インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 最近PCが前触れなく落ちて、電源は付くのにモニターに『信号が来てないです』ってくるようになって、時間を置いたら普通に使えるようになる症状に見舞われてます。謎過ぎる……まだ買って一年半やぞ……?

 そんな事はともあれ。

視点:和人

字数:約八千

 ではどうぞ。




運命 ~定めの因果、変わる未来~

 

 

 二〇二五年七月四日、土曜日。午後七時三十分。

 IS学園拘置所、別室。

 

 

 今日予定していた仕事を全て終えた後、俺は寝泊まりしている拘置所の隣の部屋で夕食を摂っていた。

 まだ部屋に戻っていないのも理由がある。

 本来であればこの後、久しぶりにALOにログインして気分転換をしてから休むつもりだった。しかし思わぬ事実が判明した関係で早急に話し合いの場を持つ必要が生じてしまい、まだ休めていない。

 

 ――織斑秋十は、前世の記憶持ちの転生者であり、この世界の知識を持っていた。

 

 この事実は、受け手の捉え方によって些事にもなれば(おお)(ごと)にもなる複雑なものだった。

 俺の場合は言うまでもなく後者。ヴァベルから平行世界について聞かずとも、秋十は俺の半生に大きく関与している上に、今後も関係する身の上だ。せめて男性操縦者であると判明する前に分かっていれば更識に依頼し、秘密裡に処理してもらっていたが、もうその手も取れない。

 何故なら、俺は総務省仮想課、《MMOトゥモロー》の職員紹介欄に名前があるため無国籍ながら日本寄りの扱いを受けやすいが、書面上では既に俺も秋十も国籍をはく奪されているためである。

 日本人であればあの手この手で――それこそ女権団に擦り付ける形で――処理出来るが、それが出来なくなってしまったのだ。以前俺に襲撃があり、IS学園をも襲撃された事で既に警戒レベルはかなり高い。《亡国機業》ならいざ知らず、ただの女権団には荷が勝ち過ぎている。

 かと言って、野放しにする訳にもいかない。

 織斑秋十の対外的な評価は、決して驚異的ではない。

 だが――その思考回路と価値観は、常識では推し量れないものである。

 そのせいで秋十の言動は予想が出来ない。俺はそれを、SAO時代に七十五層でイヤというほど味わっている。

 

 

 

 だから徹底的に調べ尽くした。

 

 

 

 《ソウル・トランスレーター》は文字通り『魂の翻訳機』である。

 翻訳とは解析した情報を理解可能な言語へと置換し、出力する事を意味する。ダイブ者の自己イメージからアバターを形成した時点でその魂は全て読み取られ、《STL》に内蔵されたメモリへ複写されたと言ってもいい。

 魂とは哲学的な呼称だが、こと《STL》で言えば、脳細胞を支える微小管(マイクロチューブル)内を走る光子であり量子だ。物理学的にそこに存在するのである。であれば機械で波形や変化を記録、保存する事は決して非現実的な話ではない。

 その複写された(光子)を菊岡は『揺れ動く光(Fluctuating Light)』、略してフラクトライトと呼称した。

 あのアバターも、感情表出や衣装も、そのすべてがフラクトライトから発せられる強烈な信号であり、《桐ヶ谷和人》を構成する要素。

 で、あるならば。

 同じようにダイブし、前世から持っていただろう負の自己イメージから前世の姿を再形成した《織斑秋十》もまた、あの《STL》により魂を複写されたと言える。

 転生者であると初めて知った時の秋十は《織斑秋十》のフラクトライトをコピーした存在だった。そのコピーに何をしようと、どんな会話をしても、その魂に刻まれる記憶はオリジナルに自動で反映される事はない。

 

 

 

 だから《織斑秋十》の魂を切開した。

 

 

 

