インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。

 短くてごめんね……ゴメン……(´;ω;`)

視点:和人

字数:約三千

 ではどうぞ。




幕間之物語:義弟編 ~モウ、独リジャナイ~

 

 

 二〇二五年七月四日、土曜日。午後一三時一〇分。

 東京都新宿区・日本IS競技場アリーナ。

 

 

 闇は消え、黄土色の大地を取り巻く砂塵も払われた。

 大きく窪んだ大地には青年が一人伏している。体を大の字に広げているのは大した寝相だが、アレは単に気絶しているだけである。ダイバースーツの如き男性用特注ISスーツから晒された肌に目立った外傷がない当たり、【白式】はしっかり役割を果たしたらしい。

 静かに、ゆっくりと息を吐く。

 吐いた息は震えている。湧き上がる衝動が甘く囁くのだ、今が好機だ、と。秋十を守る盾はもう存在しないが故のその囁きは、甘美なものに思えてしまう。

 だが――それに従えば、終わりだ。

 廃棄孔やホロウと対峙し、超克した事も、これまで命懸けで戦ってきた事も、なにもかも無駄になる。望む未来が潰えてしまう。

 頭を振り、その誘惑を振り払う。

 気絶する秋十の近くに降り立った。その顔を見る。

 秋十の(憎ましい)顔からは、緊張感がまったく感じられない。

 

 ――気楽そうでいいな、お前は。

 

 妬みではない感情を波立たせる。

 自分が剣を執っているのも、未来を見て備えているのも、誰かから褒められたいが故ではない。忙しい自分を賞賛して欲しいと思っている訳ではない。

 なにも知らない人間を妬むなら、教えてしまえばいいのだ。

 それが出来れば苦労しない。

 一個人の感情で秩序を乱せば待っているのは無秩序だ。無論、こちらの言う事を信じるのならだが、いま下手を打ってもメリットなんてない。リスクに対してリターンがあまりに少な過ぎる。

 だから堪えるしかない。

 

 

 

 ――嗚呼、だからどうか、これ以上”(おれ)”を刺激しないでくれ。

 

 

 

 統合人格(いまの俺)は、奇跡的な均衡の上で成り立っているのだから――――

 

 

 

    *

 

 実際は二、三秒の凝視の後、俺は秋十を担ぎ上げ、Bピットへと引き上げた。

 ピットには関係者枠として実姉・千冬と、総務省役人兼陸上自衛隊中佐の菊岡とその部下数名が待機していた。ダークスーツにグラサン姿というSPの物々しい恰好に千冬がやや警戒心を露わにしている。

 

「菊岡さん、秋十を頼みます」

 

 その様相を敢えて無視し、俺は用意されていた担架に実兄を乗せる形で引き渡した。

 

「了解した。厳重な警備の下、彼をIS学園に送り届けよう」

「……では私も失礼する」

 

 言いたい事はあるのだろうが、千冬はそれ以上なにも言わず、菊岡達の後を追っていった。

 世界的な価値に於いて、男性操縦者というレアリティが今は世界最強を上回っており、日本政府としても俺と秋十は何がなんでも保護しておきたい。翻って他国からすれば何が何でも男性操縦者を手中に収め、人体実験を経て唯一のアドバンテージを手にしたいと思っている筈。それを危惧し、護送中の護衛として織斑千冬があてがわれた形になる。

 国家権力の一つである陸上自衛隊の他、日本代表の千冬まで護衛に着いた上で襲撃を掛けたなら、それは宣戦布告に等しいものとなる。

 日本は非戦争を掲げているので即開戦とは考え難いが、経済的制裁を加える事は容易に想像がつく。

 どちらにせよ俺と秋十を守るための護衛が存在している。俺にクロエという護衛がいるように、秋十には実姉が付いた訳だ。

 

 ――まぁ、菊岡さんが担当したのは、それだけじゃないが……

 

 実姉には伏せられているこの後の計画を思い浮かべ、しかしすぐに隅へ追いやる。

 今はまだ、他所事に気を取られている場合じゃない。

 秋十の試合は、世界にとっては本命として映っただろう。

 だからこれからの事は蛇足に映る事だろう。

 

 だが――俺からすれば、()()()()()()()()

 

 秋十を下す事も、世界最強を追い越す事も、全ては自らが生きるための通り道。俺が目指す(はて)はそうじゃない。そこじゃない。そこで終わるものじゃない。

 《モンド・グロッソ》で優勝しても、世界が滅んだら意味がない。

 同時に、俺が死んでも意味がない。

 けれど仲間達を巻き込むつもりはない。IS学園に入学すれば、《亡国機業》の襲撃で命を落とす危険もあるだろう。世界を守る戦いの最前線に立ち、ともすれば死んでしまう事だって十分ある。そんなリスクを被らせるくらいなら俺がもっと頑張る方がマシだった。

