今日から連日投稿再開です。
では本編をどうぞ。
オシアナス・グレイヴⅡ。
古城はその一室で携帯のスピーカーから聞こえてくる小言に耐えていた。
「いや、だからな姫柊。ここなら霊斗も手加減しないでいいかなって……」
『それでもアルデアル公が脱獄囚相手に本気を出したらどうするんですか!?』
「それは霊斗がなんとかしてくれるだろ?」
『何かにつけては霊斗さん霊斗さんって、いつでも霊斗さんがいるわけじゃないんですよ!?それに、先輩もいい加減真祖の自覚を持つべきです!』
「知らねーよ。俺には支配する帝国もなければ眷獣もまともに使えない。そんな奴が真祖を名乗っていい訳がないだろ!」
『……わかりました。先輩の覚悟はその程度のものだったんですね。話は終わりです。切ります』
「は!?ちょっと待て――って、ほんとに切りやがった……」
雪菜に電話を切られた古城が項垂れていると、霊斗が声をかける。
「なんだ古城。雪菜と喧嘩でもしたんか?」
「う……地味に痛いとこ突くよなお前」
「まあなんでもいいが……そうだ。ヴァトラーからの伝言だ。『お風呂が沸いたから入ってくるといいヨ』だとさ」
「ああそうか。じゃ行くか」
「浅葱とアスタルテも行ったからなぁ。まさか混浴とか無いよな?」
「……ヴァトラーならやりかねないな」
「俺もそう思う……」
二人で項垂れながら浴場に向かう。
だが、二人の予想に反して男湯と書いた暖簾がかかっていた。
「意外とまともだ……」
「ヴァトラーでも空気が読めたか……」
二人は中に入り服を脱ぐと、浴場へと入っていく。
「広いな……」
「そういえばあいつって領主なんだよな……」
「ま、ありがたく借りようぜ」
「そうだな。血も落とさないとな……」
古城は自分の血を擦り始める。
霊斗はそれを見ながら自分の髪を洗い始める。
「にしても長さまで戻されるとは……」
霊斗の髪は、古城達に出会って少したった頃の長さに戻っていた。
「霊斗の髪ってそんなに長かったんだな……」
「マジで長さは女くらいだぞこれ……邪魔くせえ……」
「当時は気にしなかったのにな」
「最近はそんな長くないからな……」
そんな会話をしていると、誰かが浴場に入ってくる気配がした。
「ん?誰か来た……うわぁぁぁ!?」
「どうした?……だ、誰だあんたら!?」
霊斗が叫び、古城が驚いて聞く。
入ってきたのは年代も様々な少女達だった。
「私たちはヴァトラー様にお仕えするメイド軍団です。第四真祖様」
「め、メイド?」
「あらあら、顔を真っ赤にして。意外と可愛いところもあるのですね、第五真祖様」
「やめろー!抱き上げるな!タオルが落ちるぅ!」
彼女達の行動に不信感を覚える古城と喚く霊斗。
とてもシュールな光景である。
「ウフフ。どうですか?そそられますか?ヤりたくなりますか?ケダモノにシフトしますか?」
「「するかっ!」」
「あら残念」
「なんなんだあんたら……ヴァトラーの差し金か?」
珍しく鋭い目付きで相手を睨む古城。
「え?……イヤイヤ!違いますよぉ」
「私達、本当はメイドではなくて人質なんです」
「人質?」
「ああ……わかったぞ。お前ら、ヴァトラーが相手してくんないから俺達で性欲の発散、ついでに真祖の子どもでもできりゃ下剋上とか考えてんだろ」
「「「「「鋭い……」」」」」
「馬鹿にしてんのか!帰れ!」
「わかりました。今回は彼女さん方にお譲りしますね」
赤い水着の少女がそう言うと、全員でぞろぞろと浴場から出ていった。
「譲るって……誰に?」
「さぁ……」
二人で首をかしげていると、聞きなれた声がした。
「サナちゃん!走らないで!」
「危ないですよ!」
まず、サナが走ってきたのを見て、二人はギョッとする。
「まずいぞ古城……」
「どうした?」
「恐怖で身体が動かない……」
「奇遇だな。俺もだ……」
硬直する二人の前に現れたのは、タオルを巻いただけの姿の浅葱とアスタルテだった。
「「……」」
「え?古城……?」
「よ、よお浅葱。奇遇だなぁ」
「そうね。まさか混浴とはね……」
「「あはははは……ギャァァァァ!」」
古城と浅葱は、奇声を発しながら浴槽に飛び込む。
一方霊斗は
「あ、アスタルテ……」
「どうしました?何かおかしなところでも?」
聞いてくるアスタルテの表情は、出会ったばかりの頃のように変わらない。
「いや……おかしいのはこの状況かと」
「……知ってます」
「ところでアスタルテ。そのタオルの下を見せてくれたりは……しないよな」
「霊斗さんになら……い、いいですよ」
アスタルテは真っ赤になりながらタオルを捲ろうとする。
「嘘!嘘だから!やらなくていいから!」
「では、私は身体を洗ってきます……」
「なんかごめん……」
アスタルテはシャワーに向かっていった。
「さて、俺も暖まるか……」
霊斗が浴槽に入ると、湯がマーブル模様に染まっていった。
「なんだ?」
霊斗が古城の方を見ると、古城が鼻血を吹き出しながら走っていった。
「ヘタレかよ……」
しかし、古城の血が溶けた湯が霊斗に触れると、霊斗の身体に変化がおき始めた。
(なんだこれ……視界が歪んで……身体が……軋む……意識……が……)
霊斗は最後の力で浴槽の端に移動し、沈まないようにすると、意識を手放した。
眠い……。
ではまた次回!