基樹は霊斗のアイコンタクト通り、古城たちから五百メートル程離れたところを歩いていた。
「しっかし……浅葱のやつも変わったよなぁ……」
原因は恐らく、いや、確実に古城との出会いだろう。
当事の浅葱は、お世辞にも人付き合いがうまいとは言えなかった。
それが古城に出会ってからは、何かと彼に話しかけ、裏では霊斗にまで古城の話を聞いたりしていた。
そんなことがあってから、浅葱には友人が増えた。
実質的には古城のおかげなのだろう。
だが、基樹が気にしているのは二人の関係ではない。
「登録魔族か……見た感じはまだ若いが……」
古城たちの後方二百メートル。
不審な女が彼らを着けている。
霊斗が人払いの結界を一定範囲に張っているので、例え戦闘になろうとも民間に被害はでないが、浅葱と古城が危ないのは事実だ。
しかし、女の方も霊斗がただの人間ではないことに気づいているのか、すぐに手を出す様子はない。
しかし、古城たちが歩道橋を渡りきった時、霊斗が動いた。
「あ、やばい。俺そういや那月ちゃんに呼ばれてんだった!すまんが後は二人で帰ってくれ!」
霊斗はそういうと回れ右してこちらに戻ってくる。
古城たちがある程度離れたのを確認して、霊斗と合流する。
「基樹、相手は?」
霊斗に聞かれて基樹ははっとした。
いつの間にか女が消えている。
「……すまん、見失った……」
基樹が謝ると、霊斗が首を横に振る。
「いや、基樹が捕捉できないなら答えは一つだ……吸血鬼の霧化だ。そうだろ?出てこいよ」
霊斗が基樹の背後にそう言うと、歩道橋の手すりの上に女が現れる。
「こんなに早く見破られるなんて……あなた、何者?」
女はブルネットの髪を風になびかせながら問う。
それに霊斗は余裕な表情で答える。
「そうだな……まぁ、俺も吸血鬼だ、とだけ言っておくよ。カルアナ伯爵家の生き残り、ヴェルディアナ・カルアナ嬢」
「なっ!?あなたがなぜそれを!」
基樹は女――ヴェルディアナ・カルアナに聞く。
「なぁ、あんたはなんで古城を狙ってたんだ?」
すると、女は愕然とした表情になる。
「そこまでバレているのね……本当にあなた達、何者なのよ……」
基樹が、ただの親友だと答えようとした瞬間、辺りを雷光が照らした。
それを見てヴェルディアナが息を呑み、霊斗が歯ぎしりをする。
「まずいな……予想以上に早いな。"
すると、歩道橋の上に二人、新たな影が降り立つ。
「久しいですね、暁霊斗」
「……そいつ、
霊斗の問いに、"静寂破り"は微笑で返す。
「ああそうかよ、采配者の権限でヴェルディアナから鍵を取り返しに来たんだろ?」
霊斗がそう聞くと、"静寂破り"は頷き、口を開く。
「話が早くて助かります。暁霊斗、獅子王機関三聖の名において命じます。ヴェルディアナ・カルアナから鍵を取り返しなさい」
基樹はまずい、と本能的に直感した。
霊斗が敵に回ったら、今の絃神島には勝てる者は居ない。
しかし、次の霊斗の台詞は以外なものだった。
「はっ、下らねぇ。悪いけどな、ヴェルディアナの事はこいつの姉貴に頼まれてるんでな。あんたの命令より優先させてもらう」
不敵な笑みで霊斗が牙を剥く。
「そうですか。ならば……五番目、お願いします」
"静寂破り"がそう言うと、五番目が霊斗の前に進み出る。
「只の吸血鬼風情が……王たる我に背いたこと、後悔するがいい」
彼女はそういうと、霊斗に向かって雷撃を放った。
手加減なしの一発。
いくら霊斗が不老不死の吸血鬼といえど、耐えられるモノではない。
しかし、雷撃は明後日の方向へと飛んで行った。
「な……!?」
五番目が目を見開いている。
しかし、霊斗はつまらなさそうに一言。
「やっぱ素体程度じゃ相手にならんわ」
この一言に、その場の誰もが絶句し、戦慄した。
なぜなら、霊斗が纏っていた魔力が、真祖のそれだったからだ。
世界に三人しか存在しないはずの真祖。
その四体目の素体すらも越えた、真祖以上の化け物。
その噂は、少しだけ聞いたことがある。
なんでも、世界で最も残虐な吸血鬼だと。
その名を、"静寂破り"が静かに呟く。
「まさか……第五真祖、"
その恐怖の呟きを聞いて、霊斗は酷薄な笑みを浮かべボソリと一言。
「正解」
直後、周囲を圧倒的な破壊の渦が駆け抜けた。
では次回。