 

 

 

 けれど――――けれど、てんさい達が、変えた。

 

 

 

 ――――つまりはさ、戦場に本人が居なきゃいいんだよね? なら束さんにまっかせっなっさーい! この稀代の大天災が和君のお悩みを解決してあげよう! ……ま、連中の技術をパクるみたいでアレだけど、技術に罪は無いからね。さぁ和君、独りだなんて思えないくらいにしてあげちゃうゼ☆

 

 

 

 ――――あの機体に積まれていた機器、それとプログラムは非常に興味深い。なに、任せたまえ。無人機開発……我々で成し遂げてみせよう。ああ、無人機に組み込みたいから、ソードスキル・アシスト・システムのデータ提供は逐次頼むよ。ふふ、ISとVRの真のコラボレーション、久方ぶりに胸が躍るというものだ。

 

 

 

 ――――ISコアなんてハイエンドのスパコンを使うんだから双方向通信プローブの演算なんて使いたい放題じゃない! 視覚と聴覚の相互通信はあたしに任せて、マッハ20くらいは見えるようにしてみせるわ!

 

 

 

 【黒椿】がアリーナの空に浮かぶ複数の影を捉える。

 

 何れも見覚えのある――見覚えしかない服装の、女性達。

 

 【黒騎士】を纏うクロエを取り巻くように飛んでいる。

 白を基調とし、赤をアクセントとした騎士装を纏い、栗色の髪を靡かせる細剣使い【閃光】アスナ。

 紫紺の長髪とクロークスカートを靡かせ、黒曜石の如き剣を携える片手剣使い【絶剣】ユウキ。

 紺色の騎士装を纏い、黒の長髪を靡かせる細剣使い【舞姫】ラン。

 水色の軽装に軽鎧、そして深紅の長槍を携えた槍使い【蒼猫】サチ。

 メガネを掛け、緑衣の上から斜めに胸鎧を掛けた弓使い【弓兵(アーチャー)】シノン。

 赤髪を靡かせ、舞台衣装のようなブラックドレスを纏う双剣使い【錬鉄】レイン。

 長い黒髪と黒の外套をはためかせ、黒の長剣を手に臨戦態勢を取る長剣使い【(きょう)(えい)】キリカ。

 フード付きの黒コートを纏い、一つに括った髪を靡かせる二刀使い【(しん)(けん)】ユイ。

 淡い薄紫と甲冑を纏い、紫紺の大剣を担ぐ大剣使い【豪剣】ストレア。

 白と黒の色違いの民族衣装を纏い、片刃両手剣を持つ二人の元巨人族の将軍ヴァフス、ヴァフス〔オルタ〕。

 そして――金髪緑衣の風妖精として長刀を携える義理の姉【剣姫】リーファ。

 

 合計十三人もの仲間が揃い踏みしていた。

 

 ――俺の願いは、みんなを守る事だ。

 みんなは俺の事を助けようと、支えようとしてくれているが、現実はそう簡単な事ではない。命懸けの場に俺が出る事を許したくなかったからだ。結局自分で判断する事が怖くて博士に丸投げした訳だが――最終的に、それはよかったのかもしれないと今は思う。

 この場にいる《生身の人間》は自分とクロエの二人だけ。

 では他の面々が映像だけかと言えば、そうではない。

 件の学園襲撃事件の際、俺と結城兄妹を襲ったPoHの機体は無人機だった。それは襲撃してきたスコールらのコアを経由しての遠隔操作であり、フルダイブ技術を用い、リアルタイム且つダイレクトに操作していたという。

 あの天才達はそれを流用したのだ。

 俺とクロエを除いた十二の面々は全てマネキン型の無人機IS。それにISのホログラム技術を用いたテクスチャデータを張り付けて見た目を整え、操作をVR技術のフルダイブでリアルタイムに行っているのが事のからくり。そうする事で、たとえ機体が破壊されたとしてもそれを操作するみんなに直接的な影響は出ず、俺の目的も、みんなの願いも叶う事になる。

 

「……本当に、稀代の大天()だよ。どこが挫折者なんだ。まったく」

 

 ――どうしてか。

 涙が、零れた。

 

 






 次回、『大本命?! 解放の英雄 対 ⅩⅢ機関(存在しなかった者達)

 デュエル・スタンバイ!!!


Q:なんで一方的に数が多いの?
A:和人の危険度に対する抑止力の度合いです
 ちなみに和人は『世界の守護者(カウンター・ガーディアン)』(抑止力と契約した英霊的な)
 彼女達が『森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)』(抑止力と契約した英霊に影響され連鎖召喚される英霊的)と呼ばれる予定です。

 ――どっかで聞いた事があるなぁ?()

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