インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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視点:ネットスレ、明日奈

字数:約九千

 ではどうぞ。

※暁雲とは
 夜明けの雲のこと。




戦渦 ~暁雲(ぎょううん)斬り裂く光の刃~

 

 

【仮想】義弟について語ろうゼ☆【現実】其の3

 

 

    *

    *

    *

 

 

76名無しのプレイヤー

 なぁ、どうなったんだ?!

 IS学園で襲撃あったっぽいけどどうなったんだ?! なんか新情報掴んでる人いないのか?!

 

 

77名無しのプレイヤー

 現在進行形で進んでる事な上に中継カメラが各アリーナに一つずつじゃなぁ……

 

 

78名無しのプレイヤー

 第一アリーナ:生徒会長さんと炎使いの操縦者が激闘中

 第二アリーナ:不気味なくらい平穏

 第三アリーナ:ブリュンヒルデとブリュンヒルデ似の襲撃者が会話してるっぽい(内容までは不明)

 

 えらいカオスだな(温度差的な意味で)

 

 

79名無しのプレイヤー

 第一アリーナのピットの方に数秒だけ黒いISも見えたぞ

 

 

80名無しのプレイヤー

 マジで? 普通に見逃してたわ

 

 

81名無しのプレイヤー

 てかヤバ過ぎるだろ

 いま各国の首脳とか、護衛で代表、代表候補とか来てるのに襲撃とか、いったいどこの組織がやったんだ?

 

 

82名無しのプレイヤー

 おそらく少し前に叩き潰された女権団の残党一派だと思われ

 

 

83名無しのプレイヤー

 逆恨み? つまり狙いは英雄――もとい義弟か?

 にしては関係無さげなアリーナまで襲撃し掛けてるのが気に掛かるな

 

 

84名無しのプレイヤー

 第三アリーナは多分ブリュンヒルデが居るからだろ? 最強戦力の足止めは常套手段だ

 

 

85名無しのプレイヤー

 ……それ、つまり警備体制筒抜けだったって事だよな?

 内通者がいるって事にならない?

 

 

86名無しのプレイヤー

 >>85

 デスヨネー

 

 

87名無しのプレイヤー

 生徒会長さんに対して明らかにメタ張ってる操縦者ぶち当ててるもんなぁ……

 会長さんは原子レベルで水素原子、水分子を操作して、熱量発生とか振動静止で炎、蒸気、水、氷を操る。対する相手は(おそらく)原子レベルで熱を操ってるから、相手の強みを自分の強みで相殺し合ってるんだよな

 これ第一アリーナのは決着つかないのでは?(ボブ訝しみ)

 

 

88名無しのプレイヤー

 途中から会長さんが焦り出したか、攻撃が大規模になってってる印象

 爆音やべぇっす()

 てか二次移行ってあそこまでヤベーくらいパワーアップすんのね……

 

 

89名無しのプレイヤー

 それは機体の能力にもよるんだろうけどな

 しかし新技・ビッグバンとかいうヤツの大熱量と衝撃波を無傷でスルーする襲撃者マジヤバない?

 会長さんって次期日本代表の筆頭候補だろ? 二次移行までして、とんでも火力持ってるのにノーダメとか無理ゲーやん(絶望)

 

 

90名無しのプレイヤー

 逆に会長さんも無傷だけどな。

 

 

91名無しのプレイヤー

 途中から『これ埒が明かんわ』って悟って水の槍と炎の爪&尻尾の接近戦し始めてるし……

 でも機体性能も技量もほぼ互角なのかずっと拮抗し続けてるんだよな。襲撃者の方が年上に見えるし、そう考えると会長さんはむしろ頑張ってる方だ

 

 

92名無しのプレイヤー

 反面、ブリュンヒルデはなにやってんの?

 このひとさっきから百面相しながら喋ってるだけじゃね?

