インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
サブタイトル()
視点:和人
字数:約一万
ではどうぞ。
「どういう訳だ」
世間に男性操縦者の姿を披露した日の夜。
転生者だった秋十から引き出した情報から、臨海学校がある7月6日~8日に《
思わず真顔で突っ込んだ俺は多分悪くないと思う。
「脈絡が無さ過ぎて分からなかったぞ」
「本当かしら。和人君ならあたしの思考くらい読めてると思うんだけど」
「買い被りだ。俺は七色ほどIQ高くない」
幼少期時点で既にIQ150超えの天才で、その発想や論理も非常に柔軟だと大人からも評価されている七色の思考を、どうして俺が読めようというのか。
「ALOの時はすぐに見抜いてたじゃない」
「論文と状況証拠があったから推測出来ただけ……いや、それは今はいいんだ。それで、俺を臨海学校に連れていく方法って何なんだ?」
皿洗いを粗方終え、用意していたタオルで手を拭きながら問う。
「臨海学校って自然環境を利用した作戦行動を練習するための課外実習でしょ?」
「まぁ……そうだな」
学園でも海上機動訓練はしているが、様々な施設も建造された人工島なためやはり広さには限度がある。新たな人工島を作る話も挙がっているらしいが、それはまだ検討段階であり、実行に移すとなると十年単位の時間を要する見通しとは楯無から聞いている。
それまで学園施設以外での訓練をしないのは問題だというので、各国の軍隊や日本の自衛隊で行われる軍事演習を模倣し、最低年に一回は日本領海のどこかで訓練をする事がIS委員会により義務付けられた背景がある。
臨海学校は二泊三日の小旅行として報じられる事が多いが、それは隠れ蓑に過ぎず、その実態は軍事演習なのだ。
「ならさ、あたし達もそれに乗っかればいいのよ」
「……ん? それはどういう……?」
「だから、あたし達も実験っていう建前で付いていけばいいって事。和人君の身の安全は厳重にしないといけないけど、その行事では楯無ちゃんと織斑先生も一緒に行く訳だし、周囲は封鎖されるんでしょ?」
「ええ、その予定です」
まあ私は和人の監視兼護衛任務が優先されるので行きませんが、とクロエが補足する。
臨海学校の期間中、学園が保有するISを狙う犯罪者組織や機動訓練での人身事故防止目的で、関係者以外が立ち入れないよう学園の教師、IS委員会所属の操縦者などで陸路、海路、空路の封鎖が行われる。それだけ警備が厳重であり、戦力もいるとなれば、万が一があっても建前としては大丈夫だろうとの事。
行けるだけの環境が整っているなら、あとは行く理由だと七色は言った。
「なら七色が考えた理由ってなんだ?」
「……もう。和人君ってば、今日は鈍いわね。このセブ……じゃなくて、七色ちゃんと言えばなにが思い浮かぶかしら?」
「えらく勿体ぶるな……まぁ、七色と言えばアイドルか、仮想世界研究者?」
「そう、その通り!」
どうにか捻り出した七色に対する印象は、どうやら当たっていたらしい。ビシィッと指を突き付けてきた。
「和人君と一緒に選択したエレクトロニクスコースの課題、流石にそろそろ仕上げないとマズいでしょ? 遠方との通信実験がまだ出来てないから、今回の臨海学校で一緒に行って、実験させてもらおうと思ったの」
「あー……双方向通信プローブか」
正式名称は非常に長くややこしいので七色によって略された通称『双方向通信プローブ』は、俺達で取り組み、興味を持った茅場や束博士、比嘉タケル達も加わり、一緒に作り上げた装置の名だ。
原理はAR技術やビデオ通話などと近しく、【森羅の守護者】のアバターを用意する際にもリアルタイムの同期シークエンスで流用するなど、技術体系としては概ね完成しているそれだが、まだ一つの課題を残していた。それが遠方での通信実験である。
