久しぶりの戦闘回です。
霊斗が遺跡を飛び出すと、キャンプが燃えていた。
「これは……」
「チッ、派手にやられたな」
霊斗の背後の遺跡から牙城が舌打ち混じりに毒づく。
牙城が銃を構えて警戒しながら霊斗に聞く。
「やっぱり死霊術か?」
「うん、あらかじめ結界の内側に死体を埋めてあったんだと思う……」
霊斗が犯人として最も怪しい人物の名前を言おうとした瞬間、岩陰から巨躯の男が現れた。
「牙城!坊主も無事か!」
「カルーゾ、どう言うことだ?」
「襲撃者だ。今はなんとか防いだが、次にいつ襲ってくるかわからない。手伝ってくれ」
「そうだな、その前に……霊斗」
「うん……おやすみなさい、カルーゾさん」
「え? 」
カルーゾが驚いた表情を浮かべる。
だが、その目が見開かれる。
「……吸血鬼の眷獣!?」
「……僕は吸血鬼だって言いましたよ――
霊斗はそう言って眷獣に攻撃を命じる。
「''
眷獣が周囲に魔方陣を展開し、一帯の死霊術をすべて解呪する。
「これで、解呪された分の余剰魔力で自分が苦しいはずだよ――ゴラン・ハザーロフ」
霊斗が背後の岩陰に目を向けると、額から血を流した獣人が現れる。
「貴様……ただの吸血鬼ではないな!何者だ!」
「僕は半人半魔の出来損ないの吸血鬼だよ。世間一般では、第五真祖って呼ばれてるみたいだけどね」
「第五真祖……だと……貴様のような小僧が真祖だとォ!?」
「そうだよ、だから―――降参してくれると嬉しいな」
霊斗がそう言って眷獣の召喚を解除した。
だが、ハザーロフは口の端を吊り上げ笑うと言った。
「甘いな、第五真祖。未だ人の心を捨てられぬか。……それが命取りなのだ!」
ハザーロフはそう言うと懐から手榴弾を取りだし、投げる。
「!父さん!」
霊斗が牙城を抱えて飛び退くが、遅かった。
背後に閃光と爆音、そして身体に走る鋭い痛みを感じて、霊斗は意識を失った。
古城が抱えていた凪沙が微かに身じろぎし、目を開ける。
「……古城君?」
「凪沙……しばらく目を瞑ってた方がいいぞ」
古城の目の前ではリアナが眷獣を召喚し、闘っている。
「リアナさん、大丈夫ですか?」
「ええ、ゾンビは殲滅しました。凪沙さんも、大丈夫ですか?」
「はい……私、さっきの揺れでびっくりしちゃって……」
凪沙が申し訳無さそうに呟く。
だが、古城は凪沙を元気づけるように言う。
「無理もねぇよ。かなり大きな揺れだったからな」
凪沙を気遣う古城をみて頬笑むリアナだったが、その表情が急に引き締まる。
「新手です。お二人は後ろに」
遺跡の入り口から入ってきた――否、入り口を破壊して来たのは漆黒の獣人だった。
「ようやく見つけたぞ、リアナ・カルアナ」
「……ゴラン・ハザーロフ……」
「流石は貴族様、御自身は遺跡の中で震えているとはな。あの惰弱な当主にそっくりだな」
「父上の侮辱はやめろ!このケダモノ!」
リアナが怒りの叫びと共に眷獣を放つ。
だが、ハザーロフは眷獣を片手で受け止める。
「なっ!?まさか……貴様は!」
リアナの叫びとハザーロフの肉体の変化が始まるのは同時だった。
ハザーロフの身体が獣の姿に変わっていく。
一握りの上位獣人が持つ特殊能力。
神話の怪物にも匹敵する力から名付けて''神獣化''。
「くたばれ!吸血鬼風情が最強の種族に敵うと思うな!」
「獣がァーッ!」
リアナがもう一体の眷獣をハザーロフに特攻させる。
「ふ……しぶといな。だが、ひと足遅い!」
ハザーロフの声と共に死体が起き上がる。
「しまった!」
リアナが死を覚悟した次の瞬間だった。
「さらにひと足遅いのはお前だ。ハザーロフ」
冷たい声音と共に灼熱が死体を焼く。
「この眷獣は……」
リアナが入り口の方を見ると、霊斗が立っていた。
だが、雰囲気が先程までと違う。
唇の端から覗く牙は吸血鬼の物だが、瞳は黄金に染まっていた。
「ふう、少年が意識を失っているから出てきてみれば……起きて早々にスプラッタなシーンを見せられては敵わん。……疾く去ね、ケダモノ」
霊斗の声で、霊斗ではない[何か]がハザーロフに淡々と告げる。
「真祖風情が神獣に勝てるとでも思うのか!」
「つくづく救えん男よの。神獣がなんだ。我は咎神の弟を監視する為に創られた殺神兵器ぞ。獣程度、リハビリにもならん」
「ぐぅ……殺してやる!」
ハザーロフが飛びかかってくるが、霊斗はそれを回し蹴りで撃退する。
「ぐぉ……」
「眷獣を使うまでもない。それでよく獣人が最強などとほざくものだな」
「……我ばかり気にかけるとは、余裕だな、第五真祖。――やれ!
ハザーロフの号令で死体が霊斗に銃を乱射する。
「グフッ……こちらの解呪を忘れていたな……すまぬ、少年」
霊斗が倒れる。
それを見た凪沙が悲鳴をあげる。
ハザーロフはそれを一瞥すると、氷の棺を見る。
そして、再び死体に命じる。
「やれ」
次の瞬間、棺の前の少年と、氷塊は砕けた。
やっとここまで来た……。
じゃ、また次回!