骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 吸血鬼(ヴァンパイア)事件での功績と、冒険者組合長の計らいでミスリルプレートの冒険者となったアダマスは、半月ぶりにキーン村へ戻ろうとしていた。
 しかし、そこには以前では見られなかった強固な囲いや兵舎、村長邸以上に豪華な御殿等、村は急激な変化を遂げていた。
 状況を飲み込めないまま、アダマス急ぎ足でキーン村へと向かう。



第四章 感情の矛先
一話 「君の居場所」


 

 

 「おかえりなさいませ、アダマス様」

 半月ぶりにキーン村にもどったアダマスを村娘――エマが満面の笑みで出迎えたのだが、村の変わりように愕然としていた。

 「何ですか、あれ?」

 「はい、アダマス様のご自宅です」

 

 村の入口からでも分かるほどに巨大な豪邸が、以前にアダマスが寝泊りしていた場所に建てられていた。

 それはまるで白亜の聖殿のごとく、荘厳な様相を呈している。

「自分がここを離れていたのは、十五日そこそこのはずなんですが…」

 「はい、村長が村を援助してくださっている方から頂いたマジックアイテムを使用した、と聞いいています」

 「えっと…その、村長は?」

 「村長は今、その援助をしてくださっている方のところと聞いています。 明後日には戻られると思いますよ」

 「そう…ですか」

 

 アダマスは最初、『自分の家』と言われた豪邸に目を奪われ気付かなかったが、元気いっぱいのエマに手を引かれながら村の奥に入っていくにつれ、いくつか見覚えのない建物が複数存在している事を認識し始める。

 

 「あの、エマさん、いろいろ目新しい物があるんですが」

 「ええ、先ずはあの囲いに驚かれたと思います。私も、あんなに立派なもの短時間で出来あがるなんて、ビックリしました。 魔法ってやっぱりすごいんですね。」

 「魔法? 魔法詠唱者(マジックキャスター)がこの村に?」

 「はい! アダマス様が冒険者になる為に発たれた後、村長はアダマス様に心配をかけ過ぎないよう、冒険者組合にこの村を守るための人員を要請したそうなんですけど、その中に魔法を使える方がいらっしゃって」

 「へえ、冒険者…ですか」

 「組合に依頼したのはあくまで、『この村の防衛』だけらしいんですけど、他にもいろんなことに協力してくださって、すごく助かっています」

 「世の中には善い人がいるんですね」

 「それを…アダマス様が言うんですか?」

 「はい?」

 「いいえ、何でもありません」

 

 エマの意図を汲み取り切れないでいたアダマスが首をかしげていると、また新しい建物が目についたので、それを指差しながらエマに質問を投げかける。

 

「あれは、何ですか? 兵舎のようにも見えますが」

 「ほとんど当たりです。あれは村に来てくださっている冒険者さんが寝泊りされるところです。 エ・ランテルとキーン村は少し距離がありますから、こういう場所が必要なんだって村長が言ってました。」

 「その冒険者さんは?」

 

 アダマスが冒険者のことをエマに尋ねると、少女は何も答えずにただ笑顔をアダマスに向けるばかりだった。

 再度アダマスが兵舎に目を向けると、見覚えのある人物が顔を出す。

 

 「あれは、ブローバさん?」

 

 以前に一度冒険を共にした(アイアン)プレート冒険者、ブローバがそこに居た。

 前回同様の武装をしているブローバも此方に気付いた様子で、駆け足で近づいてくる。

 

 「ようアダマス、いや、この村じゃアダマス様って呼んだ方が良いんだよな?」

 「ブローバさん、そんなこと気にしなくて良いですよ」

 

 再開を喜び、握手を交わすアダマスとブローバ。

 アダマスはブローバの顔を見て思いついたことを話す。

 

 「まさか、冒険者組合から派遣された冒険者って…」

 「ああ、俺たちだ。スパンダル、ボルダン、エラゴ、リュハ、アステルの六人で代わる代わる、な。 ただ、リュハは教会のことがあるから、ほとんど常駐だけどな」

 「ああ、なるほど」

 

 この世界での教会は、まるで『病院』のような役割を担っており、その場所において神官は『医者』となる。 以前からこの村に教会は存在していたものの、神官が居ない為に、教会として機能していなかったのだ。

 そこに派遣された信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)リュハは、組合から依頼されたわけではないが、自発的に神官として勤めているとブローバはアダマスに伝える。