 越えてはならない一線を越え、魂を(つまび)らかにした。

 終わっては消して、複写元のフラクトライトを再ロード。同じ会話を繰り返す。情報を得るために打てる手を惜しみはしなかった。

 繰り返して、繰り返して、繰り返して。

 ……その都度、獣性(いかり)が堰を切って。

 直葉がその度に止めに来てくれたが、途中から溢れ出る殺意(瞋恚)が秋十のコピーだけでなくワールドそのもの、果てはワールド越しにオリジナル秋十のフラクトライトにまで干渉したらしく、計画はそこで終了した。

 十を超えた辺りから数えるのを辞めたので何回繰り返したかは覚えていない。

 相当数繰り返したのは確かなのでかなり疲労感があるが……しかし、相応に得られたものもあった。

 

 前提として、織斑秋十の知識はあまり使い物にならない事が分かった。

 

 なぜならこの世界の時間軸は、既に秋十の知識――作品でいう《ハイライトシーン》――を殆ど超えているか、前提条件が異なり過ぎて参考にする事が難しかったためだ。

 そう判断した直後、「やってられるか」と不貞寝するように義姉に倒れ込んだ俺は悪くない。

 秋十は確かに『SAOのデスゲーム化』、『須郷信之の計画』、『《クラウド・ブレイン》計画』を知っていたし、()()側だと『第二回モンド・グロッソの時に織斑千冬の弟が攫われること』と『【シュヴァルツェア・レーゲン】にVTシステムが仕込まれている』事も知っていた。現実側の年数は明確にされていないらしいが、少なくともVTシステム発覚が早まった事は確かだという。

 元の流れとしては、今後《ガンゲイル・オンライン》というVRMMOが今後開発され、そこで《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の幹部・ザザとの因縁を介してシノンと出会う。それから少ししてエクスキャリバーを回収。その後にアスナが姉を亡くした《ユウキ》と出会い、ALO上空に飛来した新生アインクラッドの27層ボスを一パーティーで撃破し、かつて《黒鉄宮》内部に設置された《剣士の碑》に名を刻む流れだったという。

 更に人気を博して開発されたゲーム版ではIFルートが描写されており、また違った展開があったらしい。『原作』では茅場晶彦が本当に黒幕で、七十五層でヒースクリフの素性に気付いた《キリト》が決闘を挑み勝利したが、『IF』では須郷信之の乱入でバグが発生したため決着が着かず、百層まで攻略する事になったというのだ。その後、須郷はお縄につき、七色がアメリカから来日して《クラウド・ブレイン》計画を実行に移し、結果的に阻止された。

 それが転生者の言うところの《SAOの原作》。

 この世界の歴史はゲーム版の方にかなり近い。

 黒幕が異なるのは、おそらく茅場が束博士と出会い、なんらかの心境の変化があったからだろう。あるいは《インフィニット・ストラトス》という個人の限界を見て、究極を追い求めたが故に辞めたのか。

 無論、デスゲーム化を考えた事が無いこの世界の茅場に聞いたところで答えなど持っていないから、真相は闇の中だ。

 そして現実側に関しては、IS学園に入学した年の四月~九月という限定的な期間の情報しかなかった。

 元の作品が人気だった影響か、様々な二次創作作品が作られネットに公開されていたというが、いずれも大筋の流れは変わらない。作品によっては七月の《臨海学校》であるという軍用無人機暴走事件こと《福音事件》終了後にエピローグを迎えるものもあったという。それは原作が完結していないからこそのオリジナリティ、あるいは広げた風呂敷を畳む苦肉の策だっただろうが……

 ともあれ殆どに共通する《ISの原作》に起きていた騒動はその大半が天災・篠ノ之束によるものだと推察されていた。実際の描写として、束が仕組んだ事が確定的な描写が多数あった事からそれは確実だという。

 だが――この世界では、それは起こり得ないと俺は判断している。

 『主人公』を表舞台に立たせる筋書きに則り世界の裏で暗躍していた異常ぶりから彼女は通称《黒い束》と呼ばれ、逆に真っ当な思考を持っている――異常でないとは言ってない――場合を《白い束》と称するのが多かったらしい。秋十曰く、この世界の束博士は白側だとも言っていた。

