インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。
今話は能力ツエー、束さんスゲー回。戦闘回なクセしてほぼその解説というね()
視点:ラン
字数:約五千
ではどうぞ。
「《カウンター・カウンター・ガーディアン》――全力攻撃ッ!!!」
銀鏡仕上げの細剣が振り下ろされ、アスナの号令がアリーナに響いた。
私は軍団旗【
「我らの武勇に光あれッ! 【
それから解放式を大声で放つと、直後、支柱と旗全体から光が溢れ出す。僚機に注がれる光は膨大なものとなり、ステータスも軒並みアップしている事が表示される。
それを見て、仮面から黒目金瞳を覗かせる彼が瞠目する気配。
『二つ目の
和人のくぐもった声。
まさか、という驚愕。【黒椿】がそうだったからあり得なくはない。しかし、まさかこうも早く出会うとは……と、そんな驚きを感じ取る。
「はぁああああッ!!!」
『ぐ……っ!』
その隙を突くように、リーファが疾風となって飛び出した。大上段からの斬り落とし。彼が黒刀を翳し、刃を
『――な……』
再度の瞠目。
――一度目の彼の驚愕は半分的外れだ。
そもそも、無人機は単一仕様能力を発現し得ない。なぜなら、そもそも単一仕様能力は操縦者の人間のクセや戦闘方法を熟知し、その上で最適な能力を発現する進化の一種だからだ。仮にフルダイブで戦っている現状もデータの一つとなるとしても、そもそも期間が短過ぎる。
だからと言って通常の機体性能と言うにもSE回復機能は破格に過ぎる。
そのため彼は勘違いした。聡明な彼をして、間違った。
半分だけ。
単一仕様能力という認識は、決して間違いではない。
なぜならこの旗の機能は正に【黒椿】の単一仕様能力《覇導絶封》を参考にしたものだからだ。理屈としては【無銘】と同じく敵機を解析、再現した場合の武装模倣と同じである。
それがさっきまでの機能。
そして今発動したのはその発展系。言うなれば
【黒椿】の単一仕様能力は無限回復、原子分解、エネルギー分解の三種類。一つは自身に、もう二つはすべての武器に付与されている。
つまるところ、触れれば死ぬ。
たとえ《零落白夜》を使える武器で相対しても、刃を交えた時点で、エネルギーを纏う刀身が
唯一の救いなのは、原子分解能力が武器にだけで、装甲には付与されていない事だろう。
つまり正攻法で真っ向から倒す場合は、彼の武器に一度も触れる事無く、無限回復の速度以上の攻撃を装甲に叩き入れなければならない。《二刀流》を与えられる最高の反応速度の持ち主相手に、だ。
彼が正気を保っていればまだしも、獣が発露していれば土台不可能である。
――そんな”最兇”の抑止力になるのなら、第二解放能力は必要不可欠だった。
【武勇の旗】に備わった単一仕様第二解放能力は、僚機のSE供給と性能アップ、更にコア同士の並列演算の中継点となり、全ての効果を同時に付与する事。
《万象絶解》の原子分解は、原子結合から分解し、繋がりを解く能力。
そしてその効果対象はあくまで物質。
――黒刀と翠刀の間に、火花はない。
よくよく見れば数ミリの隙間が空いている。翠刀を覆うように窒素などの気体を固定し、あちらの原子分解に抗っているのだ。
そしていま、《カウンター・カウンター・ガーディアン》全機の武器は気体に包まれ、その状態で固定されている。そうするための演算はコアの並列演算、そして結果の共有により保たれている。前衛に出る機体のコアの演算を後衛の機体のコアが肩代わりする形でだ。
これで《万象絶解》は半ば封じたも同然となる。
同時にこの旗がある限り、《覇導絶封》とほぼ同じ条件にもなった。
如何に気体固定と言えど光や電磁などエネルギーを防げる訳ではないので、流石に《空白絶虚》に関しては警戒しなければならず、つまりまともに攻撃を受けてはならないのだが――
ちら、と横目で仲間を見やる。
ただまっすぐ黒を仰ぎ、間断なく分裂する光の矢を放つ蒼き射手。彼女の長弓《アニヒレート・レイ》の矢は《零落白夜》、つまり《空白絶虚》とも同じ効果を有する。更に周囲に霧散するSE吸収能力もあるため、彼の黒刀は中々エネルギーが溜まらない状況だ。
彼が現状を打破するなら、旗を持つ私か、周囲のエネルギーを根こそぎ喰らうシノンかを堕とすしかない。
だが――――
『チィッ!』
リーファに続き、ユウキ、ヴァフス、オルタ、キリカ、ユイと次々襲い来る面子を前に、黒刀一本で応じていた和人が舌を打ち、素早く距離を取った。
