インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 待ちに待ったヴァベル暴露回。アンケートの得票数を考慮はしておりますが、プロットの関係上秋十関連は無いです。というより過去話だと秋十存在しないので()

 今話はヴァベルさんの心情をメインに考えましょう(頭空っぽ感)

 今話の視点は前半キリト、後半ヴァベル。

 文字数は約一万三千。

 ではどうぞ。




第百三十五章 ~回廊(ループ)の果て~

 

 

 ノブを回し、扉を開ける。ぎぃ、と木製特有の音を立てて扉は内側に開き、宿の内装が露になる。みんなに比べて使う回数が少ないせいで未使用のものも多く、小綺麗さが保たれていた。

 入り口から見て手前右側に対面で置かれたソファと脚の短いテーブル。手前左側にはクローゼットと箪笥があり、服をハンガーに掛ける収納部分とアイテムを仕舞う宿のストレージ部分とが併存している。右の奥はベッド、左の奥は仕事机が備え付けられていて、本棚もある。

 ちなみにあの本棚、殆どは意味を為さないものばかりだが、中にはあるスキルを修得する事で初めて読めるものもあったりする。以前手に取った時はその確認だけして中身まで読んでいない。

 

「――ん……っ」

 

 部屋の中に入った途端、ぐら、と足元がふらついた。自分としては眠気はあまりないのだが、どうも肉体の方が疲労を訴えているらしい。早く休ませろと訴えているようだ。実際昨日今日とずっと動き続けていたから疲労は大きい。昼過ぎまで休んだ後はまた《ホロウ・エリア》に行かなければならないし、その為にも休息は取っておくべきだ。

 ……少し残念だが、読書はまた次の機会に回すとしよう。

 踵を返してベッドに近付き、軽く床を蹴って布団にダイブ。ふかふかとした感触が俺の体を押し返す。

 

「んー……ふかふかぁ……」

 

 あんまり布団の上に乗っていると線維が凝縮して暖かくなりにくくなるため、リー姉が居る前では出来ない事だが、今はとにかくこの感触を味わっていたかった。眠たくなくても横になっていれば気付かない内に眠っているだろう。

 ――ふと、机の上に置いている籐の籠に注意がいく。

 それは自分の使い魔であるフェザーリドラ《ナン》の寝床として《細工》スキルで作り上げた寝床。基本的にマスターから離れる事のない使い魔の衣食住を整えるのも飼い主の務めなのだが……

 

「……ナン、気付いたら居なくなってるな……」

 

 少なくともPoH達と合流した時点では居た。【断崖空洞ジリオギア】と【妖森異界アレバスト】のエリアボスと戦う時にも馬車の近くで滞空し、ダメージを受けた二頭の馬やホロウの回復、援護に回っていたのは確認している。

 しかし《アインクラッド》に戻って来る時点では既に居なかった……

 

「……ホロウの方か、あるいはスレイブか……」

 

 【魔剣フォールブランド】を持つ、俺の精神と記憶を受け継いだもう一つのAIスレイブ。アルベリヒによって作り出された存在。手駒として、人形として使われていた者。

 スレイブはリーファ達と共に居る事への喜びと《攻略組》の面々への申し訳なさが表情に現れていた。ホロウのように自分が居た立場や戦う目的を優先しているようには見えなかったが、ある意味あの『姿』も俺とは言える。どちらも《オリムライチカ》としては正しい在り方だ。ただ憎しみを優先するか、幸せを優先するかの違い。

 ホロウにとって自身の立場は大切なものを奪われたようなもの。その喪失感と絶望が憎しみに火を付けた。だから敵愾心を見せるのも分かる事。俺も同じ事になったら同じ振る舞いをする確信がある。

 同時にスレイブの事も分かる。大切な義姉に裏切られたと思いながら付き従い、それが偽物で、本物と漸く会えた事の喜び。それそのものは分からないが、喪ったものを再び得たような……救われる感覚というのは何となく分かる。憎しみより優先するものがあって行動していたからこそ分かる。

 ナンにとってすれば、システム的には俺が飼い主でも、見た目や在り方はあちらの方が馴染み深い。実際スレイブと一緒に居るところも見たから離れられてもあまり違和感は無かった。

 ――ちなみにスレイブもこっちに来ており、今は階下で事情聴取中だ。

 アルゴとシンカーを含む情報屋勢がこぞって集まっていて、《圏内》での失踪事件やら何やらに対処していたらしい。そこに俺達が厄介事と解決したネタを持ち込んだものだから若干阿鼻叫喚に陥った。あのアルゴが情報でグロッキー気味なのを見たのは初めてかもしれない。