 その代役として女権団や《亡国機業》が宛がわれやすいらしいが、現時点であまり脅威とは言えない。女権団は既に撲滅され、《亡国機業》も実働部隊であるスコール達を捕らえて出せるだけの情報を引き出している。更にはヴァベルから平行世界の知識・経験を受け継いでいるのだ。見ず知らずの《原作世界》の知識より、秋十に関する事以外は既知と言える《平行世界》の知識の方が重要度は高かった。

 だから秋十が持っていた知識はあまり使い物にならないと判断できたのだ。

 《運命論》なんて信じていないクチだったが、世界の修正力が働いている節が多々見受けられるから実際運命というものはあるのかもしれない。収束し、必ず通過する分岐路の如き世界の運命というものが……

 

「……運命、か」

 

 ずず、とみそ汁の椀を傾けた後、ぽつりと零す。

 隣で食事を摂っていた茅場が横目で見てくる。

 

「和人君、いきなりどうしたのかね」

「秋十の話を思い返していた。大なり小なり差はあれ、世界には『必ず起こる事象』として定められた運命があるのかもと思ったんだ……」

 

 茅場晶彦が生まれるか、という事ではない。秋十の話では《SAO》と《IS》の両者で茅場晶彦、篠ノ之束が同じ世界に生まれてなかったらしい。

 逆に言えば、だ。

 茅場晶彦が生まれれば幼い頃から思い描いていた《鋼鉄の浮遊城》をVRMMOという形で再現するのだろうし、篠ノ之束が生まれればその天災性を以て《(ソラ)への翼》を発明するのだろう。そこから先がどうなるかでまた分岐するが、世界の転換期と聞かれれば大多数が挙げるだろう二人の名と偉業は確実に紐づけられた事象――運命にして宿命なのだと思えなくもない。

 その裏で、SAO解放の立役者が菊岡と接触し、仮想世界を中心とした事件に巻き込まれる事も。篠ノ之束に気に入られ、【白騎士】を駆る者として織斑千冬が協力し、家族を養う事も。

 世界に定められた事象だったのかと思えてしまう。

 

「俺が虐げられる事も決まっていたのかもな……」

 

 秋十が居ない《平行世界》でも俺は虐げられていた。

 《原作》の織斑一夏がそうでなかったのは、この世界の織斑秋十のようにある程度の才覚を発揮していたか、織斑千冬や篠ノ之束が裏からフォローしていたのかもしれない。その二つを満たしていなければ、『織斑千冬の弟』は虐げられる運命にあったのかもしれない。

 そう思い至った俺の心境は、正直遣る瀬無いの一言に尽きた。

 別の自分や織斑秋十よりも幼い自分がどうやって才覚を発揮しろというのか。自分でどうにも出来ない部分で中傷される事は、慣れたと言ってもやはり辛い。

 なにより、それが世界的に決められている覆しがたいものと思うと、抗う気力も削がれるというものだ。

 

「和人君、それは……」

 

 もの言いたげに、対面に座る楯無が顔を歪める。何を言いたいのか察した俺は頭を振ってその先を遮った。

 

「解ってる。考えても仕方のない事だって、俺も解ってるんだ」

 

 そう、理屈では承知の上だ。ただ感情面で納得し切れていないだけ。受け止め切れていないと言った方が正しいか。こればかりは俺自身の捉え方の問題だ。時間を掛けて、自分自身が納得出来る結論を導き出すしかない。

 

「それに、なにもかも決まってるとは思っていない。なにが起こるかはともかく、それがどう終わるかまで決まってるとは思ってないよ」

 

 《月夜の黒猫団》は、秋十の知識(原作世界)では全滅したが、この世界も平行世界もサチだけは生き残っている。その差はどれだけ黒猫団に向き合っていたかの差だと俺は思っている。

