インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 今話の文字数は少ないです。約八千(普段の半分程度)です。何でそうなったかは後書きもしくは活動報告。

 相変わらず進まないけどちゃんと描写しとかないと、特に原典ゲームしてない人からしたら訳分からんだろうからネ!

 と言う訳で説明回。伏線回とも言う。

 視点はオールユイ。

 ではどうぞ。




第百十九章 ~虚ろの覚悟~

 

 

 【断崖空洞ジリオギア】の外観はクレーター状の大穴であり、穴底には蒼白い光の渦が発生しているという不思議な構造をしている。穴の外壁に沿うよう――つまりは地下――に作られている遺跡を進んでいくタイプの大型ダンジョンだ。遺跡の上層下層の行き来は当然階段で行うのだが、通路によっては階下で通れないため一度上階を経由するなど、立体構造を上手く使った構造である。

 その奥深くに鎮座する一つの転移石。

 【ホロウ・エリア管理区】に入る為に使う逆四角錐ではなく、《アインクラッド》側にも多く存在する転移石だ。ダンジョン内で頻繁に見かけるタイプである事から、ここから先に進むならコレを使う必要があるのだと理解する。

 先頭を進んでいた黒尽くめの剣士はそれを当然理解しており、後続の自分達に振り返り、一度頷いてから転移していった。

 続けて私達も転移する。

 

 ――――転移後、視界に広がったのは蒼白い光の渦。

 

 大穴の底近くに転移したようだった。上を見れば青空が見える事からも間違いない。

 ただ完全に底にあるという訳でもない。光の渦の中心にも巨大な転移石があり、そこへ続く道が続いているが、この道の両側には壁が無い。少し足を踏み外せば真っ逆さまに落ちる空中回廊なのだ。

 不幸中の幸いなのはMobが一体も居ない事か。

 どうやらポップ設定がされていないエリアらしい。休息を取るとしたらこの部屋が比較的安全かもしれない。

 

「……行くぞ」

 

 周囲の警戒をしていたキーは、私達が続けて転移して来たのを見てから短く言い、先に進みだした。

 不愛想な印象を受けるが、それは焦燥を必死に押し殺しているからだと分かる。彼から流れて来る感情がそれだから。黒騎士もヴァベルも、黒馬も分かっているのか、無言で彼の後を追う。

 ヴァベルは知らないが、黒騎士は彼と過去を同じくする者だ。彼の心情を最も理解しているのは恐らく黒騎士。だから何も言葉を発さない。

 ……そうするだけの余力がないだけなのかもしれないが。

 数人の靴音と黒馬の蹄の音が響く。上方が開いているとは言え、密閉空間に近い大穴ではそれらすら反響する。

 殷々と足音を響かせながら光の渦に近付けば、風やコートがたなびかない点から無風であるにも関わらずゴウゴウと重い音が耳朶を打つ。

 それを意に介さず進んだ彼は、また一度振り返り、頷いてから転移した。

 

 ――――直後、剣音が耳を劈く。

 

 転移石を囲むように円形に展開されている鋼色の壁。それは彼が召喚し、床に突き立てた鋼鉄の壁であり、彼の意思ある限り破れる事が無い無敵の守り。

 剣音の響きはその外側から聞こえている。

 刃を交えるのは黒尽くめの剣士達。一方はフードを目深に被っていたり、仮面を着けているなどで素顔が分からない状態だが、少し前に見たばかりの顔ぶれだったからその者達が《笑う棺桶》だとすぐに気付いた。勿論剣を交えているもう一方は【黒の剣士】である。

 どうやら転移直後の隙を狙われる事を危惧して剣の防壁を築いてくれたようだ。

 私達が転移して来たのを見て、《笑う棺桶》の者達の間にざわめきが起きる。その視線は傍らにいるスレイブに向けられていた。

 

「お、オイオイ、どういう事だよ?! 三人目?!」

「ヘッドと一緒に行った奴と、さっき邪魔して来たヤツと……え、は、えェ?!」

 