【森羅の守護者】のアバターを直葉達が操れたのは【黒椿】のコアというスーパーコンピューター顔負けの演算性能を誇る装置を使っていたからで、それでは完成とは言えない。ここから詰めていくとこを詰めて、より安価に、より簡単に扱えるものにしなければ技術として完成したとは言えないのだ。しかし俺は中々外に出られず、七色も【黒椿】や【森羅の守護者】の整備・調整に時間を取られたため、その実験が出来なかった。
そこで今回、その実験のために付いていくのはどうかというのが七色の考えらしい。
無国籍とは言え、未だに総務省仮想課の職員として名を連ねている身なので、機器の実験のためと正式に申請すれば通るのではないかと彼女は語った。
「でもそれだけじゃないのよ? 【黒椿】の機動訓練を外で出来るし、訓練機を大っぴらに操縦・整備出来るいい機会でもあるわ。素の和人君を見てもらうのだって印象操作の重要なファクターなんだから」
「普段から見られている気もするがな」
主に朝食とか昼食とか夕食とか。
……飯時だけだな。
「ご飯の時だけじゃない……」
「俺も言ってから気付いた」
「……ぷっ」
呆れ顔にそう返すと、笑われた。
解せぬ。
釈然としないものを感じて憮然としていると、七色が笑みを湛えながら、あとはね、と言葉をつづけた。
「いい加減和人君も休めばいいと思ったの。最近色々あって、気が張り詰めてたからね。普段行かないトコに行ってリフレッシュしたら元気出るんじゃないかなって」
気楽に旅行とかしたことないでしょ、と言われる。
旅行自体は第二回モンド・グロッソの時に経験済みだが、気楽だったかと聞かれれば、絶対そうではなかった。出来れば行きたくなかったのが本心だ。
「そんな事を考えてくれてたのか」
「……ま、和人君が忙しくなった原因って、あたしにもあるからね」
罪滅ぼしにもならないかもだけど、と七色が頬を掻きながら目を泳がせる。
「……ありがとう」
「――ちょ、ちょっと恥ずかしいわね、これ! あはは!」
お礼を口にすると、七色は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。羞恥の赤面だと見れば分かったから微笑ましく感じる。
平和と幸せを感じた。
「……何を見せられてるんでしょうね、私達は」
「なるほど。これが『らぶこめのはどう』というものか」
「ちょっ、そんな言葉どこで覚えてきたんですか」
「更識楯無が教えてくれたぞ」
「楯無様……! 妹になんて事を吹き込んでいるのですかあの方はっ!」
クロエが頭を押さえているが、それでも平和なものは平和なのだ。
こみ上げてくる羞恥に顔が熱くなるのを自覚しながら、自分にそう言い聞かせた。
*
その後、警備や行き来の手配の関係で話をしておかなければならないだろうと楯無に電話しようとしたが、その必要はないと七色に止められた。既に楯無達と協議を済ませ、あとは俺が頷けばいい段階まで準備は終わっていたというのだ。
やはり幼いながら世間の波に揉まれたためか、根回しが速い。
――そこまでは、良かったのだが。
ひとつ、七色自身に問題があった。
海でリフレッシュするならやっぱり泳ぎでしょう! とテンション高く提案し、俺
だから教えて欲しいと、行く事ありきで俺に頼んできたのが
「か、和人君! ぜったいに、ぜぇったいに手を離しちゃダメよ?! 離したら酷いんだから!」
「……なぁ、俺がリフレッシュする為に俺が七色に泳ぎを教えるって、なんだか本末転倒になってないか……?」
「ごめんってー!」
泳ぎを練習するにも流石に明日一日では時間が足りないため、とにかく水に慣れるところからと、俺と七色はSTLでリアル同然の一面海のワールドにログインした。真夏もかくやという日差しを浴びつつ浅瀬のところで顔に水を付け、手引きでバタ足の練習などをしていく。
ALOで練習しないのは噂好きな野次馬根性溢れる人々の目を避けるためだけでなく、水質などの再現に限界があり、正直言って水泳の練習には不向きだからだ。