 秋十が言う《キリト》は、自身が【ビーター】である事を隠し、レベルも偽ってギルドに加入し、ケイタ達の力になる事で居心地の良さを覚えていたという。

 対する俺は【ビーター】である事を明かし、レベルも正直に明かし、提供できる情報を出せるだけ出すなど出来得る事は全てしたつもりだ。攻略と並行しつつ早朝と深夜一時間ずつサチと実戦形式の鍛錬をしていた事もその一つ。

 黒猫団のこと一つ取り上げただけでこれほどの差があって、結果『サチの生存』という大きな変化を齎した。

 これは努力が決して無駄ではない事を意味する重要な事例だ。

 俺にとってすれば一番と言っていいくらいの事例と言える。

 言わばテストと同じなのだ。テストがある事、いずれ迎える事は絶対的で、それまでに勉強するか否かで合否が決まるという流れとなにも変わらない。

 

「この世界に起きる大事件は、ある程度は秋十の知識に似通ってるんだろう。きっとそれは止められない。止めようとしても、それを引き起こそうとあの手この手を講じる筈で、その全てを防げるとは俺も思わない」

 

 どれだけ注意を喚起し、対策を取り、キラーとして抑止力になっても続ける人はいた犯罪者(オレンジプレイヤー)のように、どれだけ事件を防ごうと対策を講じたところで、その対策を上回る形で事件が引き起こされるはずだ。なぜなら仕立て人はその事件を起こすだけの動機と目的があり、そのために動くのだから。

 そして、異世界の知識が通用するのは最初の一度だけだ。

 

「だから俺は、敢えてその流れに干渉しないようにする」

「下手に干渉するとバタフライエフェクトが起きかねないから、だよね?」

 

 束博士が確認するように聞いてくる。それに頷きを返し、同じ部屋で食事を摂っている面々――茅場、束、クロエ、ラウラ、七色、楯無、菊岡――をぐるりと見回す。

 

「当然だけど、監視の目を絶やすつもりはない。秋十の知識が使い物になるのはかなり限定的だ。前提も大きく違う以上、むしろ共通点は少ない方だろう」

「そうだねぇ」

 

 俺の言葉に、着流し姿の菊岡が相槌を打ち、茶を啜る。

 

「例えばラウラさんのVTシステムも本来は学年別トーナメントの時に発覚する流れだったけど、実際は女権団と《亡国機業》襲撃の副次効果みたいに暴走した訳だしね。彼の知識にプラスアルファされた状況が通常と考えればこれまでと大差ない対応がいいと僕も思うよ」

「実際あたしが引き起こした《クラウド・ブレイン事変》だって、秋十くんの話と細部が色々違ったものね。IF世界線のキリト君達は直接話をされるまで気付かなかったらしいし」

「その後のヴァフス関係はそもそも知らなかったようですからね」

 

 菊岡に続き、七色とクロエも思い至った事例を挙げていく。

 《ヴァフス事件》に関しては俺が一人で倒して保険として引き入れた事がそもそものキッカケなので、それさえしなければ起き得なかったのはまあ解る。《クラウド・ブレイン》はIF世界線だが、ヨツンヘイムに行く話は原作世界線の話で別々な訳だから、前提からしてまず違うのもある。

 そういう点を考慮すれば、やはり秋十の知識が使い物になる事の方が少ないように感じた。

 俺が原因で一部の事件が起きている事もそれに拍車を掛けている気はするが……

 

「ま、現実では束さんが更識が、仮想世界はあっくんと七色と菊岡が味方に付いてるし、直ちゃん達もこの事は把握したんだからさ。和君はもうちょっと肩の力を緩めればいいんじゃないかな? 稀代の天才が三人も揃ってる上に事前知識もあるなら鬼に金棒だぜ!」

 

 そう快活に笑い、箸を持ったまま右手でブイサインを向けてくる博士。思わず苦笑していると、横からも話しかけられた。

 

