インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 本日二度目、なので短めじゃ(´・ω・`)

視点:和人

字数:約五千

 ではどうぞ。




Chapter0:地獄の呼び声 4

 

 

 二〇二五年七月九日木曜日。

 アメリカ合衆国カリフォルニア州北部、サクラメントビル街。

 

 

「ここが例の座標か」

 

 【黒椿】のPIC、反重力機能で移動する事暫くして、小綺麗な建物に辿り着いた。楯無から預かっておいたマップをオーグマーと同期させ、表示された高精細なマップには眼前の建物から反応がある。平面図上では(ブリ)(ップ)でしか表示されないが、表示方法を方位に変えれば、反応がある方へ矢印を表示するようになった。

 矢印は眼前を向いている。しかし正確には、やや下方を向いている。

 つまり地下に【白式】があるという事だ。

 まあこんな大都市のビルだし、表向きは真っ当な企業のようだから地上の階に置いてあるとは思っていなかった。地下と言われた方が納得だ。

 

「《製薬会社スペクトル》……なるほど、亡霊(Phantom)のフランス語表記か」

 

 亡霊は英語で《ファントム(Phantom)》と訳される。しかしこれは、実はフランス語でもまったく同じ発音だ。更に亡霊の別単語として英語は《スペクター(Specter)》、フランス語には《スペクトル(spectre)》がある。つまりこの製薬会社は表向きはスペクトルとして真っ当に働きつつ、そこで得た研究や資金を裏の顔《亡国機業(Phantom task)》に回していたという事だろう。

 無論、まだ確たる物証を得た訳ではないので、《製薬会社スペクトル》と《亡国機業》の関係性は不鮮明だ。会社自体は白で、そこに表向きの顔で務める職員の一人が混じっていて、【白式】を地下の自分のロッカーなどに保管している可能性も無くはない。

 ……カリフォルニア州全域のバイオハザードを見る限り、十中八九関係あると思うが。

 俺も全ては把握し切れていないが、アメリカ以外にも支社を置き、市場にもグイグイ食い込むほど活動的な大企業だと七色から聞いている。そこの株を買っておけばとりあえず損はしないだろう、と株式投資で名前に上げていたほどだ。

 

「……七色の株、大丈夫なのかな……」

 

 ふと気になって、呟く。

 碌に勉強できてないからイマイチ株式投資の原則が分かっていないが、株を買った時より株価が下がると損するくらいは解る。この暴動を中継で識った人々は、アメリカにある製薬会社全てに不信感を抱き、株を手放していくのではないだろうか。それなら早ければ早いほど損はしないだろう。

 とりあえず『《製薬会社スペクトル》の株は手放しておいた方がいいと思う』とメールを打っておく。

 いきなりの事で驚くだろうが、毎日欠かさず日経株価をはじめニュースチェックを欠かさない七色の事だ。暴動を見てなんとなく察してくれるだろう。

 そう考えると中継に映った事も案外悪くなかったと思う。

 

 

 

「――この状況で心配するのが他人の株って、絶対何かがおかしいと思うんだけど」

 

 

 

 背後から、呆れ度MAXの声音が聞こえた。

 振り返ると、呆れの表情で見下ろしてくる紫紺の剣士・ユウキと目が合う。その手には既に黒曜の剣ルナティークが握られている。

 

「……ユウキ、グロは大丈夫なのか」

「アバターを介してるならまぁ、なんとか。それにボク一人じゃないしね」

 

 にっと不敵に微笑んだユウキは、更に後ろに視線を向けた。体を傾け、ユウキの体から顔を出すように向こう側を見る。

 

「私、お化けは苦手だけど、グロ系は大丈夫だよ。まあ好きでもないけどね」

「アスナ……気持ちのいいものじゃないぞ」

「ふふ、ありがとう。でも大丈夫。後悔したくないからここに来たの。今度は、私が君を守るよ」

 

 苦笑しながら銀鏡仕上げの細剣を提げる紅白の騎士。

 

「助けられる手段があるなら、私もそれをします。私だって後悔したくないですから」

「ラン……いいのか、殺し合いだぞ」

「解ってます。だから、その危険からあなたを守らせてください。そのためにガーディアンに志願したんですから」

 

 腰から細剣を吊るし、旗を手にして強く微笑む紫紺の騎士。

 

