本編どうぞ。
霊斗は鎖でギチギチに縛られた状態で目を覚ました。
「くそ……あいつら……」
霊斗が溜息をつき、力を入れて鎖を千切ろうとする。
「無駄だよ、霊君の力じゃ千切れないよ。ただでさえ弱ってるんだから、大人しくしてたら?」
「天音……あいつらに言われたのか?」
「違うよ。古城君とアスタルテちゃんは普通の鎖で縛っただけ。それを私が特別製のに変えただけだよ」
「離せ。今すぐにだ」
「ふふ、今の霊君が私を支配できるかな?」
「テメェ……」
「時間が無いのはわかってる。それを隠したいのも、霊君が本当の事を言えないので苦しんでるのもわかるよ」
「だったら……」
「
「っ!……お前に……お前に喰らわれるなんて御免だ」
「だったらなぜ自ら捨てようとする?お前は従者を戦いに巻き込みたくないだけだろう?」
「俺は自分の大切な人が死ぬのは見たくない」
「それは''獅子王機関の剣凰''としてのお前の言葉か?それとも''第五真祖''としてのお前か?」
「それは……」
「ふん、まぁ精々考えるがいいさ。ただし、今回の件に関われば残された時間は更に減るぞ」
「構わない。あいつを守る為なら……俺は死んだっていい」
「そうか。その選択が間違っていないといいな」
「なに?」
「いや、気にするな。年寄りの戯れ言さ」
そう言って天音は消えた。
霊斗は茫然としていたが、枕元にあった携帯が光っているのを見て、画面を確認する。
「ん?師家さまから?」
内容は簡単だった。
''出張所に来い''
「拒否権は……ないだろうな」
霊斗は溜息をついて空間転移した。
古城はもう一度雪菜に聞く。
「なあ、殺されたりしないよな?」
「さっきから……先輩は獅子王機関をなんだと思ってるんですか……」
雪菜に聞かれて、古城は正直に答える。
「国家公認ストーカー」
「殺していいですか?」
「全くだ。最低な認識だぞ」
「げっ!?霊斗!?」
「なんだその反応。殺すぞ」
「いや、すまん」
「いいさ。それより、八つ当りしちまって悪かったな」
「それならアスタルテに言ってやれ。ずっと落ち込んでたんだからな」
「わかった。じゃあ、行くか」
「霊斗さんも呼び出されたんですか?」
「ああ。メールでな」
「雑だな」
三人は雪菜を先頭にして店内に入っていく。
「いらっしゃいませ」
「ん?……き、煌坂?」
「いや、式神だな」
「師家さまの式神ですね。と、いうか先輩。胸ばかり見すぎです」
「古城は変態だなぁ(ギチュ)」
「にぎゃぁぁぁぁ!目が、目がぁぁぁぁ!」
「霊斗さん!?本気の目潰しは殺りすぎです!」
「回復するし、大丈夫だろ?」
「ぐぁぁぁっ!くそっ!目が見えねぇ!(ムニュ)ん?なんだこれ」
「先輩……」
「おー、古城、大胆だなー」
「え?だからこれなに?(ムニュムニュ)」
「ひあっ!?せ、先輩!いい加減にしてください!」
「古城のスケベー。雪菜に言ってやろー」
「それは勘弁してくれ!で、これは……お、目がやっと…………(ササッ)」
「先輩」
「はい」
「ちょっとドア側に行ってください」
「お、おう」
雪菜に言われて古城が移動する。
「先輩」
「なんでしょうか」
「歯を食い縛ってください」
「待ってくれ!暴力確定じゃねぇか!」
「歯を食い縛ってください」
「は、はい」
古城が痛みを覚悟して目を瞑ると、雪菜の手が古城にそっと触れる。
「ひ、姫柊?」
「
「ぐぼごげがぁっ!?!?!?!?」
古城が痛みに蹲り呻いていると、新たな声が割り込んできた。
「なんだい?騒々しいねぇ……」
「師家さま!」
「雪菜に霊斗、来たかい」
「姫柊雪菜、只今参りました」
「雪菜は相変わらず固いねぇ……」
「よっす」
「こっちの馬鹿は相変わらず礼儀がなってないねぇ……」
「……誰?」
「あんたが第四真祖かい?」
「ああ。一応な」
「雪菜が世話になってるね。あと、その馬鹿は躾といてくれるかい?」
「わかった」
「わかるなよ」
つっこむ霊斗を一瞥すると、師家――式神だが――は雪菜を見る。
「雪菜、槍は?」
「はい、ここに」
雪菜が槍を差し出すと、師家は槍を見る。
「ふむ。とりあえずは合格点だね。だけど、霊視に頼りすぎるんじゃないよ」
「はい」
「霊斗。あんたは手を出しな」
「は?槍じゃねぇの?」
「敬語を使いな。あんたの侵食の進み具合を診てやるって言ってるんだよ」
「じゃあ、はい」
霊斗が手を出すと、式神は腕の上に飛び乗る。
「ふむ……だいぶ進行しちまってるね。しばらくは力を使うのは控えな」
「それは無理だ。まだ片付いてない問題があるんでな」
「そうかい……だったら、吸血鬼の力じゃなくて、槍を使いな。そっちなら大丈夫だよ」
「わかった。善処する」
霊斗がそう言った時だった。
古城の携帯が鳴り始める。
「誰だ?」
ディスプレイには浅葱の名前が表示されていた。