 どうやらまた増えたから混乱しているらしい。

 自分が把握している限りではPoHとホロウキリトはこの階層におり、この階層が《笑う棺桶》にとって最終防衛線と言える。だからこそ更に混乱しているのだ。自分達が把握しているだけでも、黒尽くめの少年剣士が少なくとも三人も存在しているという事実に。

 スレイブの時の反応からして《ホロウ・エリア》のルールについて彼らはほぼ知らないのだろう。

 知らない方が普通だ。あちらで死ぬ事が《ホロウ・エリア》に来る条件、加えてそうなった時はこちらにいる《ホロウプレイヤー》のアバターに移るのだから、同じ人物が二人いる状況にはなり得ない。なってしまっている現状がおかしいのである。

 故に彼らの反応は極めて正しい。

 そして、その反応を見て――――彼らが、PoHから何も教えられていない事を把握する。

 

 ――――ホロウのキーがサチさん達を落とす事は、PoHとで示し合った事だった。

 

 昨日の事だ。

 コボルドロードの強化個体を倒した事で【断崖空洞ジリオギア】への道を開いた私達は、そのボス部屋で夜を明かす事にした。そこはモンスターのリポップ地帯ではなかったからだ。

 とは言えそれでも《圏外》。《笑う棺桶》の存在だけでなく、ケイタ、こちらに来ているだろうアキトや《ビーター》に怨みがあるだろう者達が何時来るかも分からない以上、気は抜けず、夜警の番をする必要があった。

 そこで人間であるサチさんとルクスさんには休んでもらい、夜の番をホロウのキーと私が一緒にする事になった。自分はネックレスの中に入って索敵範囲を広げ、ホロウのキーは周囲を歩き回り、警戒する。

 

 PoHが接触して来たのはその時だった。

 

 少し足を伸ばし、【断崖空洞ジリオギア】側の洞窟を進んだところでPoHが待ち受けていたのだ。丁度こちらへ来るところだったからサチさん達が居る場所で鉢合わせにならなくてよかったと安堵した覚えがある。

 PoHの姿を見て咄嗟に構えたホロウのキー。

 

『まァ待て、そう殺気立つなって。今回は戦いに来た訳じゃねェよ』

 

 降参するかのように両手を持ち上げおどけたように言う男。

 ホロウのキーはやや訝しむような面持ちで、背中に吊る黒剣の柄を掴んだまま動きを止めた。視線で先を促したのだ。

 その様子から会話が出来ると判断したPoHは、両手を下ろした。

 

『今回はお前ェと話をしに来たんだ』

『……俺には話す事なんて無い』

『ククッ……まぁ、そう言うなって。お前ェにも益のある話だ。訊くだけ訊けよ』

 

 目深に被ったフードの奥で喉を鳴らす男の物言いに、彼は顔を顰めた。何やら企んでいる雰囲気なのはすぐ分かったから今すぐに斬ろうかどうか迷っているようだ。

 暫く黙っていた彼は、柄から手を離した。

 話を聞く方を選択したらしい。

 

『素直なのは良い事だぜェ?』

『……さっさと話せ。あまり長い事仲間から離れる訳にはいかない』

『その仲間ってのは、アイツとやり合った時に一緒にいた連中の事か』

『……』

 

 PoHが言っている『アイツ』とは、ケイタの事。その時一緒に居たのは私とルクスさん、レインさん、フィリアさんだったから、彼女達の事を言っているのだと察しがついた。

 しかし、その時居たキーはオリジナルであり、ホロウの方では無い。

 ホロウキリトがそれを知っている筈が無く、応じる声を出せないのは自明の利だった。それでも悟られないよう表情を偽っているのは流石だ。

 それでもPoHは自分で納得したらしく、やっぱりな、と言った。

 

『……その質問とそっちの話に関連性はあるのか?』

『ああ、あるさ、大アリだ。この話を聞けばお前ェは必ず俺に協力すると断言出来るぜ』

『俺が……?』

『そうだ。お前ェ、『そのままだと何れ死ぬ』ってNPCのガキから聞いてねェか?』

『……いや』

『そうか。ま、お前ェに心労掛けたくないと思って伝えなかったのかもな。NPCのクセに随分と健気じゃねェか、なぁ?』

『ユイ姉を、愚弄するな』

 

