骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 謎の吸血鬼(ヴァンパイア)との戦闘をなんとか回避することができたアダマスと(アイアン)プレートの冒険者ら一行は、満身創痍でエ・ランテルに辿り着く。
 その到着前夜、英雄が誕生していたことを彼らはまだ知らない。


四話 「英雄との邂逅」

 

 

 アダマスと(アイアン)プレート冒険者たちがエ・ランテルに帰還するころには出発から二日経った明け方になっていた。

 

 出発した時はまだ平時通り、いつもと変わらず適度に活気の無かった街は騒然としていた。

 街の人々が口々に噂する「黒き英雄」「英雄の誕生」

 正直アダマスに心当たりはあった。 自分が冒険者組合に登録した直後にすれ違った、漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだあの男だ。

 しかし、それ以上にアダマスを驚かせたのは『漆黒の剣』全滅の噂だった――

 

 緊急事態を報告する場合、複数人で見たこと感じたことを伝えなければならない。 人間の感覚は非常に曖昧であり、非常な環境で遭遇した出来事であれば尚更である。

 その為に同じ状況に居た者の多角的な意見を総合することで、ようやく真実が見えてくる。

 しかし、当事者―冒険者たちはアダマス以外疲れ切っており、まともな説明が出来そうになかったのでそのまま宿屋で休ませることとなった。

 こうなれば代表して、アダマスが冒険者組合に事の次第を報告せざるを得ない。

 

 あの吸血鬼(ヴァンパイア)がユグドラシルプレイヤーであり、特殊な変身によって精神を狂気状態にさせられていたために冷静な判断ができず襲われた…、美少女の状態であれば、会話は可能― という保証はどこにもない。

 一〇〇レベル級という、この世界では初めて遭遇した危機を先ず伝えることで、無為に人間を危険地帯に近付かせないことこそ、今自分が行わなければならないことだと、アダマスは考えていた。

 ただ、力試しや怖いもの見たさで足を運ぶ者が居れば…何があっても自業自得だろう。

 

 冒険者組合に着き、やや目立つように大きな音を立てながら扉を開く。

 中へ入ればほぼ全員がアダマスに注目する。 正直、このテの視線は未だ慣れないが、状況が状況なだけに我慢する他ない。

 

 奥のカウンターに目を向けると、歴戦の戦士を思わせる壮年の男性が受付嬢と話をしていた。 嬢の態度から、組合の中でも上位にいるものだと分かる。

 

 「緊急事態です! どうか、聞いていただきたい!!」

 

 アダマスは歩幅を広く、急ぐ演技の早歩きで受付に近づき、カウンターテーブルに高く上げた両手を打ち付ける。

 注目してもらう為にできることの一つ、会議をしている時に眠そうに話を聞いている人や他の事を考えている人を本題へと意識を戻す方法だ。

 リアルでの社会で得た知識がこの世界でも役立つのかと、一時自分自身の思考が本題からズレてしまったが、すぐに前へと向き直る。

 慌てた様子の冒険者に壮年の男性が真剣な眼差しを向ける。

 

 「落ち着き給え、何があったのかな? 私はこの街で冒険者の組合長を務めている、プルトン・アインザックだ。」

 「(カッパー)プレートのアダマス・ラージ・ボーン。 組合長、吸血鬼(ヴァンパイア)が出現しました。」

 「ん。 奥で話を聞こう。」

 

 男性の問いにアダマスは組合に入ってきた時より声色を落ち着いたものに変え、静かに答えると、アインザックは表情をより引き締めて奥にある会議室のような場所へと案内した。

 

 

 

 「さぁ、アダマス君。そこへかけたまえ」

 「失礼します。」

 

 室内に入ったアダマスは少し驚いていた。

 この部屋の中に魔法が張られている為だ。 恐らく情報を外部に漏らさないような類のものだろう。

 この世界にきてから、部屋全体に魔法がかけられた場所等、キーン村の村長邸にある一部の部屋くらいしか見たことがない。

 

 アダマスが席に座ると、アインザックが口を開く。

 

 「それでは、何があったのか、具体的に説明してくれ」

「はい。自分は(アイアン)プレートの冒険者の護衛として、野盗の塒調査に同行していました。しかし、目的地についた我々の見たものは、凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)だったのです」

