骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

16 / 48

 アダマスがキーン村で自身の為に建てられたという豪邸やその中身―主にブリタの様子―に驚いていたその頃、スレイン法国地下聖域で、二人の女性が密談を交わしていた…



二話 「預言者と悪神」

 

 

 スレイン法国の地下教会。

 この最奥聖域を知る者は少ない。

 

 火の神官長補佐――バアル・ファルース・インナはその一人だ。

 外見年齢は三〇程の妖しい美しさを持つ、正に『魔女』という表現が似合う女性だ。

 この部屋全体を照らすにはあまりに心許無い蝋燭の灯火の中、背中まである彼女の真紅の長髪は、まるで赤い炎のように光り輝きながら揺らめいていた。

 決して照らされた光の反射だけではない、その髪自体が発光しているのだ。

 それは彼女の余りにも強大過ぎる魔力の余剰分が溢れている為に起こる現象だった。

 

 部屋の奥にある壇上から、インナの美しくも鋭い瞳が目の前に跪く女性を見つめている。

 

 深い沈黙の中、蝋燭の火が静かに揺れた。

 

 インナは身に纏う漆黒のローブの裾を持ちながら、口を開く。

 

 「元漆黒聖典第四席次、信徒ヴァーミルナよ、面を上げなさい」

 

 「はい」

 

 ヴァーミルナと呼ばれた女性はゆっくりとしながらも、緊張した面持ちの顔を上げる。

 その顔を確認したインナが言葉を続ける。

 

 「お前が管理している村に現れし存在、アダマスについて話せ」

「はい、かの者は赤と白の鎧を身に纏い、補佐官殿が遣わせました騎士団を一掃し、現在キーン村とエ・ランテルを往復しながら冒険者を務めている事は先日お伝えした通りです。現在、エ・ランテル近郊に出現した吸血鬼(ヴァンパイア)を無傷で撃退、その情報を冒険者組合に届けた功績と、他に実力を確認する為の任務を経て、ミスリルプレートを授与されています」

 「吸血鬼(ヴァンパイア)か、恐らく漆黒聖典が遭遇したものと同一だろう。 しかし、あれを無傷とは…」

 「漆黒聖典が、まさかその吸血鬼(ヴァンパイア)と戦闘したのですか?」

 「そうだ、吸血鬼(ヴァンパイア)の一撃で漆黒聖典一名が死亡、カイレが再起不能の重傷を負った」

 「何と、それを無傷で撃退するとは、まさかアダマスの力は番外席次以上…」

 「それ以上口に出してはならぬ」

 「申し訳御座いません」

 

 ヴァーミルナは己の失言を悔いながら再び深く頭を下げながら謝罪する。

 インナは深いため息を一度吐いた後、再び顔が見えなくなった女性に告げる。

 

「やはりアダマスこそ、予言者様が仰っていた『赤き悪神』に違いあるまい。同時期に出現したアインズ・ウール・ゴウンは黒い装いだったと聞く。あの悪神の所為で予言者様の実験が妨害されたのだ、先ずアダマスこそ、危険な存在と認識するべきだろう」

 「補佐官殿…」

 

 ヴァーミルナが顔を下げたまま、インナに発言を求める

 

 「話してみよ、ヴァーミルナ」

 「はい、その…アダマスを悪神とするのは些か性急ではないでしょうか?」

 「どういう意味だ?」

 

 ヴァーミルナの言葉に明らかな不快感を声に含ませながらインナはその真意を問う。

 

「は…か、あ、アダマスは現在明らかに善行を成しています。人の命を救い、その後の道を照らしております。荒んだ心の者の瞳に、光を宿すこともあると聞き及んでおります。悪神と呼ばれるような事は行っておりません」

 「拐かされたか?ヴァーミルナよ」

 「そのようなことは、決して!!」

 

 ヴァーミルナは額に汗を滲ませながら己の考えを伝えようとする。

 しかし、インナの瞳は変わらず体温を感じさせない、冷ややかなものだった。

 

「英雄が魔王となる、珍しい話ではあるまい? アダマスが今は善であっても、それが永遠に続く保証など何処にもない。であれば、数百年我々を導いてくださっている予言者様を信じる方が、正しいとは思わぬか?」

