社員食堂向かう道中。
「ところでさ、霊斗が第五真祖で、アスタルテちゃんがその伴侶っていうのはちょっと前に聞いたけどさ……古城と姫柊さんはどういう関係なの?」
「ぶほっ!?」
「あ、浅葱?急にどうしたんだ?」
「いや、霊斗達の距離感と古城達の距離感が似てたから、ちょっと気になって……」
「それは俺も気になるなー」
「や、矢瀬?」
「で、姫柊さん。結局の所、二人はどういう関係なの?」
「それは……」
雪菜が助けを求めるように霊斗の方を見る。
「まぁ、言ってもいいんじゃないか?」
「……はぁ、わかりました。ただし、藍羽先輩には調べてもらいたい事があります」
「いいわよ。その条件、呑んであげる」
二人が一歩も退かずに火花を散らし合うのは、周りの人間にとっては恐怖ですらあった。
そして、その空気に耐えかねた矢瀬が手を挙げる。
「すまん、俺は少しトイレに行ってくる」
「あ、じゃあ俺も――」
古城も便乗しようと振り替える。
だが、その肩を掴まれる。
「あんたはここにいなさい」
「先輩?逃げないでくださいね?」
「……はい」
渋々その場に留まる古城。
「で、何を調べればいいの?」
「四年前の、暁先輩達が巻き込まれたという事件を調べてください。なるべく詳しく」
「わかったわ。少し待って」
浅葱はそう言って愛用のノートパソコンを取りだし、起動した。
MAR屋外。
ジャガンとキラは対象の元へ向かっていた。
「このビルの上、かな」
「行くぞ」
二人は一息に六階まで跳躍した。
そこには白いフードを被った少女がいた。
「何者だ、貴様」
ジャガンが聞くが、少女は答えずに隣のビルへと跳び移る。
「ふん。力ずくで聞き出せと言うのか……面白い。やってやろう」
ジャガンは敵を追って跳躍する。
そして
「''
自らの眷獣を呼び出し、ビルを溶断する。
しかし
「流石の威力と言っておこう、トビアス・ジャガン」
少女は笑いながらさらに隣のビルへと移っていた。
「あなたの名前と所属、それと、第四真祖を狙う理由を教えてもらえますか?」
キラが穏やかに聞く。
たが、少女は再び笑うと、キラに言う。
「第四真祖を本当に狙っているのが私だと思っているのならば、それは見当違いだぞ。ヴァトラーの配慮を無駄にするのではない」
「……っ!?あなたはアルデアル公の居場所を!?」
「捕らえているだけだ。殺してはおらん」
「貴様が閣下を捕らえた?笑わせるな!キラ、俺がやる!」
ジャガンがそう言って新たな眷獣を召喚する。
「精神支配……珍しいな。だが――」
少女はそこまで言うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ぐぁっ!?……精神支配が……効かない……だと」
「まだまだ未熟だ……さて、どうする?」
「トビアス!離脱するよ!」
「くっ、わかった!」
二人はビルから飛び降り、少女から逃げる。
だが、少女の速度は魔族の常識から外れていた。
「馬鹿な!?追い付かれる!?」
「ククッ、私から逃げられると思うなよ!」
少女がそう言いながら放った雷撃が二人に到達し、周囲を爆音と煙が包み込んだ。
矢瀬はMARのビル内を屋上に向けて走っていた。
「くそっ、なんだあの魔力は!?おい、モグワイ!」
『ケケッ、該当サンプルの情報だ。お前にも馴染み深いだろ?』
「サンプル名は……アヴローラだと!?馬鹿な!」
『本当のとこはどうか知らんがな』
「また……見ているだけしか出来ないのか……」
矢瀬がそう呟いた次の瞬間、視界に人影が映る。
「なっ!?俺の耳に架からない……だと!?」
「残念ですが、矢瀬基樹。あなたはもう見ていることすら出来ませんよ」
「絃神……冥駕!」
「気安くその名を呼ばないで頂きたいのですが……まあいいでしょう。では、さようなら」
冥駕は手に持っていた槍を一閃する。
矢瀬は抵抗する間もなく、階段の下へと落ちていく。
だが、床に直撃する直前空間が揺らぎ、矢瀬の姿が一瞬で消えた。
「仕留め損ねましたか……ですが、動ける傷ではないはず。ひとまず、目的は達成ですね」
そして、冥駕は矢瀬の落としたスマホを一瞥し、歩き去って行った。
「あったわ。三年八ヶ月前の三月、ローマで列車の爆発テロが発生。乗客乗員、駅にいた人、合わせて四百名以上が死傷。かなり大規模な騒ぎになってたはずよ」
浅葱がパンケーキを食べながら画面の情報を読み上げる。
そのままMARの記録と照らし合わせ、ため息をつく。
「嘘でしょ……」
「どうした?」
「事件は現地時間の午後一時なの。でも、凪沙ちゃんがMARに運び込まれたのは午後八時。時差を考えても、計算が合わないのよ」
「ってことは……」
「先輩も凪沙ちゃんもこの事件には巻き込まれていない、と」
「そうなるわね」
古城は絶句する。
「じゃあ、俺達は……ずっと騙されてた……?」
「古城……悪い、俺は知ってたんだ……」
「霊斗……なんでなんだ……」
「それは……お前の体質に関係するからだ」
「俺の……体質?って、つまり第四真祖の――」
古城がそこまで言った時、外から強大な魔力の波動が数ヶ所発生しているのを感じた霊斗達は、窓の外を見る。
「まずいな……天音、ブースト剤」
「使いすぎは厳禁だよ」
「わかってる」
霊斗はブースト剤を噛み砕くと、古城達の方を向く。
「キラとジャガンが危ない。俺が援護に行くから、お前達はここにいてくれ……古城、いざとなったら迷わず力を使えよ」
「ああ。わかってる」
霊斗はそれを聞くと、空間転移で姿を消した。
ああ、疲れた……。
ではまた次回。