骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 王都での動乱から時は流れ、ナザリック地下大墳墓最下層たる第十階層、最奥にして心臓部――四十の旗が垂れ下がる玉座の間で、絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンはシモベ達へこれまでの働きに対し慰労の言葉と褒美を送った。
 その後、執務室へと戻ったアインズは、これからの事を整理する。



幕間 死の支配者サイドその6+S

 

 

 ナザリック地下大墳墓最高支配者の執務室に、黒檀の豪奢な机の上に肘を乗せる智謀の王、アインズ・ウール・ゴウン。そして、重要な話をする為に伴って入室した守護者統括アルベドの姿。

 第十階層、玉座の間で行った「第一回ナザリック功労会」を無事終えて、一息ついていた。途中の様々な情報の交錯を知ったかぶりで乗り越えたが、時間を経た今でも心の完全な平穏には至らない。

 やれ世界征服だの、建国だのと、まるで全部アインズが想定していたかのように話を進めるデミウルゴスの姿が、頼もしいやら憎らしいやら。

 アインズとしてはあまり進めたくない次の作戦についても、既に準備が始まっている。

 手首で顔の下半分を隠したまま、小さなため息の真似事をする。

 「アインズ様、お疲れのご様子ですね。 お休みになられては如何ですか?」

 美しく澄んだ声が、アインズのすぐ隣で控えている絶世の美女の方から聞こえた。支配者は片手を挙げて言葉を返す。

 「いや、問題ない。 やはり、この我が友人達と共に作り上げたナザリックに薄汚い盗人を招き入れるというのは、気分の良いものではないな」

 「心痛お察し致します。 しかし…」

 「分かっている。 すまないアルベド、ただの愚痴だ」

 「とんでもない! アインズ様の心の内をお聞きできることは、私達シモベにとってこれ以上の喜びは御座いません!」

 アルベドは自分の胸に手を当て、身を乗り出しながら熱い眼差しで訴えた。アインズは自分を愛してくれている女性の、あまりの熱弁に若干引き気味になる。

 「あ、ああ… そう言ってくれると、私も嬉しく思う」

 アインズの返事に満足したような笑みを浮かべたアルベドは、再び姿勢を整える。

 「アインズ様、ラージ・ボーンの件ですが…」

 「そうだったな」

 王都での活躍から、ラージ・ボーンは近日エ・ランテルの冒険者組合でアダマンタイトプレートの授与が行われるという情報をアインズは得ていた。功績を成したのは王都なのだから、そこの組合で行われても良いとは思うが、エ・ランテルのアインザック組合長が強引に押し通したという噂もある。

 「王都での一件か…あれは、本当に良いものを見た」

 「ラージ・ボーンとワールドエネミーとの戦闘ですね?」

 主人の喜色を含んだ呟きにアルベドも嬉しさを覚えながら尋ねる。

 「ラージ・ボーンの不死英雄(アンデッド・ヒーロー)という種族は、スケルトン・ナイトの最上位種の一角だ。 重装備との相性は良いが、その分回避能力が極端に低い。 その上回復手段を封じられてはまともな戦闘はできないはずだが、あそこまで相手の攻撃を読み…いや、むしろ操っていたとも言えるが…そうすれば回避やタイミングを合わせた防御は容易で、ダメージを最小限に抑えられる。 全く、見事な戦い振りだったよ」

 アインズが嬉々として語る内容に、アルベドは一抹の不安を覚えていた。その力がもし、ナザリックに向けられたら…と。

 「ラージ・ボーン…危険な存在ではないでしょうか?」

 「アルベドの危惧ももっともだ、彼の考え方は「人間寄り」だからな。 今のナザリックの方針であれば、相対することもあり得るだろう。 その為にも、会談を行うのだ」

 アインズに向けられたアルベドの悲痛な表情、ナザリックはもとより、自分に向けられた心配の感情をアインズはしっかりと受け止める。

 「アインザックのお陰でラージ・ボーンがエ・ランテルの冒険者組合に行く日時は確定している。 あとは、それに合わせてシモベの配置と、周辺の警備だ」

 「準備、整えております」

 優秀な秘書の表情に戻ったアルベドを見て、アインズは深く頷いた。

 「ラージ・ボーンを、このナザリックに迎えるぞ。 敵の事も気がかりだが、毒を喰らわば皿までだ!」

 「はっ!」

 「…それと、後でセバスを呼んでおいてくれ、命じたいことがある」

 

