ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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久びさのオリジナル話です。
時系列的には焔光の夜伯編の少し前くらいですね。


特別編
突然の訪問者


とあるマンションの一室。

一人の少女が槍を持って目を瞑っている。

しばらくすると少女は目を開く。

「今日はこのくらいにしておきましょう」

外を見ると、夕焼けに染まった空が見える。

そこで少女は何かを思い出したかのように呟く。

「そういえば、先輩から夕食に誘われていましたね。そろそろ行きますか……」

学校から帰ってすぐに精神統一を始めた為、少女は未だに制服姿だ。

そのまま行くわけにも行かないと、少女は着替え始める。

制服を脱ぎ終わったところで、少女はふと鏡を見、溜息をつく。

「牛乳を飲むと成長すると聞きましたが……」

もちろん身長である。

今の身長では彼とつりあわないのではないか、と思いつつ、一つ年上の同僚を思い浮かべる。

「と、そんなことをしている場合ではありませんね」

少女は手早く服を着ると、家を出て、隣の七〇六号室に向かった。

インターホンを鳴らすと、一人の少年が出てくる。

「姫柊か、まぁ上がれよ」

「はい、お邪魔します」

少年――暁古城が部屋に入るように促すと、少女――姫柊雪菜は礼儀正しく一礼して部屋に入る。

雪菜がリビングに着くと、そこには暁家の住人が勢揃いしていた。

「お、来たか。んじゃ、さっさと食おうぜ」

そう言い、早くもおかずに手を伸ばしたのは霊斗だった。

しかし、その手が隣に居た少女の手によって阻まれる。

「霊斗さん、雪菜ちゃんもまだ席に着いてませんし、頂きますも言わないなんて……非常識です」

そう言って霊斗を睨むアスタルテ。

さらにその隣では凪沙が頷いている。

二人に非難されて、霊斗も渋々手を引っ込める。

それに苦笑しながら雪菜が席に着くと、今度こそ本当に食事が始まる。

その後は他愛ない会話が続く。

そこでどういうわけか、霊斗の過去についての話になった。

「霊斗さんは、先輩のお父様に拾ってもらったんですよね?」

「そうだな。死にかけてたところをな」

霊斗はそう言うと、皆を見渡す。

「じゃあ、俺が暁家の一員になる前の話をしようか」

霊斗がそう言うと、古城が首肯く。

「そういや、一回も聞いたことないもんな」

それに同意するように凪沙も首肯く。

そこにアスタルテが更に付け加える。

「出来れば私は、私と会うまでの霊斗さんの話も聞きたいですけど……」

「それは時間がなくなるからまた今度な」

霊斗がそう言うと、アスタルテは首肯き、霊斗にすり寄る。

「あー、じゃあまずは俺の昔の家庭環境から話すか」

霊斗は昔を思い出すかのように目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の家は本土の山奥……神縄湖の近くの村にあった。

本当に小さい村でさ。

そこに俺は母親と、一歳違いの妹と弟と一緒に住んでた。

妹と弟は双子で、しかも二人とも過適応能力者(ハイパーアダプター)でな。能力は、二人で共鳴して、霊力を倍増させるってやつだった。

それさえ使えば、霊能力だけは凪沙にも匹敵するレベルだった。

そんな二人は俺と母親の大事な家族だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊斗には……弟と妹がいたのか……」

古城が驚愕する。

凪沙もそれに続ける。

「しかも混成能力者(ハイブリット)でしょ?すごい優秀な子達だったんだろうね」

凪沙の関心したような台詞に、霊斗は苦笑する。

「優秀だったのはお前だろ?……さて、続きを話すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだな。確かに、幸せに暮らしてた……とはいっても俺がまだ四歳五歳の頃だ。

