書くぞーッ!
霊斗はエイジスに向かっていた。
もちろん一人でだ。
本来ならばユウの役割ではあるが、ユウはまだ黒いハンニバル――ハンニバル侵食種がリンドウであることに気付いていない。
ならば。
全てを知っていて解決法も知っている自分がやるしかない。
「……まずは、リンドウの神機をどうやって持ち出すか……」
霊斗は神機保管庫に向かいながら考える。
「……やるしかないな」
霊斗は神機保管庫に入る。
するとリッカが話しかけてくる。
「あ、霊斗君。今からミッション?」
「ああ。まぁ、武器の素材集めだ」
「頑張ってね」
「おう」
霊斗は片手を挙げて答えると、自らの神機の前に立つ。
そして、リッカの目を盗んでリンドウの神機を転移させる。
(よし、あとはエイジスに向かうだけだな)
霊斗は自身の神機を持ち、エイジスに向かった。
霊斗がエイジスに着くと、ハンニバル侵食種は島の真ん中に佇んでいた。
霊斗はハンニバルの目の前に立つ。
「リンドウ、俺が……助けてやる」
霊斗はそう言い、神機を構えて斬りかかる。
「ぐっ!?」
しかし、霊斗の神機は籠手に弾かれる。
(流石元凄腕ゴッドイーター。剣筋は見抜かれるか……)
霊斗は距離を取り、神機を銃に切り替える。
「これで……どうだッ!」
霊斗はモルターのバレットを発射する。
だが、ハンニバルはまだ怯まずに突進してくる。
「ぐあっ!?」
霊斗は吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
「くそッ、一筋縄じゃ行かないな……なら、喰らえっ!」
霊斗は神機を剣に戻すと接近し、斬る――。
しかし、ハンニバルは素早く反応し、籠手で剣を防ごうとする。
「残念だったな!」
霊斗は笑うと、神機を補食モードに切り替え、籠手を食い千切る。
「ゴァァァッ!」
ハンニバルが咆哮し、後ろに跳ぶ。
「追撃行くぜ!」
霊斗はハンニバルの顔に剣を叩きつける。
すると角が折れる。
「よし、あとは……」
霊斗は呟きながらジャンプする。
そして、空中で神機を再び補食モードに換え、逆鱗を食い折る。
「グゴァァァ……」
そこで、ハンニバルは力尽き、倒れる。
だが、ハンニバル種には強力な再生能力がある。
霊斗がハンニバルを見ていると、背後から聞き慣れた声がした。
「霊斗!」
霊斗がふりむくと、第一部隊の面々が走りよってくる。
「……一人で倒したのか……?」
「いやまだだ。こいつは……復活する」
霊斗がそう言うのと同時にハンニバルの身体が炎に包まれ、浮き上がる。
全員が息を飲むなか、霊斗はハンニバルの胸元を見ていた。
そこには、リンドウが取り込まれかけていた。
「リンドウさん!」
コウタが叫ぶ。
すると、リンドウが目を開ける。
「よう……お前ら。……ここで何してる?」
「リンドウさんを助けに来たに決まってるじゃないですか!」
アリサが叫ぶと、リンドウが少し頬笑みながら言う。
「それは無理だな……俺の事はいいから、お前達は逃げろ」
「そんな……リンドウ……」
「早く逃げろ……そうだな、新米。こいつらを連れて逃げて――」
リンドウの言葉を霊斗が遮る。
「なに言ってやがる。あんたを見捨てたりなんかしない」
「なに……」
「こいつらの気持ちは本物だ。俺もあんたを助けたい。だったら、選ぶ選択支は一つだ」
霊斗は虚空よりリンドウの神機を取り出し、告げる。
「俺はこの身体を犠牲にしてでも助ける!」
霊斗の隣に立ったユウがリンドウに告げる。
「リンドウさん、今は俺が隊長です。だから……」
ユウは、霊斗の握るリンドウの神機を握る。
そして、侵食の痛みに耐えながら叫ぶ。
「死にそうになったら逃げろとあなたは言った!だったら……生きることから逃げるな!これは……隊長命令だ!」
リンドウは既に意識を失い、ハンニバルとして活動を再開した。
霊斗とユウはリンドウの神機を握り、駆け出す。
「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」
そして、二人で同時に跳び、ハンニバルの口に神機を突き込み、上下に割く。
すると、そこにはコアがあった。
霊斗とユウはお互いに見合って頷くと、コアに手を触れる。
(なんだ……これは……リンドウの思い出?)