「こういう時のために私達が居るのよ。遠慮なく頼りなさい」

「……大丈夫なのか、シノン。ここには……」

「アスナと、キリトがいるわ。心は守られてる。だから……あなたの命と体を、守らせてちょうだい。あの時してくれたみたいに、今度は私が助ける番よ」

 

 心の傷に苦く笑いながら、それでも力を貸しに来てくれた青髪の弓兵。

 

「君は多分止まらないから、私達はもう止めない。だから付いていく事にしたんだ。物理的には足手まといになるけど、精神的になら力になれるから……君が、強くしてくれたから」

「サチ……俺は、そのために鍛えた訳じゃ……」

「ふふ、解ってる。これはお礼だよ。私を強くして、生き残らせてくれたお礼……ずっと返せなかったお返し、だよ」

 

 雪解け水のように眼を潤ませながら笑う(そう)()の槍使い。

 

「たっく、お前ぇいっつもなんかに巻き込まれてんなぁ。そのクセいつもソロ。こっちの心労も考えてくれってモンだぜ。ま、ガーディアンっつぅのを作って、それを頼るつもりってのは進歩だけどよ」

「クライン……いつの間に、部隊に参加を……?」

「ユイちゃんとキリカを経由して、束さんに頼み込んだのさ。お前ぇの兄貴分が居なきゃやっぱダメだろ? 社会人だからってヘンな気ィ使ってんじゃねぇよ!」

 

 黒刀・朔を担ぎ、カラカラと笑う紅い侍。

 

「『殺し合いになるから強制はしない』か。たっく……お前には分からねぇか? 年端もいかねぇ子供にばっか背負わせて、いい歳した大人は安全なトコから指咥えて見てるって状況の心苦しさが。いいや、解る筈だぜ。お前さんは他人に背負わせたくないから動いてるヤツだからな。そーゆー訳で手助け拒否は受け付けねぇぞ」

「エギル……お前、店は……」

「カミさんに任せてきたに決まってんだろ。カミさんにとってもお前は恩人なんだ、助けに行くって言ったらむしろ応援してくれたぜ。ガタイのいい奴が出てきた時は任せな、アタッカーにばかりタンクやられちゃ、立場無いからな」

 

 そういい、両手で握る巨大な(せん)()を誇示する禿頭の斧戦士。

 

「まったく、オネーサンのアバター披露がこんな騒動とか、勘弁してほしいヨ。それもこれもキー坊が事件に巻き込まれてばっかりだからダ」

「アルゴまで……や、今回、俺は特に悪くないと思うんだけど」

「ソロで突っ込んでる時点でジョージョーシャクリョーの余地無しだヨ。全部終わったらお仕置きだから……生きて帰るよ、和坊」

 

 不満げに頬を膨らませていたが、最後は柔らかく微笑んだ短剣と爪使いの情報屋。

 

「うむ。まぁ、その、なんだ。やはり見ているだけというのは不安でしかなくてね。みな、君を喪いたくない一心なのだ」

茅場晶彦(ヒースクリフ)もか……」

「この装いも久しいだろう? なに、心配はいらない、ALOで勘は取り戻している。遠隔通信が妨害されない限りは君を守り通すと我が《神聖剣》に誓おう」

 

 深い笑みを刻み、十字の剣と盾を装備した紅の騎士。

 

「キリカ君とユイちゃん、ストレアちゃんはクロエちゃん達の方に向かったよ。避難者のメンタルケアと、不眠不休の護衛だって。君の心労を和らげるためだって言ってたよ」

「レイン……そう、か。ユイ姉達も……」

「和人君、絶対に生きて帰ろう。君が居なくなったら、七色も、みんなも泣いちゃうもん」

 

 そう強い意志を眼に宿して言う二刀の鍛冶師。

 

「僕達は本来、こんな事に力を貸す筋合いは無いんだけどさ」

「まぁ……君と闘えなくなるのは、イヤだからね」

「ヴァフス、オルタ……すまない」

「「見返りに今度デュエルしてよね」」

 

 声をはもらせる白銀と黒銀の霜巨人の女将軍達。

 そして――

 

「……リー姉」

 

 金髪をなびかせ、緑衣を纏う長刀使いの姿もあった。ほんの少し目つきが鋭い。真剣な表情に、少しの怒りが滲んでいた。

 