 クククッ、と嘲るような笑声と共に言われた事に、彼は苛立ち混じりに反論した。仮令現身になっていようと自分を想ってくれているという事実が嬉しかった。

 彼から発せられた怒気や殺気は、きっと生半なものではなかっただろう。

 

『ユイ、姉、ねぇ……? アレを姉扱いするくれェ、お前ェにとっちゃ大事な存在って訳か』

 

 しかしPoHは意に介した風もなく――――しかしおどけたような態度は消え、真面目な声音になった。その態度の変化に違和感を覚えたらしい少年が再度訝しむ表情を浮かべる。

 

『何だ』

 

『――――キリトよ、お前ェは選ばなきゃならねェ。連中を取るか、NPCを取るかだ』

 

『……何?』

 

 唐突に出された選択肢。それに当然ながら疑問を呈する少年に、PoHは表情こそ見えないが真面目な声音を続けた。

 

『お前ェ、コレについては知ってるか?』

 

 そう言うと共に右手のグローブを外した男は、手の甲を見せて来た。男の日焼けした手の甲には金色の円環に逆十字の紋様、すなわち《高位テストプレイヤー権限》の紋様が浮かんでいた。

 どうやらPoHがその権限を有しているというキーの予想は当たっていたらしい。

 

『【ホロウ・エリア管理区】に入る為のモノだな……お前も持ってたのか』

『ああ。お前ェに殺されて、《ホロウ・エリア》に来て以降、特に目的も無く殺し続けてた俺に気付けば宿ってた紋様だ。暫くしてから漸くどういうものか理解した俺は、早速コレを使って、ある計画を進め始めた』

『計画……それは?』

 

『――――《ホロウ・エリア》のデータを、《アインクラッド》にアップデートする事だ』

 

 ――――思考が止まった。

 

 それは一瞬だったが、しかし意味を理解するまでに一瞬の空白が生まれた。AIである私にとってそうなる事は極めて稀である。

 それだけ、PoHが行おうとしている事は異常なものだったのだ。

 

『……なるほど。それで、さっきの選択肢か』

『そうだぜ』

 

 その異常な計画を、ホロウのキーはアッサリと受け容れ、意味を理解し、意図を推察までしてのけた。この辺は人の闇の部分をどれだけ知っているかの経験値の差なのだろう。

 PoHが行おうとしているアップデート。

 《ホロウ・エリア》ではオリジナルがいる《ホロウプレイヤー》は一時的に消去される設定になっている。

 それを《アインクラッド》に反映されれば――――《ホロウプレイヤー》がいるオリジナルは消滅する、という事になる。

 そうなればこれまでキーが殺めて来たオリジナルのオレンジやレッドプレイヤーが復活し、生き延びて来たオリジナルプレイヤーが意思の薄いホロウに置き換わる。それではゲームクリアなど夢のまた夢である。彼が手に掛けて来たプレイヤー達は、ゲームクリアの障害になり得るからこそ殺されたのだ。それが復活し、浮遊城を席巻してしまっては意味が無くなってしまう。

 つまりPoHが先に出した選択肢は、PoHに協力してアップデートを行う事で浮遊城に舞い戻りゲームクリアを目指すか、袂を分かって死ぬまで《ホロウ・エリア》側で自分と過ごすか、どちらかを選べという事。

 

 ――――だが、妙だ。

 

 それでは先に訊いた『連中』、すなわちサチさん達の事を話題に挙げない筈。《ホロウ・エリア》に居るプレイヤーは、イコール浮遊城で死んだプレイヤーという認識だと話題に挙げようとも思わない筈なのだ。

 