だけど冬のある日、そんな日々が壊れた。

村のはずれで、俺達三人は遊んでいたんだ。

そこに、神父の格好をした男が来た。

最初はニコニコと笑って俺達を見てた。

だけど、その神父の表情が変わったのは俺が霊能力を使って、精霊と遊び始めた時だった。

その神父は血走った目で俺を見てた。

俺は怖くなって、二人をつれて村に向かって走った。

だけど大人と子供じゃあ、どんなに頑張ったって逃げ切れる訳がない。

途中で俺は捕まった。

俺は弟と妹に叫んだ。

逃げろ。今すぐ村に戻れ、ってな。

二人は泣きそうになりながら、必死に歯を食い縛って逃げていった。

俺は神父に捕まって、どこかに連れていかれた。

どこかはわからないけど、薄暗い、森の奥の祭壇。

そこで神父は血走った目で笑ながらこう言った。

「おお神よ、貴方の依り代がついに見つかった!私は貴方に感謝します偉大なる神よ!」

俺はそれを聞いた瞬間、死ぬと思った。

だから俺は自分から霊能力を暴走させ、祭壇を壊した。

そしてその神父を――殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊斗さん……辛いならもう……」

「ありがとな、アスタルテ。でも、ここで話さなかったらいけない気がするんだ。だから、大丈夫」

「わかりました。無理はしないでくださいね」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神父の死因は、崩れた祭壇の瓦礫に押し潰された事が原因の圧迫死。

もちろん、俺も無傷じゃあすまなかった。

結構な数の骨が折れてたし、たぶん内臓もやられてた。

だけど幸いな事に、古城のお祖母さんの神社がすぐ近くにあった。

俺は痛む身体を引き摺りながら、必死に歩いた。

途中からは雪が降ってきて、本当にキツかった。

あちこちの擦り傷に、雪が染みてさ。

辛くて、苦しくて、寒くて。

やっと森を抜けて、神社に続く道に出たところで、俺は力尽きた。

でも、ふと気が付いたら、誰かが俺に手を差し伸べてくれてた。

それに、身体の痛みもない。

俺は、自分が死んだと思った。

でも、その人――牙城の手は暖かくて、大きくて……。

そうしたら牙城は、俺に名前を聞いた。

俺は自分の名前を言おうとした。

でも、自分の名前が思い出せなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶を失ったと言うことですか?」

「ああ。それで、牙城がつけてくれた名前が、霊斗」

霊斗の話を聞き終わる頃には、もう皆食事を終わらせていた。

雪菜はごちそうさまでした、と言ってから自室に向かった。

自分の部屋に戻ると、雪菜はシャワーを浴びた。

そして、リビングでくつろいでいると、チャイムがなった。

「はい、どちら様でしょうか」

雪菜がドアを開けると、そこには自分と同年代くらいの少年が立っていた。

「夜分遅くにすみません。自分は、今日から七〇四号室に引っ越してきた、紅蒼牙と申します。よろしくお願いします」

雪菜は何か引っ掛かりつつも、名乗り返す。

「姫柊雪菜です。こちらこそよろしくお願いします」

雪菜がそう名乗ると、少年は首を傾げてこちらを見る。

「あ、あの……何か?」

雪菜が戸惑いながら聞くと、少年は口を開く。

「もしかして……雪姉?」

少年の台詞に、雪菜は息を呑む。

雪菜をこのようによぶ少年など、一人しかいない。

「蒼君?」

雪菜がそう呼ぶと、少年が目を輝かせながら抱きついてくる。

「やっぱり雪姉だ!久しぶり!」

雪菜は苦笑しながら、蒼牙を引き離す。

「あの……蒼君はなんでここに?」

雪菜が聞くと、蒼牙は真剣な表情になる。

「実はこの島に、昔生き別れた兄さんがいるみたいなんだ。だから、兄さんに会いに。あ、桃華もいるよ?」

桃華というのは、蒼牙の双子の姉である。

「そっか……お兄さん、見つかると良いね」

「うん、絶対に見つけるよ。そしたら、雪姉にも会ってほしいな。あ、もう行くね」

蒼牙はそれだけ言って、部屋に帰って行った。

雪菜はドアを閉め、何か胸の中にモヤモヤした気分を抱えながら、自室に戻った。

そこで、ふとある考えに辿り着く。

「まさか……そんなはずは」

そんなはずは無い、と頭を振り、布団に潜り込む。

雪菜はゆっくりと眠りに落ちていく。




新キャラが二人でました。
読みだけは紹介します。
紅 蒼牙《くれない そうが》
紅 桃華《くれない ももか》

ではまた次回。

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