブリエルは、相手の魂がいつ何をキッカケに輝くかを考えるクセがあった。アリシアは最後の別れの時に温かく抱擁する、俗に言う愛情表現をした際に最も輝いた。なぜなら彼女はガブリエルの事を離れたくないと涙する程には好んでいたし、その相手からの愛情表現に喜ぶ純粋な心があったからだ。心が満たされた時、その者の魂は最も強く輝くのだろうと、ガブリエルはこれまでの半生で考えるようになっていた。
残念ながらガブリエルは特定の何かを楽しく思い、率先して行う事が無かった。いや、魂の探求こそがガブリエルにとって最も打ち込めるものだからこそ、他に割ける余裕が無かったのだ。ある程度の年齢になってから従軍するために動いたし、《グロージェンDS》の重役会員としての仕事もあった。付き合いで余暇を過ごす事こそあれ、自ら動く事は常に探求だけだった。それこそがガブリエルにとって最も充実した時間だったからだ。
ガブリエルは、麻薬のような思考だと、どこか冷静な部分で己を客観視した。
これほど他者の輝かしい魂を求めるのには、純粋な『魂とは何か』という哲学的な疑問だけでなく、かつてアリシアの魂で得た経験が衝動となっているからだ。周囲の光景、音すら消え、真上から木々の梢を貫いて降り注ぐ幾つもの白い光の筋と、かすかな鐘の音を認識したあの瞬間、得も言われぬ高揚感を得た事をガブリエルは覚えている。そしてその時、己がこれからずっと、いま見たものを追い求めていく事になると確信した事も。
そのためなら何でもするのがガブリエルの信条だったが、しかし、いま英雄の命を奪う事は得策ではないと判断し、結果的に却下する事にした。
魂の探求は、己が生きていなければ出来ない事だ。彼我の戦力差、場所の現状を考えれば、ここで彼らと敵対する事は愚策でしかない。クレイジーな輩の多い傭兵を取り纏めるために演じた『タフな指揮官』としての側面がそう声を上げたのだ。ISを有する少年と、ISと同等の性能の体を持つトッププレイヤー達を相手にするには、愛用の銃ですら豆鉄砲のように頼りない。一撃で周囲を更地に変えられる武器を持っていると考えれば、あまりに無謀な考えだった。
世界のどこで、どれほどの規模の争いが起きようと、ガブリエルには興味が無い。
だが魂の探求を阻む要素だけはどうしても無視できなかった。それは己の生死も同じである。
――時間にして数秒もない間に思考を終えたガブリエルは瞼を閉じ、微かに背中を震わせた。
次に目を開けた時には、もう氷のような思考力が戻っていた。
いま目の前に極上の魂がある。各国の若者たちの魂が、王冠の周囲を取り巻くルビーやサファイア、エメラルドなどのポピュラーな宝石だとすれば、彼のそれは巨大なダイヤモンドだ。それを手に入れるには、いまは何としてもこの地獄を生き抜かなければ話にならない。
最悪【K-Virus】の回収は出来なくても構わない。現状を知った“上”に『既に無かった』とでも言えば、正社員なので幾らかの減俸で済み、淡々と次の指令が出されて終わる。既に部隊は十分の一以下という壊滅状態なのだ。ここで撤退したところで怪しまれる事は無い。
とは言え――あっさりと撤退するのは、少々勿体ない部分もある。
「こちらは私とヴァサゴしか生き残っていないからな、既に撤退してもいいとは考えている」
「あー……
流石に彼はこのチームの副隊長に抜擢しただけあり、単なる野良犬にはない状況把握力を持っている。
「だろうな」
すまし顔でヴァサゴの異論に頷いた。
「だから最低限の成果が必要だ。開発されたものがウィルスであるなら、万が一を考慮し、それ用のワクチンが作られている筈だ。そうでなくともウィルスの構成などの資料を回収するだけでもある程度評価されるだろう。そしてその機会は今しかない」
「それは何故」