 

 

93名無しのプレイヤー

 まあ見るからに因縁ありげな相手だが……

 気持ちはわかるけど早く対処しないといけないのでは? 会話は捕まえた後でも出来るんだしさ

 

 

94名無しのプレイヤー

 ここ最近ブリュンヒルデの株が落ちて行ってる気がするのは気のせいですかね……

 

 

95名無しのプレイヤー

 前の女権団テロ事件の時も、IS学園のコアを守るためにって動かないで、結局会長さんたちが動いて事無きを得たんだもんな、義弟

 そら実姉よりも義姉を信用しますわ

 ブリュンヒルデは和人を信用してたのかもしれないが、だからってそれはなぁ……

 

 

96名無しのプレイヤー

 信用と言えば、会長さんも案外されてる方だよね。

 襲撃直前とか寸でのところでレーザーに気づいて、『楯無、上だァッ!』って呼び捨てで全力の注意喚起かましてるし

 

 

97名無しのプレイヤー

 ……そもそもなんで光速のレーザーに気付けたんですかね?

 普通ムリじゃね?

 

 

98名無しのプレイヤー

 >>97

 ( ゚д゚)ハッ!

 

 

99名無しのプレイヤー

 >>97

 そーいえば……

 

 

100名無しのプレイヤー

 義弟が付けてたイヤホンマイクっぽいアレのお陰じゃね?

 なんかのネット記事だったかで、ARデバイスの研究とかでああいうのが試作されてるってのを見た覚えがある。形がソックリだし、テスターとして選ばれたって事なんじゃないかね

 

 

101名無しのプレイヤー

 ああ、《オーグマー》ってヤツだな。茅場博士とか須郷信之達が卒業した大学の教授が研究してるってちょっとずつ話題になってる代物だ

 なんでもアレ一つでスマホに取って代わるデバイスになるんだと

 もうそろそろでテスター使っての調整とか聞いてたけど、多分義弟のアレがそうだな

 

 

102名無しのプレイヤー

 へー、知らなかった

 

 

103名無しのプレイヤー

 じゃあそれで監視カメラか何かで襲撃者の姿を見て、注意喚起したって事か

 なんか今回も義弟、傭兵として裏で動いてるのかね。警備とかその辺の依頼を受けて

 

 そして当の義弟は何処(いずこ)へ?(;´・ω・)

 

 

104名無しのプレイヤー

 ……さぁ?

 

 

105名無しのプレイヤー

 とっくに拘置所に戻ったんじゃね?

 

 

106名無しのセブンファン

 >>105

 いや、セブンチャンネルのライブ配信見てる限り、義弟が戻った様子はないな

 というか未だに戻って来ない義弟を心配してそろそろセブンが挙動不審になってきてる。オロオロしててかわいそうかわいい(末期)

 

 

107名無しのセブンファン

 気持ちは分かる。

 わかるが、あまり口にしないでくれ、同じセブンファンとしての願いだ

 

 

108名無しのプレイヤー

 セブンクラスタは業の深い連中が多いなぁ……

 

 

109名無しのプレイヤー

 それはともかく

 いや、マジで義弟どこ行ったの? 拘置所に戻ってないなら避難してないって事?

 まーた騒ぎの中心に首を突っ込んでるんですかね?(呆れ)

 

 

110名無しのプレイヤー

 IS学園って地下シェルター無かったか? そこに行ってるから、拘置所の方に戻ってないとかじゃないの? 他の人と避難してとかでさ

 

 

111名無しのプレイヤー

 第一~第三アリーナ、未だにどの観客席のシャッターも動いてないんですがそれは……

 

 

112名無しのプレイヤー

 まあシャッターが閉じたままで分からないだけかもしれないんですがね

 

 

113名無しのプレイヤー

 つーか第一アリーナのピットに入ってったとかいう黒いIS、一向に出て来ねぇな?

 

 

114名無しのプレイヤー

 ホントだ……もう襲撃から五分近く経ってるよね? なにやってるんだろ?

