書きます。
霊斗が出ていった直後。
「えーと…霊斗はどうしたんだ……?」
古城が天音に聞く。
「いいよー、たぶんすぐ帰ってくるし」
「そういうもんか……?」
天音の適当な返しに戸惑う古城。
すると、雪菜が古城のパーカーの裾を引っ張る。
「先輩、あの……アスタルテさんが……」
「ん?アスタルテがどうかしたのか?」
古城がアスタルテが居たところを見ると、そこには誰も居なかった。
「どこいったんだ……?」
古城が呟くと、浅葱が呆れたように言う。
「霊斗の後についてったわよ。それはもう驚くくらい気配を消してね」
それを聞いて古城と雪菜は溜息をつく。
「なんでまた自分から危険なところに……」
「バカップルですね……」
古城と雪菜が次々に呟く。
しかし、雪菜の呟きに浅葱がつっこみを入れる。
「いや、あんたらが言うか……それより、続けていい?」
浅葱がそう言って続ける。
「えっと……どこまで説明したっけ……あ、そうそう。つまり、古城と凪沙ちゃんを騙していた人物がいる。だけど霊斗は知っていた」
それを聞いた雪菜がはっとした表情になる。
「つまり、その嘘が……先輩の体質の原因を知る手がかり……?」
雪菜の呟きに浅葱がうなずく。
「そういうこと……じゃあ、古城の体質?のことについて話してもらおうかしら?」
浅葱が古城を睨み付けながら言う。
「あ、ああ……それは――」
次の瞬間、古城の台詞を遮って爆発音が響いた。
最初に状況を確認したのは雪菜だった。
「先輩!医療棟が!」
雪菜の声を聞いて古城が医療棟の方を見ると、無残に崩れ去った医療棟の壁があった。
「なっ!?あそこには凪沙が!」
古城が飛び出していく。
「先輩!?」
「あっ、古城!なにしてんのよ!死ぬわよ!」
二人の呼び掛けも虚しく、古城の姿は立ち込める砂煙の中に消えていった。
霊斗は瓦礫を押し退けて地上に出た。
「ってて……思いっきり殴りやがって……」
呟きながら周囲の被害状況を確認する。
だが、視界に飛び込んできたものに気づいて絶句する。
「まずい……古城が来ないことを祈るしか……」
そう呟いた霊斗の真横に大剣が叩きつけられる。
「のわぁあっ!?あぶねぇぇ!」
霊斗は飛び退きながら今の剣を使っている者を確認する――。
「――つっても、わかってるんだけどな……」
霊斗は呟きながら煙の向こうを霊視する。
そこに浮かび上がったのはアスタルテと神産巣日神だった。
「あいつ……町中で眷獣なんか使いやがって……うおっ!」
咄嗟に飛び上がった霊斗の真下を剣が通り抜ける。
「アスタルテ!もうやめろ!」
霊斗が必死に呼び掛けるもアスタルテには届かない。
虚ろな瞳で何かをぶつぶつと呟いている。
(くそっ……なんで急にヤンデレみたいに……)
霊斗が一瞬考え込む。
その瞬間、アスタルテの眷獣が剣を降り下ろす。
(しまった――)
霊斗が死を覚悟した時だった。
「疾く在れ!"獅子の黄金"!」
聞き慣れた声と共に、雷光が視界を埋め尽くした。
霊斗に剣が迫っているのをみて、古城は反射的に眷獣を召喚していた。
剣を弾き、霊斗に駆け寄る。
「霊斗!」
近づいてくる古城に気づき、霊斗が弱々しく言う。
「古城か……たのむ、アスタルテを説得してくれ……」
「は?」
古城はあまりに予想外な台詞に絶句する。
「いや、話を聞いてくれよ。実はかくかくしかじかで……」
「なるほどわかった」
「相変わらずどうやって通じてるのかわからないですね……」