「和人。あなたの優しさは美徳だけど、時に欠点よ。『殺し合いがある』? ――上等。あなたのためなら命を懸けて戦ってもいいと思ってるのよ。アバターなら死ぬ事が無いなら、猶更躊躇する必要はないわ」

「……人の命を、奪う事になる」

 

 

 

 ――それは、俺がずっと忌避していた事。

 

 

 

 俺が手に掛けるのはいい。あの研究所で百人以上も手に掛けているから、汚れ仕事をする事に抵抗はなかった。

 だけど――みんなは、そうなる必要が無い。俺が汚れ仕事をすれば、みんなが同じことをしなくていいのだ。だから《笑う棺桶》掃討戦も投降しないと確信していた面々は優先的に殺害した。

 IS操縦者なら、将来的に軍人として国防に就くから気にしなかった。

 だがみんなはそうじゃない。ただの一般人なのだ、人を手に掛ける必要が無いのだ。

 

 

 

「「「「「覚悟の上!」」」」」

 

 

 

 それを。

 たった一言で、説き伏せられる。

 ――こうなる事を予想していたわけじゃない。

 AI組は常に俺の動向を把握している。ユイ、ストレア、キリカ、ヴァフス、オルタ、ヴァベルの六人には隠し事は一切できない。そして俺自身、今回の騒動をソロで潜り抜けられるとは思っておらず、だからこそ助けを求めた。アバターが奴らになる事はあり得ないからだ。

 遠隔通信と通信妨害の可能性を考慮し、キリカ、ヴァフス、オルタの三人が参戦してくれればいいと思っていた。

 だが――おそらく、六人の内の誰かがみんなに話した。

 中継を見たなら、誰かはユイ達に話を聞きに行く。そこで知ったのだ。

 そして即座に決断した。

 それだけ、俺の事を想ってくれていた。

 申し訳なさはある。俺のためだと、人の命を奪い、業を背負わせることへの後ろめたさを感じる。

 ただ、それ以上に……

 

 

 

「……ありがとう、みんな」

 

 

 

 胸いっぱいの、歓喜と感謝があった。

 みんなは、一様に笑みを浮かべ、強く頷いてくれた。

 

    *

 

 思った以上の助力を得られた俺は、《製薬会社スペクトル》本社ビルに突入する前にSAO時代の如くパーティー編成をし、七人を二組作った。

 ここで考慮しなければならないのが、遠隔通信の弱点である電波妨害に遭った場合だ。

 その場合、駆けつけてくれた【森羅の守護者】で残るのは【無銘】か【黒椿】に本体データを移しているAI組だけ。そのうちキリカ、ユイ、ストレアは楯無の方に行っているので、こちらに残るのはヴァフスとオルタ、切り札のヴァベルだけとなる。ヴァベルは最後の最後まで出す予定はないので、実質二人しか残らない計算だ。

 なので俺のパーティーにはヴァフス、オルタが必然的に入る。前衛で暴れられない事で多少不満げだったが、俺を守る事そのものは異論無しらしく、いつものように大人しく従ってくれる。残る四人はラン、アルゴ、レイン、シノン。ランはエネルギー回復のため後衛に陣取り、アルゴは索敵を主に担当。レインとシノンは遠距離攻撃を持つアタッカーとして組んでいる。俺を守る編成を重視しているので、四人は後方支援がメインの構成になった。

 もう一つのパーティーはヒースクリフをリーダーとし、リーファ、アスナ、ユウキ、サチ、クライン、エギルの編成となっている。ヒースクリフとエギルがタンク、他が前衛極振りのメンツである。サチは投擲含めて中距離の槍使いだが、そのリーチを活かした接近戦も出来るから、フレンドリーファイアを気にする必要がない以上猛威を振るうだろう。

 この構成を見て、ふと郷愁に近いものが去来した。

 もう遠く過ぎ去ったように感じる記憶だ。七十五層以降、Mobの数があまりに多いためレイドを組んで進むようになってから、俺はこの面子と一緒に戦っていた。遊撃故にソロではあったが、レイドとしてはみんなの近くに居続けたのだ。

 ここは現実だ。

 だがあの世界は、命を懸けていたからこそ、本当に生きたもう一つの現実だった。

 みんなの装いを見ると、改めてそう強く実感した。

 

「和人、どうかした?」

「早く行こうぜ」

 

 ユウキが小首を傾げて聞いてくる。

 クラインが急かしてくる。

 それが、途方もないくらい懐かしく感じた。

 

