眷獣もちゃんとだすよ!
では、本編をどうぞ。
雪菜はモノレールに乗ってアイランド・イーストに向けて移動していた。
戦闘が近づいて来る。
その時、あの漆黒の妖鳥が苦悶の声をあげた。
妖鳥に攻撃しているのは虹色に輝く腕だった。
苦しむ妖鳥が辺りに無差別に攻撃をばらまく。
その攻撃により、モノレールの線路は破壊され、雪菜は飛び降りた。
アイランド・イースト―倉庫街は炎に包まれていた。
(いったい、旧き世代の吸血鬼を追い詰める眷獣の宿主とは……)
その時だった。
雪菜の目の前に人が落ちてきた。
男だった。
肩口から、何か大きな刃物で斬られたような傷口が心臓にまで届いている。
恐らくこの男が先程の妖鳥の宿主なのだろう。
旧き世代の吸血鬼でなければ確実に死んでいた。
そして雪菜は彼を安全な場所へ移動させようと周りを見渡す。
と、声が―
「ほう、目撃者ですか。投げ捨てた場所が悪かったようですね」
巨大な斧を持ち、法衣の下に鎧を着た身長二メートル近い大男だ。
「今すぐ攻撃を止めてください。聖域条約で、行動不能の魔族に対する攻撃は禁止されているはずです」
そう言って雪菜は雪霞狼の穂先を男に向ける。
「ふむ、この国の降魔師ですか。若いですね。聖域条約など、魔族におもねる背教者が定めた法に、この私が従うとでも?」
そう言うと、男は斧を振りかざして雪菜に接近する。
「くっ!」
それを雪菜は雪霞狼で弾く。
男は意外そうな顔をし、後ろへ飛び退く。
「なんと!その槍、まさかシュネーヴァルツァーですか!?いいでしょう。獅子王機関の剣巫よ、ロタリンギア殲教師、ルードルフ・オイスタッハが手合わせ願います!」
「ロタリンギア聖教!?西欧教会の祓魔師がなぜ吸血鬼狩りを!?」
「我に答える義務は無し!」
そう言ってオイスタッハはまたも斧を振り下ろす。
「はあっ!」
その斧を雪菜は雪霞狼で弾き、さらにオイスタッハに向けて槍を突き出す。
「ぬぅん!」
オイスタッハはその攻撃を左腕の鎧で受ける。が、鎧には亀裂が走る。
「我が聖別装甲の防護結界を一撃で破りますか!これが獅子王機関の秘奥兵器の力!とくと見せて貰いました。アスタルテ!やりなさい!」
「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」
そう言って雪菜の前に飛び出してきたのは藍色の髪に薄い水色の瞳、左右対称の整った顔立ちの妖精じみた美貌の少女だった。
そして、彼女の背中から現れたのは先程見た、虹色の腕の眷獣だった。
「そんな!人工生命体がなぜ眷獣を!?」
そう。本来ならば、この少女は眷獣を使えないはずなのである。
なぜなら、眷獣は実体化する際に宿主の生命力を大量に食らうからだ。
その為、無限の負の生命力を持っている吸血鬼しか、眷獣を使役することはできないのだ。
しかし、この少女は眷獣を操り、雪菜に攻撃をしてくる。
「くっ!」
少女が放った虹色の拳を雪霞狼で受け止める。
眷獣が受けたダメージが逆流しているのか、少女が苦悶の表情を浮かべる。
そして
「ああああーー!」
少女の背中から、もう一本の腕が出て来る。
「なっ!」
その瞬間、雪菜は自分の最後を悟った。
いま、この右腕を押さえていれば、左腕の攻撃を避けられない。
かといって、左腕を避けようと、力を抜けば右腕に押し潰される。
雪菜が覚悟を決めた瞬間、ふと、二人の少年が頭をよぎる。
自分が死ねば、彼らはきっと悲しむ。
そういう、やさしい吸血鬼(ひと)達なのだ。
だから、悲しませたくない、死にたくない。
