男は去っていく仲間達を、ただ見送ることしかできなかった
大切な場所が崩れていくのを、呆然と眺めることしかできなかった
全てを失いながらも、男は『約束』を守ろうとした
自分一人でも、あの名を世界が忘れないために
男は戦い続けた
世界が終わる、その日まで
下火月[9月]五日 04:38
突如として顕現した
神をも超えた存在であり、この世界を滅ぼす程の力を持つ自分達の創造主、『至高の四一人』が束になるか、ナザリック全軍を以ってしか倒せないはずの神獣を、たった一人の戦士が圧倒しているのだ。
血と骨の色で構成された、神獣か魔獣を象ったような
唯一無二の主、アインズ・ウール・ゴウンが一度は認めた男。
アダマス・ラージ・ボーン――
ある人物の言葉で魂を抜かれたはずの弱き者が今、ナザリック全軍に匹敵する存在に立ち向かう。デミウルゴスの理解の範疇を越えた状況の中、絶対支配者の声が聞こえた。
「あれが、たっち・みーさんの言っていた…ワールドエネミーを単騎で攻略する…プレイヤー…」
まるで、戦士の姿に見惚れるかの如く立ち尽くす主人を見て、デミウルゴスは我にかえる。
「…あ、アインズ様、ここは危険です! お退きください!」
「デミウルゴス、お前だけでも行け、俺はこの戦いを見ていたいんだ」
紙芝居に夢中な子供のような声が返ってきた。惚けているようでも、智謀の王たる主人の言葉であれば、必ず深慮があるはずと、デミウルゴスもこの場から離れようとはしなかった。魔法で遠くに居ながら観戦することは出来るかもしれない、しかし、ここでしか得られないであろう情報を得るために、悪魔は集中した。すると大戦士ラージ・ボーンに今までの流れと違う動きが見られた、「《オーラ》…」と何か
次の瞬間、神獣は自身の攻撃を全て先読みされているかのように身を躱す戦士に業を煮やしたのか、この王都そのものを焼き尽くす程のエネルギーを腹に収めた球体に溜め込み、一気に吐き出そうとした――
「アインズ様!!」
「…《バッシュ》!!!」
デミウルゴスの叫びと同時に響いたラージ・ボーンの声。
戦士が神獣の頭部に全力で武器を振り下ろし、体勢を崩した
「なっ!?」
「おお、《オーラバッシュ》か」
デミウルゴスが事態を理解出来ないでいると、主人の感嘆の嬌声が耳に届いた。
「敵の予備動作中に当てれば強力な攻撃をキャンセルできる
悪魔は思い出していた、主と洗脳されたナザリック地下大墳墓階層守護者、
今現在戦っている大戦士もまた、相手の全てを知り、行動を熟知しているとしたら…
「しかし、あれ程の敵…どうやって情報を」
「不思議か、デミウルゴス?」
「はい、普通に考えましても、あのレベルの魔獣、そうそう存在するはずがありません。 アインズ様にとってのシャルティアのように手元に情報があるわけでもなく、どうすればあのような…まさに熟知と言える戦い方ができるのか」
「私には分かる、あれは…シミュレーションだ」
「しみゅ…? まさか、仮想であの域に達するなど」
「それだけではないだろうが、たっち・みーさんが教えてくれたラージ・ボーンの話と、彼の種族を考えれば想像がつく」
アインズはラージ・ボーンの強さについての考察をデミウルゴスに伝えた。
ラージ・ボーンの種族、「
公式の設定では、アンデッドは神聖属性の回復魔法やアイテムではダメージを追う為、回復するには相応しいアイテムや〈ネガティブ・エナジー〉等の闇属性魔法で回復する必要がある。しかし「
しかし、成り行きでその種族となったラージ・ボーンは戦えない時間を有効活用する手段を発見する。それが「シミュレーション」だった。
ラージ・ボーンの種族についての話を聞いたデミウルゴスは自分なりに分析をする。
「なるほど、アインズ様のお話では『アダマス』という組織は総勢一〇〇名、その情報網をもって多くの情報を得、そして実戦とシミュレーションを駆使することで、一種の「勝ち筋」とも呼べる「台本」を作ってしまえば、あとはその通りに動くだけ。 つまり、あの強さは…」
「そうだ、初見の相手や、一度その「勝ち筋」を見たものには通用しない。 回復が出来ない為に、数の力で戦うアウラであれば勝利は容易い。 とは言え、実際に見てみると、やはり素晴らしいな…」
ラージ・ボーンは一部の魔物にとっては絶対的な脅威と成り得るが、今のナザリックではいくらでも対策は立てられる。デミウルゴスは既に無数のラージ・ボーン対策を考えているであろう叡智の主に畏敬の念を抱いた。
その主が何かに気付いたように口を開く。
「おかしい、熱波の影響範囲が狭すぎる…何者かが狭めているのか。 現地にこれ程の力を持つ者がいるとは」
アインズの言葉に反応して、デミウルゴスが周辺を見回すと青白い魔法で出来たと思われる膜が広場一帯を包み、神獣が常時放出している猛烈な熱波による外部への影響を軽減させていた。