瞬間、黒い刀身からぶわっ、と吹き出す闇。
【黒椿】と【無銘】、両方のSEが三割ほど削れる。
『吹っ飛べェッ!!!』
気合一閃。振るわれた黒刀に沿うように、三日月が闇の帯を引きながら飛ぶ。
《虚月閃》。
実兄を一撃で倒した、《空白絶虚》の力を持つ闇の斬撃。
「――させません」
視認してすぐ、翅で大気を叩く。
闇の月牙の前に飛び出した。すかさず旗を翳し――
「
ただ一言、言葉を発した。
――――闇が消える。
正確には、輝く旗まで迫ったところで旗に飲み込まれていき、立ちどころに霧散してしまった。
『……な』
彼が呆気に取られ、動きを止める。
それが、どうしようもなく面白くて。ほんの少しだけ笑みが漏れた。
「なぜ、どうやって、と。そう疑問に思っているでしょうが……なんてことはありませんよ。あなたの黒刀と同じ機能です」
ある時、剣鬼は言った。技術とは万人が扱えるものを指すのだと。
ある時、天災は言った。技術とは誰が使っても差が生まれてはならないと。
それと同じ。シノンの《アニヒレート・レイ》と同じく、SE吸収機能が備わっているだけ。アレは黒刀を参考にされている。この旗も同じだったという事。
この機能が無ければ、単一仕様能力も、その第二解放能力も、使う度に自分のSEを削ってしまう能力になってしまう。だから周囲に霧散したSEを吸収する機能が必須だった。無論、《零落白夜》や《空白絶虚》レベルの高密度なSE吸収にはそれ用の機構が用いられているが、強度と変換効率が違うだけで、原理は通常のそれと変わりない。
……この旗、随分と多機能である。
『……なるほど。その旗がある限りエネルギーは吸収され、物理は全て気体の壁で弾かれ、そのうえSEのジリ貧もなし。完璧にメタを張ってきてるな』
言葉の端々から苦笑の気配。
用心深く警戒は解いておらず、打つ手を選んでいるようにも見える。だが彼の周囲に滞空する武器の数々を前に誰も安易に踏み込めないでいる。
――すると、彼の左手に一本の刀が握られた。
柄には黄色の巻布、刀身は空恐ろしい白さを晒している。その刀身からは稲妻が起きていた。《ⅩⅢ》の初期武装にもあった雷の刀だ。
それが天に向けられると同時、こちらに狙いを定めていた数十の武器の先端でかなりの速さで熱量が発生しているのを感知する。
原子同士の微細振動の熱量。磁気の発生。
電子の乖離。
すなわち――――プラズマ。
「ま、ず……?!」
『遅い』
――気付いた時には、もう終わっていた。
耳を劈く轟音と共に閃光が走った。直後衝撃が全身を貫く。それらが稲妻が起こしたものだと理解するのに数秒要するほど急な攻撃。旗は感電し、機体は全体が火花を散らしながら地面に落下する。
それでもハイパーセンサーは働いているようで、落下する音が周囲からしたのも鮮明に届いた。
その数、十二回。
クロエを除くすべての無人機が今の一撃で落とされた事になる。
機体はピクリとも動かない。人が乗っていないのを良いコトに最大出力の雷撃を見舞ったのだろう。仮に人が乗っていれば絶対防御があっても感電死していたに違いない。
――なぜ、非実体の攻撃が通ったのか。
気体障壁による物理無効。吸収機構によるエネルギー無効、更にSE回復。ここまでは三つの単一仕様能力に対するメタだった。
しかし――【無銘】の真髄が抜けている。
原子操作能力。それはなにも、原子分解だけを指している訳ではない。
【黒椿】の第三世代兵装《エレメンタルマスター》も近しいが、攻撃的なのは【無銘】の方だ。原子レベルで物質・空間を操作できるのなら、分子から陽子と電子に分け、意図的にプラズマを発生させられたとしてもおかしくない。あの雷の刀はそのイメージを引き出す触媒なのだろう。
更に窒素は電子乖離した時、陽性イオンと結びつきやすくなり、電位差を生じる。
雷を呼び出した時に窒素障壁を電気を浴びせ、陰性イオンにし、電位差を生じさせて雷を誘導させてきたのだ。無人機の装甲はそれそのものが誘電しやすい代物。それで感電し、全員撃墜されたのだろう。
『着眼点は良かったが……まぁ、相手が悪かったな』
天に立つ少年の、苦笑の声が落ちてくる。
その言葉に、ああ、本当にと――――
――ざり、と地を踏みしめる音が立つ。
一つ、二つ、四つ、六つ――加速度的に増え、最終的に十二回。雷に打たれ、鳥のように落ちた数だけ立ち上がる音が上がった。
その全てが新品同様の綺麗さを取り戻している。