 その話に疑問を感じたアダマスは率直な気持ちをブローバにぶつける。

 

 「今までの話を聞いていると、あの囲いを作ったのは、エラゴさんですよね? 何故、皆そんなに協力的なんですか?」

 「俺たちは今、夢を見てるんだよ。 お前さんが、アダマンタイトプレートの冒険者になれるって、夢をな?」

 「自分の為…ですか? それなら…」

 「違う違う、そういうんじゃねぇよ。 ただ、俺たちの…これは願望だ」

 「願望?」

「ああ、アダマスは本来の実力を出せば、十分にアダマンタイト級になれる。あの凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)を無傷で撃退したんだからな。それに聞いたぜ? アダマンタイトを手で割ってみせたって」

 「まぁ、手刀ですけど」

 「どっちにしたって、ミスリルやオリハルコンって器じゃねぇさ。 俺たちは冒険者だ。なら、その最高峰には俺たちの納得する人が居てもらいてぇ。 それだけだよ、これは我が儘や願望の類なんだから、気にする必要はねぇのさ。 この村は俺たちにまかせて、アダマスは冒険者稼業に専念しな」

 

 「ブローバさん」

 

 アダマスは感謝の言葉以上に態度で示すべく、深く、深く頭を下げた。

 

 「よせやい。 そもそも、言い出したのは、あのブリタなんだからよ」

「ブリタさんが? そういえば、さっきこの村を防衛してくれる冒険者の中に名前がありませんでしたね」

 「ああ、そのことなんだけどよ…」

 

 「あああぁっあの――!」

 

 ブローバがブリタの話をしようとしたところで、エマの横槍が入る。

 エマは顔を真っ赤にして、息を切らしながらアダマスに行くべき方向を告げる。

 

 「ささ!アダマスさんこっちです! アダマス様の為に作られた邸宅を紹介しますから!」

 

「なんだよエマちゃん、これから大事な話を――」

 「ブローバさんは黙っててください!」

 

 「おお、やっぱ女って怖えなぁ」

 

 エマの剣幕にブローバは肩をすくめてみせながら兵舎に戻っていった。

 般若の形相を天使の笑みに切り替えたエマが再びアダマスの手を引き、真の目的地である『アダマス御殿』へと導く。

 

 

 「これは…」

 

 豪邸に入ったアダマスが先ず驚いたのは、その広さだった。 マジックアイテムで作成された建物だからだろう、外見からして巨大だったが、中に入ればそれ以上の広さを感じていた。

 入口を抜けて直ぐのフロアは人が数百人は入れそうなホール、天井の高さは十メートルを優に超えるだろう。

 驚いた様子のアダマスに機嫌を良くしたエマが話しかける。

 

「すごいですよね、私も初めて来た時は驚きました。アダマス様から、家を頼むって言ってもらったのに、正直私一人じゃどうしようもない規模です」

 「そりゃ、これは…無理でしょう」

 「なので、今はこの方に手伝ってもらってます。 どうぞ!!」

 

 エマがフロア中に響く声を高らかに上げ、舞台女優のようにオーバーなアクションで手のひらをホールの奥に向けると、何やら奇っ怪な物体がこちらに走ってくるのが見えた。

 その物体はスカートと思われる布を両手で掴み、顔を真っ赤にしながら、ダスダスと力強くホールの床を踏みしめている。

 白いフリル付きの髪留め、白と黒を基調にしたエプロンドレス…紛うことなきあれは、メイド服だ。

 

 メイドはアダマスの前方一メートルのところで立ち止まり、力いっぱい瞼をとじながら叫んだ。

 「おおおおおおおおおお、お帰りなさいませ!ごご、ご、ご主人様!!」

 

 

 「…」

 

 

 「…」

 

 

 「…」

 

 

 「…」

 

 

 永い沈黙が、耳鳴りが聞こえるくらいの沈黙がフロアを支配した。

 呆気にとられていたアダマスは数回の精神の安定化を越え、ようやく認識を取り戻し、一言呟く。

 

 「ぶ、ブリタさん?」

 

 「うわあああぁァァァァァァ!! エマのバカァァァァァァ!!!」

 ブリタは大声でこの事件の犯人の名を叫びながら、エマの肩を掴み、戦士職に相応しい腕力で激しく少女を前後に揺すった。

 首をガックンガックンとゆらし、半分青ざめているエマは何度もブリタに謝っていた。

 

 

          ●

 

 