「そうだぞ。SAOに居た頃、君は情報収集をして、万全の態勢で挑んだ事で勝利を手にし続けてきた。その力は本物だ。慢心は禁物だが、構え過ぎるのも良くない」

「そもそもいつどこで何の事件がどう起きるか、なんて誰にも予想し切れないもの。織斑君がそうだったでしょう?」

 

 茅場が覚えのある笑みを浮かべて言う。

 更にそれに乗っかるように、楯無が秋十を引き合いに出しながら言ってきた。全てを解った気でいたが故に大失敗をした事を暗喩しているのだ。

 ――それは、なにが起きても俺の責任ではない、と言っているようで。

 かつて義姉に止められ、諭された事と本質が同じであると理解して。

 

「……ありがとう」

 

 ずっと翳りがあった心が、軽くなったのを感じた。

 

    *

 

「――ところで、直近だと事件が起きそう事はなんだろうか? おそらく行事ごとだと思うんだが」

 

 食事後。

 全員が食べ終え、クロエと一緒にラウラに教えつつ食器を洗っている時、ラウラがそう疑問を呈してきた。

 ちなみにラウラを挟む形で左側にクロエ、俺が右側に立って食器を洗っている。クロエとラウラが洗い、俺が布巾で拭く分担だ。

 

「あー……今日が土曜日だろう? たしか7月6日(明後日)月曜日から水曜までの三日間、一年生は《臨海学校》だった筈だ」

「それから今月末にアメリカ・オリンピック、8月末に第三回モンド・グロッソが予定されていますね」

「9月には月初めに学園祭。月末に《キャノンボール・ファスト》っていう妨害ありのISレースがあって、確か本土の専用アリーナを使う行事があった筈だ」

「10月の前半に修学旅行、後半に体育祭があって……」

「11月半ばに二学期学年別トーナメントだったか」

「12月は……なにかありましたっけ?」

「クリスマスパーティーくらいだった気がする。ともあれ、年内はこれくらいだったかな」

 

 生徒が学園外に出る、あるいは外から来場者を募る催し事はそれくらいだった筈だ。

 当然人の出入りが生まれる以上は襲撃者が紛れ込む可能性が高くなり、いかに警備を厳重にしようと、穴が出来てしまう事は否めない。それだけリスクがあるという事だ。

 秋十の知識によれば学園祭、キャノンボール・ファスト、修学旅行、学年別トーナメントでそれぞれ襲撃があったのは確実らしい。しかしそれ以外については触れられていない。第三回モンド・グロッソについては『原作であったかどうかすらわからない』という答えだった。

 その答えに、ラウラがふむ、と顎に指をあてて考え込む姿勢になる。

 

「ラウラ、顎に泡が付いたぞ」

「む、わかった……一年生が臨海学校という事は、織斑千冬と更識楯無が学園を留守にするという事か」

「まあ私と束様、あなたは在留予定なので警備上そこまで問題はありませんが……なにか、気になる事でも?」

 

 光学迷彩でバイザーを隠して瞼を閉じた姿に見せているクロエが、小首を傾げながらラウラを見る。

 

「いや、秋十の話だと私はVTシステムを学園入学後の学年別トーナメント……まあ、あいつの話だとタッグマッチ形式だったらしいが、その時に発覚したという事だろう? しかし実際は一年ほど前倒しになっている。それなら《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》の暴走事件も今年に起きかねないのではと思ったんだ」

「あり得そうだな。【白式】の開発も前倒しになってたようだし、《亡国機業》の動きも話より早いから」

「……しかしこの世界の織斑千冬様は未だ国家代表ですし、楯無様は日本の代表候補です。もし起きたとしても対処可能では?」

 

 それに、とクロエが続ける。

 

「和人が学園の外へ出るのは流石に問題があると思いますが」

「【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】だったか? 彼女らのように、その場で機械のアバターを使うのではダメなのか?」