白髪を揺らして和人が問うてきた。
「まだ予測の域だが、おそらくサクラメントは合衆国に放棄され、ミサイルなどによる滅菌作戦が実行される筈だ。生態系全てを覆しかねないウィルスの根絶にはまとめて消し飛ばす方が効率がいい。一度撤退すれば、ここに戻って来るのは死を意味する」
「あー……そーいやゾンビパニック物って、大抵最後は爆破されてるもんなぁ……」
「オッ、お前も知ってるクチか。いいね。俺は映画の方が好みなんだがそっちはどうなんだ、ゲームシリーズか?」
「……イヤに慣れ慣れしいな、お前ぇ……」
無精髭のサムライが納得の声を上げると、ヴァサゴがそれに反応を示した。まるで同胞を見つけたかのような笑みを見せるヒスパニック系の波打つ黒髪の男に、サムライが表情を歪める。
ヴァサゴはデスゲームでレッドプレイヤーを統率する頭目だったから彼らからの心証は良くない。むしろ遭遇した時、真っ先に斬り掛かられていない事が半ば奇跡にも思う。
本人曰く、一度共闘した間柄だからだろうとの事だが……
一瞬ヴァサゴに目を向けた後、あちらのリーダーの少年へと戻す。彼もまたヴァサゴを見ていたが、こちらが注目したのを察したかすぐ見返して来た。
「ともあれ、我々はまだ活動する予定だ。そこで取引をしないか。こんな状況だ、生き残るには協力した方がいいだろう」
「取引……それを交わして、こちらに何のメリットがある。戦力なら既に足りている。明らかにこちらに掛かる負担が大きいと思うが、それに見合う代価は何だ」
条件を確認してきた事で、第一段階は突破と判断する。
――あっさり撤退する事を勿体ないと捉えた理由は、桐ヶ谷和人との実質的なツテを得られなくなるからだ。
顔合わせはIS学園で一度しているが、それだけではツテとは言えない。実質的なやり取りを一度してからそう言えるのが普通だ。そしていまはそれをするチャンスなのである。
《グロージェンDS》は民間軍事会社、つまり荒事を中心にした企業だ。今後世界の中心に立つ者の傍にいた方が魂を得る機会も増えるだろう、という下心があった。
また男性操縦者の片割れと直接契約を交わしたとなれば今回の失態もある程度緩和されると踏んでもいる。
それはあちらも理解している筈だから、どれだけ良条件を出し、更に妥協案を引き出せるかに懸かっている。重役とはいえCEOではない以上、ベットも多少限られているのがネックだ。
ちなみにこの時点でウィルスサンプルの回収は諦めている。《亡国機業》と明確な敵対関係にある彼と良好な関係を結ぶなら、アレを回収しては都合が悪い。あのウィルスは間違いなく《亡国機業》が作り出した産物であり、それを闇に葬らない限り、間違いなく第二、第三のサクラメントが出現してしまうからだ。
いまは何よりも桐ヶ谷和人との関係構築が最優先である。
「私個人と、それに加え《グロージェンDS》とのツテだ」
「足りん」
バッサリと切って捨てた和人が、腕を組む。睥睨するような素振りだがその顔は真剣だ。少なくともこちらを下に見ている様子ではない。
おそらく、あの姿勢は《ビーター》と呼ばれた時代に築いた交渉術なのだろう。
「以前やり取りした時に《グロージェンDS》がPMCと聞いた。生憎と身辺警護担当はクロエやヴァフス達がいるし、そのサポートも篠ノ之博士がいるから充実している。現状困らないほどだ。あんた達を助けてまで負担を背負う理由が無い」
「む……」
和人の反論に、ガブリエルは言葉を返せなかった。
荒事関係を対処する者は確かに既にいた。和人には一定の危険性があると訴える集団を黙らせる方策、また女権弾やテロ組織の襲撃を憂慮し、世界最大級の警護態勢である事は知られた事実だ。AIという不眠不休の警護要員が複数いる時点でPMCは不要である。却ってスパイの出入りを許す事になりかねない。
