骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 互いに全てを打ち明けたアダマスとヴァーサ。

 そして男たちは遂に出会う。




二話 「さよならは夜明けの夢に」

 

 

 アダマスは本来、リアルではどこにでもいる一般人だった。せせこましい我が家を懐かしみながら、この部屋は自分の身の丈に合ってないと思い、村長からあてがわれた自室を眺める。 豪華な装飾やフカフカのキングサイズベッド、重厚な作りのテーブルや家具、そして目の前で己に忠誠を誓い、跪く美女。 全てが相応しくないと考えてはいても、受け取った以上は責任を取らなければならない。 シンプルでありながら気品を漂わせる木製のダイニングチェアに体重を掛け直し、ひとつ心の中で溜息を零す。

 「ヴァーサ、一度これからの事を整理する為に、一人になりたいんだけど、良いかな?」

 アダマスは椅子に座ったまま膝の上に肘を乗せる形で前かがみになり、なるべく優しい口調を心がけながら、美女に声をかけた。 ヴァーサは真っ直ぐに見返し、美しい微笑みで言葉を返す。

 「畏まりました。 御用がございましたら、いつでもメッセージでお呼びください。 もちろん、御用がなくても大丈夫です!」

 「あ~…うん、ありがとう」

 骸骨の顔では感情が表に出ないことに度々感謝を覚える。 処理し切れない状況の荒波に人間の面があれば、苦笑を浮かべていたことだろう。

 

 アダマスはヴァーサを見送った後、自室に入った時から感じていた気配に声をかける。

 「キーン村だけは守る。これが自分の出した答えだよ、監視者」

 アダマスが腰掛けていた椅子とテーブルを挟んだ真正面、先程までヴァーサが座っていた場所に白い人影が現れる。身長や体格は成人女性の平均程度、白くぼんやりとしたシルエットだけが認識できるその人物は足を組んで、膝の上に手を乗せている。 この世界に転移してから度々目の前に現れ、重要な事を伝えてくる人物との遭遇にアダマスは意識を引き締める。 すると、輪郭しか見えない相手の口が開いた気がした。

 「監視者。 そういう呼ばれ方をするとは思ってなかった」

 「何となく、君が誰なのか察しがついてきたけど、便宜上そう呼ばせてもらうよ。 まだ、NPCの可能性もあるから。 しかし、前はブリタさんの姿で現れたけど、今回は…それなんだね」

 「ここでは、他人の姿を借りる必要がないから。 でも、あなたの目の前に本当の姿を見せられない。 見せる資格は、私にはない」

 監視者が己に対して何か罪悪感のようなものを抱いているのではないか、アダマスはそんな気がした。 自分の前に、本来の姿では現れることができない理由を聞く前に、白い影が言葉を続ける。

 「『敵』の目の届く範囲であるこの地で、何かを守るということは、一番難しい道を歩むことになる。」

 「むしろ『敵』がいるのなら、ここでやるべきだと思う。 それが『アダマス』のギルド長としての、務めだから。 そして、何をしたいとか、どうなりたいとかじゃなく、自分がこれから行うべき行動はわかってるつもりだよ」」

 白い影が前回会った時に伝えてきた『敵』とは、アダマスに対して恨みを持ち、その全てを奪おうとする存在。 余りにも非合理的で感情的な危険性は、一度アダマスがこの地から遠ざかろうとするきっかけにもなったが、二人の女性と交わした「約束」と、『アダマス』としての誇りが前に進む力を貸してくれた。 アダマスが新たな決意を固めていると、白い影から諦めたような声が聞こえる。

 「あなたがそう言うのなら、私はその中で、あなたを守る」

 「ありがとう、君が誰なのか、確信が持てたよ」

 「二百年経っても、失えなかったものが、私の心の中にある」

 二百年という言葉に、アダマスは引っかかりを感じた。現在自分がユグドラシルと関わっているであろう人物、アインズ・ウール・ゴウン、そしてスカアハの両名はアダマスが転移した時期と、この界隈に現れた時期がそれ程離れていない為だ。 この内容に関して質問をせずにはいられない。

 「対面で話せる今だからこそ、いろいろ聞いておきたいんだけど、良いかな?」

 「どうぞ、私もまだやらなければならないことがあるけれど、時間の許す限り、答える」

 監視者がやらなければならないことに対しても興味を引かれるが、アダマスは一つ一つ順番に尋ね始める。

 「先ず、二百年前に…君は現れたのかい?」

 「そう。 この世界で、私が現れてから二百年の時を経験した。 でも、『敵』は更に、三百年前からこの世界に存在していた。 私がこの地で『敵』の存在を知った時にはもう、私達の力ではどうしようもない程に、力を手に入れていた」

 聞けば聞くほど疑問が増える事態に困惑しながらも、アダマスは質問を続ける。

 「私達とは… 君には仲間がいるのかい?」

 「それは、答えられない」

 「んん、時間がないってさっき言ってたから、答えられない質問をするのも惜しいし、気になるけど他の質問をさせてもらうよ」

 アダマスは次の質問を相手にぶつける為、大きく深呼吸する。眉間の辺りに力を込めて、口を開く。

 「最近噂になってる冒険者、スカアハは…センリさんなのかい?」

 