 「そ、それは…」

 「それに、かの吸血鬼(ヴァンパイア)を無傷で撃退した…という情報も怪しいではないか。 漆黒聖典を務める者を、その一撃で二名も失い、隊長は撤退を判断。 今思えば正しい判断だったろう。 神官長会議でも、吸血鬼(ヴァンパイア)に関しては放置、もし吸血鬼(ヴァンパイア)を倒せるものが現れたなら、その者こそ注意すべき、とまで言われる存在を相手に、無傷などと…おかしいとは思わんのか? 正しい判断能力を持つものであれば、当然吸血鬼(ヴァンパイア)とアダマスが繋がっていると考えるのが、筋というものだ」

 「しかし…」

「ヴァーミルナよ、お前は優し過ぎる。実験の為に村人を犠牲にすることにも心を痛めているのだろう。だが、もう後には退けぬ。予言者様を信じるのだ。現に予言者様のお言葉通りに行った結果、村は発展しているではないか?」

 「はい……その通りです」

「分かればよい。アダマスも村の者も、お前を信用し切っている。多くの情報を手に入れ、必ずや我が下に持ってくるのだ。それが、神に仕えし我々の使命なのだから」

 「はい…」

 

「では行け、ヴァーミルナよ。アダマスについて、なるべく多くを知り、我々に伝えるのだ。さすれば、必ずや悪心を討ち滅ぼす方法を予言者様が授けてくださる。わかったな?」

 

 「…はい、それでは、失礼いたします」

 

 ヴァーミルナは下げていた頭を、一度より深く下げてからゆっくり立ち上がり、部屋をあとにする。

 

 

 最奥聖域にはインナただ一人となる。

 

「ヴァーミルナ…そろそろ交換するべきか。ただ、あの村に送った偵察部隊に不審死が続き、魔法的監視も不可能な今の状況を考えると、すぐには不可能。…まぁ良い、今は姿をお隠しになられている予言者様も、いずれお戻りになられるだろう。その時まで、束の間の安寧を享受するが良い、『赤き悪神』よ…」

 

 

          ●

 

 

 ヴァーミルナはスレイン法国を出発した後、監視や追跡を妨害する為の魔術的対策を取りつつ、複数の馬車を経由しながらキーン村に戻ろうとしていた。 今現在、エ・ランテルから村までの街道を走る馬車に揺られながら、ヴァーミルナは自分の意思を確認する。

 

(補佐官殿はああ言われるが、私にはどうしてもアダマス様が悪神になるとは思えない。どちらかと言うなら、予言者の方が私には『悪』に思える。人を人と思わず、道具か材料のように使い捨てる実験を繰り返す存在を、私は信じることは出来ない。それに比べ、アダマス様は人を救い、善に導いてくださる…正しくあの方こそ神だ。そうだ、私が仕えるべき神はアダマス様ではないのか…)

 

 籠の中で一人考え事に耽るヴァーミルナに、外の御者が大きめの声で告げる。

 「ミルナさん、そろそろ村に着きますよ。 ご用意を」

 「はい、ありがとうございます。 こんなに早く付けるのは、あなたの腕前が良いからでしょう。着きましたら定額に、私の気持ちを足しておきますね。」

 「へい、いつもありがとうございます」

 

 御者の気持ちの良い返事を聞いたヴァーミルナは自分の意識を『キーン村村長のヴァーサ・ミルナ』に切り替える。

 

(私が村人を犠牲にしたばかりに、心に落としていた闇を、あの方の言葉が、声が払ってくださった。ご自身にも何か果たすべき目的がある様子なのに、村人や私たちを気にかけてくださるアダマス様。もう、私を信じてくれている村の皆を裏切ることはできない… もし、次に予言者から『実験』の命令が下ったら、この身に代えても、村を…アダマス様を守らなければ…)

 

 エ・ランテルでアダマスがキーン村に向かったことを知っているヴァーサは、村に着くまでの一時、胸を高鳴らせながらも、一人悲愴なる決意を固めていた。

 

 





 シャルティア「ハックション! あら、きっとアインズ様が私のことを噂してくれていんすね!」

 アルベド「え? じゃ、じゃぁ …はっくしょん。 ほら、これで私のこともアインズ様が噂しているわ」

 シャルティア「偽物は駄目でありんす」

 アルベド「あなたに言われたくないわ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。