「加えて信用も出来ない。アンタはともかく、ヴァサゴに関しては《亡国機業》と繋がりがあった男だからな」
そう言って和人は隣の男に視線を向ける。明らかな不信感があるが、そうなるのは仕方ない事と言える。
「オイオイ、俺はもう手は切ってるんだぜ?」
「三年前と半月前の二回も契約をしていて、それで信用しろと? ……仮に俺が信じても、後ろのみんなが納得しないよ」
やや諦観に近い風情で言う。
ガブリエルは少年の後ろで待機する者達を見て、なるほどな、と納得した。一様に殺気立っており、少なくともヴァサゴとの協力関係に一定以上の忌避感があるのは明白だった。【絶剣】と【閃光】と呼ばれた少女二人はそのきらいが最も強い印象を受けた。
【絶剣】に関してはヴァサゴが口説いたからだろう。
【閃光】に関してはたしか学園襲撃時に巻き込まれた人物だった筈だ。狙った途端アイツが覚醒したと、矢鱈上機嫌に語っていた事を覚えている。
身から出た錆といったところか。
「ボクは絶対反対。信用できないもん」
「私も、前に命を狙われたから、ちょっと……」
「オイオイ、《ホロウ・エリア》の時は共闘しただろ。あの時と同じ対応は出来ねぇのか?」
「出来る訳無いでしょ!」
くぁっ、と【絶剣】が凄む。落ち着け、と和人に窘められて鎮まるが、視線はずっとヴァサゴに向けられていた。
これでは流石に旗色が悪い。ヴァサゴという存在が《グロージェンDS》の信用価値を下げているのもそうだが、PMCが提供できる商業価値も和人は必要としていない。
――だが、それは和人は、という限定の話だ。
残る攻め所はそこくらいだろう。
「利害の一致の面から言うなら協力した方がいいと思うが」
「利害?」
「君が日本を発つ時、おそらくミス楯無や銀髪の姉妹を伴っていたのではないか? その彼女達がここに居ないという事は、おそらく生き残りを集め、どこかに立て籠もっているのではと考えるが」
「……そうきたか」
言わんとする事を理解したらしく、彼が顔を歪めた。
あまり良い話の持っていき方ではない、なにせ民間人を人質に取ったようなものだからだ。しかしこれは彼に有効な手という確信がある。なぜならこの少年は無辜の民を見捨てられない善良な側面を持っているからだ。それを貫き続けた事で英雄へ至ったと考えれば、それを曲げる事は出来ないだろう。
ここで民間人を見捨てれば、彼は己の信念を裏切った事になる。
魂の輝きはそれで陰りを見せる。どうしようもなかったとしても、それでも見殺しにした者達への罪悪感を背負っているのなら、この話を断る事は出来ないのだ。
「まったく、智慧が回るな。民間人を人質に取ったようなものじゃないか。ヴァサゴの入れ知恵か?」
「おいおい、なんでもかんでも悪事を俺と繋げんじゃねぇよ。先入観が過ぎるぜ」
「イヤなら今後は真っ当な依頼を受けるんだな」
顰め面で言った彼は、はぁ、と息を吐いた。先ほどとは種類の異なる諦観を滲ませる。
「……分かった。こちらの条件を飲むのなら、そちらの申し出を受けよう」
コーヒー豆をふんだんに使ったブラックコーヒーを口にした子供の顔で、渋々とばかりにそう言った。
それに異を唱えたのは敵意をむき出しにしていた【絶剣】だ。
「ちょ、和人、ホントに受けるの?! またPoHを仲間にするって本気?!」
「本気だ。まあ裏切られたら達磨にして奴らの餌にでもすればいい」
「あー……」
「さり気にえげつねぇな、お前ぇら……」
やや引く様子を見せつつヴァサゴが口を挟む。企業の重鎮である事を知った生き残り二人を即射殺した男とは思えないが、ただおどけているだけだろう。
「有難い。それで、条件とは?」
先を促すと、和人は条件を五つ挙げた。
一つ目。【K-Virus】やその資料を見つけた場合、仮に複数あってもガブリエル達は《グロージェンDS》に持ち帰らない事。