 

          ●

 

 

 「こーんにーちわー」

 城塞都市エ・ランテル、敷地内になる冒険者組合の建物に若い女性のハツラツとした声が響く。掲示板で久々に仕事を探す一人の冒険者―スパンダルが声の聞こえた入口へと視線を向けると、右手を高々と挙げた藍色のマントで顔以外の全身を隠す美少女が、満面の笑顔と左手に持つ黄金の槍を輝かせていた。

 「スカアハさん!」

 別の方向から声がする。まるで親しい友人を見つけたように、美少女の名が呼ばれた。 その声に反応して、建物内にいた他の人までスカアハの名を親しげに呼ぶ。 この光景から、彼女が人気者であることは一目瞭然だった。

 スカアハがエ・ランテルの冒険者組合に現れてから数ヶ月、誰に対しても分け隔てせず、明るく接する彼女は、いつの間にかモンスターとの死闘を生業とする猛者達にとっての清涼剤、癒しの女神となっていた。

 スカアハの首にはオリハルコンの冒険者プレートが下がっていた。それが数ヶ月前まで、エ・ランテルにはいなかったほどの高位の冒険者であることを、証明している。

 今エ・ランテルを拠点とするオリハルコン以上の高位の冒険者はアダマンタイト級の漆黒の英雄モモンくらいだった。

 スカアハは笑顔を崩さないまま受付嬢に話しかける。

 「依頼された仕事、終わらせてきたよー」

 受付嬢が一瞬だけ目を丸くした。スパンダルはその理由を知っている。スカアハが一人で請け負った仕事は、ミスリル級の冒険者チームですら厄介であり、長期に渡るであろうと思われたもの。それを非常に短期間で終わらせてきたのだ。

 「お、お疲れ様でした、スカアハ様。 そういえば、お探しになられていたアダマス様がキーン村に戻られたとの連絡が入っていますが、どうされますか?」

 「え、そうなの? ありがとう、じゃあ行ってくる!」

 同じ冒険者とは言え他人の居場所を本人に無断で伝えるのは如何なものかと思われるかもしれないが、彼女はオリハルコン級冒険者、現在のところ下位にあたるミスリル級冒険者であるアダマスの居場所は伝えても良いだろうという受付嬢の判断だった。

 その話を聞くやいなや、組合を飛び出していったスカアハの後を受付嬢が見送った後、受付の奥からエ・ランテル冒険者組合長アインザックが顔を出す。

 「君、スカアハくんはどうしてあんなに急いで出て行ったんだ?」

 「スカアハ様は以前からアダマス様を探しておられまして、先日アダマス様がキーン村に戻られたと連絡が入りましたので、お伝えしたところ、あのように…」

 「まずいな…」

 受付嬢の話を聞いたアインザックは顔をしかめ、ため息を零す。何かまずいことをしてしまったのかと心配そうな顔をする受付嬢を見て、アインザックは言葉を続ける。

 「いや、君の所為じゃない。 王都での活躍から、アダマスくんにアダマンタイトプレートを授与することが決まってね。だから、今やアダマスくんはスカアハくんよりも上位の冒険者なのだよ」

 「そ、それじゃあ…」

 「いやいや、まだ正式に授与したわけではないから、それほど問題にはならないだろうし、アダマスくんの性格なら、君を責めたりしないだろう。 それより問題は、プレート授与の話を聞いたアダマスくんと彼女が入れ違いにならないかどうかなんだが… まぁ、大丈夫だろう」

 

 

 その後、アインザック組合長の予感は的中することになる。

 

 






 アルベド「あ、セバス、アインズ様がお呼びよ。 至急、執務室まで向かいなさい」

 セバス「畏まりました」

 アルベド「要件について詳しくは教えていただけなかったけれど、恐らくラージ・ボーンに関係したことでしょうね」

 セバス「おお、ラージ・ボーン様に…ですか」

 アルベド「そういえば、なんでセバスはラージ・ボーンを敬称で呼ぶの?」

 セバス「それは、私の創造主、たっち・みー様のご友人だからですよ」

 アルベド「なら、もしセンリとかいう女が現れても?」

 セバス「もちろん、敬称を付けさせていただきますよ。 それではアルベド様、失礼いたします」

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