 「特徴は?」

 「長い銀髪で大口。恐怖が結晶化したような恐ろしい化物でした。」

 

 あまりに詳細を話すのも、例の吸血鬼(ヴァンパイア)に不快を買いそうなので、アダマスは冒険者組合に関わる者として最低限の情報のみ伝えることにした。

 

 「君は…(カッパー)のプレートか。 ふむ、私にはわかるぞ、君が本来の力を発揮すればミスリル…いや、オリハルコンクラスの実力の持ち主だと。」

 「それほどでもありませんよ。」

「謙遜などする必要はない。そんな君が脅威と言う吸血鬼(ヴァンパイア)が出現したとなれば一大事だ。しかし、最近の昨今の組合は豊作だな…」

 「なにか…?」

 「なんでもない、こちらの話だ。 それより――」

 

 アインザックはテーブルに上に置いてあった金属製のベルを鳴らす。

 音に特異な違和感を覚える。部屋に張られた魔法を突き抜けて外へと聞こえるような魔法がかけられているのだろう。

 すぐに駆け付けた数人の組合員と思われる男性にアインザックは告げる。

 

 「この街にいるミスリルプレート冒険者に、至急ここに集まるよう伝えてくれ。 わかったな、至急だぞ?」

 

 組合員達は一つ頭を下げると急ぐ様子で部屋を後にする。

 再び二人だけとなった部屋で、アダマスは気になっていたことをアインザックに話す。

 

 「ところで…『漆黒の剣』に何があったのか、ご存知ですか?」

 「ああ、彼らか…将来有望な冒険者チームを失ったことは、私もとても残念に思っているよ。 噂程度のことしか話せないが、それでも良いかな?」

 「はい、構いません。」

 「あるアンデッドを使役する闇の組織によって殺されたらしい。三名は動死体(ゾンビ)と化し、一人の魔法詠唱者(マジックキャスター)は酷い拷問を受けていたとか…。 なんと惨たらしいことか…。」

 

 アインザックは顔に手を当てて、声を震わせながら伝えられる範囲をアダマスに告げた。 その指の間からは、悲痛な表情が見て取れた。

 

 「しかし、モモンくんがその仇を取ってくれたんだ。 素晴しい活躍だったと、墓守の衛兵から聞いたよ。」

 「モモン…ですか。」

 「知っているのかね? ああ、もう今や時の人だからね、この街に入った時点で聞こえてくるだろう。 『漆黒の英雄』と呼ばれているよ」

 

 アダマスは件の組織に対して深い怒りを感じながらも、『モモン』という名前に意識を取られる。その名前に心当たりがあるのだが、「まさかそんな安直な偽名はつけまい」と思い当たる人物の名前を頭の片隅へと追いやる。

 思考を切り替え、アダマスはアインザックに二つ目の質問を投げかける。

 

 「実は『漆黒の剣』とは面識がありまして、一度墓へ赴きたいのですが、どこにあるか教えてもらえませんか?」

 「それは構わないが、例の組織が共同墓地で騒動を起こしてね、今は荒れてしまっている為に立ち入ることができないんだ、墓地が整ったら、また教えるよ。」

 「ありがとうございます。」

 

 アダマスは深く頭を下げ、感謝の言葉を伝える。

 その様子を見たアインザックはアダマスに一つの提案を告げる。

 

 

          ●

 

 

 アインズはシャルティアが反旗を翻したとアルベドより連絡を受けた後その居場所を確認していた。

 その時、宿屋で待機させていたナーベから「冒険者組合の使いのものが、脅威となる吸血鬼(ヴァンパイア)が出現したので、組合まで来て欲しいと告げてきた」との報告を受け、シャルティアとの関連性を確信したアインズはその呼び出しに応じることにした。

 

 「さぁ、モモン君。空いている席にかけてくれ」

 

 部屋にいたのは七人の男、武装したもの、していない者、ローブを着た者たちがいるが、アインズが一番注目したのは、赤と白の大鎧を身に纏う、ミスリルプレートを首からさげた男だ。 以前からこの男には“アンデッド”の気配を感じていたのだ。

 全員の視線を浴びながらアインズが椅子に座ると、武装をしていない壮年の男性が口を開く。

 