二つ目。篠ノ之博士に解析、ワクチンを作成してもらうので【K-Virus】、およびそのワクチンは和人側に譲る事。
その二つは《亡国機業》の手元にウィルスサンプルが渡らない事や、同じ災害が起きなようにする目的のためらしい。任務に反するためかヴァサゴが渋い顔をしたが、「取引を交わすだけでも上には報告になるだろう」という言葉で黙らされた。見抜かれていたようだ。
和人と取引する時点で持ち帰る事を半ば諦めていたので了承する。
三つ目。このビル内でアキト・オリムラの身柄と【白式】コアの奪還を手伝う事。成り行きになるので了承。
四つ目。研究所を脱出後、民間人の警護、避難を手伝う事。本音は早々に脱出したいが、取引を帳消しにされるのでは意味が無いので了承。
そして五つ目は――
「「対バイオテロ組織……?」」
それは、国家間の枠組を超え、あらゆる国家から精鋭を集めて組織される団体への所属だった。
「そうだ。恐らく今後ウィルスを悪用したバイオテロが頻発する、そうでなくとも今回の件で世界的に騒動が起きるだろう。秩序を維持するには、旗印になる抑止力が不可欠だ。PMCに所属するあんた達には今後設立されるその組織に参加してもらう」
「……ふむ」
ここに来て、今後を左右する案件を突っ込んできたため、ガブリエルは暫し考え込んだ。
立場的には十人もいる役員の一人という最年少の大株主であるガブリエルは、公的な立場こそ副社長より下とは言え、前身となる《グロージェン・セキュリティーズ》のオーナー経営者が父だった事もあり、内部の力関係は上の方に位置している。ガブリエルが口出しすれば、上は反論などで時間を稼ぐものの最終的には従わざるを得ない事も少なくない。それをよく思わない古狸達からは戦死者リストに載ってしまえと思われている。魂の探求以外には関心が薄いせいで強権発動をした事はないが、ガブリエルの内面を知らない幹部達には目の上のたん瘤そのもの。それを利用する形で今回は作戦立案だけでなく現場にまで出てきていた背景がある。
つまり受けようと思えば受けられなくもない。
だが、すぐには頷けない。それほどの大事なのもそうだが、ガブリエルにもどうしようもないものは存在する。
それは国家権力だった。
「すまないが、五つ目は難しい。《グロージェンDS》は民間軍事会社、どれだけ大手になろうと合衆国政府の指示が無ければ国家間を超えた案件には動けない」
時には
独断で国家を超える事で約束する事は流石にガブリエルにも出来ない話だった。
――だが。
「ああ、いや、そこのところは心配ない。《対バイオテロ組織》とは言ったが、実質は《対亡国機業連盟》だよ。束博士が国際IS委員会会長として既に動き始めてる。アメリカは第二世代IS【アラクネ】の強奪、ダリル・ケイシーの内通などで《亡国機業》には色々と借りがあるからか、二つ返事で連盟に参加する意志を表明していたんだ。だからそこはあまり気にしなくて良い」
ガブリエルの懸念は、先回りされる形で解消されていた。
考えてみればあながち間違っていない。今回のバイオハザードは、意図的だろうがそうでなかろうが、《亡国機業》が研究していたウィルスが原因と見て間違いない。つまり《亡国機業》に対抗する組織になるなら、今回のバイオハザードを考慮し、対バイオテロ組織にもなる。部門で分けられると考えていいだろう。
篠ノ之束であればそれだけ動いたとしても不思議ではないので、表向きに情報が出ていないだけで、実際裏では各国首脳同士で話し合っている事なのだろう。
――なるほど、
ガブリエルは、この条件の真意に気付き、感嘆した。