翻ってSTLはダイブ者の記憶や入力されたデータから再現するため、水質や浮力に関して現存する仮想世界の中でトップクラスの再現度を誇る。しかもSTLダイブ者であれば時間加速に対応するので、練習時間も加速倍率の分だけ確保できるという寸法だ。
――無論、STLワールドだからこその難点も存在する。
記憶や自己イメージを忠実に再現するせいで肉体的疲労を伴ってしまう点だ。ALOなどと違い、動き続けるというのが出来ないのである。
「ひとまず浅瀬なら泳げるようになったな。キリもいいし、いったん休憩しよう」
「つ、疲れたわ……!」
練習すること一時間して、セブンは脚が着くくらいの浅瀬なら手引きなしで泳げるところまで上達した。
その代償に疲労し切ったらしく、休憩を宣言してすぐに七色は浜辺に上がり、砂浜に敷いていたレジャーシートに寝転がる。恐らく俺の知識・記憶から筋肉痛などの肉体的疲労も忠実に付与されている筈なので、いまの七色は全身をすさまじい倦怠感と筋肉痛、呼吸苦などに襲われている事だろう。
「うー……どうしたら上手く泳げるようになるかしら……?」
「そもそも一朝一夕に出来る事じゃない。溺れない程度になれば御の字だろう」
苦手意識の克服であれば、要は精神的な慣れの問題なので話は違うのだが、七色の場合は根本的な運動神経の方に問題を抱えている。経験が少ないが故の苦手というのは克服が困難だ。脳の運動系シナプスが水泳の動作に適応してないから、まずそこから形成していかなければならない。それはソードスキルの練習と同じ、気が遠くなるほどの反復練習を要する。
反復とは言え、世界一位を目指すだとか途方もない目標でないのが不幸中の幸いだろうか。
海に行った時に泳ぎの得手不得手が関係しているのも究極的には溺死しないためであり、競争や遠泳などの娯楽的側面は二の次だ。
だから俺はまず七色が溺れる事がないよう水に慣れてもらう事を優先していた。
しかし、個人的には思った以上の上達ぶりだ。天才と謳われるだけあり、脳の適応力は極めて高いのだろう。加速倍率は五倍に設定してもらっているので、現実の現在時間はおそらく午後九時をまだ回っていない。このまま練習を続ければ、ひょっとすると綺麗なフォームで泳げる程までに上達する可能性もある。
――やっぱり、才能っていうのはあるんだなぁ……
気にしないようにしていたが、ふと思う。
自分が必死に努力して到達した領域まで一足飛び以上の速さで辿り着き、剰え追い抜かれるとなると、そこはかとない虚脱感と虚無感に襲われる。俺がまともに泳げるようになったのはSAOβテストからだが、あの時は何日も掛けてようやく慣れたくらいだ。
たった一時間で泳げるようになった七色はやはり凄い。
「時間は加速分だけあるから気長にいこう」
「
「ああ。そしてこの世界の物理法則は現実とほぼ同じ。ここで溺れないなら、現実でも相応に泳げるという事になる」
勿論油断は禁物だけど、と付け加えるのを忘れない。あくまで溺れにくくなるだけだ。どんな熟練者だろうと溺れる時は溺れる。
特に七色は調子に乗りやすいから念押ししても拭い切れない不安が残る。
「……和人君、あたしのこと信用してないわね?」
「だって釘を刺しとかないとすぐ調子に乗る性格だろう?」
「なにおぅ?! 年上に向かって生意気なー!」
俺の言いざまがカチンと来たのか、ムキになった七色ががばりを起き上がるや否や襲い掛かってきた。
「あのなぁ……年上って言っても、たった一歳差だろう」
「あら、
「なぬっ……」
【無銘】が女性のホルモンバランスを参考に調整しているせいで俺の身長はここ数年全然変化がない。だからそこはかとないコンプレックスなのだが、ほぼ同身長の七色は日々成長しているという。ちょっとだけショックだ。
しかし言われてみれば、初めて顔を合わせた五月頃に比べ、少し大人びているような……
「ふふん、和人君もあたしの魅力に気付いたかしら?」