(感応現象か――!)
霊斗とユウの意識は白い光に飲み込まれた。
霊斗が目を覚ますと、そこは教会だった。
隣ではユウが倒れている。
「ユウ!起きろ!」
霊斗がユウを起こす。
「む……う、ここは……贖罪の街……?」
「いや、出入口が封鎖されている……リンドウが行方不明になった時の教会だな」
「そうか……ここはリンドウさんの記憶のなかなんだな」
「ああ……って、ユウ!あそこ!」
霊斗が指差す先には、リンドウが座り込んでいる。
「リンドウ、起きろ!」
「リンドウさん!」
霊斗とユウが呼び掛けると、リンドウがゆっくりと目を開ける。
「おう……新入りに、隊長じゃねぇか……」
「リンドウ……戦おう」
「戦う?何とだ?俺はもう負けちまったんだ」
「いや。あんたの意識が消えていない以上、まだ勝機はある」
霊斗が言うと、リンドウが目を見開く。
「リンドウさん」
ユウが差し出したのはリンドウの神機だ。
「そうだな……」
リンドウはそれを受けとり、笑う。
「じゃあ、生き残るために足掻いてみるか!」
教会の壊れた壁にハンニバル侵食種が現れる。
「行くぞ、お前ら!」
リンドウが戦陣を切り、ハンニバルに斬りかかる。
そこに霊斗が続き、ハンニバルの顔を補食モードで食らう。
そしてユウがハンニバルの足を斬る。
「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」
三人の雄たけびが教会に響き渡った。
数分後、ハンニバルは倒れ、黒くなって霧散した。
「終わった……」
「だな……」
すると、次の瞬間、霊斗とユウの視界が白い光に飲み込まれた。
「ありがとよ、お前ら」
リンドウのその声だけがやけに耳に残った。
霊斗達が目を覚ますと、そこはエイジスだった。
「霊斗さん!」
霊斗が起きるとアスタルテが声を掛けてくる。
「おお、アスタルテ。心配かけたな」
「いえ。心配なんてしてませんよ?」
「ほぇ?」
霊斗がすっとんきょうな声をあげる。
それを聞いたアスタルテがいたずらっぽく頬笑む。
「だって、霊斗さんなら必ず勝ってくれるって信じてましたから」
「はは……びっくりしたぁ……」
霊斗が笑いながら横を見ると、笑いあっている第一部隊の面々がいた。
「……良かった、無事に終わって」
「ですね」
霊斗とアスタルテが立ち上がると、二人の身体が光に包まれる。
「もう、あっちに戻らなきゃな」
「ええ。かなり長く空けましたからね」
「というか……イザナギのやつ……」
不思議だ。
今ならしっかりとこの世界に来た原因がわかる。
「とりあえず、戻ったらアスタルテの紅茶を飲ませてくれよ」
「はい……皆さんとは、お別れですね」
「そうだな……神機は、置いていこう」
霊斗とアスタルテは神機を床に置く。
次の瞬間、足元にゲートが開く。
二人は落ちていった。
絃神島、霊斗の部屋。
「霊斗殿!戻ったかへげぶぅ」
イザナギが霊斗に駆け寄ると同時に吹き飛ぶ。
「ったく、面倒なことしやがって」
「ところで霊斗さん。いま、あれから二時間しか経ってないんですが……」
「え、マジで?」
霊斗が時計を確認すると、間違いなく時間はあれから二時間だ。
「なんだ……ははっ」
「あんなに密度の濃い二時間は始めてです」
霊斗とアスタルテは笑った。
彼等を思い出しながら。
エイジス。
ユウは霊斗とアスタルテの神機を見て立ち尽くした。
彼等は神機だけをおいて消えた。
「あいつら、帰ったみたいだな」
リンドウがユウの肩に手を置きながら言う。
「帰った?」
「あいつらは、異世界の住人なんだとよ」
「そうですか……なら、あの戦闘力も納得ですよ」
ユウは苦笑する。
だが、彼等の仕事はまだ終わっていない。
この世界からアラガミを滅ぼさなくてはならない。
だが、彼等は忘れないだろう。
驚異的な戦闘能力で自らを圧倒した二人の事を。
これから先も、ずっと。
あー、疲れた。
次回、焔光の夜伯編スタート!