 ともあれ問題は既に解決し、あとは事後処理や事情聴取を残すのみなので、そこには安心していた。

 そして、リーファに連れられていた黒騎士スレイブを見て、それも終わる。また面倒事かとアルゴの目は雄弁に語っていたのを俺は忘れない。

 その辺の事は色々ややこしい上に全員疲れている事もあって、AI故にほぼ疲れ知らずなユイとスレイブ本人に後を任せ、残りの面子は各々の部屋で休む事になった。

 どういう筋書きにするかは纏めて伝えているし、ユイなら俺の事をあまり知らない面々の前で何もかも暴露したりはしないだろう。だから安心して体を休められる。

 

「…………ぬぅ」

 

 ――しかし、寝返りを打ちながら幾ら待てども眠気は訪れない。

 柔らかい布団に包まれて横になっていると疲労は取れるし気持ちもいい。眠気が訪れないせいで、何時まで経っても寝落ちする気配がない。

 

「そういえば俺、普段だともうそろそろで起きるからな……」

 

 最近は寝袋を使ってでも睡眠を取るようにしていたし、早ければこの時間に起きて活動する事も多かったから、どうも体内時計が覚醒状態に入ってしまったらしい。どこでも何時でもすぐ寝られる事が持久戦や長期戦のコツなのにこれは不甲斐ない。

 もう少しと思って粘るが、やはり眠気は訪れない。

 気付けばベッド横にある窓から陽光が差し込んでくる始末。

 

「……何か飲むか」

 

 暖かい飲み物でも飲めば精神が落ち着き、眠りに落ちれるだろう。そう思ってベッドを這い出た俺はストレージから携帯用の三脚、火炎石と石台、手鍋を取り出し、お湯に溶かして飲むタイプの粉が入った紙袋を二つ取り出す。

 まず手鍋に、虚空から出現させた水を入れ、三脚に置く。次に石台に火炎石を置き、割り砕く事で石の中に封じ込まれた炎を解放。それを三脚の下に入れる事で即席のコンロが出来上がる。

 あとは沸騰するのを待つだけ。ポップアップ表示で五分待てば沸騰するからそれまで待機だ。

 マグカップを取り出し、二つの袋の中身をざーっと入れて準備完了。ちなみに粉は特製ブレンドコーヒーとミルクを粉末にしたもの。気を落ち着けるならこれが一番だ。ミルクを入れると女性陣ですら『甘過ぎる』と不満を呈する程にバランスが悪いので普段は入れないのだが、今はリラックスを求めているので入れた。

 尚、リー姉曰く俺は甘党寄りらしい。

 辛いのは嫌いではないが苦手だ。舌がひりひりするあの感覚はツラい。ただし肉料理の辛味は唐辛子の辛味と種別が違うのか兵器だったりする。謎である。

 

「――――キリト」

 

 ――突然、自分しか居ない部屋の中で、人の声がした。

 ハッキリと名前まで口にしたその声。顔を上げて見れば、何時の間にかドアの前に黒いゲートが開いていて、そこからヴァベルが出て来るところだった。ずっとしていたフードも今は後ろに除けられていて、ユイと同一の顔が露になっている。

 皆と合流してからは一言も言葉を発さなかった女性は、テーブルの上に置いてある手鍋をじっと見詰めた。

 

「……飲むか?」

「えっ?」

 

 飲みたいのかなと思って問えば、意外だったかのような反応をして、困ったような表情を浮かべる。むしろこっちが困るんだが。

 

「欲しくて見てた訳じゃないのか?」

「え、と……いえ、そういう訳では…………()()()()なと、そう思っただけで、特に深い意味がある訳では……」

「そうか……でもまぁ、折角だから飲んでいけば良い。飲めない訳じゃないんだろう?」

「え、ええ、まぁ……」

「なら、ほら。座ってくれ。俺だけ座ってるのは居心地が悪い」

 

 勧めると、暫くあー、うー、と四方八方に視線を泳がせていたヴァベルは、最終的には諦めたように苦笑を浮かべ、では失礼して、と言って対面のソファに座った。

 お湯が沸くまで残り二分。

 沈黙が場を満たした。部屋で聴こえるのは火炎石から吹き上がる炎だけだ。

 

「――聞かないのですか?」

 

 じっと、ユラユラと揺らぐ赤い炎を見ていたら、ふとヴァベルがそう言って来た。真剣な顔をしている。

 

「ヴァベルがするつもりの話についてか」

「ええ。無制限にゲートを開閉し、エリアを移動出来る私にはカーソルが無い。HPという概念が無い。それを疑問に思っている筈です」

「そうだな……正直、最初はクリアさせないようアルベリヒが仕向けた尖兵かとも思ったけど、どうも違うようだし。正直情報が少な過ぎてお手上げだ」

 