「アレは【黒椿】のコアを介した通信ですから難しいかと。【黒椿】自体、和人でなければ起動しない。それにあのアバターは分類上ISになるので無暗に使えないと思いますよ」

 

 二人が喧々諤々と意見を交わす。

 ラウラは俺を臨海学校に行かせたいのか、どうにかして行ける案を模索する。反面クロエは慎重派として次々に却下していく。多分《銀の福音》――秋十によれば専用機六人で倒せた上に途中で二次移行もしていた――を止められなかった場合の事を考えて言っているのだろう。

 IS委員会が束博士をトップに据えているので、作戦行動と認められれば俺も出動は許されるだろう。

 ただクロエは、それに反対しているだけなのだ。世界最強と次期最強の二人が要るから必要ないだろうと考え、それに沿って正論で論破している。

 

 

 

「あら、それならあたしにいい考えがあるわよ? ちょうどしたい事があったのよね」

 

 

 

 そのやり取りに、七色が割って入ってきた。

 ロシア人と日本人のハーフの少女は悪戯めいた笑みを浮かべ、不敵に微笑んでいた。

 

 






・サブタイトル
因果:原因と結果の結びつき。
 今話で言えば『茅場が生まれたからSAOが出来た』、『篠ノ之束が生まれたからISが出来た』ということ。
 『世界の修正力』でもある(茅場がいる以上VRMMOの誕生はどうやっても避け得ない、など)

未来:時間軸の先、不確定な時間。
 今話で言えばデスゲームに巻き込まれ、同じ出会いだった《キリト》と《サチ》だが、《キリト》側の対応が違うだけで《サチ》が生き残れた点で、『全力で向き合った努力の有無』でサチの命運を分けた事を意味する。
 本質的に本作を為すキーセンテンス。


・桐ヶ谷和人
 世界の修正力を受け入れつつ、抗う事を覚悟した英雄。
 努力する事に関しては天災も義姉も唸るほどなので、未来(結末)が決まっている事を容認できない。事件が起きるのは仕方ないが、その結末を変える事だけは譲らないスタンス。
 秋十の原作知識を『ほぼ使えない』と判断し、これまで通り楯無、菊岡、束らの協力の下に情報収集を行い、事件の早期発見、解決に勤しむ所存。
 直接対峙してないのにワールド越しにオリジナル秋十のフラクトライトに影響を及ぼしたヤベーやつ(原作キリトはアバターを介してフラクトライトに干渉する) アドミニストレータ、原作キリト、ガブリエルを超えた化け物瞋恚の持ち主。

 ――まあ世界を壊す獣の瞋恚持ちだから是非もないネ!


・織斑秋十
 世界を憎み壊す瞋恚を一人で受けた転生者。
 本作ホロウ・キリトが背負った一万人の負+オリジナル・キリトが数十万の想念+平行世界分の怨み+怒髪天ブーストを諸に喰らった状態。
 キリトでギリギリ耐え抜くレベルなので秋十に耐えられるはずも無し。
 その末路は……『フラクトライトに干渉』あっ(察し)

 更には骨どころか魂の隅から隅まで切開される過程(マウント取りで原作知識自慢)で直葉、七色、楯無らがそれを把握し、当然ながら木綿季や詩乃達に情報共有されてしまう。
 ……まぁ、原作知識とこの世界の前提が色々違うせいでほぼ役に立たないんですけどネ!!!(爆)


・枳殻七色
 和人大好きっ子。
 和人が臨海学校に行く方法について妙案がある様子。こういう時に天才科学者というステータスは役に立ちやすいのだ。




 ――そういえば七色って、公式設定で泳ぎが苦手なんですよね。


 次回、七色の水泳特訓、突貫編(エクストラ・エディション)


 では、次話にてお会いしましょう。







 ――ユイちゃんの『海に行きましょう』の約束、覚えてる人はいるかな……?







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