 

 

115名無しのプレイヤー

 やるとすればISコアとか機体の強奪……?

 でもそんなに時間かかる? や、ISの設計とか構造知らない素人だから、よくわからないんだけどさ

 

 

116名無しのプレイヤー

 おまえら、閉じ込められてると思しき生徒のライブ配信動画を見つけたゾ。本人としては生存報告的なものも含めての中継らしい

 絶賛非常事態なのにこの子心臓に剛毛生えてそうな神経してんな()

 

 @kaorunn.chat

 https://www.ishinann……

 

 

117名無しのプレイヤー

 パーフェクトだ>>116

 

 

118名無しのプレイヤー

 >>116

 素晴らしい仕事ぶり

 

 

119名無しのプレイヤー

 早速確認だオラァ!

 

 

120名無しのプレイヤー

 ――――なんか、黒くてでっかい鎧()が縦に両断されてるんですが

 

 

 

     ***

 

 

 無機質な赤色のレンズがぎょろりと動く。きゅうっ、としぼりが回り、数十メートル離れた位置にいる私と兄、銀髪眼帯の少女を見咎めた。

 正確には――私に、焦点を合わせている。

 視線が交錯したその瞬間、私は背筋を氷で貫かれたかのような錯覚を覚えた。

 

 この感じを、私は知っている!

 

 機械のレンズを通してでもわかる程の()()。あちらからすれば、ただ視線を移しただけのものであり、垂れ流しているに過ぎない。

 たったそれだけなのに、これほど鋭く、底の見えない闇を感じさせる殺気を放てるなんて……

 チリチリと記憶の片隅をひりつく感触と全身を襲う鋭い殺気を味わっていると、ひゅぅ、と軽薄な音がした。口笛のつもりなのだろうが、それを発するスピーカーが口笛そのものを再現出来なかったようで、それに近い音をひねり出した結果間の抜けたものになっていた。

 

『……よう、久しぶりだな、【閃光】』

 

 少年に向いていた黒い甲冑ごとこちらを向きながら、それはそう言葉を発した。

 ボイスチェンジャーによって特定し辛い中性的、且つノイズ交じりの音声だったが、そのセリフを聞いた瞬間、私は記憶を掠り続けている正体を掴んだ。

 

PoH(プー)

 

 戦慄(わなな)く唇が、たった一音の名前を密やかに漏らす。

 瞬間、黒いISの肩が揺れた。スピーカーからは抑えられた、しかし堪え切れていない喉奥からの笑声が伝えられる。その反応こそが私の推測を正解と語る何よりの返答だった。

 

「あなた、どうして……IS、を……」

 

 それは、彼――可能性として織斑秋十も含めるが――以外には、ISを起動出来る男性操縦者は現状存在しない筈という認識があったが故の驚愕だった。

 まさかPoHまでもがISを扱えるのかと、そう言外に問う驚愕。

 

『あ? そりゃ企業秘密ってヤツだ。しっかし驚いたぜ。ここに来りゃキリトが居るってわかってたが、まさか【閃光】もいるとはなぁ』

 

 PoH――本名をヴァサゴ・カザルスという男は、おどけたように言いながら肩を竦めた。赤いモノアイがシャカシャカと音を立てて動く。

 煙に巻かれた形だ。まぁ、敵にそんな重大な情報を漏らすわけないかと、落胆からすぐ復帰した。

 

「明日奈、あのISの中に、あのレッドギルドっていうやつの首領が……?」

「うん……ほぼ確実に、そうだと思う……」

 

 兄から小さな声で問われた。頷きながら囁き声で返すと、彼はそうか……と神妙な面持ちで黒い全身装甲のISを見つめる。

 兄は女尊男卑風潮全盛期の煽りを受けた時があると聞いた事がある。男であるヴァサゴがISを扱っている事実に、忸怩たるものを感じているのかもしれない。あるいはSAO時代の狂人を前に畏怖を抱いているのだろうか。