 俺が裏で活動出来ていたのも、PoHと渡り合えたのも、全てはアルゴが支援してくれたお陰。情報が無ければ推察もマトモに出来ないし、よしんばしたところで精度が低い。俺に出来る事は足りないピースを補完する事じゃない。集めたピースを組み合わせる事でしかない。

 あまりにも情報が少ないヴァベルの事で考えられるとすれば、ユイと関わりがあるんだろうな、というもの程度。

 

「最初はユイ姉のホロウかとも思ったけど、それだと二つほど矛盾点が出て来る。だから違うと分かって、分からなくなった」

 

 ヴァベルを最初に見たユウキ達はまだ管理区に辿り着いていなかった。つまりユイのアバターもまだ少女の姿で、《メタモル・ポーション》を使って大人の体に変えていない時系列にある。しかしヴァベルの肉体はずっと変わっていない。この時点でヴァベルはユイのホロウでは無い事になる。

 仮にホロウだとしても、《ホロウ・エリア》のルール上、オリジナルとホロウは同時に存在出来ないから、対面した事がある時点でおかしい理屈になる。

 そうして二つの推察を棄却した時点で、ヴァベルの正体を考える事は辞めていた。敵か味方かさえ分かれば支障は無かったからだ。結局それすらギリギリまで判別つかなかった訳だが。

 人間か。NPCか。最早それすらも謎だ。プレイヤーカーソルがあっても実態はNPCなんて存在を既に三人見ている訳だから。

 

「だから気にならないと言えば嘘になる」

「なら――」

「――けど、話したくないっていう顔をしてる」

「……っ」

 

 指摘すれば、きゅっ、とコートの裾をヴァベルは握り締める。唇を噛んでいる。話さなければならないのにそれが怖いと懊悩している事が見て取れた。

 

「何れ話してもらう必要はある。でもせっついたところで碌な事にならない。だから俺は、強要するつもりは無いよ……」

 

 ――ぽーん、と音が鳴った。

 タイミング良くお湯が沸いたらしい。石台ごと火炎石をストレージに放り込んだ後、もう一つマグカップを取り出し、それにも粉を入れる。お湯を入れ、ストレージから取り出した木製のスプーンでかき混ぜて完成。

 

「ほら、出来たぞ。俺特製のブレンドコーヒーだ」

「……ありがとうございます」

 

 暗い表情でコップを受け取ったヴァベルは、コップの端だけ口を付け、傾けた。んく、と喉が動くのが見える。

 

「……これ、凄く甘いですね」

「ミルクを入れたからな。仲間からは大変不評だけど」

「ふ、ふ……そういう事じゃ、ないですよ……もぅ……」

 

 ふわ、と。口元に僅かだが笑みが浮かんだ。それを自覚しているのかいないのか、ヴァベルは少しずつコップを傾けてコーヒーを飲んでいく。

 ――瞑られた目に、雫が光る。

 俺もコップを傾け、それを見ないようにした。

 

「……やっぱり、甘いな」

「ええ……甘いです」

 

 甘い甘いと言い合いながら、俺達はコップに淹れた分を飲んでいった。

 

 ***

 

 茶色の温湯を飲み干し、ふぅ、と一息入れてコップを置く。思っていたより凄く甘い味がしたが、悪くないものだった。

 ……前にマトモなものを飲んだのは、何時だったか。

 AIというデータ故に記録を喪う事は無い。だが容量の問題を解決する際に整理する事が定期的にあり、思い出せない事から、どうも食事関連の記録の大半は消去してしまったようだった。と言っても彼の食事の記憶、料理の味は今でも残っているが。

 

「……気に入ってくれたようだな」

 

 満足そうに微笑む彼は、まだコーヒーが残っているコップを傾けた。どうやら久し振りの飲み物にがっついて速く飲んでしまったようだ。ちょっと恥ずかしい。

 

「貴方が淹れたコレが美味しいから悪いんです」

「誉め言葉として受け取っておくよ」

「ぬぅ……」

 

 思わず反論するが、余裕の表情で返されてしまった。実際言っている事は誉め言葉以外のなにものでもないから否定出来ない。

 おかしい。ここまで彼に遊ばれるなんて、今までの『世界』では無かった筈だが。

 ……ただ、こういうのも新鮮で、いいかもしれない。

 

 ――でも、もうここまでにしないと。

 

 何時までも逃げるなんて情けない。自分の覚悟は、決意はその程度のものだったかと奮起して、弱い気持ちを叱咤する。この行動は私の懺悔であり、罪の告白であり、何よりも彼の未来を救うためのものなのだから。

 ――そう決断した時、ぴく、と彼の動きが一瞬止まった。

 どうやら言葉に表すよりも前に、こちらが話す気になった事に気付いたらしい。

 

「キリト……私の話を、聞いていただけますか?」

「覚悟は決まったんだな」

「ええ」

 