じっと見ていると、七色が不敵に微笑み、全身を曝け出すようにポーズを取った。
現在、STLで生成された七色のアバターが着ているのは『バンドゥビキニ』と言うらしく、リボンで結んだようなデザインは少女らしさを際立たせている。ポーズを取っても妖艶に見えないのは幼さと自慢げな雰囲気がより前面に出ているせいだろう。
そして、その少女らしさが七色の魅力とも言える。
【歌姫】として人気を博しているのもその少女特有の幼さと溌溂な様が可愛らしく思えるからに違いない。【歌姫】としての振る舞いは当然演じている部分もあるが、素でやっている部分はあるだろう。
「そうだな。でもありのままだと、もっといいと思う」
わざとらしく妖艶さを出そうとするのはミスマッチだと思った。
とは言え、それを真っ向から言うのは流石に失礼だと思うので、言葉を選んで伝える。
「……ふぅん?」
すると、どうした事かあどけなさが消え、妖艶な笑みだけが残った。
なのに何故か、今度はミスマッチだと思わなかった。
「それってつまり、和人君は、あたしにもっと素直になった方がいいって言ってるのね?」
「う、うん……? まぁ、そういう事……か?」
ありのままを『取り繕わない事』とすれば、『素直になる』という解釈にならなくもない。でもどうしてか七色が言ってる事の意味と違う気がしてならない。
何とどうズレたのかわからないから上手く言語化出来ず、首を傾げるばかりだ。
というか、俺の伝えたい事ともズレてる気がする……
「そっかそっか。じゃ、言質取ったし、遠慮なく」
七色はそう言って、にこりと笑い――
そのまま顔が落ちてきて、唇を強く塞がれた。
心臓が強く拍動し、呼吸が止まる。視界には限界まで七色の顔が広がっていた。
「ん、ふぅ……んむ……」
自分のものでない熱っぽい吐息が耳朶を打つ。波音に紛れ、粘性の水音も聞こえた。
反射的に肩を掴んで離そうとするが、七色の腕は微動だにしないくらいキツく俺の背中に回されており、動かせる気配はまったく無かった。忠実に再現されているなら俺の方が筋力は腕の筈だが……
「ん、ふふ……和人君ってば、抵抗するならちゃんとしないと。力、ぜーんぜん入ってないわよ? それとも抵抗するふりなだけ?」
「な……っ?」
ほんの少し顔を離した七色が、くすりと微笑しながら言ってきた。俺としてはしっかり力を入れていたつもりなのに実際はまったく出ていなかったらしい。
それはつまり、このアバターを動かす俺のフラクトライトは本能的にこの状況を受け入れ、抗うための行動を起こしたくないと認識している事になる。
「なぁに? もしかして、いやなの?」
むぅ、と不満げに頬を膨らませる七色に、答えを返せず黙る。
イヤかイヤでないかの二択なら後者に該当するのは確かなのだ。当初こそ敵対関係だったが、七色自身は直葉達を害する意図はなく、今ではそれを反省し、改心している。むしろ俺に積極的に協力してくれるほどの関係性を築いている。
だが――解っていない事があった。
「いや、という訳じゃない。ただ解らない事がある」
「なにかしら」
「自惚れでないなら……七色は、俺の事を異性として好きなのか」
「そうよ。あ、まさか聞き逃したの? ならもう一回言ってあげるわ――――和人君、だーい好き」
こちらに発言の隙も与えず、七色は同じ宣言を繰り返した。まるで甘い菓子を食べたように幸せそうな表情で言う姿は偽りとは思えない。
「……俺、七色に好かれるような事をした覚えはないんだけど」
「和人君にとってはそうなんでしょうね。でも、あたしにとってはそうじゃなかったのよ」
それだけの事よ、と七色は笑う。
「とゆーかね、和人君、あなた自分がなにをやったのか解ってない? あたし達姉妹の問題を解決するための『サービス』でとんでもない事してくれたじゃないの。和人君があそこまでしてなかったら、お姉ちゃんは泣き寝入りして、あたしはお姉ちゃんに気付かないまま取り返しのつかない方に進んでたのよ?」