 

「――明日奈、浩一郎さん、なんで逃げてないんだよ……ッ!」

 

 そう考えていると少年の絞り出したような声が耳朶を打った。視れば頭からだくだくと血を流しながら、彼は私達を睨んでいた。

 ――珍しく、彼が怒っている。

 すこしだけ、こわく感じた。

 逃げてる時に君が飛んできたのだ――なんて、他の人が逃げている中で足を止めた私が口にしていい言い訳ではない。叱責されて当然の事実だった。

 鋭い右の金瞳が、続けて後ろにいる銀髪の眼帯少女に向けられる。

 

「それに、後ろにいるアンタはドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだな、一般人の避難誘導くらいしっかりしてくれッ! なんのために俺が時間稼ぎに残ったか分からなくなるだろ!」

「――貴様に罵倒される謂われも指図される筋合いも無い! そもそも貴様、ロクな武装も無くISを止められる筈がないだろう!」

 

 彼の怒りが癇に障ったか、ドイツ人らしい銀髪の少女が眉根を寄せ、険しい面持ちで言葉を返した。言葉の端々から彼に対する嫌悪や敵愾心を感じ取れてしまい、なんかいやだな、と思った。

 

『クックック……無能な味方ほど、厄介で邪魔なモンはねぇ。なぁ、【黒の剣士】――――俺が軽くしてやろうか?』

 

 二人のやり取りを見て、やれやれと呆れるジェスチャーを交えながらヴァサゴが発言する。

 そうして二人の視線を集めた黒いISは、浮遊城で人々を恐怖させた魔剣級の短剣を想起させるダガーの切っ先を私達に向けた。

 

 ――殺される――――!

 

「――させるかァッ!!!」

 

 ゾッと背筋が凍った時、それを氷解させる声が響いた。

 ヴァサゴの視線が相手を死に至らしめる死神の冷気なら、和人の気迫は、味方を庇護し、敵を跳ねのける覇気そのもの。安心感と活力を抱かせる健気な怒声と共に、血まみれの少年が地を駆けた。

 左右の手には二本の刀。

 右の黒刀、左の白刀を右に引き、刀身を上下に並べる。

 

一剛力羅(いちごりら)――二剛力羅(にごりら)――」

 

 そのまま聞きなれない単語を呟いた後、彼の両上腕が肥大と言えるレベルで膨張した。

 血管が浮き出るほどのそれが力を極限まで籠めて起きた事だと気付くのに数瞬要するくらい常識外の見た目。あんな華奢な体のどこにそんな筋肉があったというのか。

 しかし、ヴァサゴはまたそれか、と呆れたように言った事から、どうやら見たのは初めてではないらしい。

 

「二刀流――――二剛力斬(にごりざけ)ェッ!!!」

 

 IS用ダガーが大振りに薙がれるのに合わせ、彼の二刀が振り抜かれた。

 

 ――空間が揺れた。

 

 比喩抜きで、視覚で捉える空間は揺らぎ、大地も鳴動した。それほどの衝撃が彼らの攻撃の鬩ぎ合いで発生している。

 揺れは数秒で収まった。

 しかし競り合いはまだ続いている。片やマルチフォームスーツ、片や人体という火を見るよりも明らかな勝負――と思われたが、予想に反して未だ拮抗が続いていた。

 そして――――

 

「――ぉぉぉぉおおおあああああああああッ!!!」

 

 ぎゃぁああんっ! と耳を劈くけたたましい音と共に、二刀が振り抜かれた。太刀の如きダガーを退け、剰えISにたたらまで踏ませる。それほどの筋力と圧力を彼は発揮したのだ。生身で。

 

「な、馬鹿な?! 生身の人間がISを……?!」

 

 その異常さを客観的に理解しているだろうドイツ人の少女が愕然と声を上げた。

 私は、彼をよく知っているからこそ、その異常性の方に着目していた。

 ――三か月前まで、寝たきりだったのに。

 やせ細って、比喩抜きで骨と皮だけだった幼い子供が、重機にも勝るISと真っ向からの力勝負で打ち勝つだなんて、なんの冗談だ。これは本当に現実化。

 彼は本当に、ISを使っていないのか――――?

