基樹は初めて霊斗が吸血鬼化しているのを見た。
しかし、それはあまりに強大過ぎた。
霊斗が魔力を解放しただけで周囲のビルの窓ガラスが割れ、壁には亀裂が入る。
「暁霊斗……貴方は……」
"静寂破り"が恐怖に顔をひきつらせながら聞く。
霊斗はそれに静かに答える。
「だから正解だって。俺は第五真祖だよ」
しかし、五番目が言い返す。
「第五の真祖などいるわけが無かろう!真祖は我ら"焔光の夜伯"で最後のはず!」
霊斗はつまらなさそうに五番目を一瞥すると、溜息をついた。
「んなことも知らねぇのか……本来、天部の人工真祖計画は二つあった。一つは第四真祖、"焔光の夜伯"計画」
霊斗はそこまで言うと、五番目を指差す。
「こいつは、その計画で造り出された殺神兵器――第四真祖の眷獣の器だ」
眷獣の器。
基樹はそれを聞いた瞬間、反射的に霊斗に聞いていた。
「なぁ、五番目……ってことは、こいつ並の化け物がまだいるってことか! ?」
基樹の質問に、霊斗は首肯く。
「第四真祖の眷獣の器は全部で十二体。そして、それらが一つの魂の元に融合して出来るのが第四真祖だ」
霊斗は、そこまで言うと基樹たちに確認する。
「ここまではわかったか?」
すると、以外なことに"静寂破り"が口を挟む。
「待ちなさい、暁霊斗。一つの魂と、先程言いましたね」
「ああ、言ったが……それがなにか?」
"静寂破り"は真剣な表情で続きを聞く。
「その魂とは、どこにあるのですか?」
基樹ははっとした。
その魂があるのがこの絃神島だった場合、この島はどうなるのか。
基樹の疑念をよそに、霊斗が答える。
「恐らく、十二番目の素体……アヴローラ・フロレスティーナの中だ」
それを聞いた"静寂破り"が安堵したような表情になる。
「では、十二番目の封印を解かなければ……」
「ああ。第四真祖は復活しない。で、質問はもういいか?」
霊斗が再び聞き、全員が首肯くと、霊斗は話を続ける。
「さて……天部は世界最強の吸血鬼を産み出した。しかし、天部は第四真祖の反逆を恐れた」
基樹はそこまで聞いて納得した。
「なるほどな、第四真祖への対抗策として造り出されたのが第五真祖……か」
「ああ。第五真祖……"亡霊の吸血鬼"計画だ。ただし、この計画には第四真祖の計画とは明確に違う点がある」
霊斗の言葉に、基樹は首を傾げる。
そんな基樹を尻目に、霊斗は説明を続ける。
「その違う点というのは、第四真祖が"吸血鬼そのもの"を造り出す計画なのに対し、第五真祖の場合は、"受け入れた者を真祖にする呪われた魂"を造り出す計画だったということだ。つまり、その魂さえ受けいれることが出来れば誰でも真祖になれると言うことだ」
霊斗の言葉に、その場の全員が息を呑む。
今の説明は、世界の理を大きく覆す可能性があると言うことを表していた。
そんなものが量産されなくて良かったと、基樹はそっと胸を撫で下ろした。
すると、霊斗が五番目と"静寂破り"にこう言った。
「で、これ以上は俺にもわからん」
「え?」
霊斗の台詞に全員が脱力する。
「なんて中途半端な……」
「仕方ねーだろ、父さんがここまでしか言わない内にどっか行っちまったんだから」
霊斗はそう言うと、溜息をつき一言。
「ま、鍵は見逃してやってくれないか、"静寂破り"」
「そうですね……こちらにも有益な情報が得られたので、獅子王機関からは不問にしますが……五番目はどうしますか?」
「我も今回は見逃そう……第五真祖に勝てるとは思わぬからな」
二人の返事を聞いて霊斗はヴェルディアナに声を掛けた。
「だとよ、良かったなヴェルさん」
「いきなり馴れ馴れしいわね!?ま、まぁ……ありがと」
霊斗が五番目と"静寂破り"に片手をあげると、五番目は体を雷に変えて去り、"静寂破り"はいつの間にかいなくなっていた。
基樹は二人がいなくなった途端、地面に座り込んだ。
「はぁ……面倒な事に巻き込まれちまったな……」
そんな基樹に霊斗が笑いかける。
「はは、悪いな。面倒かけて」
「いいさ。どっちにしろ、兄貴辺りに言われて首突っ込んでたさ」
基樹はそう言って苦笑すると、立ち上がる。
「で、ヴェルさんはそれを使って第四真祖の素体を蘇らせるのか?」
「そうよ、そして第四真祖を私達の王に据えるのよ」
ヴェルディアナは、そう言って霊斗達に背を向けて歩き去った。
ヴェルディアナが見えなくなったところで、基樹は霊斗に聞いた。
「なぁ霊斗、第四真祖ってのは兵器なんだよな?何に使うための兵器なんだ」
霊斗はその問いに静かに答える。
「"聖殲"だよ」
基樹はMARの研究棟の屋上に居た。
隣には閑古詠が座っている。
「いやー、あそこで間一髪かわした後に階段を踏み外した時はマジで死んだと思ったぜ」
「私もヒヤヒヤしました。あまり心配させないでください」
古詠が怒ったように言う。
基樹は笑ながら謝る。
「悪い悪い、でも先輩が助けてくれて良かったぜ。ありがとな」
古詠は基樹の感謝の言葉に頬を赤く染めて立ち上がる。
「私はもう行きます。危険な行動は慎むように」
そう言って古詠は姿を消した。
基樹はつれないなー、と呟きながら屋上のドアを開けた。
そして、いつの間にか屋上に居た二人組に一言。
「霊斗なら下だぜ」
基樹はドアを閉め、家路に着いた。
焔光の夜伯編、おしまいです。
ではまた次章!