ホログラムによる見せかけではない。中身含めて、全てが新品だ。
『――――な、に……』
驚愕、三度目。
あの少年をこうも立て続けに驚かせるなど滅多にない事だ。けれどそれだけ天才達が意見を出し合い、全力を出し合ったという証左。
その分だけ、彼が如何に凄まじいかを表している。
――遠隔SE回復能力は、コア同士のバイパスを遠隔で繋いでいる事を意味する。
本来接触し、その上でシンクロ率が高まらなければ繋がらないバイパスだが、博士は少し工夫し、《カウンター・カウンター・ガーディアン》間でのみいつでも繋がるバイパスを構築した。
そのカギとなるのが、やはりこの旗。
バイパスを繋げられる以上、この旗にはコアが積まれている。
そのデータ領域に全無人機の戦闘前の状態を保存しておき、破壊されれば、この旗の
どれだけメタを張っても『絶対』はない。当然損傷を受け、時には機体も破壊される事はあるだろう。そんな時に僚機を救えるように――言外に、彼を救えるようにと――用意されたのがこの旗なのだ。
元々《カウンター・カウンター・ガーディアン》は、彼を殺す抑止力としての部隊ではない。
その本質は、彼を守るための守護者である。
私達が出向く事態になった時、出来る事ならこの旗を彼に持ってもらいたい。そんな想いが詰まった代物なのだ。対外的には彼を攻略するメタ武装になってしまっているが、本質は違う。彼の【黒椿】の能力を複数に行き渡らせるためにある彼のためだけの『対軍兵装』である。
コレの強力さは、逆説的な彼の強さ。
コレの頼もしさは、彼を守る想いの強さ。
――”あの世界”を、ずっと一人で生き抜いた彼の
世界を守る彼は自分自身を忘れがちだから、私達は彼に助力し、世界も、そして彼も、全てを守り抜く。
《森羅の守護者》とは、そういう意味だ。
*
その後、幾度となく機体を破壊されても、幾度でも回復し、立ち向かっていく内に彼のスタミナの方が限界を迎え、私達は彼にジリ貧勝ちをした。
結果的に彼の抑止力足り得る事が認められ、無人機の待機形態は彼が身に着ける事になった。
ヴァフスやストレアなどは、その無人機を介して暇を見つけては雑談をしに行っているらしい。
・エキシビションマッチ
【解放の英雄】桐ヶ谷和人
VS
クロエ・クロニクル
《
勝者:《
試合時間:1時間32分54秒
・まとめ
《森羅の守護者》は『義弟の敵ぜったいユルサネーゾンビアタック部隊』って事だネ!
・【武勇の旗】
フラッグ・オブ・ヴァラー。
本作に於ける『対軍兵装』。
単一仕様能力が二段階に分かれている。どっかの『虚無』を司る破面のようですね()
束博士によってチート化した旗。SE攻撃吸収、遠隔回復、能力アップ、更に味方の演算を並列化、結果の共有化(窒素障壁状態の演算を共有して手間を減らすなど)など【黒椿】に対するメタ盛沢山。
ただしエネルギー吸収効果はSE系統(《零落白夜》系統)にのみ効果を発揮するのであって、荷電粒子砲などSE以外の非実体攻撃はそのまま真空バリアも貫通させてしまう。
――が、和人がしてた肉体改造、修復のロジックをそのまま流用し、機体完全修復能力も持ち合わせている(真空にする原子操作と同じ理屈)
ぶっちゃけコレ一つで【無銘】と【黒椿】の機能を持っていると言っても過言ではない。
まあISって機械で再現性あるものだからね、天災に掛かれば量産も可能でしょう。
ちなみに旗の部分には『交差した二本の剣』のマークが象られている。
・《森羅の守護者》
もとい、
和人=抑止力、守護者=保護者という意味。
オリジナルの保護者になるキリカェ……と思わなくもないが、まあ義姉や仲間のメンタルを想って守る側という事で。
この戦力=和人の強さという反証が成り立っている。
和人がリーダーとなって旗を持ち、指揮を執る=前衛で戦わないという目的がある。そのためかシノン、レイン、《ⅩⅢ》を持つユイ、キリカを除く過半数が前衛特化ビルド。
……この面子相手に一時間半も持ち堪えた和人はヤバいと思うの()
一応、和人をリーダーとするギルドのような組織。今後和人を襲ったら保護者が速攻で駆け付けます。和人の敵はどこまでも追いかけて行って何度倒されようと完全修復して復活するゾンビアタック部隊(迫真)
AI組は待機形態からお話しするので隠し事が出来ない。
秋十が何かしてたら、無人機コアのログが……()
和人にメタ張ったら秋十は自動的に完封できるようになっちゃってけど参考元が【黒椿】と【無銘】だし是非もないよネ!(邪笑)