「そうだな」
「そうだな――じゃ、なーい!!!」
「っ?!」
苛立ったように大声を発する七色。頬袋を膨らませ、あたし怒ってますと全身で伝えてきていた。
「ちょっと考えればわかるでしょ。あたし達姉妹が笑う未来のためだけにあそこまで頑張る人って普通はいないわよ? なのにそんな事されたら、惚れるに決まってんじゃない」
「……その理屈の場合、惚れるのは虹架が正しくないか」
「お姉ちゃんも惚れたに決まってるでしょ」
何言ってんだコイツ、と言わんばかりの冷たい眼をされた。
青天の霹靂に等しい事実の判明に何も言えない。それが伝わったのか、頭痛いとばかりに七色は目元を手で覆った。
「その顔、ホントに気付いてなかったのね……まったく。無自覚というか、朴念仁というか、天然過ぎてタチが悪いわよ。まぁ、これならあたしが惚れた理由が解ってないのも頷ける訳だけどね。まったく、これっぽっちも気付かれてなかった事は心から遺憾だけど! それがデフォルトならしょうがないと割り切るわ!」
「……
「だってそうしないと和人君解ってくれないでしょ!」
「……ごめんなさい」
「許す! 下心無しなところは和人君の長所よ! ……女心が解らなくなるのは短所だけど」
小声で追加された事に何も反論できない。以前リーファやシノン、ユウキに言われていた事だから気を付けるようにしていたけどまだまだ足りなかったらしい。
内省していると、七色が覆いかぶさってきた。俺の胸へパーカー越しに顔を擦り付けられる。
「――最初は親近感だった。ボス戦放映でみんなの中心になっている姿にそれを抱いたの」
そして、静かに語り始めた。
「それが強くなったのはきみと初めて会った時よ。アイドルとして振る舞っていた《セブン》の誘いを真っ向から断られた時、残念に思うのと同時に、やっぱりって思ったの。きみはあたしに迎合なんてしないってね……いま思えば、それは孤独感を覚えてた自分を重ねて親近感を抱いてただけだけどね」
寂しさを思い出したのだろう。それを紛らわすように、胸に強く頭を擦り付けてきた。頭を優しく撫でれば、もっとと言わんばかりに持ち上げてくる。
「明確にきみに惹かれたのは、あたしの計画を、あたしが話すより前に全て語られた時よ。論理までもトレーシングされていて戦慄したけど……それ以上にあたしは、喜びを感じたの」
「喜び……?」
「あたしを理解してくれる人がいたっていう喜びよ。父との生活も、MIT在学中も、卒業後も、あたしは孤独だったの。そりゃあスメラギ君とか、研究チームの人達は良くしてくれたわよ? 大切な友人だと今も思ってる。でも……あたしを、《七色・アルシャービン》という個人を見てくれる人は居なかったのよ」
僅かに声を震わせ、七色は自身の内心を吐露していく。見て見ぬふりをしていた傷を切開していく。
それは俺が感じていた七色に対する所感であり、スメラギが後に回顧し、案じていた事だった。幼い頃から天才と持て囃されていた七色は、だからこそその色眼鏡で見られてしまう。《七色》という少女を見る前に、天才というフィルターが掛かってしまう。
同い年の友人が出来る環境ではなかったし、その機械があっても気後れして友人関係に発展する事は難しかったに違いない。
父親は雲隠れした時点で論外だ。事変当時に視た七色の過去から彼女の天才性しか見ていなかった事は想像に難くない。子供心にそれを感じ取って信用してないとすれば、孤独感を埋める存在はどこにもいない事になる。
母親が居ない状況もそれに拍車を掛けたと思われる。
「だからね、あたしはきみが計画を全力で阻止してきた時は悲しかったし、当時は嘘つきだと思ってたお姉ちゃんに嫉妬したの。心の底からきみの事が欲しくて欲しくて堪らなかった」
体に回された腕の力が、少し強くなった。
もぞ、と動いた七色が顔を上げる。互いの視線が交わった。