浅葱は修道院の周りを歩きながら電話を掛けていた。
『もしもし、浅葱か?』
「あ、古城?あんた今どこに居んの?」
『西地区の六号坂あたりの店だ。姫柊の知り合いが店やってるんだ』
「ふーん。じゃあ、今暇?」
『ああ。暇っちゃあ暇だな』
「じゃあさ、ちょっと頼みがあるんだけど……」
『なんだ?』
「あんたがあたしにくれたピアス、覚えてる?」
『ああ、お前の誕生日に、無理矢理買わされたやつな』
「で、それを片っ方落としちゃったみたいなのよ。今修道院の周りを探してるんだけど……」
『ば、馬鹿!なにやってんだお前!』
「はあ?なに言ってんの?」
『今日も特区警備隊がいただろ!危ないから帰れ!』
「……わかったわよ。あと一周したら帰る」
『今すぐに帰れ!』
古城が怒っているが、浅葱はピアスを探す。
すると、急に地響きが襲った。
『浅葱!?なんだ今の音!』
「わかんないけど……なにこれ……」
古城が切羽詰まった声で聞いてくるが、浅葱はとあるものを見ていた。
それは不定形のスライムのような生物だ。
「あれ?」
逃げようとした浅葱の耳に聞こえてきたのは男の声だった。
「見られちゃったか……じゃあ、死んでもらうしかないね」
「え?」
男の言葉を認識した瞬間、浅葱の身体は宙に舞っていた。
「嘘……古城……」
浅葱は最後に一人の少年の名前を呼ぶ。
彼女の指先では、赤い宝石の破片が夕日を反射していた。
「くそっ!通じねぇ!」
「まずいな……師家さま、式神借りるぜ!」
「好きにしな」
「古城!雪菜!行くぞ!」
霊斗は空間転移で修道院跡に跳ぶ。
そこには、血塗れで倒れる浅葱が――。
「嘘……だろ」
「浅葱……」
「藍羽先輩……」
古城が浅葱を抱き抱えるが、浅葱は目を開けない。
誰が見てもわかる。
浅葱は死んでいる。
「俺のせいだ……」
「先輩?」
「俺が浅葱をここに連れてきたから!無関係の浅葱を巻き込んじまった!」
「古城!落ち着け!」
古城の身体から魔力が噴き出す。
「雪菜!下がってろ!」
「霊斗さん!?」
古城の魔力の嵐に、霊斗が飛び込んでいく。
「ぐっ……」
しかし、古城の魔力が霊斗の皮膚を切り裂いていく。
さらに古城の身体の周りの重力が強くなり、雷撃が発生する。
「ぐぁぁぁっ!」
「霊斗さん!危険です!」
「うぐっ……天……照!」
霊斗が眷獣を召喚するが、弱っている霊斗では勝てるわけがない。
「古城!目を覚ませぇぇぇぇ!」
しかし、霊斗の声は届かない。
霊斗の眷獣が消滅し、霊斗が膝をつく。
「ゲホッ!」
「霊斗さん!」
「雪菜!浅葱を連れて隠れてろ!」
霊斗が浅葱を雪菜の元に転移させる。
「でも、藍羽先輩は……」
「まだ生きてる!いいから!」
雪菜が離れたのを確認して、霊斗は吸血鬼の力をフルに解放する。
「うぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
霊斗の瞳が真紅に染まり、それが段々黒みがかってくる。
「ぐっ……古城!いい加減に……目を覚ませぇぇぇぇ!」
霊斗が眷獣を解放する。
「アマテラス!ツクヨミ!スサノオ!」
眷獣が古城の魔力を押さえ込んでいく。
そして霊斗は古城に近寄り――
「古城!浅葱は生きてる!だから、正気に戻れ!」
「霊……斗……」
「落ち着いたか?」
「俺は……」
「いいんだ。誰も怪我してないから」
霊斗が古城に手を貸して立ち上がらせていると、雪菜が浅葱を抱えて戻ってくる。
「先輩……」
「悪い、姫柊」
「いえ……それより……」
雪菜はそう言って振り替える。
「あれ?この前の吸血鬼二人組じゃないか」
「天塚……汞」
「どいてよ。僕は回収しなきゃいけない物があるんだよ」
「黙れ、錬金術師もどき」
「なに……?」
「その肉体。本体じゃないだろ。''賢者の霊血''でも使ってんのか?」
「へぇ……なかなか鋭いね……じゃあ、もうこの姿の意味はないね」
そう言った天塚の輪郭が崩れ、不定形のスライムになっていく。
しかし、霊斗は余裕な表情で槍を振る。
……どこからだした。
「霊斗?」
「あいつは俺がやる」
霊斗はそう言って槍を構えスライムに向かって突っ込む。
『オォォォォォ!』
「消えろ、バケモノ」
霊斗が槍を突き立てると、霊血の術式が解除され、動きが止まる。
「終わったのか?」
「……ああ」
「霊斗さん、ありがとうございます」
「ああ。いいよ」
霊斗が座り込むと、聞き慣れた声がした。
「いたた……あれ?古城?」
「浅葱?」
「どうしたのよ……ってうわ!なんであたし血塗れなの!?」
「まあ、無事で何よりだ」
「だな」
霊斗と古城は顔を見合せて笑った。
浅葱は不思議そうにしていたが、霊斗と古城は気にせずに笑った。
友人の生還を喜ぶ笑いだった。
さあ、霊斗の過去に向けて複線を張っていきます。
ではまた次回!