「アインズ様…あれはいったい…」
「分からんが… ん、終わったようだぞ」
デミウルゴスは神獣がいた方向へ視線を戻すと、驚愕の光景が広がっていた。全高三〇メートルはあろうかという巨大な獣の躰が、崩れ始めていた。
直径二メートル程の、まるで小さな太陽とまで思えるエネルギーの塊だった球体は、徐々にその光を失っていく。
●
清々しい気分のアインズの目の前に、身に纏う鎧の各所に痛々しい傷跡を残した勝者がゆっくりと降り立つ。
神々しく現れた戦士にアインズは拍手と称賛を浴びせる。
「すばらしい戦いでしたよ、アダマスさん」
「ありがとうございます。 もも…あ、いや…アイ… あ、ちがうか…モモンさん」
「噂には聞いていましたけど、まさかあれ程とは」
「いやー、お恥ずかしい。 HP三割削られちゃいました。二体同時だったらヤバかったです」
「ヘビー読んでからのバッシュでキャンセルのコンボ、なかなかできるもんじゃないですよ」
「ユグドラシルと同じロールで助かりました。こっちでもやっぱりバッシュのタイミングがフレーム計算なんですね。HP計算もちょうどうまく行ったんで、サンブレの行動も思い通りにできましたし」
MMORPGプレイヤーらしい
会話に一区切りついたところで、ラージ・ボーンが雰囲気を真面目なものへと変える。
「あっと、そろそろ行かないと。 モモンさん、ではまた。 お話ししたいこともありますので」
「こちらこそ、俺… じゃないな、私も貴方に伝えなければならないことがある。次の機会を楽しみにしているぞ」
ラージ・ボーンはこめかみに指を添え、メッセージで誰かと会話している様子だった。
その十数秒後、上空から漆黒のマントを纏い、真紅の仮面で顔を隠す人物がラージ・ボーンの横に降り立った。一瞬イビルアイかと思ったが、仮面の隙間からこぼれる薄紫の長髪と、あきらかに彼女よりも高い身長と胸部の膨らみがイビルアイでないと知らせていた。
ラージ・ボーンは仮面の女性と共に、自身が魔法で作った
女性の腰に添えられていた手を思い出し、アインズは二人のただならぬ関係を想像していると、デミウルゴスが近づいてくることに気付く。
「アインズ様、それでは私はこれで…。あの神獣はヤルダバオトが召喚したことになるのは致し方ないかと。他人の思惑通りとなるのは癪ですが…」
「仕方あるまい。 しかし、今だけだ…この礼はきっちり返してやらないとな」
「はっ! では、失礼いたします。 プレアデスはこちらで回収しておきますので、ご心配には及びません」
デミウルゴスが高位の転移魔法で掻き消えた。
これからの自分の取るべき行動に思いを馳せていたアインズは、響く鋼の音に顔を動かす。
見れば駆けてくる一団があった。冒険者に兵士たち、それに先頭には戦士長。
ガゼフ・ストロノーフ、青の薔薇の一行、皆薄汚れ、ここに来るまでの死闘を感じさせた。
「やっぱ、やんなきゃ駄目かな…」
アインズは恥ずかしい気持ちを抑えながら、剣を握りしめ、勢いよく突き上げる。
「うぉおおおおおおおお!!!」
アインズは大勢の喚起の声を聞きながら、小さな呟きを零した。
「友よ…」
●
下火月[9月]五日 04:59
ラージ・ボーンとヴァーサはキーン村を見下ろせる丘の上に転移していた。
女性の腰に回していた手を慌てて自分の背中に隠したラージ・ボーンは相手の顔を見ずに、感謝の言葉を紡ぐ。
「ヴァーサさん、ありがとう。 あなたのお陰で、被害を最小限に済ませられました」
「アダマス様…」
ヴァーサは俯いたまま返事をする。悪いことをしてしまった子供のように。
「アダマス様…私は、アダマス様に黙っていたことが…たくさんあります」
「自分も、お話ししたいことがあります。 ゆっくり話し合いましょう。 時間はあるはずですから」
ラージ・ボーンは、これから自分が行おうとしていることを全て話すべきだと考えていた。王国の民全てを守れなくても、せめてキーン村に住む人々だけは守り抜くために、自分が成すべきことを。 そして、自分がアンデッドであることを、これ以上隠すことはできないと。
【ユグドラシル時代、ギルド『アダマス』の一幕】
ザ・マチェーテ「コンスタンティンは何故に神官なんスか?」
コンスタンティン「変なあだ名つけやがって…。前から言ってっだろ、骨太さんをフォローする為だよ」
ザ・マチェーテ「でも確か骨太氏の種族って、回復はできないし、強化もレジストしちゃうんスよねー」
コンスタンティン「なんだお前、知らねぇのか?」
ザ・マチェーテ「え?え? 気になるー」
コンスタンティン「まあいいや、今度見せてやるよ、俺と骨太さんとの最強タッグプレイをな!!」
ザ・マチェーテ「…別にイイッスー」
コンスタンティン「待てやこの○○○○○」