「あの時の暴走は、多分それが原因。お姉ちゃんへの嫉妬、和人君を欲する想いの強さが、あれだけのバグを起こしたんだと思う。みんなから集めてたデータとかはそれを後押しする推進剤でしかなかった。起爆剤はきみとお姉ちゃんが並んで、あたしの前に立ちはだかってた事なの」
「そう、だったのか」
「きみの事だから気付かなかったと思うけどさ。お姉ちゃん、もうあの時からきみを見る目が女のそれだったのよ? あたし、ホントに嫉妬したんだから」
むぅ、と怒った風の表情をする七色。けれどその頬は朱色に染まっていて、口元は笑みを形作っている。怒気なんて欠片も感じない。
伝わってくるのは、義姉達と同じ愛情。
「それでね……あたしが本当の意味できみを好きになったのは、最後の一撃を受けた時なの」
「……なぜ?」
「あの一撃からね、きみの温かい想いが伝わってきたの。みんなを守ろうとする意志。覚悟。決意……きみの本質を心から感じて、もうダメだった。きみにどうしようもなく魅入られちゃったんだよ。きみの事を知れば知るほど、どんどん惹かれていく自分がいるの。未来を切り開くために戦う姿はかっこよくて、みんなの幸せを願う姿は意地らしくて、勉強を頑張る姿は年相応に可愛くて……助けたい、支えたいって思うの。そう思わせる、人を惹き付ける魅力がきみにはあるんだよ」
熱っぽい息を吐いて、顔を近づけてくる。熱を帯びた紅い目がとろんと蕩けている。
「ねぇ、和人君は知ってる? 今ね、日本でも重婚を認める法改正が進んできてるんだよ」
「え…………あ、ああ……晩婚化、結婚率の低下とか、社会問題になってるからな……」
急に話の方向性が変わって困惑したが、そちらに関しては思考が速く回り、どうにか反応を返せた。
そして鷹崎元帥との初対面時に話に挙がっていた内容で、女尊男卑風潮の影響を諸に喰らい、少子高齢化が助長された事で深刻に捉えられている社会問題だ。重婚はの合法化はそのための解決策の一つとして議論されている事だと記憶している。男の俺が第四回モンド・グロッソで優勝し、女尊男卑風潮を根絶する事も根本的な意図は同じだ。
「秋十の話の《和人君》は明日奈ちゃんと結ばれるみたいだけどさ……重婚出来るようになったら、一人だけ選ぶなんて事、しなくていいよね。きみが十八歳になったら、きみと相思相愛の人は何人でも結婚出来るんだもんね。直葉ちゃんや詩乃ちゃん、木綿季ちゃん、幸ちゃんに藍子ちゃんも、明日奈ちゃんに
「そ……それを、みんなの家族や、世間が許すかどうか……法律的に所得に応じた人数制限もありそうだし……」
「大丈夫よ。だってきみは、地球の未来を救うんでしょ? そうしないとあたし達が死んじゃうから。だからきみは今も頑張ってる……それだけ努力して、有史以来の世界的な英雄になるきみの幸せを止める権利なんて、誰にもないよ。ううん、あっちゃいけないの」
蠱惑的に微笑む顔が近づいてくる。背中に回っていた両手が、首に回された。ゆっくり、ゆっくりとしなだれかかってくる。
「いま無理に答えようとしなくていいわ。じっくり考えて、きみなりの答えを出して」
それは、ほかのみんなと同じ言葉。答えを待ってくれる魅惑な誘惑。
しかし七色は、でもね、と言葉を続ける。
「みんなも考えてる事は一緒だよ。きみが生きる未来、それはきみが星を救う英雄になった未来。そこに至るまで沢山の苦難がある。平行世界の事を知った今、きみを助けたいと思う気持ちも……きみに、幸せになって欲しいと思う気持ちも、ずっとずっと強くなってるの。重婚が認められて、きみが未来を救った時、きみは幸せになるしかない」
「な……ッ」
ゾッと、背筋を悪寒が走った。
【森羅の守護者】は、俺が暴走した時に抑え込む抑止力にして、俺の護衛でもあるアバター部隊。みんなの存在が俺を獣に立ち返らせない楔になるからこそ許可された部隊だ。
裏事情的には、俺を死なせないための個人戦力な訳だが――
見方を変えれば、それは俺を囲うための檻にもなり得る……?