 タイミングとしては偶然だったが、彼がコーヒーを振る舞ってくれたのは緊張を解すためもあったのか、今の私はとても落ち着いていた。この部屋に入った時の緊張も殆ど収まっている。皆無、とは言えないが。

 

「まず……そう、ですね。何から話すべきか……」

 

 直線時間では五万四千年。しかし私そのものを語るなら無窮に等しい長い時間の話をしなければならず、彼に語りたい事、ぶつけたい事も星の数以上存在している。内容を絞りはしたが、どれから話せば彼の混乱を招きにくいかで迷ってしまう。

 此処に来るまでずっと考えていたのに、いざ話そうとするとグルグルと思考が混乱する。

 彼は根気強く黙ってこちらの出方を待ってくれている。長い話になると察しているのか、空になったコップにまたコーヒーを注いでくれる。さっきよりはミルクの量が少なめなのはくどくなり過ぎないようにか。

 

「……もしも……」

「ん?」

 

 

 

「もしも、私が遥か未来の仮想世界から来たと言ったとして、貴方はそれを信じますか?」

 

 

 

 木製のスプーンで自分のコップの中身をかき混ぜている彼は、軽く思案顔で視線を上に向けた。

 

「……率直に思った事を言うなら信じ難いな。どうやって時を越えたかの理屈と理論、それによるタイムパラドックスとかが気になるし、何を目的にってなるし」

 

 とは言え、と。彼は言葉を切って私を見る。

 

「もしそれが本当だと仮定するなら、納得いく事もそこそこある」

「え……?」

 

 初手で信じられないと言われると思っていただけに半信半疑状態でも応じてくれた事に驚く。こんな眉唾な話を考慮するだけ有情と言える。

 というか、殆ど情報を明かしてない時点で納得出来る話があるって、一体何のことなのか。

 それは気になったが、後で答えると言って私の話を促された。彼としては纏めて情報を入手して考えを纏めたいのだろう。

 

「私は……この時代から、およそ五万四千年先の未来から来ました。世界という世界、時空という時空を飛んで、無窮に等しい時の流れを渡って――――キリト。私の、愛しい弟。ただ、貴方を救うために」

 

 真っ直ぐ、彼の目を見る。光ある黒い瞳には変化は無い。侮蔑も恐れも。憤怒も憐憫も。彼の瞳は今完全に凪いでいた。私の言葉の価値を、真意を推し量っているのだ。

 体が一瞬震える。

 初めて時を越えた『世界』での失敗が蘇る。たった一言。それでも、その一言は私の全てを否定するくらい辛い拒絶だった。それがまた起きるのではないかと不安が湧き上がる。

 ――ぐっと体に力を入れ、震えそうになるのを堪える。

 まだ話し始めたばかりだ。こんな調子では、彼の信頼は得られない。

 

 ――――私は、私が見て来た『過去』を語った。

 

 *

 

 デスゲームで全てが終わった世界があった。

 人心を操る魔の技術に手を出した男が人々を操り、彼はそれに抵抗した。その果てに起きたのは凄惨な殺し合い。無数に量産される人々の全てを斬り捨て、首謀者の男も斬り捨て――しかし止まらない者達を斬り捨て、命を絶った世界があった。

 生還の希望が潰えた絶望により理性のタガが外れ、淫蕩に耽る背徳の世界があった。

 寸でのところまで男を追い詰め、しかし操られた仲間達が強過ぎて殺された世界があった。

 男を含め仲間達も皆殺しにし、最後には命を絶った世界があった。

 ――『私』が生きた世界は、そのどれでも無い。

 浮遊城は踏破された。九十八階層でのボス戦後、彼に計画をご破算にされた男の復讐により仲間は捕まり、無力化され、精神を改竄され、敵になった。彼ら彼女らはそれを破る事が出来ず、唯一麻痺に掛からなかった彼は徹底抗戦。その末に皆殺しにし、生き残った。

 そして彼は精神を病んだ。

 大切な仲間も、愛する家族も、不可抗力とは言え殺す事を決断した重責が彼の心を追い詰め、精神の均衡を崩したのだ。人の信頼も技術一つでひっくり返る事を知って人間不信にも陥った。過ぎた技術が一人の子供を不幸に貶めた。

 救われないのは、仮令一人になっても――いや、独りになった方がボス戦はスムーズに進んだ事だ。

 危うげな場面など無く百層を踏破した。悲惨な事件から二日後の事だった。

 ――そして、デスゲームでは大量の死者が出た。

 ゲームクリアと同時におよそ三千。その中には当然彼と共に戦っていた青年や少女達も含まれている。ただし《アミュスフィア》を被っていた者、すなわち義姉やアルベリヒ達は生きていた。

