「フフ……ハハハ!これで第四真祖もただの肉塊だ!我ら獣人こそが最強の種族に相応しい!」
ハザーロフが感慨深げに呟く。
第五真祖の攻撃を受け、直後の神獣化で寿命は削られたが、目的は果たされた。
たが、ハザーロフの耳に響いてくる声があった。
「古城君!霊斗君!起きてよ……なんで!目を開けてよ!」
悲痛な叫びをあげていたのは巫女装束を纏った少女だった。
「なるほど、少年が部屋の隅に突き飛ばし、第五真祖が結界を……素晴らしい気概だ。だが、愚かだったな。――今度こそ消し去ってくれる!」
ハザーロフは再び神獣化し、体内に魔力を溜める。
神獣の強力なブレスで部屋ごと焼き付くすつもりなのだ。
だが、ハザーロフはふと疑問を覚える。
(なぜ少年は第四真祖の前に……?)
嫌な予感に体が震える。
その予感が正しければ、自分は今度こそ死ぬだろう。
「第四真祖に……自らの血肉を捧げたと言うのか!?」
ハザーロフが叫ぶと、霊斗が立ち上がる。
「すべて古城の計算通りってことだよ。それが意味することくらい、わかるよね?」
霊斗の言葉に続いて、誰かの声がする。
「ア……ヴ、ローラ……」
それは本来聞こえるはずのない声。
「なぜ……少年が……」
「ああ、言ってなかったっけ?僕は混成能力吸血鬼。霊能力だって使える。それに――死霊術もね」
「それで少年の残留思念を――!?」
ハザーロフがその先を言うことは叶わなかった。
巨大な氷の杭が彼の身体に突き立てられたからだ。
「第四……真祖……」
氷の杭を産み出したのは小柄な少女。
逆巻く虹色の長髪。
焔光の輝きを放つ瞳。
「ぐぉぉ……こんな力、あっていいわけが……」
周りの気温が下がり始める。
負の温度領域、すなわち絶対零度まで。
ハザーロフの耳に最後に聞こえた言葉は、無慈悲な声音だった。
「''天照大御神''、ハザーロフ以外に結界をお願い」
次の瞬間、遺跡の天井に押し潰されたハザーロフは、絶命した。
暁牙城が目を覚ますと、もう夜明けだった。
「父さん、目が覚めた?」
牙城が声の方を見ると、霊斗が心配そうにこちらを見ていた。
「遺跡はどうなった!?……ぐぉ……」
「傷は治してあるけどまだ激しい運動は駄目だよ」
「……遺跡は?」
「潰れた」
「古城達は?」
「そこのところの説明は……あ、那月ちゃん、丁度良いところに」
「ふん、暁牙城、お前が心配している娘は重症だ。まずローマの病院に輸送する」
「そうか……ミス・カルアナは?」
「生きているが、しばらく私の監視下に置く。非常時とはいえ、''魔族特区''内での眷獣の行使は認められていないからな。まぁ、上と掛け合ってみるさ」
「じゃあ、最後だが、古城は?」
「全身に銃弾を浴びた跡がある」
「そうか……じゃあ……」
「まあ早まるな。今は無傷だ」
「は?無傷?」
「そうだ。身体の半分が消し飛んだ痕跡もあるのだがな」
「じゃあ、第四真祖が復活したのか!?古城を従者に!?」
「そこまで行くと私にもわからん。お前の息子に聞け」
那月はそう言うと立ち去って行った。
「霊斗、教えてくれ。何があった?」
「古城は凪沙とアヴローラを護ろうとしたんだ。それで――一回死んだ。でも、凪沙が、第四真祖の力を使って古城を従者に……それで凪沙は……」
「……わかった。霊斗、古城達によろしく言っておいてくれ」
「父さん?」
「俺は……凪沙を救う方法を探す。……あとな、霊斗」
「何?」
「もっと男らしい言葉使いに最後したらどうだ?もう中学生だろ」
「え……それってどういう……」
「お前は立派な真祖だ。だったら威厳をもて。……古城と凪沙を護ってくれ」
「……わかった。お、俺が古城達を護る」
「よし、いい返事だ」
「父さん、凪沙はたぶん絃神島に行くことになる。だから、俺と古城も……絃神島に行っていいか?」
「那月ちゃんに頼んでみろ。あとは、母さんにな」
牙城はそう言うと、片手を挙げて去っていった。
「……父さん、俺が……全部護ってみせる」
霊斗の固い決意と共に、運命の歯車が廻りだした。
学校でマラソン大会があったんですけど……あれ、なんでやるんでしょうね?
まぁ、また次回!