そう思ってしまった。
その時その少年達の声がすぐそばで聞こえた。
古城は拳に魔力を込めて腕を殴る。
腕はダンプトラックにでも直撃したような速度で吹き飛んだ。
そのすきに、霊斗が空間転移で雪菜をアスタルテから離す。
そして、雪菜に拳骨。
「痛っ!何するんですか!」
「こっちの台詞だ馬鹿野郎‼戦闘には介入するなって言っただろ!」
「ったく。霊斗が俺を連れてここまで来てくれなきゃ死んでたぞ?」
「うぅー……」
雪菜は目に涙を浮かべる。
「ほら、泣くな。あとは俺に任せろ」
「霊斗、俺は?」
「足手まといだ」
「ひどい!」
そんなやり取りをしていると、オイスタッハが
「今の魔力……吸血鬼ですか。恐らくは貴族と同等か、それ以上。まさか、第四真祖の噂は真実ですか?しかし、そちらの貴方は何者ですか?吸血鬼のようですが、第四真祖よりも強大な魔力を持っている……」
「あ?俺か?」
霊斗は昔みた特撮の主人公の真似をしていってみる。
「俺は通りすがりの吸血鬼だ。覚えておけ」
「ああ、ただの厨二病ですか」
「なんでだよ!かっこいいだろ!」
「今時、小学生ですらやらないぞ」
「みんななんて嫌いだ!」
と、その時。
アスタルテが起き上がって眷獣を召喚した。
「再起動、完了。命令を続行せよ、''薔薇の指先''」
「待て!俺達はあんたらと戦うつもりはない!」
「待ちなさい!アスタルテ!今はまだ、真祖と戦う時期ではありません‼」
しかし、宿主の命令を受けた眷獣の攻撃は止まらない。
「霊斗っ!」
古城が霊斗を庇って前に出る。
無理やり右腕を殴り、撃退するが、左腕の攻撃を受けてしまう。
だが、古城の傷口から迸ったのは、鮮血ではなく、眩い雷光だった。
「待て……、やめ……ろぉぉぉぉぉぉ!」
次の瞬間、古城の全身から雷光が放たれる。
「古城!」
「ぬ、アスタルテ!一旦退きますよ!」
そう言ってオイスタッハとアスタルテは逃げる。
しかし、古城の攻撃は止まらない。
このままでは島が沈む、そう判断した霊斗は雪菜に指示を出す。
「雪菜!結界を張ってそこの怪我人を守れ!」
「わかりました‼」
そして、霊斗は拳を握る。
だが、古城に殴りかかるわけではなく、静かに祝詞を唱える。
「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より喚び起こす!」
そして、拳を空に向ける
「降臨せよ!我が十二番目の眷獣''天照大御神(アマテラス)''!!」
そう、霊斗が言うと、霊斗の後ろに巨大な女神が現れた。
その姿はまさに太陽。周りを昼間のように照らす。
「天界五重結界!」
霊斗がそう言うと、アマテラスから火球が放たれた。
それは、古城に当たると、周りに炎の五重結界を張った。
その中が爆発に包まれ、その煙が晴れた時、爆心には古城が無傷で眠っていた。
「まったく、世話のかかる人ですね、先輩は」
「ほんと、世話のかかる兄弟を持つと大変だぜ」
そう言って霊斗は古城を背負う。
「雪菜は先に帰ってろ」
そう言って霊斗は空間転移で雪菜を家へと飛ばした。
そこで、疲れたように溜息をつく。
「勘弁してくれ……」
いつの間にか移っている兄弟の口癖を呟き、自宅へ向かって歩く。
途中で思い出したように警察と消防に匿名で連絡をし、再び自宅に向かう。
明日、担任にガチギレされるのを予想しながら。
ついに一体眷獣を出せた。
こいつが、封印されてないやつですね。
次回は決戦に行けるかどうか……。
まぁ、頑張ります!
それではまた次回!