霊斗、古城、ニーナは古城の部屋で作戦会議をしていた。
何故リビングでは無いのか。
それは、凪沙が夕飯を作っている最中だからである。
「で、どうする?」
「なぁニーナ、霊血ってまた造れないのか?」
「そうだな……この身体の体重と同じだけの黄金、銀、レアメタル各種に水銀九百リットル。そこに霊能力者一四、五人ほどいれば造れるぞ」
「無理だろ!?」
「霊能力者はなんとかなるとしても各種貴金属がなぁ……」
「いや、人道的問題があるだろ」
「大丈夫だ古城、俺達は人間じゃないから」
「ああそうだったな!知ってたよ!」
「まあ、冗談だ。探すなら……那月ちゃんに頼むしかないか……」
「那月というと……あの''空隙の魔女''か」
「知ってるのか?」
「うむ、欧州で名を馳せたと聞いているぞ。確か''魔族殺しの南宮那月''と呼ばれておったか」
「ふーん……那月ちゃんも有名人だな」
霊斗がそう言うと、古城が電話の子機を持ってくる。
「霊斗、那月ちゃんの電話番号わかるか?」
「ああ……ほら、このメモに書いてある」
「サンキュ……」
「出ない気がするけどな」
「……出ねぇ」
「やっぱりな」
「じゃあ、どうする?……ニーナ?」
「すー……すー……」
「寝てんじゃねぇ!」
「ぬ……妾としたことが、ついうたた寝をしてしまったようだな」
「「嘘つくな!がっつり寝てたわ!」」
霊斗と古城が同時に叫ぶと、ドアをノックする音がして、凪沙の声がする。
「霊斗君、古城君、浅葱ちゃん、夕飯できたよ」
「ああ、今行く」
霊斗が答えると、凪沙がドアの前から離れて行く気配がした。
「よし、ニーナ。余計な事は喋るなよ。喋ったら……」
「よかろう。お主らの会話である程度はわかったからな、その成果を見せてやろう」
ニーナが胸を張りながら言う。
((この自信はどこから沸いてくるんだ……))
ますます不安になる古城と霊斗だった。
しかし、気を取り直してリビングに向かう。
「お、グラタンか」
「そうだよ!じゃんじゃん食べてね!」
「姫柊もいるのか」
「お邪魔してます」
雪菜が挨拶しながら皿を並べていく。
そこで霊斗は違和感を覚える。
「なあ、なんで皿が五枚しかないんだ?」
そう、普段の暁家に二人分足したら六枚のはずである。
「ああ、アスタルテちゃんがね、今日は南宮先生の所に泊まるって」
「なんでまた急に?」
「さぁ?あ、なんかすっごい落ち込んでたけど、霊斗君、ケンカした?」
「……」
霊斗は古城を見る。
「……(スッ)」
目を逸らされた。
次に雪菜を見る。
「……?」
まず状況を理解していなかった。
ニーナは使いものにならないのはわかっているのでスルー。
(やべぇ……俺の味方は一人もいない……)
霊斗のシャツは冷や汗でびっしょりだ。
仕方ないので、正直に言う。
「えっと……ケンカというか、俺が一方的に心無い言葉を浴びせたというか……」
「霊斗、目が泳いでるぞ」
「……今から謝ってきます」
「あ、うん。グラタン、冷蔵庫に入れとくね」
凪沙が苦笑いしながらグラタンを冷蔵庫に入れる。
「すまん……行ってくる」
霊斗は玄関に向かい、空間転移する。
とある高級マンションの地下駐車場。
ダクトから水銀のようなモノが落ちてくる。
それは、だんだん人の形になっていく。
「叶瀬夏音……待ってろよ……」
狂気の笑みを浮かべながら現れたのは天塚汞だった。
だが、その笑みが怪訝そうな表情に変わる。
彼の視線の先には二人分の人影があった。
「まるでター〇ネーターみたいな登場だな、天塚汞」
高圧的な口調で言ったのは那月だった。
それと同時に無数の鎖が天塚を縛る。
「へぇ……あんたは血も涙もない人だと思ってたけど……訂正するよ」
天塚はそう言うと身体を液体金属に変化させて鎖をほどく。