 義姉の生を喜ぶ反面、彼女達の死を知った彼は己の無力さを呪うかのように鍛練に打ち込んだ。体を壊せばそれだけ成長が遅れるため量の管理こそしていたが、常人からすればそれでも常軌を逸したものに値する。華奢さは変わらなかったが筋肉は確かに付き、骨はより強固になり、男らしさは増していた。

 比例するように義姉との鍛練も苛烈さを増し、生還から半年経つ頃には一日五十本中勝率五割を維持するようになる。一年経つ頃には七割を維持していた。元々殺しの技術に重点を置いていた彼が現実に於ける殺さないルールの中でその勝率は脅威の一言に尽きる。

 過剰なまでに鍛練に打ち込んだのは、互いが互いを必ず護ると誓っていたから。

 SAO生還者の証言によりキリトの身バレはすぐ発生し、生還者学校では《オリムライチカ》と即座に知れ渡る事になった。《ビーター》として悪名高くPKも行っていた彼を中傷する者は後を絶たず、過激派の中では刺客を差し向ける者もいたほどだ。これらを撃退して身を守るために二人は互いの実力を高める事を早急の目的とした。

 義姉も身バレし、世間に知られる身となったが、中学のものとは言え剣道大会の優勝者である事も知れ渡ったせいか害意は少なかった。むしろ身勝手な同情の方が多かった。当然彼女は同情された途端怒り狂い、過激派と相対した時は大立ち回りを演じた程である。その影響か直接的な干渉は余計少なくなった。誘拐される事もあったが篠ノ之束が即座に救出に向かったので怪我は負わずに済んでいた。

 そんな環境にあったので、VRMMOなんて二人共とっくに辞めてしまっていた。

 《SAO事件》の真相は解明されず、須郷伸之については人体実験を行っていた話から起訴されていたが、それでもVRMMOは依然と変わらず存在していた。戦闘経験を積む環境としては適切だろうそれにはもう二人は関わらないようにしていた。

 ――寂しいと思った事はある。

 SAOでの別れから、私はずっと彼を抱き締める事は無かった。見て、聴く事が出来るのに、触れられない虚しさは永劫付き纏った。バイタルデータを見るだけで満たされる事は無かった。

 しかしVRへのダイブ中は生身の肉体が無防備になる。二人を取り巻く環境でそれは流石に看過できる事では無く、自分も思いを呑み込むしか無かった。

 そうしてゲームクリアから一年弱の月日が流れたある時の事だ。

 悪い意味で世間に顔を知られている二人も流石に食べる物が無いと困るので、買い出しに出かけた日、運悪く女尊男卑団体に所属する女性の暴走事件に巻き込まれた。ISを使って暴れ、男を優先的に、男と一緒にいる女も殺そうとする過激派と二人は対峙した。

 当初女と間違われたもののISのハイパーセンサーにより男性と判明し、更に《オリムライチカ》と知った途端執拗に狙い始めた敵を、キリトも暫くは無手で応戦していたが、一向に警察や国際IS本部の応援が来ず、ジリ貧に陥った。それだけISを扱える事を彼は秘匿したがった。

 どれだけマシンガンやライフルを使っても避けられる事に苛立った女は、一旦ターゲットを変え、義姉を狙う。義弟も慌てて割り込もうとするが、一瞬間に合わなかった。

 直撃はしなかった。

 ただ、近くのコンクリート質の建物に銃弾が当たり、破片が飛び散り――義姉の左目を傷付けた。

 ――それが引き金。

 明らかに失明レベルで左目から血を流し蹲る義姉を見て、義弟は激昂し、秘匿していたISを展開。すぐさま女性を鎮圧に掛かった。要した時間は三秒フラット。三秒でISのエネルギーを枯渇させた。

 ISが解除され、地面に落ちた操縦者を殺そうとしたところで義姉が止めに入らなければ、彼はその人を殺していただろう。世間的に、社会的に抹殺される道を真っ逆さまに転がっていた。それを分かっていたから彼女は止めた。

 ――それでも男性がISを使えた事には変わりなく。

 ブリュンヒルデの実の弟である事、また世界に向けて篠ノ之束が後ろ盾になる声明を発表したため、奇跡的にモルモットになる事はなく、彼はIS学園に強制入学。表面上の安全は保障された。

 義姉は暫く入院した後、篠ノ之博士と関係がある事を危惧され、本人の意向に反してIS学園に入学。目付きの鋭い隻眼姿で、ISの代わりに帯刀を許可されていた事から学園内では恐れられていた。後に編入したドイツ軍人を実力で圧倒して更に距離を取られていたのは意図的にやったようだが。