『【絶剣】はあっちとこっちを行き来してんだろ? あの槍使いの女もまだ生きてるみてェだし、ちっと前に見た赤と青の女コンビもこっちに転移して来たとか言ってたしな』

『……どうしてサチが生存状態にあると知ってる』

『フレンドリストでまだグレーアウトしてないってアイツからしこたま聞かされてたからな。どうやらフレンドリストにあるプレイヤーの生存状態はこっちに居ても反映されるらしいぜ?』

『そうか……』

 

 PoHから与えられた情報で、どうしてサチさん達が生きている事を知っていたのかは理解出来た。そういう理屈らしい。

 しかし、どうやらPoHはキーが死んだと思っているようだ。

 確かに今目の前にいる【黒の剣士】はホロウだが、それはアバターだけでなく意識の方もホロウ、すなわちAIだ。仮にPoHの提案に乗って浮遊城に降り立ち、クリアを目指したところで、結局彼は消滅する定めにあるのだ、意味がないとまでは言わないが限りなく益の無い話だ。

 

 ――――だが。

 

『……そのアップデートとやらを成功させれば、浮遊城に行けるんだな?』

 

 《Kirito》という少年は、己の益を度外視し、他者の益になる事を一番に考えて行動する自己犠牲者だ。結果的に自分が消滅する結果になろうともその決断を取るのは予想出来る事ではあった。

 

 とは言えそれは、ここに居る少年がオリジナルであればの話。

 

 ホロウとしてこの提案を受けるのはおかしい。

 まだ確実とは言えないが、そのアップデートを成功させてしまえば現在《アインクラッド》で生存しているプレイヤー――――すなわちサチさんを始め、《攻略組》を含むおよそ七千人のプレイヤーが一気に死亡する事になる。実際はならないかもしれないが、その可能性はあるのだ。

 そして、その可能性がある以上、彼がその選択を取る事はあり得ない。

 《Kirito》という少年はサチさんに罪悪感を抱き続けている。それはオリジナルであろうと、ホロウであろうと同じだ。探索中もレベリングの手伝いはしていたが、NMやボスモンスターとの戦いには万が一が起きないよう距離を取らせる程にホロウも過保護な部分があった。

 生者であり、生還する可能性が高い位置にいる彼女を死なせる訳にはいかないと、そう奮起していたのだろう。

 そんなホロウキリトが、その提案を受けるのは土台おかしな話。その選択が彼女達を危ぶめるものであるとは承知の筈なのだ。

 

「ホロウのキー、そのアップデートを成功させてしまえば最悪生存状態の方々を死なせてしまう事になります。それを分かっているのですか」

 

『――――分かってる。計画の全容を知るには一先ず賛同の姿勢を見せる必要があるからしているだけ。むしろ止める為に、一度潜り込む必要があるんだ』

 

 私の、やや焦慮を滲ませる問い掛けに、彼は落ち着いた意思の声を返して来た。同じAIだからこそ同じロジックで出来る念話のような応答。

 そのやり取りで訊けた考えの一部で、一先ず安堵する事が出来た。

 ……ホロウのキーには悪いと分かっているけれど。

 仮にオリジナルとホロウのどちらを取るかと問われた時、きっとオリジナルの義弟の方を生き延びさせる選択を取る。今まで苦しんできた彼は、これからも生き、幸せになる権利があるのだ。こんな世界で死んでしまっては報われない。

 ホロウのキーは、どう足掻いても消える未来しかない。

 でもオリジナルのキーには、足掻き抜けば生き延びる未来がある。

 その差故に、私にそう決断させるのだ。

 

 ――――酷い義姉ですね、私は……

 

 人間かそうでないかで判断している私は、きっと酷い姉だ。片方を切り捨てなければならない以上、先があるからと言って決めたのだ。

 でも、それも分かった上で、ホロウのキーは皆の益になるよう動いている。

 自分を押し殺して動く様は正しく説教される以前の義弟そのものだ。

 

『だが、サチ達はどうするつもりだ。《ホロウ・エリア》側の俺達とは相容れない』

『なぁに、事が終わるまで大人しくしてもらえばいいんだよ。こっちに居ればアイツらは死なないんだ。だったら……こっちに閉じ込めちまえば、済む話だろ?』

 