「またグニャグニャと……マジシャンにでもなったらどうだ?天塚汞の切れ端」
「バレてたのか……マジシャンの方は依頼を完遂したら考えてみるよ」
天塚が再びダクトに逃げようとするが、それらは結界によって弾かれる。
「残念だが退路は断ってあるぞ」
「だったら……その身体を壊すだけさ!」
天塚が胸の石を砕き、完全に液体化する。
「ふん、下らん冗談だ。―――やれ、アスタルテ」
「はい。――
先程から待機していたもう一人の人影はアスタルテだ。
そのアスタルテが眷獣を召喚する。
だが、普段と違う所があった。
召喚されるゴーレムがアスタルテを体内に取り込まないのだ。
「喰ってください''薔薇の指先''」
アスタルテが命じると、ゴーレムが天塚だった液体金属を蹂躙していく。
『グオォォォォォォォ!』
液体金属が苦悶の咆哮をあげ、やがて力尽き、ただの金属に変わる。
「完了しました」
「ふん、修業の成果は出ているみたいだな」
那月はそう言うと結界を解除する。
すると、誰かが駐車場に転移してくる。
「那月ちゃん!(ボキッ)腕の骨がっ!?」
「何のようだ?霊斗」
現れた直後に腕を折られたのは霊斗だった。
「痛ってぇ……那月ちゃん、加減してよ(ゴキッ)足の骨がっ!?(ズルッ――ビタン)オグァッ!」
懲りずに那月ちゃんと言うので身体の傷が増えていく。
「でさー、那月ちゃん。アスタルテ来てない?」
「なぜそこまでの傷で普通に喋れるのかはわからんが……アスタルテならそこだ」
「え?」
霊斗が芋虫のように方向転換すると、そこには巨大なゴーレムが――
「あ、詰んだ」
「早とちりにも程があるだろう」
那月に言われてゴーレムをよく見ると、足元の影にアスタルテが隠れていた。
「アスタルテ!」
「(ビクッ――ガタガタガタガタガタガタ)……」
「え、なんであんな震えてんの?〇鬼のた〇しぐらいじゃん」
「お前のせいだろう」
「え――あ……」
霊斗がその原因を理解する。
「その……アスタルテ、朝は俺が悪かった。本当にごめん」
「霊斗さん……怒ってませんか?」
「ああ、怒ってない。折れてるけど」
「ぜんぜん上手くないです……」
アスタルテはそう言うと眷獣の召喚を解除し、霊斗の近くに行く。
「まったく……霊斗さんは仕方ない
「それ、雪菜が前に言ってなかったか?」
「そうでしたか?」
霊斗とアスタルテは笑い合う。
「で、アスタルテ。本題なんだが――」
「はい、なんですか?」
アスタルテが頬笑みながら聞く。
だが、次の霊斗の一言でそれは消えた。
「もう別れよう。血の伴侶も契約を切る」
「え……霊斗さん?冗談……ですよね?」
「俺は本気だ」
「そんな……嘘……だって……嘘だって……言ってください……」
「俺なりに考えた結果だ。わかってくれないか?」
「……さんの」
「え?」
「霊斗さんの……バカ……」
アスタルテはそう言いながらマンションから走り去った。
「良かったのか?あれで」
「ああ。それがアスタルテの為……アスタルテを危険に巻き込まないためだ」
「そのわりには随分と情けない顔をしているんだな」
「はは……言わないでくれよ」
霊斗は苦笑いしながら那月に言うが、内心では別の事を考えていた。
走り去るアスタルテを見て。
走り去るアスタルテの涙を見て。
本当にこれで良かったのか。
(いいんだ……これで)
「
霊斗は事前に過適応能力で入手していた第四真祖の眷獣で、アスタルテとの霊的径路を切断する。
「那月先生、ごめん、みっともない所を見せて」
「ふん、精々うまくやれ。私は帰る」
那月はそう言うと空間転移で姿を消す。
それを見て霊斗は、糸が切れたように座り込む。
しばらく、そのままだった。
まるで罪人である兄を異界へと追放した弟のように。
まあ、ネタバレは防ぐべきだよね。
というわけでね、途中は伏せ字になってます。
ではまた次回!