ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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書くでーす。


錬金術師の帰還編Ⅱ

翌朝。

古城はいつもより早く起き、朝食替わりのパンを食べながら学校に向かった。

向かった場所は那月の執務室。

「那月ちゃん、居るか?」

古城はノックしながら聞く。

しかし、返事がない。

代わりに背後から声がした。

「古城さん、南宮先生に何か御用ですか?」

「あ、ああ。アスタルテか……」

「何かありましたか?もしかして、昨日の件ですか?」

「そうなんだが……アスタルテ、人工生命体(ホムンクルス)って錬金術で作られたんだよな?」

「はい。基本的なベースは錬金術で、それにバイオテクノロジーなどの生物学的要素を加えたものですね」

「じゃあ、錬金術師の目的ってなんだかわかるか?」

「そうですね……一番の目的ならば、 ''神''に近づくことですね」

「神……か。鉛を金に変えたりするのは?」

「黄金錬成は''神''に近づく為の手段の副産物です。要するに、豆腐を作るときの湯葉みたいなものですね」

「豆腐?」

「ただの例えです。まあ、神とは言ってもゼウスやら天照やらの神ではなく、完璧な存在という意味での神です」

「完璧な存在?」

「例えば……そうですね、人の形を保ったままの不老不死とかですね。それならいくつか成功例があります」

「なるほど……」

「一つは古城さん、貴方です」

「俺?」

「人間でありながら不老不死の吸血鬼、第四真祖の力を手に入れ、自由に振るっている。ただし、神に呪われた存在ですが」

「明らかに失敗例じゃねぇか」

「二つ目は霊斗さんです」

「俺と同じじゃないのか?」

「いえ、霊斗さんの場合は霊能力で第五真祖の魂そのものを喰らったそうです。本人はあまり覚えていないようですが……でも、神に呪われた存在という点では同じですね」

「まあ、真祖だからな」

「ええ……三つ目は''賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)です」

「なんだそれ」

古城が聞くと、アスタルテは首を振りながら答える。

「詳細はわかりませんが、古の大錬金術師、ニーナ・アデラードは自ら精製した''賢者の霊血''によって不滅の肉体と無尽蔵の魔力を手に入れた、と聞いたことがあります」

「アデラード……そう言えばあの修道院もアデラードだったか?」

古城の記憶の片隅にあったのは、夏音が猫を育てていた修道院跡だ。

「修道院……ですか?」

「ああ、霊斗なら知ってると思うんだが……昨日の今日じゃ聞きにくいよな……」

「霊斗さん……何があったんでしょう……」

アスタルテも戸惑ったような表情をしている。

数週間経っているが、未だに仲直りしていないようだ。

恐らく霊斗が荒れている原因はこれだろう。

「にしても……昨日の霊斗、どこかおかしかったな……」

「古城さん」

「ん?」

「霊斗さんがおかしかったって、どんな風にですか!?」

アスタルテが声を荒げて聞いてくる。

「どんな風にって……吸血鬼化してる時の目の色がいつもと違った」

「普段より黒みがかった赤でしたか?」

「そんな感じだったな」

「……古城さん」

「どうした?」

「今回の件、霊斗さんをこの事件から遠ざけてください」

「……どういうことだ?なにがあるんだ?」

「このままだと……霊斗さんが……暴走します」

「暴走!?そうすると……霊斗はどうなっちまうんだ!?」

「よくて自我の消失、悪くて完全に第五真祖の魂に取り込まれる」

「それってだいぶヤバいんじゃ……って、え?」

「おいアスタルテ。人を勝手に外そうとすんじゃねぇよ」

いつの間にか古城の背後に立っていた霊斗がアスタルテを睨む。

「ひっ……でも、私は霊斗さんが心配で……」

「お前に心配されるほど俺は弱くない。しかも古城なんかに何話してんだよ」

「おい霊斗、いい加減に――」

「黙れ。雑魚は引っ込んでろ」

「なっ!?そんな言い方ねぇだろ!」

「自分の力も満足に使えない奴を雑魚と言って何が悪い?」

「霊斗、テメェ……」

「なんだ?やるか、古城?」

霊斗は古城から魔力の流れを感じなかった為、完全に油断していた。

「いい加減にしやがれ馬鹿野郎っ!」

ゴガギッ

「おごあっ!?」

古城のアッパーをまともに食らい、霊斗が意識を失う。

「アスタルテ、こいつを保健室に運ぶのを手伝ってくれ」

「は、はい」

古城は霊斗を保健室のベッドに頑丈な鎖で何重にも巻いてから、授業に出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みの食堂。