 「まずは自己紹介をさせてもらおう。私がこの街で冒険者組合長を務めている。プルトン・アインザックだ。 そしてこちらが――」

 「既に吸血鬼(ヴァンパイア)が出現したと聞かれたと思いますが、その吸血鬼(ヴァンパイア)を発見した、アダマス・ラージ・ボーンです。」

 

 椅子に座る男たちのなかで、アインズだけが微妙に反応を示してしまう。

 テーブルに乗せた手が少し動いた程度ではあるが、歴戦の戦士である周りの人間達はその動きを察知する。

 

 「知り合いか?」

 「いや…なんでもない。」

 

 アンデッドの身になったとはいえ、微細な心の動きが訪れることはある。

 こういった咄嗟の反応はまだまだ課題だとアインズは苦慮しながら、今耳にした名前をしっかりと心に刻み込む。

 『ラージ・ボーン』それこそ、アインズが求めていた答えの一つだった。

 

 アインザックは次にエ・ランテルの都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア。魔術師組合長テオ・ラケシル、そしてミスリルプレートを下げた三つの冒険者チームの代表三名、イグヴァルジ、ベロテ、モックナックを紹介する。

 組合長は席についたあと、ひと呼吸置いてから再び口を開く。

 

「多忙なミスリルの君たちが、急な招集に応じてくれたことに感謝する。 早速だが本題に入ろう。 二日ほど前の晩エ・ランテル近郊の森で吸血鬼(ヴァンパイア)と思しきモンスターと遭遇し、彼の話では外見は銀髪で大口という印象が強く残っていたそうだ」

 

 その特徴から、シャルティアを知る者が聞けば、彼女を連想することは容易だ。吸血鬼(ヴァンパイア)の正体はアインズの中ではもはや確定事項となった。

 (アダマスがシャルティアと遭遇したとしても、反旗を翻させられるようなワザを彼は持っているのか?いや、そんな話は聞いていないし、それにあの『アダマス』がそんなことをするだろうか)

 

 アインズが幻影の眉をひそめている間に、話はその先に進んでいく。 

 

 「吸血鬼は対象を吸血することで絶対服従の配下に出来る。やつがこのエ・ランテルに侵入したら一大事だ。」

 「まさか共同墓地の事件と関係が?」

 「おお、昨晩モモンさんが解決したという」

 「あの程度の働きでミスリルとは羨ましい限りだ」

 ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』代表者イグヴァルジがアインズを睨みながら、険のある声を発した。  

 

 「昨晩の墓地での一件は、首謀者の遺留品からズーラーノーンの仕業だと判明している。」

 「ズーラーノーン、あのアンデッドを使う秘密結社か。 ならば、やはり吸血鬼と関係が?」

 「陽動かもしれない。 だが、判断するには、情報が足りな過ぎる」

 「ヴァンパイアが確認された付近に洞窟があることがわかっている。まずはそこに偵察隊を」

 「少し、良いでしょうか?」

 

 自己紹介以降、黙していたアダマスが手を挙げて、発言の許可を求める。

 「ああ、どうした、アダマス君?」

 

 「あの吸血鬼(ヴァンパイア)に対して、これだけですか? いや、そこのモモンさんならあるいは…」

 

 「なんだと!? だいたい何だこの男は!俺はアダマスなんて知らないぞ!そこのモモンもそうだ! 俺にはこいつらが名も売れてないウチにミスリルになれる程とは思えないね!」

 イグヴァルジが椅子を倒しながら立ち上がり、青筋を立てながらアダマスを睨みつける。

 その態度にアインザックが宥めるように告げる。

 

 「モモン君は、昨晩の一件で証明されているだろうが…アダマス君、何かわかりやすく皆に君の実力を示す方法はあるかね?」

 「まあ、無くもないですけど… それじゃ、何か硬いもの、用意してもらえますか?」

 

 

 