二人の意志疎通につっこみをいれたのは雪菜だった。
「おお雪菜、お前もアスタルテを説得してくれ」
「はぁ……わかりました」
雪菜は首肯くと、アスタルテの方に向かって走っていった。
それを見届けてから、霊斗は古城に話の進行度を確認する。
「で、古城。どこまでわかったんだ?」
「ああ、それは――」
「何よこれ!どういうことよ!」
古城の台詞を遮ったのは浅葱の絶叫だった。
そして、浅葱は古城と霊斗のところに駆け寄ってきた。
「ちょっと古城!あんた、なんなのよあれ!」
浅葱の問いに霊斗が何かに納得したかのように首肯く。
「ああ、そこからか」
「なによ、悪い?」
浅葱が霊斗を睨み付ける。
「いや、浅葱の疑問に答えてやるよ。ずばり古城は第四真祖だ」
霊斗がさらっとカミングアウトする。
「ああ、第四真祖ね。なるほどなるほど……ってはぁぁぁぁ!?」
「いや、事実だから。なぁ古城?」
霊斗が古城に聞く。
「あ、あぁ。黙ってて悪かった」
古城は浅葱に謝る。
浅葱はそんな古城をじっくりと見つめたあと、全力のデコピンを放った。
「いたっ!何すんだよ!」
古城が抗議するが、浅葱は更にデコピンを連射する。
「この馬鹿!なんでそんな大事なこと今まで黙ってんのよ!」
浅葱の剣幕に押され、古城が土下座をする。
「……申し訳ございませんでした」
一方の浅葱はというと。
「えっ、あ、いや。そこまで本気で怒ってた訳じゃないし……ど、土下座までしなくていいわよもう!」
古城の土下座に戸惑いながらも、あっさり許していた。
そこに雪菜とアスタルテが戻ってきた。
「霊斗さん、説得しました」
「あぁ、ありがとな……さて、アスタルテ」
「はい……」
霊斗に呼ばれたアスタルテはその場に正座する。
「まぁな?俺も確かに誤解を招く行動をしたと思っている。だけどな、事情も聞かずにいきなり殴るのはないだろ」
「はい……」
「しかも町中で眷獣なんか使って……特区警備隊がきたらどうするんだ?」
「それは……」
「あとな、最後に言っとくけどな……お、俺が愛してるのはアスタルテだけだから。浮気なんか絶対にしないから」
霊斗はそう言うとアスタルテの頭を撫でる。
すると、アスタルテの瞳から涙が次々と零れ落ちる。
「れ、霊斗さん……」
「あぁもう、泣くなよ。お前が泣いてるとこっちまで辛くなるだろ?」
霊斗はそう言って、アスタルテを抱き寄せる。
あまりに自然な動作だったため、誰も気にしていなかったが、霊斗の顔は真っ赤だった。
「見つけた、やっと」
「探し続けて約三年……こんなところに」
「兄さん」
「お兄様」
「で、霊斗、凪沙は――っ!?」
「古城?あっ……」
霊斗はアスタルテを抱き寄せたまま絶句した。
古城の視線の先には、氷に包まれた金髪の少女がいた。
その少女を見た古城が、絶望したような顔をしている。
「……先輩?」
雪菜の呼掛けにも答えず、古城が呟く。
「アヴ……ローラ?」
そして古城は意識を失った。
続いて浅葱が何かを思い出したかのように座り込む。
「あぁ……そうよ……アヴローラ……第四真祖……」
「藍羽先輩!?」
雪菜が駆け寄ると同時に浅葱も意識を失った。
霊斗の脳裏には二人が思い出せなかった情景がくっきりと焼き付いていた。
燃え盛る街、荒れ狂う魔力の奔流。
逆巻く虹のような金髪、焔光の瞳。
今年の春に起きた惨劇。
焔光の宴の記憶。
限界……です。
次は早く出せるように頑張ります。
ではまた次回。