 「ブリタさん、本当にごめんなさい。 でも、私はこれこそ最高のおもてなしだと、今でも確信しています」

 「もういいよぉ…」

 

 エマは貧血状態になりながらも、後悔と羞恥に涙しているブリタを慰めている。

 まるで自分が女の子を泣かしたような居た堪れない空気に耐え兼ねたアダマスが口を開く。

 

 「ありがとう、ブリタさん。 自分のため、ですよね? とても嬉しいですよ。」

 「ほ、ほら!アダマス様も喜んでくれてますよ! 嬉しいって、ブリタさん!」

 

 アダマスの肩をペチペチ叩きながら、貧血から回復したエマもブリタを励ます。

 励まされた本人は、鼻を一度すすった後に小さな声でアダマスに尋ねる。

 

 「あのさ、これ…どう?」

 

 「え、あ…何とざっくりとした… あー、ブリタさん、前に会った時の装備も良かったけど、今のその格好も自分は好きですよ。 綺麗、だと思います」

 「本当?」

 「もちろんですよ。 そりゃ、ちょっと…いや、大分驚きましたけど」

 「私だって、もちろん喜んでしてるわけじゃなんだからね? エマが、アダマスを迎えるなら、これしかないって言うから」

 

「なんと…、ん? 迎える? そういえば、この邸宅の世話の手伝いって」

 「そう、私とエマと…あと村の暇な人間とで、ここの掃除やら手入れをしていくことになったから。 マジックアイテムで建てられたものだから、どうしてもエラゴの手を借りないといけない場所もあるけどね」

 「なったからって、冒険はどうするんですか?」

 「んー、冒険者稼業はちょっと休憩。 あんなことがあったからね、すぐに復帰とか私にできなかったわ。 その点ブローバやスパンダル、ボルダンはすごいよ。 アステルだって、しばらく実家に帰ってたらしいから。」

 「そう、ですよね」

 「命の危機――なんてもんじゃなかったわ。 アダマスの声が無かったら、あの場でいろいろ粗相をしちゃってたかもね。 あの時の声は何?マジックアイテム?武技?」

 「いや、まぁ…特技、みたいなものです」

 「ふーん、まあいいわ。 とりあえず、エマ、私はこれ着替えてくるから」

 

 「えー!ブリタさん、勿体無いですよー!」

 「バカ!」

 

 

 ブリタは登場してきた時と打って変わって、ドカドカとまるで怪獣のような歩き方でホールの奥へと消えていった。

 その姿を見送った後、アダマスはエマに深く落ち着いた声で告げる。

 

 「エマさん、あとでちゃんと、ブリタさんに謝っておきましょうね」

 「………はい」

 

 

 

 ブリタがこの場から居なくなり、エマと二人だけになったフロアを、アダマスは見渡しながら不意に呟く。

 「聖殿…ホールか…」

 「え?」

 

 急にいつもアダマスらしからぬ、暗い声色にエマは反射的に声が出てしまう。

 エマの反応にやっと自分が思ったことを声に出していた事に気付き、アダマスは慌てて自分の口を手で抑える。

 

 「すみません、エマさん… 少しだけ、一人にしてもらえませんか? ブリタさんが戻ってくるまでで良いので」

 「あ、はい… わかりました。 それじゃ私、ブリタさんの様子を見てきます」

 「ありがとう、エマさん」

 

 すぐによく知っているアダマスの声に戻ったことに小さな安心を得た少女は、早歩きでブリタが消えた方向へと向かい始める。

 

 アダマスにエマの足音が届かなくなってから、一人物思いに耽る。

 

 「みんな…」

 

 

          ○

 

 

          ○

 

 

          ○

 

 

 「それではここに、新ギルド長誕生アーンド、好き好きセンリちゃんフォーエバー会の開催を宣言します、かんぱーい!!」

 「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 無課金ギルド『アダマス』拠点、地下都市ゴートスポットの中央に座する聖殿の大ホールに一〇〇人の歓声が木霊する。

 ホール中央の左右に五〇人が囲むことのできる大きな長テーブルが二脚、ずらりとならんだギルドメンバー全員がユグドラシルにおいて最高級のHP回復ポーションを手に取り、それを飲み干す。

 様々な種族が入り乱れるギルドだった為に、ポーションを飲んだ者の中には、ダメージを受けたり、無効化してしまう者もいたが、皆細かいことは気にせず、宴を楽しもうとしていた。

 