「ま、アレは結果的にそうなっただけだけどね」
冗談めかして七色がウィンクする。
「ともあれ、あたし達はきみを支えたい。あたし達が幸せな分だけきみを幸せにしたい。その一心なのは確か。きみのためならどんな罪も背負うわ」
その覚悟が本物かを俺は既に知っている。
学園襲撃事件で捕らえた《亡国機業》の三人、スコール、オータム、マドカは、更識家を裏切った男と同様にSTLで拷問に掛けた事がある。STLを用いた拷問に立ち会うのは七色は初めてだったが、動揺すら見せず、的確に処理していった様子が強く印象に残っていた。
一般人であれば倫理観から忌避し、罵声を浴びせてくるだろう所業に、七色は忌避すらしなかったのだ。
それだけ俺の優先度が高いという事。それだけ覚悟しているのだと、イヤでも理解する。
「大好きよ、和人君」
もう一度、囁くようにそう言って。
時に狂気に染まってる和人を愛するなら狂気に染まらなきゃ(使命感)っていうレベルの決意を抱いたせいで一瞬和人をゾッとさせた七色。やっぱ愛って凄いんやなって……(怠惰担当を見つつ)
むしろここまでアタックしないと揺らがない和人(11~12歳)がヤバいんやで?
そして和人をそこまでにしたのは世界。
つまり世界が悪いで
・臨海学校
お目付け役筆頭の千冬、楯無がいるなら警備上も問題ないので、実験を建前にリフレッシュに行こうぜ!(意訳)が七色の案。
和人が頷けばいいところまで話を詰めていた辺りやはり根回しがいい。
・重婚認可法
実はこれまでの話でちょろっと出ていたりする法律。
所得問題で重婚の上限人数が設けられるのが現実的ですが、和人は既に収入を得ている上に国家or企業代表のIS操縦者になると収入爆上がり且つ七色も収入ヤバめなので、この時点で並み以上の額を貯蓄している事実。
和人の予防線を悠々と乗り越えられるようにされているんですね~流石天才。
……真面目な話、女尊男卑抜きにしてISの一夏って重婚認められそうですよね、立場的に。
・枳殻七色
『素直になれよ』(意味違)で暴走した七色。
本作の七色は暴走する事に定評が付くかもしれない。
和人に対するLOVEが高いので、和人の障害に対する敵意も高い。実は《亡国機業》の三人の拷問(程度は未描写)もやっちゃっていた事実。和人の助けになりたい、支えたい一心で倫理の壁を乗り越えられちゃう愛を狂愛と言わずして何と言おう。
これには愛に生きる怠惰担当もニッコリ()
・バンドゥビキニ
【2020年版】女性水着の種類をご紹介、より引用。
リボンを結んだような形のバンドゥビキニ。
ストラップレス可能なデザインなのが特徴です。肩紐を外すと、首周りからデコルテにかけてすっきりとした印象を与えられます。バストを中央にキュッと寄せたデザインになっていて自然と盛れちゃう優れもの。今年の流行は、中心が空いたデザイン!大胆な肌見せではなくさりげない肌見せが今年のトレンド!また、バンドゥはハイウエストのボトムとの相性がピッタリ。バンドゥで上半身を華奢見せさせて、さらにボトムをハイウエストにすることでスタイルアップ効果を狙えます。水着で着瘦せしたいなら断然この組み合わせ!
――密着も然ることながら、この天才幼女、やはり策士……!
では、次話にてお会いしましょう。
狂愛を感じられましたか……?
-
はい
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足りない、もっとだ!