骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 DMMO-RPG『ユグドラシル』のサービス最終日に、謎の現象によってゲームキャラの姿――骸骨じみた――で未知の異世界へ転移してしまった鈴木悟―モモンガ―は、いくつもの理由から自身が長を務めていたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の名を名乗り始める。
 ギルド拠点、ナザリック地下大墳墓ごと転移してから八日間の出来事についてアインズは自身の執務室で、『守護者統括』という地位を与えられた純白のドレスを纏う非の打ち所のない絶世の美女―として作られたNPC―であるアルベドと情報の摺り合わせを行おうとしていた。


幕間「死の超越者サイドその1」

「周辺の調査に出かけているアウラの調査に拠りますと、現在プレイヤーとの接触はなく、調査範囲をナザリックの周囲に広がる大森林に拡大中。とのことです。 それから、先日捕獲したニグンという男はスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典の指揮官でした」

 

 「スレイン法国か、ゴブリン、オーガ、リザードマン等の他の種族に打ち勝つべく人間の団結を唱える宗教国家。とか言っていたな。今はこちらから接触するのは危険かも知れないな。」

 「では次に、あの村に関してはどのように?」

 「カルネ村は唯一の足がかりであり、友好関係の構築に成功した村だ。不仲になることは極力避けろ。」

 「畏まりました。 ――最後に、先ほど村の周辺調査に向かわせた僕からの情報なのですが、カルネ村より東にありますキーン村も別の騎士たちによって襲われた形跡があったそうです。」

 「なんだと?」

 「装備も一致しますので、恐らく同じスレイン法国の別働隊かと思われますが、アダマスと名乗る存在によって全滅させられたらしい、と報告を受けております。」

 「アダマス!?」

 「! ―どうかされましたか?」

 

 「あ、いや…」

 

 アダマスと言えば、一時期よく話題に上がっていた無課金ギルドじゃないか。とうの昔に崩壊したはずだけど、まさか元ギルドメンバーの誰かが――いや、偶然の一致という事も有り得るかも知れない。 とアインズは未知の存在への警戒心を強める。

 

 「アルベド、アダマスについての他の情報はあるか?」

 「いえ、アインズ様より情報の深追いは禁じられていましたので、村で起こった表面的なこと以外は…。それと、偵察がキーン村に向かった時に、その者は不在だったとか。情報収集を続けさせますか?」

 「そうか―いや、部隊には撤退を指示。先の命令通り、深追いはするな。 ただし、警戒は怠るな。 そのアダマスとかいう存在、プレイヤーである可能性は捨てきれない。」

 

 「畏まりました。 では、本日の報告は終了とさせていただきます。」

 

 「ご苦労」

 

「もったいないお言葉、至高の御身、そして愛するお方の為であればいかようにもこの身をお使いください」

 

 「アルベドよ―――」 

 

 無課金ギルド『アダマス』――「不壊」の意をもつ名を冠したギルド。

 だが、皮肉なことにユグドラシルのサービス終了より早く崩壊することとなった。そこそこに有名なギルドだった為、様々な憶測が浮かび上がったが、ゲームの衰退時期と一致するため、メンバーの引退説が濃厚だった…

 全盛期にはギルドメンバー枠最大の一〇〇人ものプレイヤーが所属していたギルドだ。流石に全員の情報は把握していない。

 直接話したことはないが、俺の知る二人のどちらかであれば、警戒をより一層強めなければならない。

 

 一人は、たっち・みーさんより先にワールドチャンピオンのクラスを手に入れた、伝説の槍使い「センリ」だ。 無課金ながら異様なプレイヤースキルで他を圧倒していた。アインズ・ウール・ゴウンにも戦闘スタイルの参考にしていたというメンバーもいたくらいだ。

 

 そしてもう一人、名前は忘れた――というよりある一件の所為で名前を覚えられなかったが。この者は、戦闘能力として、それほど脅威とまではいかないが、何より問題なのは俺のキャラ、モモンガとの相性が最悪だということ。主武器はアンデッド特効の打撃属性、闇属性の攻撃を軽減する職業依存特殊技術(クラススキル)を有する。何よりやっかいなのは、非攻撃性長距離特殊技術、通称NLS(ネガティブロングレンジスキル)と呼ばれる移動スキル。魔法職であるモモンガが戦士職に距離を詰められることは絶対に避けなければならないが、これを許してしまう恐ろしいスキルだ。しかし、これにも対策はある。タイミングを見極めれば罠に嵌めることができるからだ。相手のスキル発動に合わせて周辺に潜ませた伏兵を出現させれば、あとはどうとにでもなる。

 