 その一角で白い肌に黒いボディスーツを着た女性が、白いベールで全身を包んでいる異形の雌にもたれかかっていた。

 「あの会の名前って…まさか」

 「あったしー。 いいじゃん、センリちゃんとこうして会えるのも最後なんだしー!」

 「まあ、そうなんだけど… しかし、よく一〇〇人全員集まったねー」

 「結構前から企画してて、ようやく皆が集まれる日取り設定できた時は、マジで泣きそうになったわ」

 「本当にありがとうねー、シーシュポスさん」

 「なにをおっしゃるやらーだわ。 センリちゃんの為だったら、お姉ちゃん一肌でも二肌でも脱いじゃうんだから!」

 

 「おー、いいぞー脱げ脱げー!」

 二人の会話に水を差すように不躾な声が悪魔の居る方向から聞こえてきた。

 「うっさい!エロジジィ!!」

 白き異形はベールの中から数多の刃物を突き出し、悪魔を威嚇する。

 

 「あ、ごめんなさい、調子乗ってました」

 「カーマさん、あっちで飲みましょう」

 「ありがとうよぉ、ルバーブ…」

 悪魔は白い軽鎧を装備した青い長髪の青年に慰められながらホールの隅へと移動していく。

 

 皆が皆で盛り上がっていた宴の中心部で剣呑な雰囲気の二人が居た。

 一人は一部の言葉が検閲に引っかかってばかりいる神官姿、もう一人は神官と同程度に興奮している紅の聖騎士。

 

 「この野郎!やりやがったな!! ファ○○○ク○○○ウ!!」

 「アンタのはセリフ殆ど倫理コードに引っかかって、わけわかんねえんだよ!!」

 「なんだとテメェ!俺がせっかく、新ギルド長の字になるように並べてたポーション片っ端から使いやがって!!」

 「うるせぇ俺はセンリさん派なんだよ!」

 

 一触即発の雰囲気に立派な二本の角を生やした黒いミノタウロスが割って入ろうとする。

 「やめれー!コンスタンティンも、赤錆もー!祝いの場ぞー!」

 「「黙れ!このやろう、そもそも何でお前は名前に『ザ』が入ってんだよ!」」

 「うひょー、今度はこっちに矛先がー って、いいじゃないッスかー別にー!」

 

 「○○○○○○ッ!!なんなんだよさっきからてめぇはよぉ!」

 「センリさんが居なくなるのが、寂しいんだよ!」

 「○○○!俺もだよ!!○○!!」

 

 先ほどまで苛烈に喧嘩していた二人が何故か今度は号泣しながら抱き合っている。

 

 

 

 「はいはーい!ちょっといいカナー?」

 

 センリと呼ばれる女性が元気に手を上げながら発言を求め、少し静かになったのを確認してから、言葉を続ける。

 「ちょっと、新ギルド長借りるよー」

 「「「「どうぞどうぞ」」」」

 

 「へ?」

 

 新ギルド長こと、血と骨の色をした凶悪な全身鎧を身にまとうアンデッド戦士、ラージ・ボーンは一人状況を把握できずにいたが、初めから他のメンバーはこの段取りを把握していたのではないか、というくらいにスムーズに話は進んだ。

 

 「ほらほら、骨太くん!いくよー」

 「え?ちょっちょ…ええ!?」

 

 二メートルを超える巨体は、身長一六〇センチ程の女性に引き摺られながらホールを退室し、地下へ地下へと連れ去られていった。

 ギルドメンバーはその様子にそれぞれの反応を示していた。泣く者、笑う者、敬礼する者、怒りを露にする者、嘆く者…様々な思いがそこにはあった。

 

 

 

 

 「ここは…」

 「そう、ギルド武器の間だよ、骨太くん」

 

 ラージとセンリは青く美しい鉱石によって構成された、荘厳な部屋に辿り着く。

 その場所は大ホールでの喧騒が嘘のように、静まり返っていた。

 奥には黄金に輝く一本の槍が安置されている。

 

 センリはラージの手を離し、ゆっくりと槍に近付きながら話し始める。

 「獅子槍…ディンガル。 皆が一生懸命作ってくれた、最高のギルド武器」

 「名前、ランス・オブ・アダマスとかじゃなくても良かったんですか?」

 「何それ、カッコイイ…でも、やっぱりディンガルが良い」

 「うん、僕も気に入っています。 最高に、良い武器ですよ」

 

 「ねぇ、骨太くん、こっちきてよ」

 「ああ、うん…」

 