 アインザックが使いを走らせ、持って来させたものは長さ一五センチ程、厚み八センチの黒光りする重厚なインゴットだった。

 笑みを我慢できずに口端をこわばらせながらアインザックは口を開く。

 「これは未加工のアダマンタイトのインゴットだ。申し訳ないね、アダマス君、今すぐに用意できるのは、これくらいしかなかったんだ。」

 アインザックの言葉にアインズとアダマス以外の男たちは目を丸くしていた。

 それもその筈、アダマンタイトはこの国でミスリルやオリハルコンを超える至高の金属であり、最高峰の鍛冶師でなければ加工は不可能という程の硬度を誇る。鍛え上げればドラゴンの牙にさえ耐えられると言われる金属を「これくらい」とアインザックが表現した為だ。

 これはアインザックのアダマスへの挑戦でもあった。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の強さを皆に伝える為に効率よく話を進めなければならないことは分かっていた。それでも戦士として、一人の男としてアダマスの実力に興味があったのだ。そんな熱の入ったアインザックの思いはアダマスの一言で一気に冷却される。

 

 「そうですね、まぁ…これくらいですよね。」

 「は?」

 

 アインザックが口を大きく開けたまま唖然としている中、アダマスがインゴットを左手で胸の高さまで持ち上げ、片方の手を頭の上まで上げ、その手首は手刀の形を作る。 その様子をみた周りの男たちがざわめきだす「まさか…」と

 

 「ふん!!」

 

 ――ゴトッ

 

 「嘘だろ…」

 

 その声が聞こえた直後、硬く重いと音を立て、インゴットがテーブルの上に落ちる。 ただ、落ちただけではあるが…イグヴァルジが信じられないでいるのは、まだアダマスの左手にインゴットが握られている為だ。

 真っ二つに切断されたインゴットの断面は顎が外れそうになっているアインザックをはっきり映す程の、まるで鏡面の如く美しいものだった。

 アインズ以外の誰も手刀が振り下ろされた軌道をその眼で捉えることができなかった。

 

 「何かのトリッ――」

 「お見事!!」

 

 イグヴァルジがアダマスに疑いの言葉をぶつけようとするのを遮るように、二名のミスリル級冒険者チーム代表者が全力の拍手と喝采をアダマスへ向ける。

 

 「素晴らしい!今のはどのような武技をお使いになられたのですか!?」

 「いやいや、ミスリルどころではありませんでしたな、私も少しあなたの実力を疑っていたのですが、いやぁ、申し訳ない。」

 

 「な…ぁ…」

 

 立ち上がったまま、何も言えずに俯いていたイグヴァルジはゆっくりとした動きで自分で椅子を立て直し、そこに座る。

 魔術師組合長と都市長も一言も発することができず、ただただ呆然としていた。

 

 室内の騒がしさが一段落したところで、アインザックがわざとらしい咳払いをする。

 

「ええ、おほん。これで、アダマス君の実力は分かってもらえたかな? そのアダマス君が手も出せず、脅威とする吸血鬼(ヴァンパイア)だ。どれ程の化物か、理解してくれただろうか。では、話を戻そう、ズーラーノーンとの関連性を確かめることを含めての、偵察隊の編成だったな」

 

 アインザックの話を聞き、一人落ち着いていたアインズが言葉を発する。

 

 「その吸血鬼とズーラーノーンとは関係がない。」

 「何か知っているのかね?」

 「その吸血鬼の名は…ホニョペノト…」

 「は?」

 「ホニョペニョコだ!」

 

 アインズは自分で考えた完全無欠な偽名を自信満々に言い直す。 かなりゴリ押し気味に。

 

 「その…ほにょ…吸血鬼の名を何故君が知っている?」

 「私がずっと追っている奴だからだ。少々因縁があってな。かなり強い。偵察は私のチームで行う。もしその場にいたのなら私が滅ぼそう」

 

 イグヴァルジが何か言いた気に口を開くが、先の一件がトラウマになってしまったのか、その一言は飲み込まれる。

 漆黒の戦士が発する自信と決意に満ちた覇気に、その場に居たものは空気が色濃く揺らいだ気さえした。

 

 「自信があるのかね?」

 「切り札はある… 魔封じの水晶だ。」

 

 

          ● 

 

 

 最終的に、漆黒の戦士モモンが一チームで討伐に向かうことで話は完結した。

 会議が終わったあと、冒険者組合長、魔術師組合長、都市長の三名が部屋に残り、冒険者達は部屋を出ようとした時、イグヴァルジが一番初めに出て行った。

 その目を見たアダマスは、嫉妬からモモンを出し抜く為の準備をしそうな気がしていたが、ただ、彼の足手まといにだけはならないことを願った。 

 