 邪悪と、そう誰もが評するだろう提案を愉悦の笑みで言ったPoHがした提案、それがすなわち穴に突き落とすというものだった。場所はPoHが作ったマッピングデータに付けられた印の部分。そこまで自然な形で誘導し、宝箱を開け、部屋から出る時に思いきり突き飛ばす事で階下へ落とすというもの。

 詳しい話はそれをしてから、と言って話を切り上げたPoHも、まだ完全にホロウのキーの言葉を信用した訳では無かったようだ。本当に協力するつもりなのか判断する為に大事な仲間を突き落とさせようとしているのだ。

 PoHは完璧に《ホロウ・エリア》側の住人だから、このアップデートを止められる訳にはいかない。

 だからこそ最大の障害になり得る彼を引き入れようと動いた。

 立ち去るPoHを見ながら、そう推察する。

 

「キー……どうする、つもりなのですか……?」

 

 間違いなく、サチさん達を落とす階下のモンスター達は途轍もなく強いだろう。

 そもそも平均レベルが三桁に余裕で達している《ホロウ・エリア》だ、エリアを進むにつれてレベルの下限が徐々に上がっていっているのも相俟って、仮令下限レベルのモンスターしか居なかろうと補給も無しにサチさん達が生き残れるとは思えない。加えて突き落として以降は放置するプランからしても転移結晶による脱出も出来ないと見て良いだろう。

 そんなところへ落としでもすれば、彼女達は確実に死ぬ。それは彼にとって決して招いてはならない事態だ。

 

『――――ユイ姉。サチ達を、頼めるか……?』

 

 それに対し、彼は私を付ける事で解決する事にした。

 ペンダントに入っている状態でサチさん達に渡されていれば、突き落とされるまで姿を隠していられる。それであればPoHも警戒はあまりしないだろう。罷り間違ってもサチさん達が生き残れるとはとても思えない筈だ。

 私が居れば、紋様を持っていないサチさん達も管理区へ戻れる。加えてレベルもキーと同等になっているから戦力としても重用される。

 これ以上は無い解決策とは言えた。

 ただ、気になる事が一つ。

 

「サチさん達に話すつもりは……」

『――――無い。俺は、ホロウ、《Kirito》というプレイヤーのニセモノだ』

「ホロウだから……オリジナルの彼女達に気を遣わない、と?」

『――――……本物が居るのに、ニセモノの俺と親しくなったら困るのは明白だ。憂いなく現実に還って欲しいんだ』

 

 彼女達に話すつもりは無い。

 その理由は、自分と親しくすると、将来ゲームクリアが近付くにつれて苦しくなるだろうから。

 ホロウは《ホロウ・エリア》がある限り消滅出来ない存在だ。だから自分が死んで関係を終わらせるとか、そういう選択を取る事は出来ない。なら、そもそも会おうとか、そう思える関係にならないようにすればいい。裏切るとか、突き放すとかで。

 ……でも、それは。

 

「キー……あなたは、それで……それで良いのですか……?」

 

 裏切りは、彼が最も嫌う行為の一つ。

 ホロウとは言え根幹が同じである以上はそれも同じ筈なのに、敢えてそれをしようとしている。己を殺し、削ってまで、他者の為を想って。

 確かに、彼は私と同じSAOサーバーに存在し、依存するデータの一つ。クリア後は消去される可能性が高い。

 でも、それまでは生きている。

 ――――生きているのだ、データである私達も。

 私は彼への想いを伝えるつもりは無い。胸に秘めてこれからも接していくつもりだ。それはとても苦しいし、彼女達の触れ合いを見れば悔しくなるけれど、彼を苦しめたくないから胸に秘めている。

 それでも関係を壊すつもりはない。

 だってそんな事をすれば、間違いなくお互い苦しくなるから。

 この世界が終わった後、彼はきっと悔やみ、苦しみ続けるから。

 

 ――――あなたがしようとしている事は、そういう(死ぬまで苦しむ)事なのです。

 

 そう、伝えた。

 