 私の思考は、あまりにも現実離れし過ぎた現状に呑まれ、混乱と疑問に乱れ切っていた。だから鬼の如き形相で彼が睨んできても、その意図を察することが出来なかった。

 

「いい加減、さっさと逃げろォッ!!!」

「は、はいッ!!!」

 

 全力の怒号を叩きつけられ、私は反射的に立ち上がっていた。

 これまでも彼に怒声を投げられたことはある。いや、それらは大半焦りだとか、急いでいる時の力みによるものだから、厳密に言えば彼は怒っていたわけではないだろう。

 だからこそ、余計に心が震えた。

 ただただ心が逸った。急がないと、早く逃げないと――――彼の邪魔になる、と。生死度外視で、彼に怒鳴られた事で頭がいっぱいだった私は、兄の手を引いて一目散に走り出した。

 

『――オイオイ、そりゃあ無いだろ』

 

 だが、死神の鎌は、そう易々と見逃してはくれないようだった。

 彼と斬り結んでいたはずのヴァサゴ機は、背面のスラスターを吹かせて一気に先回りし、私と兄が向かう道の途上で降り立った。慌てて立ち止まるが、もう数メートルの距離しか開いていない。

 ISが一歩踏み込めば、それだけで間合いに入る。

 

『ショウってのはオーディエンスが居て盛り上がるもんなんだぜ?』

 

 無機質な赤いモノアイが私達を見下ろす。

 ぎゅっと、兄が抱きしめてくれるが、小刻みに震えている辺り恐怖はあるらしい。当然だ、死を間近に感じて怖くない人なんてまずいない。自分の死に無頓着に見えたあの少年も死への恐怖心は持っているのだから。

 そうして固まっていると、モノアイが一際小さく縮小した。

 それはまるで人の瞳孔が小さくなっているようで――

 

『ああ、丁度いい』

 

 そのモノアイが、一際大きくしぼられた。

 赤いレンズの筈なのに、まるで底無しの闇を見ているような錯覚に陥る。

 

『実はよ、アイツ中々マジになってくれねぇんだわ。けどアイツにとって大事な連中がコトになれば別だろ。だから【閃光】、お前ぇ……ここで死んでくれや』

 

 軽く、死刑宣言を突き付けられる。

 鉈よりも大きなダガーが振り上げられる。

 

「――ッ!」

「明日奈?!」

 

 兄を突き飛ばす。私は地面に倒れ込んでしまったが、それでよかった。ヴァサゴの狙いは私になっている。なら兄を巻き込むのは申し訳ない――という思考は、後からついてきた。

 そう認識した時、刃が振り下ろされる。

 

 

 

「――――ぁ」

 

 

 

 ――――死ぬ

 

 

 

 避けようのない、どうしようもない死が、目の前に迫っている。明確な死の予感を全身で感じる。自分の命が尽きようとしているギリギリの感覚が、魂の底から蘇ってきている。

 思考が加速する。

 加速する。

 加速する――

 

 

 

 初めて『死』を予感したのは、いつだったっけ。

 

 

 

 思考が加速し、迫る肉厚の刃が徐々に遅くなる感覚を覚えながらも、最期の瞬間に浮かんだのはそんな疑問。そして、その答え。

 走馬灯という名の、デジャブ。

 ――全てが終わり、そして始まった時から二週間後のあの日。

 ただ腐っていくくらいなら、流星の如く突き進み、燃え尽きてやるという覚悟のもと、一念発起して動き出した初日。ログアウト・スポットの噂を頼りに向かった洞窟の暗がりで受けた不意打ちにより、私は瀕死の上に行動不能のデバフという絶体絶命のピンチに陥った。

