「誰だ……」
彼――雨宮リンドウはそう言った。
「暁霊斗。最近ゴッドイーターになった者だ」
「なんだ……お前もゴッドイーターか……」
「雨宮リンドウ、だな?」
「……なんで知ってるんだ?」
リンドウは興味を示したようにこちらを向く。
霊斗は事実のみを話す。
「俺は本来この世界の者じゃない」
「ほぅ……異世界の人間か?ハハッ、冗談が過ぎるぜ」
「冗談、か。……冗談なら良かったんだがな。なあ、この世界に吸血鬼はいるか?」
リンドウは目を丸くするが、すぐに飄飄とした表情に変わる。
「吸血鬼なんていないだろ。そんなのがいるんなら……アラガミとも対等に戦えるのかもな」
リンドウが自嘲するように笑い、自分の右腕を見る。
彼の右腕は黒く、刺々しく変異していた。
「俺は、仲間を護ろうとして死にかけた。だけど、この命は新しい仲間が繋いでくれたものなんだよ……」
「……白い、人間の姿をしたアラガミか」
「……!なんで知ってる?」
「だから、俺はこの世界の者じゃないって言ってるだろ。俺のいた世界では、この物語はゲームになってる」
「そうか……じゃあ、この後に起こることも知ってるのか?」
「ああ。だから、一つだけ言っておく」
霊斗はリンドウの目を真っ直ぐに見つめて言う。
「あんたの仲間はあんたからしっかりと学んで自分の力で生きてる。それと――」
霊斗はそこで言葉を切る。
それと同時に遠くで信号弾が上がる。
霊斗はそれを見ると、神機を肩に担ぎながら言う。
「あんたの仲間は、あんたをまだ見捨ててない」
霊斗はそれだけ告げると、部屋を出ていった。
「……なんだそりゃ」
リンドウは苦笑しながら呟く。
「……死ぬな、死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙をついてぶっ殺せ……俺が一番守れてねぇよなぁ……」
リンドウは目を閉じ、眠りに着く。
それをアラガミの少女が見守っていた。
霊斗が仲間の元に行くと、既にコンゴウと交戦が開始されていた。
「悪い!遅くなった」
「大丈夫だ。すぐに戦線に加わってくれ。アリサが危ない」
「了解」
霊斗は神機を構え、コンゴウに接近する。
そして、足を切りつける。
「オラァッ!アリサ!一旦離脱して体制を立て直せ!」
「わかりました!」
アリサが離脱する際に掩護射撃をしてコンゴウの注意をこちらに向ける。
「俺ばかり相手にしていて良いのか?」
霊斗が後ろに飛び退く。
そこにアスタルテが飛びこみ、無数の斬撃を放つ。
「アスタルテ!」
「はい!」
霊斗がアスタルテに呼掛け、アスタルテが答える。
それを合図に二人は走り出す。
アスタルテはコンゴウの下へ滑り込み、霊斗はコンゴウの上へと跳ぶ。
アスタルテと霊斗がコンゴウの後ろに抜けた次の瞬間。
「なんだ……あれ」
ユウが呆然と呟く。
彼の視線の先では、コンゴウが真っ二つになって転がっていた。
霊斗はアスタルテと笑いあって平然としているが、ユウとアリサは驚愕していた。
今の連携は並みのゴッドイーターにできる技ではない。
「こいつらは……一体……」
その後、アナグラに戻るまでユウは喋らなかった。
霊斗は自室に戻りながら考える。
自分が介入してリンドウを助けるべきか、それとも関わらないべきか。
「はぁ……喉乾いた……」
霊斗は自販機にfcを投入し、ボタンに手を伸ばす。
「なあ、霊斗」
しかし、突如背後から聞こえた声に手元が狂い、冷やしカレードリンクを購入してしまう。
「あーあ……って、なんだユウか」