 義姉はIS操縦者になるつもりは毛頭無かったが、篠ノ之博士が護身用にと持たせたため、一応専用機持ちとして登録されていた。

 ――疎まれる義姉弟は、種々様々な感情を向けられた。

 義姉と剣道で覇を競っていた者とは対抗心から衝突した。

 イギリス代表候補から悪し様に言われ、決闘した後、絶縁状態。

 中国代表候補とは義弟の事で関係が深まり、訓練仲間として長い付き合いに。

 フランス代表候補はハニートラップを仕掛け、義姉の逆鱗に触れて縛に付く。

 ドイツ代表候補の軍人とは『力』について衝突し、とある試合で義弟が殺した。

 日本代表候補の少女とは似た立場から意気投合し、訓練仲間となった。

 日本代表の少女とは『裏』の関係で義弟が関わり、義姉とは牽制し合う仲となる。

 クラスメイトからは畏怖された。それでも行事の度に起きる騒動の際、少年が人助けをしながら戦った事で親しくなろうとする者がいた。

 本当に種々様々。十人十色。親しくなった者がいれば無関係の者、敵対した者がいた。

 

 ――IS学園在籍中は、事件と騒動ばかり。

 

 一年では出会いと事件。行事の度に発生する事件に巻き込まれ、人が死に、あるいは絆を結ぶ。

 二年では世界規模の戦い。宇宙へはばたくための技術で戦争が起こり、二人は勿論、多くの操縦者がそれに駆り出された。世界の敵《亡国機業》。その目的が何だったのか、それを知るのはリーダーと直接対面した彼女しか知り得ない。その戦争で多くの者が死に、専用機持ちで生き残ったのは彼のみとなる。

 三年では星の戦い。外宇宙から飛来した謎の知的生命体による侵攻。防ぐ手段も無い中で、唯一叩き出された方法が実行され――彼は、その命を散らし、星を救った。

 

 *

 

「――これが、私……ペルソナ・ヴァベルとして生きる《ユイ》の世界での出来事です」

 

 たった四年。しかし、その四年間で世界は激動の時代を迎える。SAOというデスゲームはその序章に過ぎないのだ。

 

「命と引き換えに星を救った貴方は、賞賛はされました……ですが、貴方を認めない者達が多く、後の世に功績は残されなかった」

 

 ――出来損ないの命で世界が救われたなら安いものだ。

 そう哂っていた者達は多くいた。一部は本当に賞賛していたが、そういった言葉を口にした者は把握した限りでも碌な目にあっていない。結果彼の功績は後の世に残されず、《大罪人》という謎の評価が歴史に残された。

 

「作戦決行の日。私は、貴方を止められなかった……それがずっと後悔だった」

 

 長く話していたせいか。何時の間にか冷め切ったコップを傾け、コーヒーを口に含む。ひんやりと冷たい液体は暖かい時と打って変わって苦みを伝えて来た。

 

「ずっと。五万四千年の間、ずっと。世界が代わり、人類が進化する間、私は貴方の体にあったコアの中でずっとあの時の事を悔いていた……私の『時間』は、貴方を止められず送り出すしか無かったあの日からずっと止まっているんです」

 

 ――伝わる事など、ある筈ないのに。

 気付けば私は、『彼』を重ねて言葉を発していた。その顔に傷は無い。首筋も、腕も、手も、綺麗な乳白の肌を保っている。違うと分かっているのに、それでも重なる。

 真摯に受け止めてくれる瞳は同じだった。

 

「ずっとずっと私は己の無力を呪ってきました。貴方を助けられたなら……――アルベリヒを、殺せていたら! 貴方は絶望する事など無かったというのに!」

 

 滲む視界。頬を濡らす雫。ぽろぽろと床に落ち、ぱたた、と染みを作ってすぐに消えていく。

 

「だから! ――――……だから、時を越えたんです。コアに宿っていた私は膨大な演算により物理法則を突き破り、時空を捻じ曲げ、ゲートホールを開いて、過去に跳びました。五万年以上経った地球の新人類は亜空間航空技術を作ってましたから、それの応用で」

「……凄いな、未来人」

 

 思わず、といった風に彼がぽつりと言った。端的な感想に何故か笑みが浮かぶ。

 

「ふふ。そうですね。この時代から見れば、未来は魔法みたいな事が多いですよ」

 

 発達し過ぎた科学は、時に魔法に思えるような事も可能としてしまうと聞いた事がある。未来を見て来て思ったが、それは確かに真実を突いた言葉だと実感する。

 

「ああ、でもISのように単独で宇宙に飛ぶパワードスーツの技術は無かったですね。ロボットや宇宙戦艦、宇宙ステーションを要塞化したものは沢山ありましたが」

「五万年以上の先取りをする束博士の方が凄かった」

「本当ですね」

 