 あの時と今の状況は、とてもよく似ている。

 怪我している訳ではない。

 戦う力も、明日奈(わたし)は持ってない。

 そう――無力な小娘、そしてその小娘の命を奪う強大な存在が眼前にいる状況が、酷似している。自分ではどうにも出来ない状況。諦めるしかない現実。

 ヴァサゴが駆る機体のダガーは肉厚で、重厚だ。刃も相当鋭い。ISのパワーで振るえば、柔らかい人体なぞ一撃で粉微塵にしてしまえるに違いない。アレを防ぐ術はなく、また避ける術も持っていない。

 

 《結城明日奈》の命は、ここで尽きるのだ。

 

 あの刃が肌を、肉を裂き、骨を断ち、圧力だけで内側から破裂させる。脳細胞も脳漿もまとめてぶちまける事だろう。辛うじて栗色の髪だけは原形を保つだろうか。

 自分が死ぬ未来を、私はまざまざと想像していく。

 死への恐怖はある。でも、不思議と少ない。あの世界で慣れたのか、諦めが諦観を生み、冷静さを取り戻させたのか、さっきまで混乱に満ちていた思考が何故かスッキリしている。だからこその思考の加速。色々な事を一瞬の内に思考し、整理していく。

 その果てに、一つの感情が浮かんだ。

 

 ――くやしい、なぁ。

 

 それは、彼が命懸けで救ってくれたのに、大して恩も返せないまま死ぬ事への悔しさ。なにかできる事はと抗っていたのは――彼の、ためだった。

 

 ――あぁ……そっか……

 

 そして、ストン、と胸中に嵌る。

 今までぽっかり穴が開いてて、嵌めるものが何か分からず困っていたのに、最後の最後になってようやく見つかった――そんな達成感が胸中に湧き上がる。際限なく、次から次へと、一瞬で吹き上がる。

 

 ――私……和人君の事、好き、だったんだ……

 

 それは、あまりにも遅い自覚だった。

 取り返しがつかなくなってから気付く、愚かな認識。でもそれこそが、どこか私らしいとも思えてしまって、不満は無かった。

 ただ、惜しむらくは――――

 

 ――好きって……言いたかったな……

 

 それは、人生で初めての恋だった。誰かを、異性を好きになった事なんて無かった。魅力に思ったことも、理想に思ったことも、惹かれたことも。

 嗚呼、でも、初恋は、報われないと言うけれど。

 

 

 

 ――どうやら、本当らしい――――

 

 

 

 

 

「――――――――ッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 咆哮が轟いた。

 大気を、天地を鳴動させるに足る裂帛の咆哮を上げて、背後から一つの小さな人影が飛んできた。頭上を飛んで前に躍り出た影は、そのまま右手を振り下ろす。

 

 ――ヒュカッ! と。

 

 《結城明日奈(Asuna)》の人生に終止符を打つ存在だったISは、体の正中線を結ぶように一本の光を走らせた。抵抗もなくスルリと走る光の線。それに沿って、黒の鎧がズルリと左右でズレた。

 

「な――――っ?!」

 

 瞠目で固まる。

 すると、右手に黒い刀を持ったまま、人影――白髪の少年が振り返った。そのまま両腕を左右に広げ、飛行機のような姿勢を取った。

 

「か、和人君、どうし――」

 

 たの、と言おうとしたところで、耳を劈く爆音と衝撃に遮られる。さっきのISが爆発したのだとすぐに察し、彼はそれから守ってくれたのだと理解する。

 爆発の煽りの中で、少年を見つめる。

 目の前に立つ少年に見下ろされている。少年の顔には、いつの間にか現れた白い仮面。乳白色よりは無機質的な白さのそれから見える眼は、黒目金瞳。

 ――かつて、浮遊城七十五層の闘技場で現れた、過去の彼。

 負により覚醒した【無銘】の第二形態。ある種、廃棄孔の似姿。記憶と違い肌は病的な白さではないが、その仮面と瞳の色は正しくあのホロウそのものだった。

 ――それらは、ほんの一秒だけの変化。

 爆発の最大威力が過ぎ去った瞬間に仮面は消えた。ずっと俯いていたから下から見上げられた私しか見えなかっただろう変化は、彼がまだ公開してはならないISの力を使ってまで助けてくれた証左だ。