浅葱がパスタを食べるのを見ながら古城は聞いた。

「なあ浅葱、アデラード修道院で、昔何があったかわかるか?」

「ん?アデラード修道院?」

「ああ。公園の裏にあるやつ」

「覚えてないわよ。……待ってて、公社のアーカイブ調べてみる」

浅葱はスマホを弄っていたが、顔をしかめた。

「出てこないわね……誰かに消された?」

「そうか……浅葱、午後の授業、休むわ」

「はぁ!?何言ってんのあんた!?」

古城は走り出すが、浅葱はしっかりついてくる。

「いや、なんでついてくるんだよ!」

「あんたは授業サボってなにするつもりよ!」

「猫だよ猫!」

「はぁ?猫ぉ?」

古城は舌打ちしてそのまま走った。

そして、公園の丘についたころには古城も浅葱も息が上がっていた。

古城が息を整えながら修道院の方を見ると、見慣れない人影がいた。

「浅葱っ!伏せろ!」

「え?きゃっ!」

古城が浅葱を草むらに引摺り込んで、押し倒す。

「古城……こ、こんなところで……」

「浅葱、あいつらはなんだ?」

「は?」

浅葱が見ると、武装した屈強な男が数人立っていた。

すると、それに答える声があった。

特区警備隊(アイランド・ガード)拠点防衛部隊(ガーディアン)だ。まったく、昼間からクラスメイトを押し倒すとはな……」

「なっ!?那月ちゃん、何を言って――」

「(ギロッ)なんだ?今私を那月ちゃんと呼んだか?」

「イェ、ナンデモナイデス」

「さて、暁古城。昨日の件から話がある。他言は無用だ」

そう言って、那月が扇子を一閃する。

すると、式神が落ちてきた。

「まずは昨日の件からだ。暁霊斗の異変について話せ」

「霊斗か……霊斗が、第五真祖の魂に取り込まれるかもしれない」

「やはりそうか……あの魔力は()だったか……よし、じゃあ次だ。叶瀬賢生は覚えているな?」

「ああ。でも、なんでだ?」

「一昨日、何者かによって襲撃された」

「なっ!?誰に!?」

「警備隊は天塚汞と言う男を被疑者として追っている」

「……もしかして、赤白チェックの錬金術師か?」

「ああ。恐らく霊斗が昨日始末し損ねた錬金術師がそうだ。――さて、これで話は終わりだ。暁古城、藍場浅葱。貴様らには補修授業だ。放課後、教室で行うからな……逃げるなよ?」

「「はい……」」

古城と浅葱は二人同時に溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

古城はようやく補修から解放されて下校しようとしていた。

そこで、校門前に立つ少女を見つける。

古城は一瞬逃げようかと思ったが、諦めて雪菜の元に行く。

「先輩、遅かったですね?」

「あ、ああ。補修があってな」

「では、なぜ修道院に行ったんですか?」

「それは――叶瀬がまた猫を拾ってないかの確認だよ。あの錬金術師がいたら危険だろ?」

「藍羽先輩は?」

「あ……」

雪菜の指摘で古城はようやく気づく。

そう、あの場で一番危険だったのは浅葱だ。

「悪い。俺が軽率だった」

「はい。反省してください」

「はい、反省します」

古城が素直に聞いていると、雪菜は少しだけ機嫌を直したようだ。

「じゃあ先輩、少し付き合ってください。次の駅で降ります」

「ああ」

古城は雪菜に言われて、モノレールを降りる。

そこは古城には馴染みのない場所だった。

周りにはホテルが立ち並ぶ。

しかも、ラで始まるタイプのホテルである。

「なあ、姫柊……」

「はい……」

「ここは?」

「ただのホテル街ですよね?あ、先輩、目を閉じてください」

雪菜に言われて古城が目を閉じると、雪菜が古城の手を引く。

(!?!?!?!?)

突然の事で古城の心拍数が跳ね上がる。

すると、何かを通り抜けるような感覚と共に雪菜の手が離れる。

「着きました。目を開けていいですよ」

古城が目を開くと、そこには骨董品店があった。

「えーっと……」

「人払いの結界が張ってあったんです。壊されると面倒なので、誘導させてもらいました……べ、別に深い意味とかはありませんから!」

雪菜はそう言って骨董品店の方を向く。

「で、なんだここ?」

古城が聞くと、雪菜が静かに、微かに緊張したように答える。

「獅子王機関です」

「は?」

古城は間抜けな声を出すことしかできなかった。




さて、過去編に向けて、霊斗の秘密を段々明かしていきます。
ではまた次回!

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