 そもそも、最初から敵対することを前提とする必要はないかもしれない。『アダマス』は友好的なギルドとしても有名だったこともあってか、打撃戦士の話はよくたっちさんから聞いたものだ。ゲームを始めて間もないプレイヤーがギルドに入りたがっていれば二つ返事で参加させる。普通は自力である程度強くなった即戦力を加入させるものなのに。他にもプレイヤー同士の和解や世界級アイテム(ワールドアイテム)によって理不尽な目にあったプレイヤーへの救済等様々な善行を耳にした。アダマスの活動によって引退を先延ばしにしたプレイヤーも多くいただろう。皆が皆、ゲームであるのを良いことに好き勝手し放題の仮想世界において、人に尽くすことを是としたギルド。そんな彼らがゲーム内でのPKや窃盗に対しては一切関与しなかった事に対して偽善者集団と揶揄する者もいた。悪を是とする『アインズ・ウール・ゴウン』とは対極ながらも共通点は多くあったことから、交流はなかったものの自然と興味をそそられる、良いギルドだったことは記憶している。

 

「センリ」と「名前を知らない闇属性アンデッドの天敵」の存在、「たっち・みー」からの話もあって、他の強豪ギルド以上に知識があるかもしれない『アダマス』を名乗る者。同じように、自分が所属していたギルド名を名乗る俺に接触してくるだろうか…それとも、警戒して遠くから様子を窺うのか… とりあえず、後手となってしまうかもしれないが、相手の出方次第だな。とアインズは思案する。

 

 

          ●

 

 

 リ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテルの広くはない通りを一組の男女が黙々と進んでいた。女は周囲に人がいないことを確認すると隣を歩く男に話しかけた。

 

 「アインズさ――」

 「――違う。この街にいる間はモモンだ。 そしてお前はこれから冒険者になるモモンの仲間であるナーベだ」

 

 地下大墳墓の戦闘メイドが一人、ナーベラル・ガンマの発言を遮って、漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだ人物――アインズは答える。

 

 「こ、これは失礼しました! モモン様。」

 「様じゃない。 モモンだ。」

 「申し訳ありません、モモンさ―――ん」

 

 「…モモンさーんて、少し間抜けだが、まあいい。とりあえずはこれからの行動方針だ」

 「はっ」

 

 「あのなぁ―」

 

 跪くナーベラルに呆れたようなため息が溢れる。

 咳払いを一つ落とし、アインズは気持ちを切り替えながら説明を続ける。

 

 「まず我々はこの街、エ・ランテルで著名な冒険者としてのアンダーカバーを作り出す。その主な目的は、この世界における情報網の構築だ。冒険者として実績を積み、ミスリルやオリハルコン、最上級のアダマンタイトのプレート持ちになれば、それに見合った仕事が回され得られる情報も有益なものが多くなるだろう」

 「流石でございます。アインズ様」

 「モモンだ!」

 

 

          ●

 

 

 「――さて、この辺りに教えてもらった冒険者組合があるはずなのだが」

  

 アインズは自分達を新人冒険者として登録する為、多くの人々が行き交う道の中、組合を探していたところ不思議な感覚を覚える。

 アンデッドの存在を知らせる常時発動型特殊技術(パッシブスキル)“不死の祝福”に反応があったのだ。

 

 スキルを頼りに視線を向けると、赤と白を基調にした見事な全身鎧を身に纏う、自分より二回りは大きな戦士がこちらに歩いてくる。

 よく見てみると、首から銅のプレートを下げており、冒険者としては新人であることが解るが、自分のような存在もいる為、警戒心を強めながらも態度は変えないまま、歩を進める――

 

 

 「ふぅ―」

 

 何事もなくすれ違ったあと、アインズは深くため息をつく。

 そして、己が作り出す影に誰にも聞こえにような小さな声で命令を下す。

 

 「今の戦士を追え、決して気取られるな」

 「御意」

 

 影の一部が少し揺らめいたかと思えば、アインズだけに届く声で返事が返ってくる。

 影に潜み、隠密に優れた、アインズがこの世界に転移してから作り出したモンスターだ。MPの消費で作成された僕である為に、失ったところで痛手にはならないが、どんなところから情報が漏れるか、自分に、ナザリックに辿り着くのか、警戒をし過ぎるという事はないのだから。

 

 「モモンさん、何か気になることでも。」

 「ん、ああ。 杞憂であれば良し、そうでないなら… まあ、悪い予感は当たるものだ。」

 

 その日、アインズの生み出した偵察、隠密能力に優れた僕の一体が消失した。

 この事は、死の超越者、オーバーロードだけが知るところとなる。




 ウルベルト「俺は嫌いだけどね!『アダマス』」

 モモンガ&たっち・みー「だろうね!!」

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