 美しい深紫の髪を靡かせながら、センリは振り向き、ラージを手招きした。

 ラージもその招きに応じ、センリの隣で槍を眺める。

 

 数秒か、数分か、あまりの静けさに時間の感覚が曖昧になるなか、少しの間が空いたあと、再びセンリが口を開く。

 

 「ありがとうね、骨太くん」

 「え?ああ…ギルド長を引き継いだことですか?」

 「それもあるけど、私が引退する…本当の理由、誰にも言わないでくれて」

 「そりゃあ、話すなって言われれば、黙ってますよ、当然」

 「ん、そう…だね」

 

 「僕の方こそ、ありがとうございました、センリさん」

 「ん?」

 「センリさんのお陰で、楽しかったです。 それはきっと、僕だけじゃなく、ギルドメンバーのみんなはもちろん、それ以外の人も。 センリさんが頑張ったお陰で、ゲームを楽しむことができるようになって、ユグドラシル引退を延期したプレイヤーが沢山いるんですから。」

 「私は… 私のしたいことを… うんん、違う、するべきことをしただけだよ」

 「やらなきゃならないことをしない人間の方が多い世の中なんです、だからやっぱり、センリさんは素晴らしいと、僕は思います」

 「そっか、ありがとう… あのさ、ちょっと座らない?」

 「いいですよ って、うぇ!」

 「変な声出さないでよ」

 「い、いや、こ、これは…」

 

 センリに促されるまま、ラージは傷一つない綺麗な石床に胡座をかいて座ると、となりに座ったセンリが、ラージの肩に寄り添ってきた。

 

 「こんなとこ、赤錆さんが見たら発狂ですよ」

 「かもね… でも今日ぐらい」

 「まあ…最後、ですもんね」

 「そうだよ…」

 

 とても静かな時間を二人きりで過ごし、センリが思い出したように呟く。

 

 「ああ、最後と言えば」

 「どうしました?」

 「このギルド武器、ディンガルには凄い能力があるんだよ」

 「すごい能力って、あの魔城を落とした時に手に入れたアイテムで付与したヤツじゃなく?」

 「そう、それ以外の凄い能力。 ほら、私ってユグドラシルを皆が楽しめるようにって頑張ったじゃない?」

 「あ、認めましたね」

 「はいはい、とにかく、頑張った私に運営がご褒美をくれたの。 引退することは向こうにも伝わってたみたいで、私が引退するまで、ユグドラシルを心ゆくまで楽しめるようにって」

 「へえ、どんな能力なんですか?」

 

 「ふふ、教えな~い」

 「いやいや、それはダメでしょ。 それじゃ、もう気になって眠れませんよ」

 「眠らなくて…も、いいんじゃない?」

 「センリさん?…」

 「今日ぐらいは…ね」

 

 

 

 

          ○

 

 

          ○

 

 

          ○

 

 

 「…さま? …アダマス様?」

 「アダマスー、大丈夫?」

 

 気がつくとブリタとエマが心配そうに、自分を見つめていることにアダマスは気がついた。

 エマがホールを出てからどれくらいの時間が経ったのか、全くわからなくなるくらいに自分の世界に入ってしまっていた。

 

 「あ、ああ大丈夫ですよ。 少し、ぼっとしてしまって…」

 

 「アダマス、泣いてんの?」

 「アダマス様?」

 

 アダマスは自分の声や態度が周りを心配させる程に落ち込んでしまっていたことをようやく理解し、立て繕いながら口調を元に戻すよう努める。

 

 

 「ええと、ほら、他の部屋も紹介してもらえませんか?」

 「え?あ、はい…わかりました」

 

 エマはアダマスが何でもないように振舞う姿を見て、これ以上詮索してはいけないと自分に言い聞かせながら、気持ちを切り替える

 

 「そ、それでは、アダマスがもしご友人をお連れになられた時に使用して頂く、客室を紹介しますね!」

「ん! そうだね! あとほら、エマ、私達の部屋も教えておかないと、先に教えておけば、アダマスが「間違えて着替えを覗いちゃったけど、ここのことよくわからないから仕方ないよね、てへ」なんて言えないように」

 

 「そんなことしませんよ!!」

 

 

 三人は一度暗くなってしまった雰囲気を取り戻すように明るく振る舞い、エマの案内で四度迷子になりつつ、アダマスの新居を探検した。






 アインズ「エクスプロージョン!!」

 アルベド「爆発せよ!ということですねアインズ様!」



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