本編どうぞ。
古城は耳元で鳴る異音で目を覚ました。
どうやら誰かが自分の頬を叩いているようだ。
「なんだよ……痛ぇな……」
古城は起き上がろうとするが、腹部の激痛に呻きながらまた倒れ込む。
「ぐうぅぅっ……なんだこれ、半端なく痛ぇ……」
「当たり前だ。真祖の力が消えて傷が治ってねぇんだからな」
古城が悶絶していると、幼い声が聞こえた。
「なんだ霊斗……戻っちまったのか……」
「呪いが消えた訳じゃなくて、一時的に眷獣で治っていたのが、吸血鬼の力が消えたお陰で戻っちまったんだよ」
「そうか……ここはどこだ?アスタルテは大丈夫か?」
「寝てる。血の従者の契約の為の霊的径路が途切れた影響でな……それと、ここはただのフェリーターミナルだ。それよりも、人の心配してる場合か?それ、ほっといたら死ぬぞお前」
「ああ……でもどうやって治すか……」
「血でも吸っとけよ」
「できるわけねぇだろ!?痛っ……」
「できるぞ。俺と違って、お前は完全な真祖だからな。きっかけさえあれば治せる」
「でもそのきっかけがなぁ……」
悩む古城。
そこに、紗矢華がやってくる。
「じゃ、じゃあ……興奮すればいいんじゃないの?……霊斗はあっちでアスタルテさんの看病してて!」
「お、おう」
霊斗はアスタルテのもとに行く。
「霊斗……さん……」
「大丈夫だ。すぐ治してやるからな」
「霊斗さんは……平気ですか……?」
「大丈夫だ。ただの人間になっちまってるけどな」
「そう……ですか……」
「ああ。だから今は体力の回復に努めろ」
「はい……」
弱々しく答えると、アスタルテは目を閉じた。
そして、霊斗が立ち上がるとフェリーターミナルのドアが勢いよく開いた。
「やあ霊斗。古城は無事かい?」
「優麻か。死にかけてるけど、紗矢華といちゃついてるぞ」
「そうか……じゃあボクも混ざってくるよ」
「優麻……傷は……」
「これくらいなら大丈夫。古城を復活させてくるよ」
「……優麻」
「なんだい?」
「古城とアスタルテと紗矢華のこと、頼んだぞ」
「え……?ちょ、ちょっと霊斗!?」
優麻に皆を任せると、霊斗は外に飛び出した。
「阿夜……もう一度、テメェを止めてやる……!」
霊斗は彩海学園に向かって走り出した。
夕暮れの校舎。
雪菜はそこにいた。
とある教室の中に、三人ぶんの人影があった。
「那月、霊斗。私と共に来い」
阿夜が告げる。
だが
「嫌だ。僕は犯罪者の仲間になんかならない」
幼き日の霊斗が阿夜を睨む。
その瞳が深紅に染まる。
「私もこのガキと同意見だ。阿夜、お前が犯罪を起こすならば、力ずくでも止める」
当時高校生だった那月も、阿夜を拒絶する。
「私を拒み、この島を守るのか……」
「ああ。ここが……この島が私の居るべき場所だ」
「ならば小僧。お前は何を守る?」
「僕はこんな島はどうだっていい。那月ちゃんが守るから、僕がその手伝いをするだけ……この島に来た僕を暖かく迎えてくれだ那月ちゃんの為に!」
霊斗の言葉に阿夜の表情が歪む。
そして、阿夜が自らの守護者を召喚する。
それに対抗するように、那月も守護者を出す。
霊斗が槍を構え直すが、霊斗が手を出すまでもなかった。
一瞬で勝負が着き、阿夜は監獄結界に送られた。
これは十年前の戦いの記憶――。
雪菜の目の前から全ての幻影が消滅し、夕暮れの教室だけが残る。
「これは……」
新たに現れたのは教室でトランプをする皆の姿。
古城が驚くほどの引きの弱さでババを引き続けている。
そして、雪菜に気がついた紗矢華が雪菜を呼ぶ。
「雪菜ー!一緒にやらない?」
「紗矢華さん……?」
「雪菜、どうした?……ってこんな時間か。古城、部活行くぞ!」
「うわっ!やべぇ!遅れたら殺される!」
「霊斗さんに先輩……部活を……?」
「どうしたんだ姫柊?前からやってただろ?」
「雪菜さん、私達も行きましょう」
紗矢華とアスタルテが雪菜の腕を引く。
「……こんなの……違う……」
雪菜は呟く。
こんな日々を夢見たこともあった。
でも、やっぱり今までと同じ生活の方がいい。
いやらしい先輩と、頼もしいけどアスタルテに弱い霊斗。
でも、そんな皆で困難に立ち向かうほうが――。
「そのほうが、数百倍楽しいに決まってます!――雪霞狼!」
神格振動波の光が幻影を打ち消す。
そこにはサナと阿夜しかいない。
「いまの世界、それを現実にもできるぞ?」
「私は、世界最強の吸血鬼の監視役です。今更普通の生活なんて、退屈すぎてできません」
「そうか……ならば、この世界を変える瞬間を見ているがいい。歴史の観測者としてな……」
阿夜はそう言って笑った。
校舎が揺れる。
絃神島の崩壊は、目前に迫っていた。
霊斗は、彩海学園の校門前にいた。
「くそっ……結界が張られてやがる……」
阿夜の張った結界の中に入るには、吸血鬼の力か、氷牙狼が必要だ。
だが、どちらも使うことはできない。
「どうしろってんだよ……」
霊斗がなすすべもなく地面に膝をついたとき、異変に気付いた。
街が銀色の霧に包まれている。
否――
「街が……霧になってる?……ああそうか……やっと来るか」
霊斗は立ち上がると、校舎を睨む。
そして、霧を吸い込む。
「よし……」
霊斗の瞳が深紅に染まった。
「
霊斗が手を突き出すと、その手から小さな双頭龍が現れる。
それを使って、結界に穴を開ける。
霊斗はそこから校舎に向かって走った。
哀しき魔女の悪夢を終わらせる為に――。
あー疲れた……。
そろそろ終わりそうかな……。
ではまた次回ー。