 助けてくれた事への感謝と喜びが沸き上がった。

 同時に、無力な自分と、彼に無茶をさせた事への慚愧と憤怒が蟠った。

 

「あり、がとう……ごめん、なさい……」

 

 フクザツな心境、ISが使える事を明かしてはならない事情を含め、上手く言語化できそうになかった。だからただ感謝を、そして謝罪を口にした。

 黒目金瞳で私を静かに見つめていた彼は、何も言わず、左手を差し出してきた。血と泥、煤塗れ、更には熱波による火傷も見受けられる彼の手を、私はゆっくり手に取った。引き上げられて立つと、上下が逆転して、私が見下ろす側になる。

 

「――よかった」

「え?」

 

 ふと、ぽつりと和人が呟いた。

 

「間に合って、よかった……」

 

 ふわ……と、柔らかく微笑みが花開いた。

 思考が爆発した。

 

 






・なんでいきなりゴリったの?
 一剛力羅・二剛力羅
 二剛力斬

 ――和人の筋トレ+肉体改造の賜物です(迫真)
 生身でISブレード持って【白式】と【シュヴァルツェア・レーゲン】の攻撃を止めた千冬さんの筋肉を参考にしてるからね、是非もないネ。


・なんでPoHの機体ぶった斬れたの?
 【無銘】は他の機体を模倣できる。
 単一仕様能力は発動に必要なものがあればいい(原作一夏の零落白夜には雪片弐型があれば部分展開でもOK)ので、和人は【黒椿】の刀の模造品を、本当の黒椿の刀に一瞬で変えて、《万象絶解》を発動。バリアが発生し辛い全身装甲だったから一撃で斬り裂けた。
 【無銘】の仮面形態はシールドバリアによる防御のために出した。


・桐ヶ谷和人
 ”みんな”を守るためなら命も懸ける主人公。
 【無銘】を使うという禁じ手をやらかしたけど、武器は変わらないし、仮面は俯いてた以上明日奈にしか見えてないのでセーフセーフ。明日奈を守るためだけに無茶も禁じ手もやらかした。
 本人は『自分の未来より明日奈の方が大事だから』というスタンス。
 和人が生きてる理由も『自分が生きればみんなが幸せだから』というのが『一緒にいたいから』という自分の願望より先に来るからネ……(闇深案件)


・結城明日奈
 思考が爆発した()
 死を予感し、覚悟した事で、色々と自分の事を整理した結果、自分の想いに気付いたヒロイン。死の間際で『自分がどうして無力さをああも悔やんでいたのか』という根本の理由に気付けた。
 堕ちたな(確信)

 しかし原作キリト並みに気付くの遅いんじゃないですかね。
 本作では年上は明日奈だけど恋の先輩は木綿季ですね(満面の笑み)


・ラウラ・ボーデヴィッヒ
 役立たず(辛辣)
 でも実際一般人より現状把握出来る(しかも現役軍人)なら驚くより先に避難を促せよと。和人からすれば『明日奈が死んだら意味無いんだよォ!』案件なので是非もなし。


・ヴァサゴ・カザルス
 和人を本気にさせようと明日奈に手を出した瞬間一撃で退場した悪者。
 かなり小物感溢れるセリフと立ち回りをしているが、あくまでヴァサゴの任務は『無人機ゴーレムの性能評価手伝い』なので、むしろ遊ぶのがメインである。
 どう転んでもヴァサゴにとっては愉しくなる。


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