最近時間の過ぎるのは早いと実感しております。
では本編をどうぞ。
アスタルテは船内を巡回していた。
(特に異常は見当たりませんね……ですが、何か嫌な気配が外からしますね)
アスタルテが窓から船の外を見るが何も見当たらない。
ただ、海の中を銀色の物体が泳いでいた。
(イルカ?……いや、あれは……)
その正体にアスタルテが気づいた直後、操舵室から悲鳴が聞こえた。
「っ!?」
アスタルテはそこへ向かって走り出した。
絃神島のとある埠頭。
「古城!」
「霊斗!来たか!」
霊斗は古城に合流する。
周りを見渡すと、大量の瓦礫が散らばっていた。
「これは……」
「重金属粒子砲の攻撃だ」
「ってことは……まさか''
「いや、まだ奴は復活しておらん。奴の復活に必要な供物が足りておらぬからな」
「じゃあ''賢者の霊血''はどこに……」
霊斗の疑問に答えたのは突如虚空から現れた人物だった。
「霊血はわからんが、天塚汞はフェリーだ。修学旅行の生徒達が乗っているものだ」
「なっ!?あれには凪沙に雪菜、アスタルテが!」
「だからお前に言っているのだろう。あとは古城と……そこの偽乳錬金術師だ」
「あれ?ニーナ?」
「なんだ?……ああ、これか。霊血の一部を使って妾の身体を再現したのだ」
「あ、はい」
霊斗が呆れたように答えると、古城が霊斗に聞く。
「で、那月ちゃんがいるってことは、霊血の居場所がわかったのか?」
「天塚汞の居場所ならな。だが、霊血もそこだと考えてほぼ間違いないな」
「じゃあ、すぐに向かおう!」
「無理だ。奴らの居場所は――中等部三年生が乗っているフェリーだ」
「なっ!?じゃあ……」
「ああ。事態は一刻を争う。だから、那月ちゃんが策を用意してくれてるはずだ」
「私ではない。飛行機を貸してくれる有志の団体がいてな」
「じゃあ早く行くぞ!」
「ああ。跳ぶぞ」
一行は那月の空間転移で移動した。
アスタルテは船内を走っていた。
操舵室は完全に破壊され、船員は金属に変わっていた。
「まさか……あの錬金術師が!」
アスタルテは焦りで表情を歪める。
だが、それと共に戸惑いも覚えていた。
(なぜ私はこんなにも必死なんでしょうか……もう私は只の
自らに問う。
答えは簡単だった。
(霊斗さんが護っていたものを、護りたい)
走りながら呟く。
「霊斗さんと一緒に戦える位……強くなりたい……!」
アスタルテのその想いに呼応するように蒼い瞳が真紅に染まる。
そして、目の前のロビーで雪菜が凪沙を庇いながら戦っているのを見つける。
「
アスタルテは眷獣を召喚し、天塚を殴る。
「ぐっ!……あの時の人工生命体か!」
「降参してください。貴方に勝ち目はありません」
「ふっ、どうかな?」
天塚が笑うと、もう一体の天塚の分身体が現れる。
「ははははは!僕の勝ちだ!」
だが、勝ち誇ったように笑う天塚の身体が霜に覆われる。
「なんだ?」
「凪沙ちゃん!?」
アスタルテが気温の低下に気付いて周りを見渡すと、凪沙が魔力を放出していた。
しかも、真祖の眷獣にも匹敵するほどの――。
「凪沙さん!目を覚ましてください!」
アスタルテが叫ぶが、凪沙には届かない。
''薔薇の指先''で攻撃するしかないかとアスタルテが考えた次の瞬間。
「はい、そこまで」
突然現れた教師、笹崎岬が気合いで魔力を消す。
「もうちょい待ってよ。ね?」
「ふむ……第五真祖の元従者に免じて時間をやろう」
凪沙の中の何かがそう言って、凪沙が倒れる。
「今のは、まさか……」
アスタルテが呟く。
雪菜がアスタルテに聞く。
「何かわかったんですか?」
「いえ……いや、まさかそんなことが?」
アスタルテが考え込んでしまったので、雪菜は凪沙を岬に預ける。
「なんなんだろうね、天塚の目的って」
岬が何気ない口調で聞いてくる。
だが、雪菜より先に答えたのは夏音だった。
「あの人の目的は、たぶん私でした」
「叶瀬!?避難しなかったのか!?」
「はい。私が囮になります」
「なにを言って――」
「わかりました。じゃあ、その隙をついて私が」
岬が反応しようとしたのをアスタルテが遮る。
そのままアスタルテは雪菜を見て言う。
「雪菜さん、夏音さんに式神を」
「あ、はい!」
雪菜が夏音に式神を渡し、夏音は頷き、走っていった。
古城は怪訝そうな声をあげる。
「試作型航空機ぃ?」
話している相手はアルディギア王国王女、ラフォリア・リハヴァインだ。
とは言ってもテレビ電話だが。
『はい。試作型航空機です』
「嘘つけぇ!これ巡行ミサイルだろうが!?」
『試作型航空機です』
「古城、諦めろ。あいつには話が通じないからな」
『心配はいりません。今のところ最も早い移動手段です』
「……わかった。ありがたく借りるぜ」
古城は渋々、試作型航空機に乗ろうとする。
しかし、古城を誰かが呼び止める。
「ちょっと待ちな、第四真祖」
「ニャンコ先生!?」
そこにいたのは紗矢華と師家だった。
「これを持っていっておくれ」
「これは……''雪霞狼''!?」
紗矢華からギターケースを受けとる。
「暁古城」
「ん、なんだ?」
「雪菜のこと、頼んだわよ」
「ああ。任せろ」
古城は笑って、航空機に乗り込む。
だが、続いてニーナが乗ると、もう霊斗が乗る場所はなかった。
「どうするんだ?」
「俺なら行く方法がある。先に行け」
「わかった」
古城が頷き、発射準備を開始すると、霊斗は那月を見る。
「那月先生、フェリーの方角の限界ギリギリまで転移させてくれ」
「無茶を言うな。だが、教え子の為だ。……ただし、ひとつ約束しろ」
「ああ」
「必ず全員助けろ。いいな?」
「任せろ。俺を誰だと思ってるんだ?」
「ふ……いい返事だ。勝ってこい、霊斗!」
那月の激励と共に、霊斗は太平洋上に飛び出す。
「あれか!?」
吸血鬼の視力が船を視認する。
「これで……どうだ!」
霊斗はそこからさらに空間転移する。
だが、微妙に距離が足りない。
「矢瀬……力、借りるぞ!」
霊斗の周りを気流が渦巻く。
それは矢瀬の過適応能力だ。
霊斗は先程、あの現場に残っていた矢瀬の過適応能力の残りを自らの過適応能力で取り込んでいたのだ。
「どらぁぁぁぁぁ!」
霊斗が甲板に着地するのと、古城達が着地するのはほぼ同時だった。
そこでは、雪菜とアスタルテが夏音を庇いながら天塚と交戦しているところだった。
「ああクソ……着地ミスった……」
「無茶をするからであろう」
「全くだ」
古城と霊斗、そしてニーナは並んで天塚を睨む。
錬金術師の師弟の対決に巻き込まれるのは本心じゃないが、と前置きして霊斗が言う。
「よくも俺の伴侶に手ぇ出してくれたなクソ野郎……ぶっ殺してやるよ」
霊斗の瞳は確かな決意を孕んだ深紅に染まっていた。
次回、錬金術師の帰還編完結(予定)!
ではまた次回!