「ちょっと良いか?」
ユウが真剣な眼差しで見てくる。
「……なんだ?」
「霊斗。お前は何者なんだ?」
「……聞いたらきっとお前は俺を、いや、俺とアスタルテを拒絶する」
「そんなことない!絶対にだ」
ユウの言葉に霊斗は黙り込む。
「……俺は……吸血鬼だ」
「それ、リッカにも言ってたよな。それは本当なのか?」
「ああ、本当だ。見るか?」
霊斗は自らの犬歯――否、牙を見せる。
ユウが息を飲むのがわかる。
「……わかったか?これでも拒絶しないか?」
「ああ、しない」
「……え?」
ユウの以外な答えに霊斗が間抜けな声をあげる。
「拒絶なんて、するわけないだろ?霊斗も、アスタルテも、大事な仲間だ」
ユウが笑う。
「これからの業績、期待してるよ」
そう言ってユウは自室へと帰っていった。
「はは……プレッシャーかけんなよ……」
霊斗は苦笑いしながら自室に戻った。
そして数週間後。
「最近取引されているアイテムの中に、雨宮リンドウのDNAパターンと一致する物があった。よって雨宮リンドウの捜索を再開する」
ツバキより報告された内容は、フェンリル極東支部の皆を歓喜させた。
そして、本日の任務がユウより告げられる。
「今日の任務はソーマ、アリサ、コウタのA班と、俺、霊斗、アスタルテ、サクヤさんのB班の二面作戦でいく。
A班は周囲のグボロ・グボロの殲滅、B班はハンニバルの討伐だ。また、周辺地域では新種の黒いハンニバルが確認されている。注意してくれ。以上でブリーフィングを終わる」
霊斗は頷き、神機保管庫へと向かう。
途中で何人かのゴッドイーターとすれ違う。
皆傷つき、疲弊しているが、達成感に満ち溢れた表情をしていた。
「さて、行くか」
霊斗は神機を手に取り、ジープに乗り込む。
数分後。
今回は鉄塔の森での任務だ。
霊斗はいち早くハンニバルを発見すると素早く接近し、籠手に連続して斬撃を放った。
「霊斗!」
ユウが掩護射撃をし、霊斗が切り刻む。
最近ではそれなりの連携になってきたが、アスタルテと霊斗の連携には敵わない。
そこにサクヤとアスタルテが合流する。
そうなると、残っているのは一方的な蹂躙だ。
ハンニバルは数分で活動を停止した。
「終わった……」
霊斗が座り込む。
「お疲れ様、霊斗君」
サクヤが労いの言葉を掛けてくるのに片手を挙げて答える。
すると、ソーマから通信が入る。
『A班!黒いハンニバルがそちらへ向かった。注意しながら引き上げてくれ』
「了解」
ユウがそう言い、全員で拠点へと向かう。
だが、霊斗が立ち止まる。
「どうした?」
「俺が相手をする。お前達は先に行っていてくれ」
ユウは一瞬考え込むが、すぐに頷く。
「わかった。無理はするなよ」
「おう」
霊斗は彼等の背中を見送り、振り替える。
「よう、リンドウ」
霊斗は黒いハンニバルに話しかける。
ハンニバルの目が霊斗を捉える。
「グルルル……」
「苦しいだろ。……エイジスに来い。助けてやる」
霊斗がそう言うと、ハンニバルは背を向けて去っていった。
「さて、始めるか。シナリオを書き換えた物語を」
霊斗は呟き、苦笑する。
これは自分が言う台詞じゃないな、と呟き、準備の最終段階を終了した。
現実世界、霊斗の部屋。
「うーむ、なかなか面白い事態になってるな」
「もう一時間半ですか……」
「もう少し待ってみるか。案外面白い物が見れそうだ」
イザナギはそう言い、ゲートを閉じる。
イザナミはため息をつき、この人は全く、と呟いた。
次回でこの章は終了、本編に戻ります。
ではまた次回!