 実際ISコアも技術や理論さえあれば亜空間航空や時間遡行を可能とするため、未来でもオーバーテクノロジーとされる程に超貴重な代物だ。

 自分がその理論を知っているせいでリアルに戻ったらすぐ義弟が可能な辺りが恐ろしい。

 

「ともあれ、それで私は過去へ跳びました……それでも貴方を救えなかった」

「……うん?」

「貴方を見られて、興奮していた私は後先考えず全てを打ち明け……貴方に、拒絶されたんです」

 

 和やかに微笑んでいた彼の表情が凍り付き、徐々に引き攣っていくのを申し訳なく思いながら、事実を述べる。私はこの世界に一発で来たのではない事も言っておかなければならないのだ。

 

「拒絶された事に絶望し、我を失っている間に、SAOは終わっていました……全滅、という形で」

「な……」

「失敗を悟った私は、軽率な行動を慎む事を胸に刻んで次へ行きました。身分を隠して味方を強化すれば良いと踏んで……でも、それも失敗。アルベリヒに操られた彼らの強さに対応し切れず、貴方は男と相討ちの形で殺され、また全滅です」

 

 言葉も無いのか、少年は絶句したままで固まっている。

 ……これ以上別の自身の死に様を聞かせるのは酷だと思い、省略する事にした。

 

「そうやって、無数の失敗と経験を積み重ねました」

「……どれくらい、戻ったんだ……?」

「……少なくとも、一京以上は」

「んな……っ」

 

 また絶句する少年。確かにそれくらいループしていれば絶句もするか。同じ数だけ自身の死を見て、それでも諦めず、幾度となく時を遡ってきたこの狂気に言葉を喪うのは当然だ。

 

「怖い、ですよね。一回目の貴方に言われました、『狂ってる』と。私も自覚はあります。貴方の事が愛しくて、大切で、幸せに生きて欲しい想いに狂ってる。それだけの死を見て来たのに続けてるのは狂気の沙汰だと分かってるんです」

 

 ――でも、理解されなくても構わない。

 

「それでもいい。恐れられても、もう拒絶されてもいい……」

 

 拒絶される事は怖い。でも、もうそれでも良いと思っている。

 

「貴方が幸せに生きてくれるなら、それでいい」

 

 そう、《ペルソナ・ヴァベル()》の原点はそこにある。止められず、見殺しにした私の原罪。私がするべき贖罪。願うべき未来。

 私は、私の全てを賭してでも、彼を救う義務がある。

 最初は権利だった。だがもうこれは義務だ。元居た世界を裏切り、元居た世界の彼の想いと覚悟を踏み躙っての行動を、もう中途半端では止める訳にはいかない。

 

「エゴだと、独り善がりだと言ってくれても構わない。それでも……私は、貴方の事を愛してるからこそ、貴方には幸せに生きて欲しいんです」

 

 コップをテーブルに置き、改めて彼の黒い目を見て。

 

「――――貴方の力にならせて下さい」

 

 ――心の底から、万感の想いを込めて告げた。

 

 *

 

 ……それから、どれくらいの間、沈黙が続いただろうか。気付けば窓の外は完全に日が昇っており、相当長く話し込んでいた事が察せる。最早灯り無しでも部屋の中が明るいくらいだ。

 彼はソファに座り、やや前のめりで、両肘を両膝に着き、両手で額を支えていた。

 

「ヴァベルは……いや、ユイ姉は、それほど俺の事を想ってくれていたという事か。時を越え、無窮に等しい時間を生きて、世界を渡るのと同等の『俺』の死を見て来て、それでも諦めなくて。それも全て、俺を救うためだったと」

「はい」

 

 声音からは彼の感情を読み取れない。平坦で、淡々としていて、大きくも小さくも無い無感情な声だ。だからどう思っているかも予想がつかない。

 ――ふと、彼が顔を上げた。

 無とは言えないが、感情の希薄な表情をしている。

 

「ユイ姉」

「はい」

「頭、出して」

「……? こう、ですか?」

 

 いきなり脈絡のない事を言われたので首を傾げつつ、ちょっと腰を上げ、言われた通りに頭を差し出す。すると彼もまた身を乗り出して――

 

「――ありがとう」

 

 ――優しく、小さな手で頭を撫でられた。

 頭を行ったり来たりする優しい感触が伝わって来る。ふと顔を上げたら――キリトは、泣き笑いを浮かべていた。

 

「別世界のユイ姉も『俺』をそこまで想ってくれてた事、嬉しいよ。そこまで頑張ってくれた事も。ユイ姉が居なかったら、《ホロウ・エリア》の探索はもっと遅れてて、皆を助け出すのも遅くなって、取り返しがつかなくなってた」

 