 部屋を出て、一緒にエ・ランテルに戻ってきた(アイアン)プレートの冒険者達の休んでいる宿屋へ向かおうとした時、後ろから肩を叩かれる。

 振り向けばそこに居たのは、これから過酷な戦場へ向かおうとする英雄だった。

 

 「少し、良いだろうか?」

 「なんでしょうか?モモンさん。」

 「君は…いや…。 アダマスさんは、その吸血鬼(ヴァンパイア)と戦ったのですか?」

 「戦ったというか…一度攻撃を受けましたが、こちらからは反撃していません。」

 「そうですか。」

 

 アダマスはモモンが小さな安堵のため息をこぼしたように感じたが、直ぐに気のせいだろうと頭の中で処理をする。それ以外に、モモンに聞きたいことがあった為だ。

 

 「…モモンさんが、『漆黒の剣』の仇を取ってくださったんですよね」

 「ええまあ、そうなりますね」

 「ありがとうございます。」

 

 事実を確認できたアダマスは深々と頭を下げる。

 命を助けることはできなくとも、確かにモモンが仇を討てばそれだけで充分だった。時間が経てば仇は行方をくらませていたかもしれない為だ。

 情報の少ない今のアダマスでは、確実にズーラーノーンを追い詰められる保証はない。

 モモンはアダマスの肩に手を添え、顔を上げるのを促しながら『漆黒の剣』との出来事を話し始める

 

 「そういえば、彼らがアダマスさんの事を話していましたよ。 とても素晴らしい戦士だと。」

 「光栄です。彼らこそ、素直で優しい…仲間想いの良い冒険者でした。」

 「まったくです。」

 

 兜ごしに同じ想いを抱くことができたことを喜び、二人は固い握手を交わして、それぞれの目的地へと向かう。

 

 

          ●

 

 

 アインズは宿屋にて仲間と合流した後、アルベドにメッセージを飛ばす。

 「アルベド、例のアダマスと会った。 彼がシャルティアの発見者だったとはな」

 「まさか、アダマスがシャルティアをあの状態に?」

 「いや、やつにそんな特殊技術もアイテムもないはずだ。」

 「例のスパイが公開した情報以外の能力や、もしくはこの世界で得たものという可能性は…」

 「無いとも言い切れないが、むしろそのスパイの線の方が濃厚だろう」

 「未だ、アダマスとの密な接触は難しそうですね。」

 「そうだな、先ずはシャルティアの状態を詳しく知る必要がある。事を判断するには情報が少なすぎるからな」

 「畏まりました。手筈、整えておきます。」

 「頼んだぞ、アルベド。」

 

 

          ●

 

 

 

 「あれがモモン、戦士というより…。 まぁ、今は関係ないか。」

 

 アダマスはブリタ達の泊まる宿屋へ向かう。

 部屋に着くと、ブローバ、スパンダル、ボルダン、エラゴ、リュハ、アステルの六名はベッドでぐっすり眠っていた。

 一人、ブリタだけが起きている。 その顔は怒っているようにも見えた。

 

 「アダマス…」

 「は、はい。なんでしょうか…」

 

 アダマスは自分が何かやらかしたんだろうと、心の中で叱られる準備をしながら、背筋を伸ばす。

 

 「ごめんなさい!」

 「へ?」

 

 だが、返ってきた言葉は怒りではなく、謝罪だった。

 

 「私がさそわなければ…あんなことには」

 「え、あ、いや…関係ないですよね、それ。」

 

 「それでも、私のせいで…」

 

 「そうそう、それです!先ず自分から言おうと思ってたんですよ。ブリタさんのおかげで、これ。」

 

 そう言ってアダマスは胸に下がるミスリルのプレートをブリタに見せる。

 

 「今回の働きでミスリルのプレートに昇格しましたーって。まぁ、これ仮に、なんですけどね。 組合長が、これからミスリルに見合った仕事を斡旋してくださるみたいで、それを上手くこなせれば、正式にミスリルになれるみたいです。 ブリタさんに誘ってもらったおかげですよ。 本当は地道に昇格試験みたいなの、受けないといけないんですよね?」