「……ああ。行こう、みんな」

 

 作戦はない。

 強いて言うなら『見敵必殺』。パーティーリーダーの俺とヒースクリフ、護衛のヴァフス、オルタ以外の十人はツーマンセルで社内に散らばり、とにかく地下へ続く通路を探す。あまり物は壊したくないが【白式】の反応が地下にあるのだ、最悪国際IS委員会の命令という事で強制捜査件を盾にする。

 【無銘】だけでなく【黒椿】の演算能力も使ってるせいで俺自体の戦闘能力に制限が掛かっているが、単一仕様能力も一つまでなら使えるので、愛用の二刀を装備して《覇導絶封》を発動する。

 俺達は言葉少なく、フロアボスの部屋に踏み入るように本社ビルへと足を踏み入れた。

 

 

 

Chapter0

地獄の呼び声

 

END

 

 

 






 これにてChapter0は終了です。早かったネ!

 和人が命を擲つ勢いで助けてきたため、仲間が駆けつけてくれました。更に心配な楯無達の方にはキリカ、ユイ、ストレアが援軍として向かいました。
 和人、および楯無達の生存率が極めて上昇しました。

 SAO最前線攻略組幹部が勢揃いした面子なのでね、タイラントやハンターが出てきても余裕でしょう。ヒースクリフとエギルもいますしね。流石に『バイオ5』の『ウロボロスウィルス』みたく有機物を取り込んでいくタイプには打つ手なしですが……

 とりあえず、ヒロイン勢は和人の為ならと七色同様に覚悟ガンギマリです() なんなら取り込まれる間に少しでもダメージを与えようと差し違えるの覚悟で攻撃します()

 やったネ! これで難易度下がったよ!(和人、楯無、クロエ、ラウラはオワタ式のままである)



・【森羅の守護者】
 通称、和人の保護者。
 なので男性陣が混ざっててもおかしくない。というかクライン達は自ら率先して参加している。今回完全に血みどろな殺し合いな訳だが、ユウキやクライン達は《笑う棺桶》掃討戦で歯痒い思いを実感しているので、『助けたい』という想いに拍車が掛かっているためマイナス要素になり得なかった。
 実はシリカ、リズベット、フィリア、セブンも来たがったが、いずれも戦闘を得意としていないので今回は待機となった裏話。唯一フィリアだけ希望があったが、ユウキ達ほど強い想い=戦う理由が無かったので腰が引けて辞退している。
 今回和人側に十三人、楯無側に三人向かった。
 コア一つにつきアバター最大数は十三。
 なので現在、【黒椿】と【無銘】両方の演算能力を使っており、更に【黒椿】は装甲を展開しているので最大数が減少している。これには和人の味方が増え、守護者になるにつれて和人の能力を制限し、より無力化しやすくするという対外的な意図がある。その関係で以前の試合では【黒椿】の演算能力を全てアバター構成に費やし、和人自身は【無銘】のみの使用だった。
 守護者が十三人構成なのはそういう背景がある。


・桐ヶ谷和人
 どこまでも他人本位な生き方な主人公。
 これまでの行動が今回の援軍召喚に繋がった。みんなに命を背負わせたくない一心だったが、今回の事で吹っ切れている(危険な場所に行かせたくないという想いはそのまま)
 現在【黒椿】を展開しているが、数人のアバター顕現に演算能力を割いているので発動可能な単一仕様能力が一つに制限された。
 和人は自身を含め十四人の二パーティー編成を組めるのでキリがいいくらいにしか考えていなかったが、今回それを大幅に上回る人数が援軍で来たので感動している。
 自身の守りを最優先にしているので《()()()()》を発動中。生半な攻撃ではバリアを突破する事は永遠に敵わない状態。


亡国:超速リジェネ持ちのボスとかどうやって倒せばいいの?(´・ω・`)

黒:妨害電波使ったら制限取れるから、物理防御無効とエネルギー無効化攻撃も追加な上にバリアは固くなるし、攻撃ももっと激しく出来るぞ( ゚Д゚)(ガンギマリ)

 デバフ掛けた方がもっとヤバイとか最早打つ手無し。

 ――これが和人の本気(メタ)というヤツよ……!


 では、次話にてお会いしましょう。



 10日午前零時に掲示板回を予約投稿しておりますのでよろしくですゾ……(。-`ω-)



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