 ――だから、ありがとう。

 そうお礼を言われて……ぶわ、と時間差で涙が浮かんだ。テーブルに突いた腕がぷるぷる震えて、へたり込む。上手く力が入らない。起き上がろうとするけど頭を撫でられる感触でそれも抜けていく。

 

「う、ぁ……っ!」

 

 そしてぼろぼろと、大粒の涙が流れる。溢れる。止まる兆しも無い。きっと見せられないくらい酷い顔になってるだろうけど、今はどうでもよかった。

 

 ――ずっとずっと、独りで頑張って来た。

 

 何をするにもずっと独り。理解者が欲しかった。希望が欲しかった。先の見えない暗闇を照らす光が欲しかった。

 嗚呼、と悟る。

 これまでの私は、原初の時と同じ。デスゲームで人の心を癒す事が仕事なのに、人と接触する事を禁じられ、闇の中で責務と存在しない権利の葛藤で苦しんだ暗闇と。そこに光を齎した少年を、私は求めていたのだ。

 ――救いたい想いは本物だった。

 でも、きっと……私は、光を喪った事で、また暗闇に戻っていた。だから求めた。救う手段を以て光を守ろうとした。

 ――なんて、醜いのだろうか。

 愛しているからこそ救いたかった。それなのに、私は救われたいから光を求めていたなんて。

 ……いや、どっちが先かは、もう分からない。確かなのは、私は彼を愛しているという事実。それだけは絶対不変だ。光を求めていたとしても、無窮の時の中でずっと忘れず想い続けた事もまた事実なのだ。

 

 

 

 ――手を伸ばす。

 

 

 

 私の手は、暖かな肌に触れられた。

 

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 前半キリト視点は場繋ぎ的な感じ。いきなり入るとアレなので、キリト視点からヴァベルとの会話をちょっと描写。やっぱ視点を一つの会話の中で変えると、どのキャラがどう見てるのかって書けるから楽しい(尚早よクリアしろとせっつかれてる)

 コーヒーは、ほら、キリトの口説きアイテムだから(違う)

 実際、緊張を和らげるなら甘くて暖かい飲み物が最適です。夜寝る前とかにホットコーヒーとかレモンティー飲むと気が休まります。ただしコーヒーはカフェインあるのでダメです(オイ)

 後半ヴァベル視点は、これまでで描写して来たSAO内の事件概要と、別世界キリトがどうしてIS学園に行ったか。

 ヴァベル世界キリトは生還後、VRMMOから離れたのでALOとかGGOとか行ってません。この世界線だと間違いなく《ザ・シード》ないのでそもそもGGOは発生し得ないのですが(ゲーム世界線だとリアリゼーションで《ザ・シード》が手に入り、その後にGGOが誕生する) VRMMOでの改革とか革命とか製作支援パッケージが無いせいでアリシゼーション編も起き得ない。アレはシュリンク版【カーディナル・システム】が搭載された支援パッケージ《ザ・シード》による連結体ネットワークがあって初めて製作可能なのでね。

 なのでヴァベル世界線だとアンダーワールドは存在しない。だから描写に無かった。

 加えてALOからも離れるので、和人と直葉は暇さえあれば鍛練に勤しむという修羅に。なまじ操られたとは言え仲間を自分で殺したキリトは精神が追い詰められてるので鍛練してないと発狂する。直葉もそれを分かってるので付き合う。

 IS学園には、女尊男卑風潮の操縦者が暴れて、それに対抗して展開してバレる(テンプレ)

 直葉が狙われるくらいじゃ覚悟弱いので、隻眼になっていただきました。隻眼剣士キャラは強いからね。失明してるけど外したら霊圧ヤバそう()

 尚、直葉お姉ちゃんはIS学園だと剣鬼と言われてた裏設定。荒んだせいで目付き悪い上に眼帯で帯刀してたらそら恐いわ。

 ループについてはかなり端折りました。語り出したらキリが無いので。人が想像し得る(キリトが最終的に死ぬ)あらゆるIFがループ世界だと思って下さればオッケーです。黙して語れ、というやつです(手抜きと言わない)

 そして最後。頭なでなでされて泣き崩れたヴァベルが手を伸ばし、キリトの肌に触れる描写。

 ……漸くヴァベルにも救い()が訪れたんだよ、という描写です。これまでヴァベル視点で幾度もホロウィンドウに手を伸ばして、触れられない描写をしてました。それが漸く触れた事で、光を得られた、と。

 ――これで、一応ヴァベルの暴露回はほぼ完了。

 というかヴァベル撃墜回?(既に堕ちてるけど)

 あとは皆への説明(あるかどうか)の時とか、随時キャラ視点で補完される感じです。一度にどばっと出しても理解し切れないですし、覚えきれないし。『あの時話した~』やるよりは分かりやすくなるので。

 今後も本作をよろしくお願い致します。

 では!

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