 

 「まあ、そうだけど…」

 「そういうの飛ばしてこれだけ上のプレートもらえるなんて、ラッキーでした。」

 「あんたはホント…お人好しだねぇ」

 「よく言われます。 あとそれ、褒め言葉じゃないですよね。」

 「何言ってんの、褒めたのよ。バカ」

 

 「ほんとに…心配したんだから…」

 「すみません。」

 

 「バカ…」

 

 厚く、硬いアダマスの鎧胸部にブリタは額を当てながら、啜り泣く。

 何度も拳を胸元に当てながら――

 

 

 

 

 部屋の奥にあるベッドで寝たふりをしていたブローバが小さな声でとなりのスパンダルに囁く。

 

 「なあ、すっげぇ起き難いんだが」

 

 「私もだよブローバ」

 

 「出歯亀だ」

 

 「我々も一言、お礼でも言うべきではないか?」

 

 「でもこの状況じゃ」

 

 「まじ…むり…」

 

 

          ●

 

 

          ●

 

 

          ●

 

 

 先日大きな戦闘があった共同墓地の修繕が終わってから、アダマスは一人で『漆黒の剣』の墓参りに訪れた。

 ここに来る前に「ニニャ」とはどう書くのか冒険者仲間に聞いた甲斐もあり、すぐに目的の墓石を見つける。

 

 「ニニャさん…」

 

 アンデッドになり、人間の頃よりは精神の変動は少なくなってはいるが、知人を失う喪失感は、どうあっても消えることはなかった。

 大切なものを失う度、自分の無力さを痛感する。 大切な人、大切な場所、それらを自分は何度失えば良いのだろう。

 

 「ねぇ、アダマス」

 「うぉ!?」

 

 声のした方向へ振り向くと、そこにいたのはブリタだった。

 

 「そこに眠ってるのは、誰?」

 「え、ああ…ブリタさんに出会う前に、会った冒険者チーム『漆黒の剣』のお墓だよ」

 「へぇ」

 

 一〇〇レベルの自分がブリタさんの接近に気付かないなんて、そんなに彼らの死はショックだったのか、とアダマスは自身の精神状態を冷静に分析する。

 

 「それより、なぜここにブリタさんが?」

 「いやあ、アダマスっていつもフラフラどこかに行っちゃうから、心配で。」

 「いつも? ええ、まあ…ありがとうございます。」

 

 会話に違和感を覚えながらアダマスは落ち着いた声で受け答えをする。

 

 「あのモモンって人は気をつけた方が良いよ?」

 「ブリタさんもモモンさんを知ってるんですか?」

 「最近冒険者になったばかりで、いきなりミスリルプレート、んで吸血鬼(ヴァンパイア)を倒して今やアダマンタイトのプレート持ち、あれは絶対に怪しい」

 

 「それを言ったら自分もですよ。一応正式にミスリルプレート持ちになりましたから。 それにしても…そうか、倒したのか、モモンさんはすごいな。」

 「いやいや、あの吸血鬼(ヴァンパイア)だったらアダマスも倒せたでしょ?」

 「それは分かりませんよ。鎧は頑丈でも、魔法への耐性は自信ありませんから。 もし魔法を使われていたら、危なかったです。」

 「え? あ…そう、なんだぁ。 ふーん。」

 

 アダマスが宿屋で話したときと随分雰囲気の違うブリタに困惑していると

 

 「とにかく、あのモモンって冒険者。あんまり近づかない方が良いよ。 これは先輩としての忠告ね。」

 

 「ありがとうブリタさん。よく覚えておきます。」

 

 「よろしい。やっぱり、アダマスはそうでないと。」

 

 その口調にまるで、随分と昔からの知り合いのような気分になるが、あんな事件の後なんだから、今まで以上に親密になることもあるかもしれない、と思い直す。

 

 「それじゃ、アダマス。 またね」

 

 そういって、ブリタは左手をヒラヒラさせながら共同墓地を去っていった。

 

 「はい、また。」

 

 その後ろ姿が見えなくなるまでアダマスは見守っていた。

 

 






 イグヴァルジ「このやろう!! 離しやがれ!ぶっ殺すぞ!!!」

 アインズ「結局こうなるのか…」




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