 白い影から直ぐには答えが返ってこなかった。監視者も答えを出しかねている様子をアダマスが感じ取っている中、十数秒かけてやっと返事が聞こえた。

 「たぶん違う。 転移の条件は完全に判明したわけではないけど、ユグドラシルに最後まで居たことと、世界級(ワールド)アイテムが関係していると推測する。 だから、最期の瞬間に存在し得ない彼女が転移した可能性は極めて低い。 それは、あなたの方が分かっているはず」

 「センリさんのことは内緒にしてたんだけど、君は知ってたんだね。 それにしても、ユグドラシル時代『影の女王』という異名を持ち、センリさん自身も『ケルト神話の女神スカアハ』をモデルにキャラメイクしてたこともあるから、『冒険者のスカアハ』がセンリさんと無関係だとは考えにくいんだ」

 「誰かが作ったNPCの可能性もある。 もうあなたは逢ってるけど、あの吸血鬼(ヴァンパイア)はNPC。 もしスカアハがキーン村へ近付いたらトラップが発動する対象にしている。 ユグドラシルに関わるものであれば、気付いて引き返してくれると思う」

 相手の言葉でアダマスはようやく、自分がキーン村に現れて以降、陰ながら村を守ってくれていた存在が誰なのか理解した。 賞賛を求めようとしない監視者への感謝の気持ちを心に秘めながら、これからの自身の行動を伝える。

 「自分はこれからモモンさんに会うよ。丁度エ・ランテルに行く用事もあるから。拠点にしてる場所も知ってる。 それと、あの晩に君が彼に会うなって忠告してくれた理由は分かってるつもりだよ、でも…」

 「大丈夫、あの人については私も勘違いしていた部分もあるから」

 「結構DQNギルドとしても有名だったからね、自分もたっちさんから話を聞いてなかったら、警戒していたと思う」

 ずっと自分の身を案じてくれていた相手に対し、アダマスは言葉で表さず、深く頭を下げることで感謝の心を示した。 それを見た白い影は立ち上がり、時間が来たことを告げる

 「そろそろ行かなければならない。 あなたがここに残る可能性を考え、まだ半分程度ではあるが保険を用意している。 これから後の半分の準備をする。 うまく発動する保証はないが、何もしないよりはずっと良い。 言い訳になるけど、その為に王都には行けなかった」

 「そうだんだ。 もしかしたら『敵』にやられたんじゃないかって、心配していたんだ」

 「……ありがとう。 心配してくれて。 そして、さよなら」

 影も気配も完全に消した相手に、アダマスは手を振り旅路の無事を祈る。 全く何も感じられなくなったことに対して、自室に入ってきた時は、こちらにわかるようにしていたんだと気付く。 監視者が別れ際に残した「さよなら」という言葉に言い得ない悪寒を覚えた。 まるで、もう二度と会えないのではないかと思わせる程に強く、悪い予感だった。

 

 

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 アダマスはエ・ランテルの冒険者組合長、アインザックから連絡を受けていた時間通りに組合を訪ね、無事にアダマンタイトプレートを授与された。 その際に、アインザックからスカアハがキーン村に向かい、擦れ違っていないかと尋ねられたが、会うことは無かったと答えた。

 スカアハが『敵』と繋がっていたり、村に害を及ぼす存在であるとは思えないが、監視者の言葉を信じれば彼女は村に近付けないらしいので、アダマスはアダマンタイト級冒険者、そして自分がこれから会うべき対象であるモモンに会うことを優先する。 丁度、受付でモモンから名指しの依頼を受けたので、アダマス指定された場所、自分がこの世界に転移した場所に向かうことにした。 道中、王都での会話から、改めて話をする為にモモンは依頼を出したのかと考えたが、依頼が組合に入ったのはアダマスが王都へ向かう前だった為に、随分と待たせてしまっていると、一歩一歩足を進ませる度に罪悪感が増していった。

 

 アダマスは人気の無くなった時点で魔法を発動させ、エ・ランテル出発から半時も使わずに依頼にあった約束の地に到着する。

 始まりの場所。 本当に何もないただの草原が地平線の見える程に広がる場所。 そこには誰も居なかった。 しかし、友人の言葉から相手を知っているアダマスは、何か魔法的なもので監視をしていて、自分が着いていることを認識すれば、それ程待たされることはないだろうと考える。

 案の定到着から数十秒もないタイミングでアダマスの目の前に魔法による転移門(ゲート)が現れた。

 

 闇で出来た門から現れた存在は、まるで“死”を具現化したような存在感を纏っていた。 白骨化した頭蓋骨の空虚な眼窩(がんか)には、濁った炎のような赤い揺らめきがある。 肉も皮も無い、骨の手には神々しくも恐ろしい、この世の美を結集させたような(スタッフ)を握りしめていた。

 「はじめまして、アダマス・ラージ・ボーン殿。 私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。 アインズと親しみを込めて呼んでいただければ幸いです」

 

 

 






 アルベド「デミウルゴス、アインズ様周辺の監視と防衛は十分かしら?」

 デミウルゴス「もちろん、抜かりなく」

 アルベド「よろしい。  …それにしても、セバスはどこへ?」

 デミウルゴス「アインズ様の命で再び外に出たとは聞いていますが、極秘とのことで、教えていただけませんでした」

 アルベド「極秘任務とは… 名誉なことね」

 デミウルゴス「まったく、実に羨ましい」

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