では本編をどうぞ。
霊斗は、夕暮れの校舎を駆けていた。
「クソッ!どこにいるんだよ!」
すると、外から強力な魔力の波動を感じた。
「っ!これは……やっと来たか!」
霊斗は窓を開けて校庭に飛び出した。
そこでは、古城が雪菜とサナを助けだし、阿夜と対峙していた。
「平然と私の世界に入ってくるとは……いや、もう少し前に別の侵入者がいたか……」
「……お前、バカだろ?」
「何……?」
「いや、だってここ、俺らの学校だからな?侵入者はお前だからな?」
「ぬぅ……」
「古城の言う通りだ。さて、古城。今の感情といつもの決め台詞をどうぞ」
「ああ。俺は――いや、俺達は猛烈に頭にきてんだ。いますぐテメェをぶっ飛ばして、楽しい祭の続きに戻ってやる!ここから先は
「いいえ、先輩。私達の
雪菜と古城が並んで阿夜を睨む。
「姫柊……?」
「先輩は仕方ない人なので、もう許してあげます」
「雪菜も甘いなぁ」
「霊斗さんは黙ってください」
「へーいへい……で、アスタルテ。もう大丈夫か?」
「はい。でも霊斗さん……吸血鬼の力は……?」
「大丈夫だ。古城、少し任せる」
「……おう」
霊斗はアスタルテを連れて校舎内に入る。
階段を昇り、校庭に面した三階の教室に入る。
「ここならいいだろ」
「霊斗さん……?」
「アスタルテ、血を貰ってもいいよな?」
「だから、霊斗さんは吸血鬼の力が……」
「戻ってるんだよ。若い世代レベルだけどな」
「でも……どうやって……?」
「過適応能力だよ」
「霊斗さんが……
「まあ、詳しいことはそのうち説明する」
「はぁ……。まぁ、いいですよ」
「じゃあ……ってうわぁぁっ!?」
霊斗がアスタルテを押し倒す。
同時に窓が爆砕する。
「古城……ヤロォ……」
「あの、霊斗さん……手が……」
「ん?」
アスタルテの声に霊斗が我に帰ると、霊斗は自分がアスタルテを押し倒した上、胸を触っていることに気づく。
「っっっ!?」
それに気付いた次の瞬間、霊斗をこれまでに感じたことのないくらい強い喉の渇きを覚えた。
「霊斗さん……?きゃっ!?」
吸血衝動のままに霊斗はアスタルテを抱きしめる。
「れ、霊斗さん……」
「アスタルテ、血、貰うぞ」
そう言うと、霊斗はアスタルテの首に牙を突き立てる。
すると、霊斗の体が段々と元に戻っていく――。
「霊斗さん……体が……」
「ああ。これが俺の新しい眷獣の力だ」
霊斗がアスタルテを抱き上げ、立ち上がる。
「行くぞ!」
「はい!」
霊斗は窓から身を踊らせる。
校庭には魔女の最終形態、''堕魂''となった阿夜の姿が――。
「
霊斗の瞳が深紅に染まり、腕からは血の霧が噴き出す。
「降臨せよ!五番目の眷獣、''
霊斗が召喚したのは国産みの神の一柱。
「古城!合わせろ!」
「ああ!
霊斗の神の矛に、古城の災厄の雷が加わる。
「「うぉぉぉっ!いっけぇぇぇぇ!」」
二人の真祖の攻撃が悪魔の炎を弱める。
「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る――」
そこに走り込んだのは雪菜だった。
雪菜の祝詞に反応して、槍が輝きを増す。
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
雪菜の槍が悪魔の炎と阿夜の接続を断ち切る。
そこに――
「よくやった貴様ら!」
記憶が戻っていた那月が鎖を放ち、炎から阿夜を引きずり出す。
そして、悪魔の炎は消え、闇誓書の効果が消える。
「終わった……か」
「ああ……古城、眷獣戻せよ」
「そうだな……」
古城が眷獣の召喚を解除すると、島が色を取り戻していく。
そして、朝日が皆を照らし出す――
「「ぎゃあぁぁぁ!?あっちぃぃぃぃ!?」」
古城と霊斗は相変わらず焼かれていた。
いい雰囲気が台無しだが、雪菜は実感していた。
これが、自分の取り戻したかった日常なのだと。
霊斗とアスタルテは祭の屋台を回っていた。
「たまにはこういうのも、悪くないな」
「何を言ってるんですか。本当は楽しいんでしょう?」
「あ、バレた?」
「霊斗さんの考えくらい、わかります」
「そうか……お、金魚すくいだな。何年ぶりだろうな……」
「金魚……ですか?……小さくて可愛いですね」
「よし、俺が捕ってやるよ。おっちゃん、一回」
「あいよ」
屋台のおじさんにポイを受け取って、霊斗はしゃがむ。
「……ふぅー……」
「……(わくわく)」
「……そいっ!」
霊斗が掛声と共に、金魚をすくいあげる。
その後も何匹か捕まえ、五匹目をすくったところでポイが破れた。
「あー……」
「霊斗さん……すごいです……」
「そうか?……なんか照れるな……」
霊斗は頭をかきながら歩き出す。
アスタルテも隣についてくる。
「お、そろそろ時間だな。行くか」
「じゃあ、お願いします」
霊斗は空間転移を使って、古城達との集合場所に跳ぶ。
待ち合わせの場所に着くと、海の方で花火が上がった。
「綺麗だな……」
「本当ですね……」
すると、霊斗がアスタルテに無言で金魚の袋を渡す。
「これは……」
「捕ってやるって言ったろ」
「私に……?」
「そうだよ。可愛いって言ってたろ?」
「はい……ありがとうございます」
そう言うとアスタルテは、霊斗の腕を引いて岸壁に向かって歩き出した。
すると、次の瞬間。
「ちゃんと私の傍にいてください!」
「「……」」
「傍にいろって……花火大会が終わるまでか?」
「この先もずっとです!」
「「oh……」」
霊斗とアスタルテは衝撃のシーンを目撃した。
明らかに雪菜の告白シーンである。
隣では浅葱に紗矢華、凪沙が硬直している。
それに気付いた雪菜があたふたと言い訳をする。
「雪菜……おめでと」
「雪菜さん、ファイト!」
「だから……違うんですーっ!」
雪菜の絶叫が夜の街に響き渡った。
霊斗はそれを見て思った。
こいつら、弄り甲斐あるな。と。
これは祭最後の夜の、誰も知らない一幕である。
完・結!
霊斗の過適応については、過去編で詳しく書きます。
ではまた次回!