『――――分かってる……でも、もう、()めたんだ。本物と遜色ない記憶や精神を持ってる俺がするべき事なんだ。ホロウとして……ゲームクリアまでこっち側で戦う事は、俺にだけ出来る事だから。『俺』には、出来ない事だから……』

 

 けれど、彼の意志はとても固くて、私の意見では覆す事が出来なかった。

 あのリー姉にすら無理だったのだ。恐らくそうなるだろうと予想していたから、落胆は大きくはないけれど。

 

 

 

 幼い子供の精神が他者の為に尽くす決意を見るのは。

 

 

 

 どうしようもなく、胸が痛むものである。

 

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 PoHが《ホロウ・エリア》突入時点から画策していたのはこういう事。

 キリトが生きているなら実行に移さなかった。でもルクスに確認取った時に、キリトも死んだって勘違いしたせいで、実行に移し始めた。そのアップデートも『キリトじゃないとゲームクリア出来ない』という前提でしているため、何が何でも生還しようと考え抜いた末の策。

 オイ、ある意味PoHの方が須郷やキバオウよりキリトの為になる行動してるんだが(困惑)

 まぁ、PoHのそれは勘違いなんですが。話してる相手はホロウのキリトだけど、オリジナル生きてるし。ニホンゴムツカシイネ!(黒笑)

 サチ達を突き落としたホロウキリトは、敢えて『本物のキリト』なら決してしない裏切り行為をする事で嫌われるよう仕向けつつ、《ホロウ・エリア》に潜む悪意(今回の場合はPoHやアキトなど)のクリアまで終わらぬ駆除行為に勤しむ覚悟を固めていたよっていうお話。

 第百話のリーファ視点で描写しましたが、何れ消滅する定めにあるホロウは、オリジナルのキリトと絶対に相容れない存在です。意思とか意見では無く存在的に。

 ホロウを生かそうとすればオリジナルは死ななければならない(ゲームクリアならず)

 オリジナルを生かすならゲームクリアでホロウが消えなければならない。

 そういう先を視ていたホロウだからこそ、苦しくならないように嫌われるよう仕向けた。なまじサチを裏切るなんて、本作キリトが絶対しない事の一つ。裏切るくらいなら自殺するレベルで《月夜の黒猫団》の事を引き摺ってる。

 だから前話でユウキすらホロウの思考を見抜けなかった。

 まぁ、ユイをペンダントに入れて渡していた部分に違和感を覚えているのですが。

 ……さて、これをオリジナルキリトはどう思っているかなー(黒笑)

 ――――オリジナルとコピーやレプリカやクローンのバトルって凄く燃えると思いませんか!(愉悦)

 そんな訳で最近はアリシゼーション編の原作を読み返しております(鬼畜)





 ……それから、今話どうしてこの文字数なのか。

 ぶっちゃけるとメッセージで本作を超絶批判されたから。批評じゃなく、批判。何度か指摘点に言い返したけどああ言えばこう言うで会話のキャッチボールがマトモに出来てなかった。その一部は活動報告で愚痴ってるので興味があったらどうぞ。

 それで、何か執筆意欲が大きく殺がれまして……

 推薦して頂いたのはとても光栄で、嬉しいんですが、同時にああいうのも呼び込むんだなって……一長一短です。難しい。

 ともあれこの状態だと一番盛り上がる戦闘シーン(会話込み)がつまらなくなるなと思って、文字数を減らしました。丁度良い区切りで。



 ――――喜べ諸君、次話は戦闘あるぞ(全てとは言わないが)



 意欲回復するまで今話みたいにダイジェストや説明調になりそうですが、それでも良ければ今後もよろしくお願い致します。

 ……今話の良い所とか、改善点を教えてくれると、洩れなく執筆意欲とスピード上昇バフが掛かります。



 理由なきヒハン、ダメ絶対!



 では、次話にてお会いしましょう。



 最近PoHにチャクラムか伸縮棒持たせて『記憶したか?』って言わせたい衝動に襲われてる。一夏とPoHの声優考えたら……イケるよね?!(ダメダロ)



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