五つ目の条件は、つまるところ『《亡国機業》側に付くか否か』を決める最後の審判だ。一つ目から四つ目の条件は、この五つ目の条件を飲めば自動的に了承する事になる。なぜならいずれも《亡国機業》に与しない選択だからだ。了承する事でヴァサゴの言い分も一定の説得力があると判断される。
逆にこれを拒否すれば、ガブリエルとヴァサゴは即座に殺される。
「……流石、四面楚歌のデスゲームを走り抜けただけはある。流石の智謀だな」
「褒め言葉として受け取っておこう。それで、返答は?」
既に確信しているだろうに、誤魔化しが効かないようハッキリとした返答を求めて来る少年の顔は、不敵な笑みに彩られていた。
――――これが、《
――――そしてこれこそが、英雄の輝きか。
「――全て受け入れよう。よろしく頼むよ、【解放の英雄】」
「悪いが、そう呼ぶのはやめてくれ。英雄と呼ばれるのは嫌いだ」
「そうか。気を付けよう」
本気でイヤそうに顔を顰めた少年に右手を差し出す。意図に気付いた彼がすぐに手を出し、握手を交わした。
ここに契約は結ばれた――――
・今話の要約
束さんが動いていたのは国家の枠を超えた『《亡国機業包囲網》の構築』のためだった事が発覚。
それを前提に秋十の囮を企てたので、その辺は勿論和人も把握していた。
ガブリエルがとにかく取引を結ぼうと民間人を人質紛いにする卑劣な手口をしたが、逆に和人側の提案を受けないと『やっぱお前《亡国機業》側か』と処理されちゃう状況にやり返され、従うより他が無くなった。
【ガブリエル と ヴァサゴ が
原作SAO編ラスボス・ヒースクリフ
原作ALO最強プレイヤー・ユウキ
原作GGO最強プレイヤー・
原作アリシゼーション大戦ラスボス・ガブリエル
――アドミーちゃんが加われば各ワールド最強揃っちゃうネ!
・桐ヶ谷和人
デスゲーム時代の知略、対組織のノウハウを活かした弱冠11歳の子供。
《アインクラッド解放軍》、《聖竜連合》、《血盟騎士団》、《スリーピング・ナイツ》、《風林火山》など、様々なギルドの軋轢の緩和に奔走し、ほぼいつも敵意剥き出しの相手と交渉していたので手馴れたもの。
今回はオレンジギルドの捕縛経験で、回廊結晶で牢獄に入るなら助ける、入らないなら殺すのやり取りの流用だった。
ちなみに『対バイオテロ組織』という括りなので、《亡国機業》が壊滅しても所属し続ける事になる鬼畜仕様。グロージェンDSからの出向という形になるが、どちらにせよ死亡率激高なので鬼畜なのには変わらない。
民間人を人質に取った事で容赦は不要と判断した結果である。
――コレ詐欺の手口では?(期間を指定せず、更に命をベットさせる所業)
・ガブリエル・ミラー
魂の探求を続ける狂人。
対セブン、対ホロウの戦い以降はキリカが対象から外れていたが、今回の件で和人の他にユウキ、アスナ達などの面子も魂収穫の対象に入ってしまった。勿論一番の本命は現状和人のまま。
ある意味和人の魅力にやられた男。
ただし卑劣な事を先にしたので、鬼畜でやり返された。ゾンビで死ぬ最後かアリシア(亡霊)に憑かれて地獄に堕ちるか好きな最期を選ばせてやろう(鬼畜)
味方になった訳でなく、あくまで利害の一致で行動を共にするだけの間柄なので、《ホロウ・エリア》時代のPoHと似たような関係(須郷→《亡国機業》)
・ヴァサゴ・カザルス
和人と因縁ありまくりな男。
雇われとは言え《亡国機業》と繋がりがあったので警戒される要素しかなかった。五つ目の条件で強制的に《亡国機業》と敵対する関係になるので、今後IS側で関わる事はほぼ無いだろう。
代わりにゾンビと戯れる事になったが、殺し合いが好きならモーマンタイだよね(鬼畜)
・【森羅の守護者】
割と空気だがずっと周囲を警戒している。
彼女ら、彼らが居るからこそ和人達は会話に専念できた。ヴァサゴと再度共闘する事にかなりの抵抗感があるが、和人の判断を尊重し、必要以上の反対はしていない。